転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第149話 村人転生者、薬師ギルドに登録する

村人の朝は早い。

村人は日が昇る前に動き出し、道具を取り出し農作業に向かう。最早それは魂に染み付いた生活習慣であり、例え環境が変わろうとも決して失われる事の無い行動パターン。

村人ケビンはぬくぬくとした温かい楽園から這い出すと、洗面台に向かい生活魔法ウォーター(ややぬるま湯)で顔を洗う。カーテンの隙間から覗く朝の光は、今日も過ごし易い一日である事を予感させてくれる。

 

“コトッ”

昨日帰って来てから手持ちの粘土で作った急須に“本部長”様から頂いた蒸し茶の茶葉を少々。指先から熱湯を注ぎ入れ待つこと暫し、湯呑に注ぎ入れる目にも鮮やかな緑の液体からは、爽やかな若葉の香りが鼻腔一杯に漂って来る。

 

“ズズズズズズッ”

“あ~っ”

音を立てて飲む煎れたてのお茶、最高。しかもこんな贅沢この国じゃ誰も出来ないって言うね。流石に武器や宝石じゃないんだから運んでこないでしょう。いくらマジックバッグって言う便利グッズがあるからっていって、緑茶を運ぶかね?

う~ん、でもな~、在りし日の記憶にはシルクロードっていう伝説の交易路が存在したからな~。王都辺りまで行けばもしかするかもしれない、商人様は発想が異次元だから。

 

“ズズズズズズッ”

鼻腔に抜ける茶の香りを楽しみながら再び温かな緑茶を口にする。なんか適当な言い訳を考えておこう、じゃないと堂々と楽しめない。

“今度蒸籠(せいろ)でも作って色々実験をしよう”と朝から思考が明後日の方向に走りだす、ケビン少年なのでありました。

 

 

真っ白なお皿に置かれた柔らかい白パン。今朝のスープはコーンクリームスープ風の何か。この国にトウモロコシってあったのか。名前は違うと思うけどこの味って絶対そうだよね?いやでも分からんぞ、先入観は食文化の可能性を狭める、俺は食材神の加護を受けし者、食に対して常にチャレンジャーであらねば。

“美味しいは正義”俺は今日も美味しい朝食に感謝しつつドレイク村長代理に本日のご予定を伺ってみた。

 

「あ~、今日はザルバさんとケイトちゃんは領都学園の入学説明会だったね。私は流石に現村長の所に顔を出さなければならないかな。ケビン君は何か予定があるのかな?」

 

「あ、俺はギースさんにも言われている様に調薬師の登録に行こうかと。ミランダ師匠にも推薦状を書いていただきましたんで、自作のポーションを持って薬師ギルドに行くつもりです」

 

「それだったら登録が終わってからでいいんで、シンディー・マルセル村長の領都屋敷に付き合ってくれないかい?と言うかお願いします」

 

「え~、まぁ、仕方が無いですね~」

俺が憐れみを込めた声音で了承の意を伝えると、ほっと胸を撫で下ろすドレイク村長代理。それもこれも昨日街の酒場で見たマイケル・マルセル次期村長候補が悪い。

俺はその時の光景を思い出し、乾いた笑いを漏らすのだった。

 

――――――――――――――

 

「オヤジ、料理を適当に、それとエールを人数分だ!」

 

賑やかな店内に大きな声で騒ぎながら入ってきた集団、いかにも冒険者と言った風体の彼らは奥のテーブルに向かうと、そこは自分たちの指定席だと言わんばかりの口ぶりで食事を楽しむ利用客を退けさせ、その場に陣取り始めた。

多くの冒険者が集まるこの領都、力こそ正義と言った風潮の者達の中にはこうした者もいるのだろう。周りの客は厄介事はごめんとばかりにそそくさとその場を離れだす。

そんな様子もどこ吹く風の集団は、頼んだ料理を肴に大きな声を上げエールを飲み干し始める。

 

「いや~、流石は大将、今日も見事な剣捌きでしたね~」

年かさの男が集団の真ん中の男を褒めそやしながら料理に手を伸ばす。

 

「おいおい、何を当たり前のことを言ってるんだ、この御方を誰だと思っているんだ。ここグロリア辺境伯領で知らぬ者はいないと謳われる金級冒険者様のご子息であらせられるんだぞ、そんな程度で褒めるなど逆に失礼だろうが」

また別の男がエールを飲みながら言葉を繋ぐ。

 

「まぁそう言ってやるな。俺様の力に感嘆の声が出てしまうのは仕方のない事だ。何と言っても俺様は金級冒険者シンディー・マルセルの後継者、マイケル・マルセルなんだからな。

