「みんな~、聞いてくれ~、俺の娘が、俺の娘が、領都の学園に通う事になりました!魔法使いの職を授かりました~!!」
「おぉ~、おめでとう。それじゃそんな娘さんを祝って。「「「乾杯~!!」」」
「ウチの息子がよ、鍛冶師の職を授かりやがってよ。そりゃアイツはこ~んなに小さい頃から近くの鍛冶屋に入り浸ってたけどよ、俺としては一人前の冒険者にしてやりてえって思ってたんだよ」
「まぁそう言うなって、いいじゃねえか鍛冶屋、息子さん喜んでるんだろ?俺たちみたいな根無し草と違ってしっかりと地に足の着いた良い人生じゃねえか」
「でもよ~、男だったら剣を持って魔物と戦ってなんぼだろうがよ。それを嫁さんと一緒になって”僕には冒険は向きませんから”なんてぬかしやがってよ~」
「まぁまぁいいから飲め、今日は目出度い授けの儀だったんだから、確り飲んで忘れちまえ」
ここは街の酒場、喧騒漂う店内では多くの客が授けの儀の話題で盛り上がっている。親の心子知らず、子の心親知らず。人生は様々、人それぞれの感じ取る幸せはその人だけのモノと言った事なのだろう。
「ってドレイク村長代理、さっきから暗い顔してますけどどうなさいました?漸くお城から解放されたんですから、いっぱい食べて英気を養わないと。
これからマルセル村まで帰らないといけないんですからね、確りしてください?」
「いや、うん、そうなんだけどね。ケビン君がお城であれだけの大演説をしちゃっただろう?頼んだのは私だからその事をどうこう言うつもりはないんだけどね、こう重く伸し掛かる何かがね」
「ハハッ、まぁ俺もあれはどうかなとは思ったんですけどね、あれぐらい言わなきゃ身動き取れなかったでしょう?最悪逃げればいいかなって思ってましたし。
あ、御報告が遅れましたがケイトが領都の学園に通う事となりました。職業は闇魔導士、所謂特化型魔導士です。明日入学説明会があるそうなので村に帰るのは早くても明後日になりますね」
「あぁ、それはおめでとう。そうか、あのケイトちゃんがね。一時は魔力過多症を患ってどうなるものかと思ったんだけど、無事に授けの儀を受ける事が出来るまで回復してくれて本当に良かったよ。
でもそうなるとケビン君も寂しくなるね、君たちは村では常に一緒だったからね」
「まぁケイトはケビン建設の大事な戦力でしたからね。ですんでこれからは無茶な建築要請には応えられませんから。前から何度も言いますが計画性をもってですね~」
騒がしくも心地よい居酒屋の喧騒、マルセル村の村人は疲れた心と身体を癒すかの様に、その騒ぎに溶け込んで行くのでした。
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「えっと、まだお分かりになりませんか?」
一度は背を向け立ち去ろうとした少年は、その呆れ顔のまま言葉を紡ぐ。
グロリア辺境伯領領都グロリア辺境伯居城、その来賓の間で行われていた今回の問題に対処する為の会議は、遅々として進展を見せる事は無かった。
そんな現状を力技でぶち壊し行動の方向性を与えたのは、この問題を持ち込んだマルセル村の一人の少年であった。
「具体的に言いますね、“聖水布”の問題はこの布の優れた美容効果です。王宮を始め多くの貴族女性がこの“聖水布”を欲しがるでしょう。そこには当然権力を振りかざす者も現れる。恫喝する者、泣きつく者、ですがその窓口は新枢機卿様なのです。その後ろ盾は教皇様、何も畏れる事はありません。
ですがそこに横車を押すのが貴族様と言うもの。その生産をここグロリア辺境伯領のみで行おうとすればその皺寄せは辺境伯様やモルガン商会に及ぶ。
その為この“聖水布”に関するすべてを教皇様にお渡しするのです。
モルガン商会様には王都で収縮糸製の布地を扱えるほどの大商会にこの話を持って行ってもらいたい。その上で“教皇様との関係の橋渡しをいたします”とでもお伝えすれば相手は大喜びでしょう。
教皇様としてもそれほどの力も財力もある商会との関係は無駄にはならない筈。収縮糸を扱えると言う事は、あの王都での力の証明ですから。
下手にモルガン商会で収縮糸製の聖水布などに手を出さないでくださいね?それは彼らに喧嘩を売るのと同じ事ですから。
“お貴族様はより良い物を求める、それが彼らの戦いである”
これはこの領都に来るまでにメルビン司祭様に教えていただいたお貴族様の本質です。要は棲み分けをしてしまえばいいんですよ、その上で攻撃糸製の聖水布を作りたい商会は教皇様におすがりすればいい。その為の仲立ちはモルガン商会様のお心次第と言う事で。
王都の大商会とのコネは今後多くの商品を売り込む助けとなりましょう。先ずは現在開発しているローポーション軟膏ですかね。“聖水布”とセットで売ればより喜ばれますとか言って卸してしまえばいい。
その際は名前も変えてしまいましょう。”天使の贈り物”とかでいいんじゃないでしょうか。要は”畑のお肉”と同じ発想です。ローポーションと聞くと安物と言った印象を受けますが、天使と聞けば聖水布の名前と共により高級感を出す事が出来ますから。
後皆さんが悩まれている最大の理由は呪い解術の件ですね。何でそこで悩まれるんです?わざわざ言う必要がどこにあるんです?これは女神様の慈悲、“聖水布”ですよ?
