「おはようございます。皆様、領都グルセリアは御楽しみいただけましたでしょうか?」
領都グルセリアの老舗宿“小鳥の巣箱亭”のエントランスホールで朝の挨拶をしてくれたのはモルガン商会の案内人ロイドさん、この不慣れな地においてさり気なく手助けをしてくれた出来る人である。
俺たちマルセル村の子供たちの授けの儀は無事?終了した。
ケイトは当初の予想通り<闇魔導士>の職業を授かった。これは彼女が魔力過多症を発症した事、予め行った初級属性魔法による属性判断検査で闇属性特化であることが判明した事により予想出来た事であった。
問題はケイトの魔力量、これまで集めた情報によると魔力量の多い子供は授けの儀を受けた後より詳細に状態を調べる事の出来る“人物鑑定”に掛けられる事が分かっていた。この際魔法職や戦闘職、治療職を授かった者は問答無用で王都の上級学園行き、これを回避するには魔力操作を熟練の域にまで持って行く事が必須であった。
で、頑張って鍛えまくったんですよ、お陰で人物鑑定は無事スルー。これが普通の魔導師だったら王都の学園行きだったんだけど、特化型魔導師は汎用性が低いから。魔法使いと特化型魔導師は魔力量次第って感じなんですよね。
って言うかケイトって才能の塊?本部長曰く自力で習得してたスキルが授けの儀を受けた事で反映されたみたいなんだけど、授かった魔力系スキルに関しては俺とほとんど変わらない、あとは無詠唱を習得すれば統合されちゃうみたいな?
・・・行っちゃう?
色々ごちゃごちゃあるより見易くっていいと思うんだよね。でもな~、確か“無詠唱”って貴重なスキルだったような?“魔力支配”ってスキルはどうなんだろう。
まぁいずれにしても旅立ちの儀を終えればもう大人だし?スキルの情報は王都の職業スキル研究所みたいな所に送られるんだろうけど、強制的に何かされる事もないしね。
あれって生活魔法を詠唱しないで使いまくってると覚えるみたいなんだよね。多分チビッ子軍団も持ってるんじゃないかな、“無詠唱”。あの子達ってどのみち王都の学園行きだし問題ないよね。
・・・よし、全員に“魔力支配”を覚えさせちゃおう。
マルセル村に帰ってからのケイト&チビッ子強化計画に、ニヤリと笑みを浮かべるケビン少年なのでありました。
「おはようドレイク。荷馬車の準備は済ませてあるぞ、引き馬とブラッキーも元気だ。
ザルバさん、ケイトちゃん、ケビン君、皆さんお身体の方は大丈夫ですか?領都からマルセル村迄はかなり掛かりますからね、この時期は魔物の活動が少ない代わり寒さが厳しい、十分気を付けて向かってください」
モルガン商会本店の建物前では多くの従業員が忙しなく動き回っている。流石は領都でも一番と謳われる大商会、冬の時期でもその取引量は変わらない様だ。
多くの食料品に武器や防具、野営用のテント迄。まるで今から戦争にでも行くような品々・・・。
「あのギースさん、つかぬ事をお伺いいたしますがこれらの品々ってもしかしてお城からのご注文とか?」
「あぁ、よく分かったな。何でも急遽領兵を動かしての大規模な取り締まりを行うらしくってな、これ程の補給物資を短期間に揃えられるのはこの領都広しと言えども我がモルガン商会ぐらいだからな、昨日から本当に大忙しだったよ。
当初領兵は五日後に出発の予定だったんだがどうも作戦が早まったらしくてな、明日の朝には出発するらしい。商業ギルドでもその話題で持ちきりさ。
領兵の後を付いて行って安全な旅をしようとする者や暫く行商を控えようとする者、いずれにしても半年前に起きた街道沿いのシャイン村の騒動以上の騒ぎになる事は確実だろうな」
そっか~、グロリア辺境伯様が遂に動かれるのか~。これってこの前俺が焚きつけたのが原因だよな~。
・・・ヤベー、これマジでヤベ―。
ドレイク村長代理が別れの挨拶を述べる最中も、頭の中が焦りで大運動会状態になるケビン少年なのでありました。
荷馬車は走る、カタコト音を鳴らして。
領都の街門を抜け街道に出たマルセル村一行は、本日の宿泊予定地の村を目指しマルセル村への帰路を進む。そんな荷馬車の荷台に腰を下ろしジッと何やら考え事をしていたケビン少年は、“よし”と何やら決意の籠った言葉を発し目の前に座るドレイク村長代理に顔を向けた。