今は銅級だがすぐに銀級に昇格して見せるさ。そうなれば俺様はマルセル村に村長として凱旋する。その時はお前たちも頼むぞ」

 

「「「我らが村長、マイケル・マルセル様、万歳!!」」」

 

エールのジョッキを掲げ高笑いしながら飲み続ける集団。そんな彼らの言葉に動きの固まるドレイク村長代理と俺氏。

 

「ねぇねぇドレイク村長代理、あそこで楽しまれている御方、マルセル村の村長様になられると仰っておられますよ?って言うか痩せたな~、今の今まで全く気が付かんかったわ。流石シンディー・マルセル村長、冒険者教育に関しては真面目でいらっしゃること」

 

「アハハハ、なんだろうね~。あの子はマルセル家の血を色濃く引き継いでいるからか、容姿がシンディー村長によく似ているんだよ。痩せればいい男になるってずっと言い続けていたんだが全くやる気を見せなくてね~。

今のあの容姿なら言動さえまともになったら引く手数多(あまた)だと思うんだけど、あれは無理そうだね~」

 

あまりに予想通りのマイケル君、しかも下っ端がうだつの上がらない銅級冒険者って。今日の支払いもマイケル様の奢りですか、そうですか。完全に金蔓じゃないですか、いい様に利用されてるだけじゃないですか。

「これって本気でしっかり者の奥さんの尻に敷いて貰わないと、大変な事になりますよ?ヨーク村どころじゃなくなっちゃいますからね?」

 

「だよね~、昨日の会談で農業重要地区入りの話が本決まりになってよかったよ。

下手にマイケルに任せて取り巻きに唆されて村人を奴隷商になんて事にでもなったら、マルセル村に血の雨が降るどころかエルセルの街が壊滅しちゃうからね?

ケビン君が戦士に変えた今のマルセル村住民ならやりかねないから」

 

「イヤイヤイヤ、そんな事は無いですよ。そんな事になる前に皆さん退場していただくに決まってるじゃないですか~、やだな~。

マイケル君はどうしましょうかね~♪」

 

「いや、やめて、あれでも私の息子なの。愛情が無い訳じゃないのよ?そうならない為にシンディー村長に預けたんだから。

マイケルにはこの領都で騎士として頑張って貰わないと。騎士団の訓練は苛烈らしいから、今度こそ彼も変わるんじゃないかな?」

 

うわ~、この御方、愛情が~とかどの口が言うんだか。まぁご子息相当でしたからね。別人の様に痩せられただけでも御の字?

あちらさんも気が付かれていない様ですし、ここは退散と言う事で。

 

今も酒場の片隅で我が世の春を謳歌するマイケル君、君の転機はもうすぐだ。

やったね、これで君も準貴族様の仲間入り、私たちとは住む世界が違ってしまうんだね。

俺たちはこれから栄光の未来へと突き進むであろう若者に別れを告げ、酒場を後にするのでした。

 

―――――――――――――

 

ってな事があったんだよな~。

身体付きは変わっても中身が全く伴わないって言うね、ドレイク村長代理の心配した通りになってるでやんの。グロリア辺境伯様にお嫁さんの斡旋をお願いしておいて良かったわ~。現役騎士団員の女傑ならしっかり尻に敷いてくれるでしょう。

 

その後ザルバさん親子はお迎えに来たモルガン商会の案内人の方に連れられ、辻馬車に乗り入学説明会会場に向かわれました。

そんで残った俺とドレイク村長代理は徒歩で薬師ギルドへと。こうして歩いて向かうとあちらこちらの喧騒が聞こえて来てちょっと楽しい。ヘンドリック武具店に向かった時は迷子にならない様にって事で頭が一杯だったからな~。

今日は授けの儀の翌日という事もあり、それなりに新人さんがギルド登録に訪れるはず。これが冒険者ギルドだったら暇人冒険者に絡まれる事もあるんだろうけど、これから向かうは薬師ギルド。

商業ギルドと薬師ギルドで絡まれる事ってまず無いと思うんだよね。

 

案の定薬師ギルドの受付前には、俺の様ないかにも授けの儀を受けて来ましたと言った少年少女が集まっておりました。

 

「はい皆さん、これより新人ギルド会員の説明会を開始します。授けの儀を受けられた方は鑑定書を持参の上二階大会議室へ移動してください。それと登録には登録料として銀貨一枚が掛かりますから、そちらもご持参ください」

 

職員さんの声にゾロゾロと二階に移動する若者たち。“それじゃ俺も行きますんで”とドレイク村長代理に声を掛け、彼らの後を追い掛ける俺なのでした。

 

「はい、それではこれより登録を開始します。授けの儀を終了したばかりの皆様方は見習い登録となります。本登録は旅立ちの儀を終えた後、教会の鑑定書を持参して頂く事で完了しますのでご注意ください。

