転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第155話 悲劇の革命家、村人転生者に出会う

喧騒漂う街の酒場、多くの男達が飲み、騒ぎ、料理に舌鼓を打つ。

そんなよくある酒場の一角に、周囲とは雰囲気を異にする集団がテーブルを囲んでいた。

 

「若様、領都より伝令が参りました。どうやらグロリア辺境伯が大規模な掃討作戦を開始するようです。やはり半年前のシャイン村の一件が尾を引いたのでしょうか」

 

男の一人が言葉を発する。それを聞いた他の者も一様に真剣な表情で、若様と呼ばれた者の言葉を待つ。

 

「流石は名宰相と謳われたマケドニアル・フォン・グロリアと言った所か。このエルセルの街の腐敗は酷いものだからな、お陰でいい隠れ蓑にもなったんだがな。

この街も潮時と言った所だろう、次の拠点を探さねばならんか」

 

男性は一人腕組みをし今後の行動予定を考える。“思えば遠くへ来たものだ”と、ふとそんな事を独り言ちながら。

 

―――――――――――――

 

「キャスパー兄様、こっちですわ」

 

「ハハハ、アイリス、随分とすばしっこくなったじゃないか」

 

よく手入れの行き届いた光さす庭園、二人の兄妹の戯れを笑顔で見守る両親。

ダイソン侯爵家はそんな笑顔溢れる温かな雰囲気の家庭であった。

そんな穏やかな時間も、当主の死によって全てが崩れ去ってしまう。

 

「お止め下さい、それは主人の、今は無き先代当主の品です」

 

「ふん、何を言うかと思えば。先代は先代、今の当主はこの私デギン・ダイソン。この家の全てを決めるのはこの私だ、それが嫌ならば出て行くがいい。そう言えばその方の家はすでにないのであったな。後を継いだ弟の失脚、取り潰しであったか。

ホロホロ鳥も鳴かねば撃たれまいに、余計な正義感などを持つと姉も苦労する。我がダイソン家にも多くの使用人を引き取ったとか、兄上も無駄な事を。

その者達の処遇はこの私の胸一つと言う事をお忘れか?」

 

「そ、それは」

 

「ならば余計な口出しは無用。兄の忘れ形見もいる故この家に住まう事を許しているのだ。ダイソン侯爵家はこの私デギンが引き継いだ、これは王家もお認めになっている事実。以降口の利き方には十分気を付ける事だ」

 

「はい・・・畏まりました」

 

本来当主である者が亡くなった場合その子息、キャスパーが後を引き継ぐ、それが正当な流れである。だがキャスパーは当時八歳と幼く、大貴族家であるダイソン侯爵家を引き継ぐには若過ぎた。その為その後継者となった者が当主の弟であるデギン・ダイソンであった。

デギン侯爵は兄である先代当主が嫌いであった。先代当主は無能ではないもののこれと言って秀でた者の無い男であった。そんなものが自分より少しばかり先に生まれたと言う理由で当主の座に就く。それが堪らなく許せなかった。

そんな先代の元には多くの者が集まっていた。美しく優しい妻、賢く聡明な息子、母親に似て美しくなるであろう可愛らしい娘。配下の騎士や文官に至る迄が彼を慕い、彼の為に尽くそうとする。

その全てが気に入らなかった。

だからであろう、そんなデギン・ダイソンに悪魔が囁いたのは。

 

「ふん、貴様はその程度の事も出来んのか、これまで一体何をやって来た、そんな事でこのダイソン侯爵家を継げるとでも思っていたのか?

当主の座が黙っていれば手に入るとでも?甘い、甘すぎるぞキャスパー。お前の代わりは既にいるのだからな」

 

キャスパーの母は必死であった、夫の亡き後子供たちを、家臣を守る為にはどうすればよいのか。母の下した結論は現当主デギン侯爵に下る事、母はデギン侯爵との再婚を決めた。デギン侯爵が前妻と死別し独り身であった事もその決断を後押しする事となった。