「ドレイク村長代理、先程モルガン商会の行商人ギースさんが話していた事って聞いてましたか?」
「あぁ、何でもグロリア辺境伯様が領兵を動かして大規模な取り締まりを行ってくださるって話だろう?あれって間違いなくエルセルの街の一件だよね。
ギースの話じゃないけど既に昨日の段階で出発自体は決まっていたそうじゃないか。流石はグロリア辺境伯様だ、オーランド王国の名宰相と謳われたのは伊達じゃない、その判断力と行動力は衰え知らずって事なんだろうね」
「そうですね、それなら俺が下手に煽る必要なんてなかったんですよ。俺はてっきり春先までズルズル会議でもしてるのかと思ってましたから。俺の予想では遠征は早くても二週間から一月くらい先の話になるって思ってたんです。会議で全体の行動を決めて昨日俺が話したことを具体的に各所に通達、それからの出発ってなるとそれくらいかと。
辺境伯様の行動が早い事は喜ばしい事なんですけどね、その為に情報が筒抜けになってる事がちょっと。
昨日から物資の調達が始まっていてその事が商業ギルド内でも噂になってしまっている。当然それは裏社会の人間にもです。
俺はまだ見た事はないんですがテイマーの中には鳥の魔物を使役する者も当然いる筈、冒険者ギルドミルガル支部には既に今回の作戦行動について連絡が行ってるんじゃないんでしょうか?それか身体強化や俊足のスキルを持った伝令が走っているとかですかね。
そしてそれは闇に潜む犯罪組織でも同様の事をするでしょう。下っ端は分かりませんが、ある程度以上の力を持った組織なら当然領都にも耳目を置いているでしょうから。
そんな彼らが逃げ込む場所、もしくは逃げ出す前の一仕事。
マルセル村が狙われる、ゴルド村はその
俺がここまで話すと、先ほど迄“領兵が派遣されてエルセルの盗賊を取り締まってくれればあの一帯も平和になる、これでマルセル村も安泰だね。”と言って安堵の表情を浮かべていたドレイク村長代理の顔が一気に青ざめる。
「ブラッキー」
“バウッ”
俺はドレイク村長代理と俺の間で寝そべっているシャドーウルフのブラッキーに話し掛ける。
「ブラッキー、俺はちょっと用が出来たんで先にマルセル村に帰らないといけなくなりました。それでケイトや村長代理達の護衛を頼みたいんだけどいいかな?」
“バウッ”
「おぉ、やる気があるようで助かるわ。そんでブラッキーとは正式に雇用契約を結ぼうと思ってね。給料の支払いは俺の魔力ね、契約を結ぶと繋がりが出来るみたいなんで自然と支払われるから。テイムみたいに強制されるって事はないけど仕事は頼みます。
仕事の内容は主にケイトの警護と今回みたいに村人の警護を頼む事があるけど、それでどうよ?」
“ウ~ウオンッ”
「おし、了解って事ね。それじゃ契約って事で」
俺はおもむろにブラッキーの額に手を当て<長期雇用契約>と唱えました。
すると俺の手とブラッキーの額が淡く光り雇用関係が結ばれるのでした。
「えっとケビン君、今のは一体・・・。」
目の前で一連の流れを見ていたドレイク村長代理が驚きの声を上げます。
ま、そりゃそうですよね、やってる事はテイマーのそれと全く一緒ですから。でも俺ってテイマーじゃないんですよね。
「えっとこれって田舎暮らしの複合スキルの一つですね、<魔物の雇用主>ってスキルが内包されているんですよ。そんで今やったのが<長期雇用契約>、他にも一時的な<短期雇用契約>ってのがあるんですが要は人間がやる雇用契約と一緒です。給料の支払いが俺の魔力ってだけで。
テイムが魔物を強制的に従えるのと違ってこれはあくまで“雇用”です。両者の合意が無いと雇えません。それと魔物の側から“辞職”する事も出来ますしこちらから“解雇”する事も出来ます。強制力ではなく契約上の仕事ですから互いの信頼関係が重要となります。
利点は意志の疎通がし易くなる事。契約による結びつきを通じて遠方からでも連絡を取り合う事が出来ます。例えばケイトの学園での様子を<業務報告>って形で受け取る事も出来ますね」