尚授かった職業が薬師、調薬師以外の方は自作のローポーションの提出義務がごさいます。その際品質鑑定を行いますので、そうした方はこちらの鑑定受付までお並び下さい。

また調薬師の職を授かった方でもポーションの提出を行う事が出来ます。その場合旅立ちの儀の際のポーション提出が免除されますので、ご希望の方は同じく鑑定カウンターまでお並び下さい」

 

職員さんの掛け声と共にわらわらと移動する新人たち。俺の場合ローポーションの提出義務があるんですよね、だって<田舎者>だし。

俺の他にも幾人か鑑定カウンターに並ばれる方がいらっしゃるようです。冬場の授けの儀は各地の村の子供が中心、中には村の調薬師に習ってポーション作りに励む者もいるのでしょう。俺がそうでしたしね。

 

「はい、次の方。職業は、なるほど。色々器用に出来る職業って聞いた事がある奴ね。それでこれが君の作ったローポーションね、“品質鑑定”。

うん、最上級って凄いわね。これで登録完了よ。ギルドカードは説明会の後にお渡しするわね」

 

「あ、すみません。ポーションの提出もいいですか?あとこれ、師匠からの推薦状です」

 

「えっ?ポーションってあなたの職業でポーションて作れたかしら?で、これが推薦状。え~!!マルセル村のミランダさんて、あなたあのミランダさんのお弟子さんなの!?それでこのポーション、これってもしかして」

 

「はい、そのミランダ師匠です。それとこれは村で僕が自作した奴です」

 

「ちょっと待って、“品質鑑定”、上級、製作者もケビン君になってるって事は例の方法で作った奴って事?ウチの人間もかなり懐疑的だったんだけど、試した者は皆凄いと大絶賛していたわよ。ただどうしても時間が掛ってしまうのよね、スキルならすぐだから。君の様に調薬師のスキルの無い者にとっては朗報なんだけどね。

それじゃケビン君はポーション提出者って事で登録しておくわね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「ちょっと待った、なんだそりゃ!!推薦状があれば調薬師でなくとも薬師ギルドに正式登録出来るって事かよ、提出義務免除ってそう言う事だよな、それっておかしいだろう!」

 

「・・・なんか後ろで順番を待っていた少年に因縁を付けられてしまったんですが、職員さん、これってどうしたらいいと思います?」

 

「アハハハハ、どうしたらいいんでしょう?誰か~、ギルドマスター呼んで来てくれない?これってウチらが言っても納得しないと思うから」

 

乾いた笑いを浮かべ他の職員さんに声を掛ける鑑定カウンターのお姉さん。御愁傷様です。

 

“ガチャッ”

何とも言えない居心地の悪い会議室で待つこと暫し、入って来られたのは“えっ?あなたは冒険者ギルドの方では?”と言いたくなる様な偉丈夫でした。

 

「なんだこの忙しいのに。で、何があった?」

ぶっきら棒に問い質すギルドマスター。その仕草、その物言い、どう見ても冒険者ギルドのギルドマスターだよな~。

 

「あぁ、例の職業関係なしで作れるポーションて奴か。あれは画期的だったからな。で、そこの坊主がその弟子だと。ん、ケビンと言うのか。ケビン、お前の師匠は凄いな、あれは正に革命だ。あのやり方が広がればどれだけ多くの者が救えるか分からん、何と言っても職業スキルに関係なくポーションが作れるんだからな。

ここに集まった者達はまだ知らんと思うが、数年前にここにいる坊主の師匠、マルセル村のミランダ氏により画期的なポーション作成方法がギルドに提出された。それはこれ迄職業スキルが無ければ作る事が出来ないとされていたポーションを、まるでローポーションの様に職業スキルに関係なく作る事が出来ると言うものだった。

当然数々の検証を行いこの方法が真実であることは、ここグルセリアの薬師ギルドのみならず王都薬師ギルド、他国の薬師ギルドにおいても証明されている。

そのレシピは有料ではあるが各薬師ギルドで閲覧出来る、興味のある者は受付カウンターに申し込んでみて貰いたい。

ケビン、今日は会えて良かった。ミランダ氏に全ての薬師ギルド員を代表してグルセリア薬師ギルドマスターデビット・ブラフマンが礼を言っていたと伝えてくれ」

 

ギルドマスターはそれだけを捲し立てると、話は以上だとばかりに会議室を後にするのでした。

・・・えっと、“ギルドマスター”って呼ばれる人達って、皆こんなに濃いの?

何か“ギルド”と言う場所に来る事自体に不安を覚えるケビン少年なのでありました。

 




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