そして母は身ごもった、男の子の誕生、それは母にとってもデギン侯爵にとっても喜ばしい事であった。ただ一人、キャスパー・ダイソンを除いて。

男児の誕生はこれまでのキャスパーの立場を一気に悪化させた。キャスパーの存在は新たに生まれたデギン侯爵子息にとっては邪魔者でしかない。

だがそんな彼に母は手を差し伸べる事が出来ないでいた。

 

「敵襲、敵襲だ!若様をお守りしろ!!」

それは領内で行っていた野外演習の時に起こった。

“領主たる者は配下に指示を出し作戦行動を行わなければならない”

言っている事は至極真っ当であり、その為の演習と言われれば参加しない訳には行かない。キャスパーは古参の騎士を伴い森の野営地での野営を行っているところであった。

 

「若様、我々は取り囲まれています。おそらく敵はデギン侯爵様の手の者、ここは一度身を隠し逆賊たるデギン侯爵を討ち果たした後凱旋するしか道はありません」

キャスパーの決断は早かった。授けの儀において<統率者>の職業を得た彼は、配下の者を従え敵を正面から打ち破ると、そのままダイソン侯爵領から逃げ延びる事となった。

大きな力を蓄え必ずやダイソン侯爵家を取り戻す。

調べれば調べるほど分かる父の死における不審な点、狙われる自身の命。

キャスパーは簒奪者デギン・ダイソンへの復讐を決めるのであった。

 

キャスパーの決意は固かった。たとえその身を盗賊にまで落とそうとも、力を付ける事を、仲間を集める事を諦めはしなかった。それは必ず叶えたい思いがあるから、いつの日にかダイソン侯爵領を取り戻す為に。

 

――――――――――――――

 

「若様、準備が整いました」

 

「よし、皆の者、我々は戦士である。女子供老人、抵抗をしないものをむやみに殺める事を良しとはしない。戦いを挑む者には戦士として全力で当たれ、それが礼儀だ。たとえ相手の力が弱くとも弄ぶ様な真似をする事は許さない、それが奪う者としての最低限の矜持だ。

これから向かうマルセル村には冬の備蓄食料が蓄えられている、これは行政に上げられた確かな情報だ。それに木札と言う村内通貨を使い現金は村長が一括管理しているとの情報もある。現金をすべて奪おうとも村が回ると言うのはこちらの良心も傷まずに済むと言うもの。

冬越しの食糧と現金を奪ったら南方に逃れる。

これがここグロリア辺境伯領での最後の仕事だ、気を引き締めて掛れ」

 

「「「応!!」」」

 

若き頭領キャスパー・ダイソン率いる“赤鷲”は、その統率と戦力からエルセル周辺の盗賊団からは一目おかれる存在であった。彼らは襲撃した相手の全てを奪おうとはしなかった。その資産の三割は必ず残す。これが彼らの決めたルールであり、行商人が再起を図る事の出来るギリギリの資産であった。

また抵抗する者に関しては相手を戦士と認め苛烈に戦った、そして全てに勝利した。

”赤鷲の旗を見たら下手に抵抗せず七割を差し出せ”

行商人の間で密かにそう囁かれるほど彼らは畏れられ、この辺境の地で絶対的な存在として君臨していた。

 

「若様、前方に何か怪しいものが見えます」

 

そこはエルセルの街と辺境の地とを結ぶ街道の走る、通称“グラスウルフの草原”と呼ばれる場所。そんなただ草むらだけが広がる地に、横一列に見える黒い何か。

 

「あれは、馬防柵!?」

それはまるでこれから向かう辺境の村を守るかの様に設置された大型の獣の侵入を阻む防護柵。それが目に見える範囲全体に張り巡らされている。この規模、この範囲、どれ程の人員を集めればそんなものが作れると言うのか。しかしこのようなものが築かれていると言った情報はこれまで聞いた事が無い。ではこれは冬期期間に入ってから造られたとでもいうのか、これほどの規模の物をどうやって!?