ここでもし“この布には呪い解術の効果がある”などと喧伝したとします、それこそお貴族様どころか豪商や高位冒険者など多くの者がこの“聖水布”を求める様になるでしょう。そしてそれはこの国一国で収まる騒ぎではなくなる。
更にはその効果です、こう言っては何ですが教会の高位治癒術師様が命懸けで解術する様な呪いをたかが布を巻くだけで完全に解術出来ると思いますか?
皆さん夢を見過ぎです。
ですがこれが知られれば皆その夢に縋りたくなる、そして裏切られたと逆恨みする。
ですからこの事実はわざわざ言う必要はないんです。
しばらくすればその事に関する噂が立つようになると思います、“聖水布には呪いを解く力があるのかもしれない”と。そうしたら我々は女神様を讃えればいい、“全ては女神様の慈悲、その様な効果が出たのはあなた様の女神様への信仰の賜物”と。
この布の解術効果は絶対ではない。おまけの様なもの。聖水布はあくまで女性の希望、美容商品なのです。
ですが教皇様にはその事とその対処法についてお伝えくださいね、あまりご迷惑をお掛けする訳にも行きませんから。
次にエルセルですね。先ほども言いましたがエルセルの街の問題点、それが行政と冒険者ギルドと教会の腐敗です。お三方が悩まれているのはこの冒険者ギルドと教会についてと推察します。
冒険者ギルドの問題は冒険者ギルドに任せましょう。適任者がいるではないですか、ミルガルの街のギルドマスター“白銀のエミリア”。先のシャイン村の時もかなりの辣腕を振るわれたとか。今の時期は冒険者も暇ですからね、“全権を任せる、徹底的に膿を絞りだせ!”なんておっしゃれば嬉々として働いて下さいますよ。あのお方は未だにお茶目が過ぎますから。
教会の方はそれこそメルビン司祭様のお仕事ですね、シスターアマンダを筆頭に優秀なシスター様がおられるミルガルの教会が領兵と共に乗り込んでいただければ、数日と待たず全ての洗い出しは終わるでしょう。
監督官とその権力と手を組んでいる各商会についてはグロリア辺境伯様のお仕事。エルセルを封鎖してでも徹底的に行わなければ今後もよそで同じ様な事が起きますよ?
大体ここまで問題が大きくなるまで放置なされていたんですから頑張って頂かないと。
それに一つ疑問に思いませんでしたか?パトリシアお嬢様の事件です。
いくら魔物が少ないこの時期とは言えあのオークの森に来るまであの馬車は襲われなかったんです。人の流れの多い街道とは言え鼻の良いウルフ種なら襲い掛かって来てもおかしくない。ではなぜオークの森なのか、その方が確実に被害を大きく出来るからです。そしてオークの森に着くまでにその事がバレてはいけない、ではどこで誘魔草を仕掛けるか?同じ馬車で移動する従者がその様な事をするだろうか?
オークの森の前にあるお嬢様が宿泊出来そうな大きな街は?
何かが見えてくるかもしれませんね。
我が村を襲った盗賊もそうですが、あの周辺の盗賊は皆がこう言うのです、“子供は金になる”。そんな奴隷商が潜み堂々と暮らしている場所、大きな力が守りでもしない限りそんなことは不可能なんです。
その事も含め、グロリア辺境伯様の果断なる判断をご期待いたします」
静まり返った室内、用は済んだとばかりに一礼をし来賓の間を後にするマルセル村村長代理ドレイク・ブラウンと村人ケビン少年。
ここグロリア辺境伯領の長として、為政者としてこの領と多くの領民を任された者として。
「モルガン、長い事付き合わせてしまい済まなかった。先ずは領内の緊急事を片付け、聖水布に関しては目処が立ち次第話を進めよう。お前の所はビッグワーム干し肉やホーンラビット肉、聖水布の生産体制の準備で忙しくなるだろう。
情報の漏洩にだけは十分に気を付けて行動を始めて欲しい」
「畏まりました、グロリア辺境伯閣下」
慇懃に礼をし、粛々と事を進めることを誓うモルガン商会商会長。
「メルビン司祭殿、こういう事態になってしまい大変申し訳ないが、ご協力いただけないだろうか」
「いえ、お気になさらずに。これは同じグロリア辺境伯領において神に仕える者としての義務。教会の恥は私共の責任でもありますから。
あそこの教会は以前から何かと問題がありましたので、この際です、徹底的に浄化してしまいましょう。シスターアマンダはクリーンの魔法も得意なんですよ?」
そう言い悪戯気に微笑むメルビン司祭。遊び人はユーモアの心を忘れない。
方向性は決まった、後は実行あるのみ。
権力者達は動き出す、今ここに冬の嵐が巻き起こり始めるのであった。
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「お姉さん、エールもう一杯!」
辺境の村長の切り替えは早い、何故ならそれが自らを守る為の処世術に他ならないからだ。辺境の村でいつまでも過去に拘っていてはいけない、何故ならそこには勇者病<仮性>重症患者ケビン君がいるのだから。
“ケビン君だから仕方がない”
今やこの言葉はマルセル村の共通認識となっていた。そしてその波はここ領都グルセリアにおいても徐々に広がりを見せつつあるのだった。
「ところでケビン君、さっきケイトちゃんの領都学園行きが決まったって言ってたけど、ケビン君は行かなくても良かったのかな?もしかしたら生産職とか、だったらなおのこと大きな工房が揃うここグルセリアに来た方が修業になるんじゃないかな?」
ドレイク村長代理の疑問は尤もであった。これまでのケビン少年の齎した数々の偉業、それはとてもただの村の少年が行えるものではなく、そのような才能溢れた者がただの村人などと言う職業で収まるはずもない。
これはあくまで自身のこれまでの人生における経験則、だがあながち的外れではないと自負していた。
「あぁ、俺の職業ですか?見てみます?」
軽い調子で愛用のカバンから一枚の用紙を取り出すケビン少年。それは教会で発行する鑑定書、そこには次のような内容が書かれているのであった。
名前 ケビン
年齢 十二歳
種族 普人族
職業 田舎者(辺境)
スキル
棒 自然児 田舎暮らし(*) 自己診断
魔法適性 無し
「はっ?田舎者?それにスキルが少なくないかい?ケビン君って物凄く色々出来るよね?そう言う子供って普通授けの儀の後に多くのスキルに目覚めるモノなんだよ、でもこれは。魔法系のスキルが無いのは魔力適性が無いから分かるけど、それにしても武術系のスキルが見られないってのはおかしいだろう」
鑑定結果の余りのシンプルさに思わず声を上げるドレイク村長代理、それもそうだろう、あの”下町の剣聖”ボビー師匠を魔力の触腕無しで打倒すケビン少年に武術系スキルがないだなんて誰が思うだろうか。
「あぁ、それは俺も疑問に思ったんでお城に向かう馬車の中で執事様にお伺いしたんですけどね、どうもこの印の付いている<田舎暮らし>って言うスキルが統合系スキルと呼ばれるモノらしくって、その中に内包されているらしいんですよね。
教会の詳細鑑定でも分かるんですが、この<自己診断>って言う自分の状態が分かるスキルで見る事が出来るって教えていただきました。
世の中色々便利なスキルがあるんですね、俺これから教会で鑑定して貰わなくても自分の状態が分かるんですよ。あれって結構なお布施が掛かるらしいじゃないですか、俺得しちゃいました」
そう言いニヤニヤ笑うケビン少年に、“あぁ、やっぱりケビン君はケビン君だ”と思うドレイク村長代理なのでありました。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora