転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第152話 村人転生者、領都を観光する

なんか疲れた、精神的に。

隣を歩くドレイク村長代理は第九ラウンドを戦い抜いたボクサーの様に、“真っ白に燃え尽きちまったぜ、真っ白によ”って顔をなさっておられます。

 

そうだよな~、この領都グルセリアに来てからのドレイク村長代理、全速力で駆け抜けて来たもんな~。

領主グロリア辺境伯様との会談とその後のご相談、これまでの人生を掛けて密かに進めてきた深遠なる計画の集大成。そしてラスボスシンディー・マルセル村長との面会。

戦い抜いた男の顔はどこか晴れやかで清々しくも見える。でもそれ以上に疲れ切ってボロボロ、目の下には凶悪なクマ、頬なんかげっそりこけちゃってるし。

 

「ケビン君、今日はこの後の予定なんかはあるのかな?私は申し訳ないが宿で休ませてもらおうと思ってるんだ。今の状態で無理をすると明日からの帰村の行程に支障を出しかねないからね。

ザルバとケイトちゃんは領都学園の入学説明会の後に学園見学と制服購入予約手続きなんかがあるから帰りは遅くなるし、ケビン君だったら一人でも大丈夫だろうから領都観光にでも行ってきたらいいよ」

 

「領都観光か~。でもどこに行ったらいいのか分からないんですよね、俺領都の事なんて全く知らないんで。欲しい物が無い訳じゃないですけど、嵩張るんですよ。だから買い物って訳にもね~」

 

「へ~、ケビン君の欲しい物ね。一体何を買いたかったんだい?」

 

「あ、お布団です。“小鳥の巣箱亭”のベッド、信じられないくらい寝心地がいいじゃないですか?はじめてミルガルでブラックウルフの尻尾亭に泊まった時も思ったんですけど、寝具って大事だと思うんですよ。あの中綿って奴ですか?あれってマルセル村じゃ手に入りませんからね。聞いた話だと“綿花”って植物から採れるらしいんですが、この辺じゃ栽培してないそうなんですよ。更に言うと“小鳥の巣箱亭”のお布団には水鳥の羽毛が使われてるらしいですよ。俺、水鳥なんか見た事ないですけど、この辺じゃ手に入らない物なんでしょうかね?」

 

「あ~、布団か~。うん、確かに嵩張るし、ギースに領都から運んで貰うにも結構な金額になりそうだよね。

あ、だったらベネットさんに作って貰うってのはどうだろう?ケビン君の頼みなら聞いてくれると思うんだけど」

 

「まぁ作ってくれるとは思いますが素材が。藁入りの布団じゃあのフワフワ加減が出ないんですよ」

 

「それならいるじゃないか、フワフワモコモコの魔物が。それこそ出荷するくらい。流石に今の時期はまずいだろうけど温かくなってからなら毛刈りも出来ると思うんだよね。

角無しホーンラビットなら冬毛から夏毛に生え変わる時期を待ってもいいとは思うけど、その辺は要実験かな?」

 

「ドレイク村長代理、あなたは天才ですか?その手は思い付きませんでした。ホーンラビットの毛皮はモコモコ付きってのが当たり前だと思い込んでいましたから。

別に食肉加工用なら丸剥きしようが問題ないし、その皮も革に加工する分には毛は逆に邪魔ですもんね」

 

「まぁ私は革細工職人じゃないから詳しくは知らないけど、革製品加工のスキルがあるらしいから一度見学してみたらいいよ。それと領都の観光って言ったらダンジョンがあるかな?

今の時期なら旅立ちの儀の後に冒険者ギルドに登録した成り立て冒険者や、授けの儀を受けた見習い冒険者が来てると思うよ。

ここ領都にあるダンジョンはゴブリンダンジョンと呼ばれるものだね。文字通りゴブリンしか出ない上にドロップアイテムもゴブリンの腰巻だけなんだよ。取れる魔石も小指の爪の先くらいの小さなものでね折角討伐しても見失ってしまう事がほとんどらしい。

パッと見その辺の石ころと変わらないからね。

だからその用途は新人冒険者の育成用か学園生徒の戦闘訓練用になっているんだよ。それ以外に現役冒険者が来ることはまずないし、領兵の訓練には物足りないからね。

所謂不人気ダンジョンと言う奴だね。

只学習教材としては便利なのかな、周辺はきちんと整備されているから道に迷う事も無い。我々のように村から出て来た者がダンジョン観光に行く事もままあるんだよ」

 

「マジか~。でもダンジョンって勝手に入っていいものじゃないんじゃないんですか?

俺冒険者じゃないですし」

 

「あぁ、ダンジョン都市と呼ばれる所だと冒険者資格が必要だったりドロップアイテムの報告義務があったりするそうだけど、ゴブリンダンジョンの様な不人気ダンジョンではそれほどうるさく言われる事も無いんだよ。必要なのは身分証明書、入り口の領兵に身分提示が出来れば子供でも入れるんだよ。

村から来た子供は大概大人が村民証を持って付き添ったりするけど、ケビン君は薬師ギルドの見習いの会員証があるからそれを提示すればすんなり入れるはずだよ。

只流石に手ぶらだと領兵に止められるから、何か武器は携帯しておいた方がいいかな」

 

「それならカバンに入ってるんで大丈夫です。でも領都にそんなところがあったんですね。前にギースさんにゴブリンの腰巻を用立てて貰った事があったんでゴブリンって結構その辺にいるのかと思ったけど、マルセル村周辺じゃあまり見ないんですよね。

そっか、ダンジョンのドロップアイテムだったんですね」

 

「まぁマルセル村周辺は背後に大森林、正面にグラスウルフの草原って立地だからね。ゴブリンが現れても獲物として狩られちゃうんだよ。流石にグラスウルフもゴブリンを食べようとはしないんだけど、ゴブリンが増えると生存域が荒らされる為か積極的に狩るらしいって事を聞いた事が有るよ。でもエルセルの街やミルガルの町周辺では割とよく見る魔物らしいから腰巻自体は手に入れやすいんじゃないかな。ただそれを持ち帰ろうって冒険者はいないんだけどね。

それとダンジョン以外のゴブリンは魔石なんか持ってないんだ。討伐対象だから証明部位として右耳を持ち帰ることが義務付けられているんだよ。それを持ち帰らないと報奨金が出ないんだ。

村や街なんかの依頼だと、その討伐報酬に上乗せがあるからそれなりにいい仕事ではあるんだけどね。ケチな村だと調査依頼で討伐させようとするところもあるから、冒険者はその辺の情報も集める必要があるんだ。

自分の身は自分で守る、これが冒険者の鉄則かな。

ダンジョンの魔物は死骸が残らないから討伐報酬を掠め取るみたいなずるは出来ないんだけどね」

 

「へ~、そうなんですね。それじゃこの時期は下級冒険者はどうやって生計を立ててるんですか?」

 

「まぁ基本は街の雑用かな?冒険者は便利屋のような側面もあるからね。他にも荷物の配達やよその街まで手紙を届けるとい言った仕事もあるかな。採取依頼専門の冒険者って言う人たちもいるね。討伐依頼程お金にはならないけど、領都くらい大きな街になれば食べるに困らないくらいの仕事はあるからね」

 

「なるほど、だから大きな街には多くの冒険者がいるんですね、納得です。

それじゃ折角なんでダンジョン観光に行って来ます。匂い玉の材料も確保しておきたいですしね」

 

「あぁ、それと言い訳用に村にゴブリンの腰巻を持って帰らないといけなかったんだよ。取って来てくれたら買い取らせてもらうよ」

 

「それでしたら村に帰ってから攻撃糸採取用のゴブリンの腰巻シールドを作りますよ。

って言っても木製の盾に腰巻を張り付けるだけなんですけどね、幾つか試作していいのが出来たらお持ちしますね」

 

「すまないけどそれで頼むよ。本当に申し訳ないけど私は帰らせてもらうね、もう眠気が限界なんだ」

 

「それなら宿まで送りますよ、受付の方にダンジョンの場所を聞いた方が確実でしょうから」

こうして俺たちは“小鳥の巣箱亭”に帰ってから、それぞれの時間を過ごす事にしたのでした。

 

“小鳥の巣箱亭”から歩く事一時間程、周囲の建物が減り、代わりに常緑樹の緑が目立つようになって来た。

って言うか領都って広過ぎ。この広大な土地をあの高い塀で囲うってどんだけ?

外壁建設事業にどれほどの土属性魔法使いの協力が必要だったんだか、こんなの財力のない領主じゃ無理じゃん。って言うかミルガルの街も外壁で覆われていたよね?魔法文化スゲ~。いくら魔物被害から身を守る為とは言え、これほどまでの広大な敷地を有するまでにどれ程の歳月が使われて来たのか。ただ街を歩くだけでもその歴史の重みを感じます。

確か王都ってもっと広大なんだよね?しかも外壁の外にも街が広がっているって話なんですけど?どれだけ人口があるのよ。

兵士だけでも数万から十数万?王家怖過ぎだろう。この領都だっておそらく人口数万人、ミルガルで数千人って所かな?

やっぱ都会って凄いわ。

 

そこは領都の郊外、中心部からはそれなりに離れた場所にある森の中にひっそりと佇む洞窟。その前には領兵が立ち、中に入る新人冒険者や冒険者見習いに注意喚起を行っている。

年に四回の授けの儀の後は多くの新人冒険者や見習い冒険者がこのゴブリンに挑み、調子に乗って大怪我をするとの事。その為授けの儀から一週間だけはダンジョン前に特別ブースが設けられており、教会の治癒術師や薬師ギルドのポーション販売、冒険者ギルドの職員による探索グッズ販売なども行われている。(領兵さん情報)

 

まずは情報収集、冒険者ギルドの特別ブースに直行です。

「それにしても結構な人数が集まってますね、これってちょっとしたお祭りじゃないですか?

えっ、これでも少ないと?夏と秋はもっと大勢の人が集まるんですか。あ、このダンジョン地図っていくらです?銅貨五十枚ですね、はいこれ」

 

ゴブリンダンジョンは全二層で最奥のボスはホブゴブリン、ダンジョン地図の説明書きによるとゴブリンは八歳くらいの子供の背丈なのに対しホブゴブリンは成人男性くらいの大きさであるらしい。

このダンジョンにはその二種類しか出ない様で、冒険ファンタジーでお馴染みのゴブリンマジシャンやらゴブリンソルジャー、ゴブリンキングは出ない様である。

 

俺はさっき冒険者ギルドの販売所で購入したゴブリンダンジョンの内部マップを見ながら唸る。“これって中がごった返してない?”と。

内部構造は多少の枝分かれがあるものの割と単純な構造の様で幾つか広間のような場所が描かれている。そして最奥には階段があり、その下の第二層に繋がっている様子。

でも初めての探索で第二層まで行く奴も少ないだろう、それこそ慎重に事を進めないといくらゴブリンが最下層魔物とは言え危険生物であることには変わりがないのだから。となるとほとんどの者が第一階層で狩りをする事になる訳で。

 

グロリア辺境伯領の各地の村から集まった冒険者志願の少年少女が、それぞれ様々な武器を持ちそれなりに広そうな洞窟の中に消えて行く。そんな若者たちの後に続き洞窟の中に入れば。

 

「なんだよ、お前らはどこか行けよ。この湧き場は俺たちのモノなんだからな!」

 

「ミッキー、どこに行ったのミッキー。誰か小柄な白いローブを被った女の子を見ませんでしたか?」

 

「ポーションに携帯食はいりませんか~。冒険の必需品、腹が減っては戦えませんよ~」

 

「ホーンラビット干し肉のスープ、一杯銅貨四十枚だよ~。高い?あのね、ここはダンジョンの中なの、危険な場所で温かいスープが飲めるんだから当然の値段でしょう。堅パンは銅貨十枚だよ~」

 

どこのイベント会場?しかも迷子が発生してるんですけど?

ミッキーちゃ~ん、保護者の方が探していらっしゃいますよ~。

 

ガタガタと音を立てて崩れ去って行くダンジョンに対する夢と憧れ。いや、安全な事はいい事だよ?良い事なんだけど~。

俺は腰に吊るした剣鉈に一度目をやり、がっくりと肩を落としながら、獲物を探してダンジョンの奥へと歩を進めるのでした。




本日二話目です。
そろそろ梅雨?
それとももう夏?
いってらっしゃい。
by@aozora
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