 

「若様、あれを」

それは街道に打ち付けられた警告文の看板であった。

 

<警告>

・現在マルセル村を含む辺境各村は多くの盗賊被害に遭い厳戒態勢を敷いています。許可なく侵入した場合盗賊として討伐されます。

御用の方は柵門の門番に申請を出し、許可証を持ってご来村ください。

 

キャスパーは警告文を読んだ後再び馬防柵に目を向ける。馬防柵は街道の部分が門の様に開けており、その後ろにはテントが張られ門の前には門番らしき人影が見える。

 

「よし、行くぞ」

暫しの瞑目の後侵攻を決めたキャスパー。確かにこの馬防柵を張った何者達かは脅威かも知れない。だが自身の索敵スキルには目の前の門番しか映っておらず、それは配下の者も同様であった。

そしてこの馬防柵は裏を返せば自身を守る盾ともなる。数名の見張りを立てれば侵入者の監視は容易、これは追われる身である自身にとっても利点であると言えた。

 

目の前には馬防柵、そして見張りは一人、自身ならばどうする。キャスパーは考えるそしてその結論は。

 

「草むらには広がるな、罠が設置されている可能性が高い。街道はその用途からまず安全と見て間違いない、つまり我々は必ずあの門を通らなければならない。強行突破は論外、あの門を過ぎた先に罠を仕掛けるのは常套手段だ、その為の一人警備なのかもしれん。あの者は随分と度胸があるものだよ」

 

キャスパーの分析は冷静だった。決して血気にはやる事も無く、粛々と事を進める。多くの経験と配下からの教育が、彼を優秀な司令官として育て上げて来たのだ。

 

「すみません、現在ここから先は許可の無い者の通行を禁止しております。大勢様の様ですがどう言ったご用件でしょうか?」

 

門番はまだ授けの儀が終わったぐらいの年若い少年であった。顔付はやや厳つくおそらく村の中では将来を嘱望される少年なのであろう。見た感じこれと言った迫力は無いものの、全く音をさせない足運び、その隙の無い身のこなし、暗殺者系統の職業を持つ相当に訓練を積んでいる強者である事が伺えた。

 

「私はこの“赤鷲”を率いるキャスパー・ダイソンと言う。

ハッキリと言おう、我が軍門に下れ。我々はダイソン侯爵家を簒奪せしデギン・ダイソンを討ち、正当なる血筋に戻す為に活動する戦士。

自らを正義などとは言わん、その方らには負担を強いるのだからな。だが命まで奪う事はしないと約束しよう。奪うからには奪う者の矜持がある、それを失えば堕落しいずれ自らを滅ぼしてしまう、我らはその事を知っている」

 

キャスパー・ダイソンは己を偽らない。自分たちは奪う者、憎き簒奪者と何ら変わらない悪であり戦士であると。ならばこそ自らが決めた戒めを守る事こそが奪う者の矜持、堕落し流される事は自らを弱くする事に繋がると言う事を知っているがゆえに。

 

目の前の少年はキャスパーの目を真っ直ぐ見詰め言葉を返す。

 

「えっと、それって勇者物語の剣の勇者様の章に出て来た、義賊シルバリアン・ウルフみたいなものですかね?確かあれは奪われた妹さんを助けるために悪の道に染まったんでしたっけ?

剣の勇者様に説得され改心して仲間になるんだったかな?一緒に妹さんを救出するとかなんとか。

俺小さい頃はこの話が好きで結構読んでいたんですよ。でもよく考えなくっても義賊ってただの泥棒なんですよね。

相手の財産を奪い自分のものにする。そうした意味では他国に攻め入る貴族やその土地に住む者の財産を税と称して徴収する領主も似たようなもの?

もっと都会ならどうか分からないけど、こんな辺境の最果てには衛兵様も領兵様も来てはくれないし、税を納める意味がいまいち分からないんですよね。

まぁ納税はするからほっといてくれってのが正直なところですが。

相手にどんな正当な理由があろうとも奪われるものからしたらそれはただの盗賊行為、あなた方はその自覚があり尚且つその上で成し遂げたい目的があるって言うんだからまだましな方かな?

でも狙われる方からしたら下卑た盗賊も真摯な義賊も押し()べて盗賊、魔物と何ら変わらないんですけどね」

 

少年はそう言うと大きくため息を吐く。

互いの間に流れる沈黙。最初に口を開いたのは少年の方であった。

 

「あの、今からでも遅くはないんでこのまま引き上げる気はありませんか?

さっきも言いましたが俺は別にお貴族様方が正しいとか、ご領主様の仰る事が全て正しいとか言った考えはないんです。それぞれ見方の違い、盗賊にも三分の理、全否定はしませんよ、相容れないだけで。

簒奪者の討伐、大いに結構、知らない土地で勝手にやって下さいって話です。

その大願が成し遂げられたところで辺境の暮らしが変わる訳ではありませんから」

 

そこで少年の雰囲気が変わる。それはこの先には誰一人として通さないと覚悟を決めた戦士の決意。

 

「でもこの先に進もうと言うのなら、我が故郷マルセル村を害そうとするのならそれはただの害獣。全力を持って排除します」

 

目の前にいる者は少年なんかではない、己の信念と覚悟を持った一介の戦士。

キャスパー・ダイソンは馬の背から降り少年の前に対峙する。

“赤鷲”の者は皆真剣な表情でその様子を見詰める。これから始まるのは戦士と戦士の戦い、己の矜持を胸に全てを賭けて挑む強者の宴。

 

「改めて名乗ろう。私の名はキャスパー・ダイソン。これから君の命を狩る者の名前だ」

 

「そうですか。では俺も。俺の名はケビン。マルセル村の村人ケビンです」

 

高まる緊張、お互いの覇気と覇気とがぶつかり合う。

キャスパーは思う、この相手はこれまで出会ったどの強敵よりも強いと。

剣の柄を握る手に汗が滲む。キャスパーは大きく長い息を吐き、覚悟を決める。己の持つ最大の剣技を持って目の前の敵を討つと。

 

「やれ、“黒鴉”」

“ドサドサドサドサ”

耳を打つ何かが地面に落ちる音、何が起こった!?身体から力が抜け意識が遠のく。

頭の痛み、この状態は魔力枯渇!?

 

「へ~、まだ意識を保っているなんてすごいですね。もしかして日々魔力枯渇を起こすまで魔法の訓練でもしてました?確か魔法職の人が自身を鍛える為にそんな訓練を行ってるって書物で読んだことがあります。戦闘職でも魔法適性があれば魔法は鍛えられるが魔法職には及ばないでしたっけ。

でもそこで諦める事無く修行を続けた者だけが至れる境地って言うものもあると思うんですよね。そうした意味ではキャスパーさんは立派だと思いますよ。

残念ながらあなたの旅路はここでお仕舞になりますが」

 

「た、頼む。妹に・・・愛していたと」

 

キャスパーは僅に残る気力を振り絞り言葉を紡ぐ。

それは愛する妹へ向けた最後のメッセージ。

 

「はぁ~、そんな相手がいるのなら何で盗賊なんかになっちゃったんですかね。

今まであなた方が殺めて来た者達にも愛する者はいたでしょうに。その想いはいずれそちらに妹さんが行った時にでも自分で伝えてください。

人はいずれ必ず死ぬ、“善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや”

来世では道を踏み外さない事をお祈りします」

 

“ゴンッ”

 

総勢三十七人、結構大規模な盗賊団だったな。“赤鷲”とか言ったかな、それなりに名のある盗賊だったんでしょう。

ま、盗賊は盗賊、慈悲は無しって奴ですけどね。

ケビン少年は盗賊の一人一人に止めを刺すと身に付けている武器や防具その他の装備品全てを剥ぎ取り腕輪収納に仕舞って行く。

 

ん、これは。

それは盗賊の頭目キャスパーが首から下げていたペンダント、そこには小さな女の子の肖像画が描かれていた。

 

「これは一緒に持って行ってやりな、お兄ちゃん」

 

ケビン少年は盗賊たちの亡骸を一カ所に集め火属性魔力を注ぎ入れながら一気に火を付ける。燃え盛る炎、塵となって天へと昇って行く仏たち。

 

“善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや”

ケビン少年は盗賊たちの魂が無事来世に向かえるように祈らずにはいられないのでした。

 

って言うかギリギリじゃん、本当に五日目に盗賊来ちゃったじゃん、めっちゃヤバかったじゃん。これからあんなのがどんどん来るの?やってられね~。

グロリア辺境伯様がエルセルの街を掃討し切るまで続くであろう盗賊の波、そんな未来予想にげんなりするケビン少年なのでありました。




本日一話目です。
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