俺の説明に再びお口あんぐりになるドレイク村長代理。でもこの<魔物の雇用主>って本当はそれ所じゃなく強力なスキルなんだよな~。
自己診断
<魔物の雇用主>
魔物を雇用する事の出来るスキル。雇用契約は両者の合意の元結ばれ、雇用主は労働の対価として繋がりを通じ魔力を支払う。
被雇用者と雇用主は繋がりを通じ意思の疎通を取る事が出来る。雇用主は被雇用者が持つスキルを一割程度の規模で行使する事が出来る。
この魔物のスキルを使用する事が出来るってのが問題、これってブラッキーが使う影魔法を俺も使えるって事なんですよね。まぁ規模は一割程度に制限されるんですけどね。でね、この一割程度に制限された状態でも影魔法が使えちゃうって事は、俺って影魔法の運用方法を体感出来ちゃうって訳でしてね。
自己診断
<魔力支配>
魔力に関するすべてを支配する事が出来る。感じる事、運用する事、観察する事、その全ては使用者次第である。
物凄く簡単な説明だけど、これって要は魔力に関しては何でもアリって事なんですよね~。完全に制限が外れた状態、要するに前と変わらないんだけど、よりそれがスムーズに行えるって感じ。
で、この二つのスキルが相乗効果を示すとあら不思議。
自己診断
田舎暮らし(魔法)・・・魔力支配、影魔法
ほらね、とんでもないでしょう?魔法適性が無いのにシャドーボール撃てちゃいます。
因みにブラッキーの持つ身体強化系スキルは田舎暮らし(戦闘)の身体支配に統合された模様。ブラッキー、どうやら立体機動のスキルを持っていたっぽいです。
まぁ俺もやろうと思えば出来たんでそれ程意味はなかったんですけどね。
これって人には絶対に言えない、よし、黙っておこう。
で、俺の利点はそれ位にしてブラッキーの利点はまず魔力切れにならない事くらいかな?俺って言う魔力タンクが付いてますからね、何でガッツリ護衛の方をお願いします。
“ウオンッ”
ブラッキーの元気の良いお返事にほっと一安心な俺氏。
「えっと、ケビン君が田舎者の職業スキルでテイマーみたいな事が出来る様になったのは分かったよ。まぁよくよく考えればケビン君は職業スキルが無くてもテイマーみたいな事をしていたし、今更だしね。
それにしても<魔物の雇用主>ね、まさにケビン君の状態そのもの、スキルってその人物の状態を表すのかもしれないね」
「おぉ~、流石はドレイク村長代理、鋭いです。後天的にスキルを授かる場合って言うのがそう言う事らしいですよ。剣を只管に稽古して剣術のスキルを得る、毎日走り廻って俊足のスキルを得る。
俺の場合色んな魔物を雇って生活してましたからね、だからテイマーじゃなくって雇用主なんじゃないんですかね」
それとなく真実を混ぜての問題のすり替え、これってドレイク村長代理から学ばせて頂いた技術でございます。
<詐欺師>や<扇動者>って職業が出なくって本当に良かった。
「ドレイク村長代理、そう言う訳で俺は先に行きます。昨日情報が漏れたとしてエルセルにまで届くのに二日から三日、それから盗賊共が動き出すのに早くて一日から二日。今日が二日目ですから明後日までにエルセルの街とゴルド村の中間地点にまで移動しないとまずいって事になるんですよ。
まぁこれは最悪の想定です、実際そこまで動きの速い連中がいるとは思えないんですけどね、でも中には宵闇盗賊団みたいな訓練された連中もいますから油断は出来ないんですよ」
俺はそう言うと自身の気配を薄くしていく。
「ブラッキー、三人の事を頼んだ。ケイト、いざとなったら全力を出していいぞ、お前に敵う奴はそうそういないからな。ザルバさん、ドレイク村長代理、良さげな剣を二振り置いて行きます、好きに使ってください。
ではお先に」
「ん。」
“ウオンッ”
後は任せろと言った顔のケイトとブラッキーに別れを告げ、俺は全ての気配を消し全力で街道をひた走る。
身体支配で完全に制御されたケビン少年の走り去った後には、何かが巻き起こした突風が残されるだけなのであった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora