転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第156話 村人転生者、ようやく帰村する

朝靄の立つ冬の村道を、一人村門に向け歩く少女。

そんな彼女の姿を大人たちはどこか心配そうな眼差しで見詰めるも、彼女は死んだ様な瞳を向け軽く会釈を返すだけで、無言のまま歩き去っていく。

彼女がそんな行動を取る様になってからどれほどの月日が経ったことか、今日も彼女は村門の柱に背を預け、彼の帰りを黙って待っている。

 

上り始めた太陽が正中を指す頃、彼女の見詰める視線の先にその人影は現れた。

人影はここマルセル村に続く唯一の街道を、どこかで拾ったであろう木の枝を振りながらそぞろ歩く。時々空に浮かぶ雲を眺めては楽しそうに笑い、街道わきの草むらを覗いては行き成り走り出してキャタピラーを捕まえて戻ってくる。

元々マルセル村周辺の草原にキャタピラーは生息していなかったのだが、一年前に近隣のヨーク村より持ち帰ったキャタピラーを飼育し数が増えれば放流しと、徐々にその数を増やし今では普通にその姿を見る事が出来る様になってきた。

彼はその活動の中心的人物であり、自らの働きの成果を見る事が出来て嬉しいのであろう。

あるいは単に草原でキャタピラーを見つけて気分が高揚しているだけか、そんなどこか子供らしいところも彼らしくてかわいらしいと少女は思う。

 

彼は冬の街道を暖かな陽の光に照らされ楽しげに歩く。少女はそんな彼を死んだような瞳でただ見詰める。そしてはじめ豆粒のように小さかった彼の姿が手の届くところにまでやって来た時、少女は初めて口を開く。

 

「ケビン、お帰り」

 

「あぁ、ただいま、ケイト」

 

二人の間に流れるどこか温かな空気、少女は少年に背を向けると村内に向かい歩き出す。少年はそんな彼女の後ろを黙って付いて行く。

少年は前を行く少女の背中を見ながら思う。

“ケイトめっちゃテンション上がってんじゃん、って言うか上がりまくりじゃん。

グラスウルフの草原で別れた時は超不機嫌だったからどうしたものかと思ってたけど、機嫌が直ってくれてよかったわ~”と。

彼の心の声を村の者が聞いたらきっとこう言うだろう。

“ケビン君そうじゃないから、ケイトちゃんずっとケビン君の事を待ってたんだからね!毎日村門のところで立ってたんだからね!”と。

 

鋭いんだか鈍いんだかよく分からない村の少年ケビン。

彼は村門の柱を抜けマルセル村に足を踏み入れて思う、“マルセル村よ、私は帰ってきた!!”と。

冬の空は高く澄み渡る。天高く飛ぶ一羽のビッグクローは、地上を歩く人の子などには目もくれず、草原をはいずるキャタピラー目掛け飛び込んで行く。

辺境の地マルセル村では今日も辺境らしい時の流れが過ぎて行くのであった。

 

―――――――――――――

 

漸く帰って来れた、我が故郷マルセル村。本気で長かった、単身赴任のお父さんの気持ちが想像出来るくらい長く濃密な時間だった。

 

領都グルセリアでの授けの儀及び各種難題の丸投げを終えたマルセル村一行は、心も軽く辺境マルセル村に向けて出発しようとしたんですけどね。お世話になったモルガン商会様がやたら忙しそうだったんで、“領都では冬場も忙しくって凄いですね”って行商人ギース氏にお声掛けしたら、“グロリア辺境伯様が急遽領兵を派遣する”ってお返事がってもうびっくりですよ。

いやね、そりゃ俺が焚きつけたよ、“手前らそれでも為政者か、こっちは今でも被害者が出まくってるんだよ、グズグズスンナボケ!!”ってな勢いでね。(注:言葉使いは最低限失礼の無い様にさせて頂きました。)

でもこんなに行動が早いとは思わんやん?軍事行動ってそんなに性急に出来るものなの?グロリア辺境伯領の領軍って練度高過ぎない?

まぁ在りし日の記憶には“巧遅は拙速に如かず”って言葉もあったけどさ、“気難しいフェンリルよりも働くグラスウルフ”とも言うけどね、早くても二~三週間は掛かると思うじゃん。しかも急ぐあまり情報駄々洩れって、これから取り締まりに行きますよって予告している様なものじゃん、フットワークの軽い盗賊だったら一目散に逃げちゃうじゃん。そんで旅の駄賃にマルセル村が襲われるってね、勘弁して欲しいわ~。

 

だもんで領都の街門を過ぎてからドレイク村長代理に俺の考えを話して緊急離脱、一路エルセルの街とゴルド村の間にあるグラスウルフの草原を目指して走る走る。

気配を消して無音行動での俊足移動、体内は魔力で補う事で人体ではあり得ない様な動きを実現、武技スキルで縮地って言う一瞬で間合いを詰める技があるって聞いた事があるけど、簡単に言えば連続縮地みたいなものだね。

目の前にジャンボジェットの先端みたいな半球状の結界を張って“俺は風になるぜ~~~!!”ってな勢いで走ってたらいつの間にか抵抗が軽くなってたんだけど、あれって何かスキルでも獲得したんだろうか?

でも街道を走るには往来がそこそこあるってなもんで道を反れて街を迂回しながら走り続ける事一日半、辿り着いたグラスウルフの草原の野営地で馬防柵の設置ですわ。

魔力探知で周囲五キロ以内に誰もいない事を確認したんで魔力のごり押し、土属性魔力と闇属性魔力の複合ですね。基本は周囲の土を土属性魔力で練り上げて固めたモノなんだけど、数の暴力で壊されちゃったら意味が無い。そこで闇属性魔力の固定化の性質を利用して更なる強化を施してございます。

俺が剣鉈に魔力を注いで全力で切り掛かっても薄っすら傷がつく程度なんだから、暫くは問題ないかと。

でも設置範囲はどうしても限られちゃうんで下手に迂回させない為に街道部分は敢えて門の様に開けてございます。

いや~スキル様々、こんだけ無茶苦茶な要求なのに作業開始二日目の日が傾き始める前にサクッと設置完了するってね。

職業を授かった事でスキルとして反映された魔力支配と身体支配が無かったら絶対に間に合わなかったと思います、色んな意味で。

 

だって馬防柵が出来上がって野営準備のテントを組み立ててって忙しなく働いた後に、漸く一休憩とばかりに椅子に座ってたら盗賊襲来ですよ?こいつらドンだけ忠実(まめ)なのよ、まだ情報が漏れてから四日目よ?

グロリア辺境伯様の取り締まり情報が入ってすぐに行動を起こしたとしか思えない、フットワークの軽さ、流石は盗賊。しかもかなり統制がとれているってね、どんな業界にも優秀な人間はいるって話ですね。

 

んでそんな連中をサクッと排除、良かった良かったとはならないのがこの世界。

この一件を皮切りに来るわ来るわ、マルセル村に蓄えられたお宝を奪い取るってんで十数名一チームって感じで次々と。中には途中合流したであろう数十名規模の集団もちらほら。

そんで最大の集団が六十五名の大盗賊団、もうお前ら傭兵組織じゃん、“こんな辺境でちまちま盗賊なんてやってないでどこぞの紛争地域にでも行けや!!”って叫んだ俺は悪くないと思います。

 

でもこれって第一波だったんですよね。集団形成が出来るくらいの盗賊団って言うのは組織行動がしっかり出来る優秀な部類。しっかりと情報収集した上で動かれる連中は危機管理能力も高いのでしょう、領兵様方がやって来る前に行動を起こしたようです。

でも本当に危機管理能力が高いのなら、これまでマルセル村に向かった人間が一人も帰って来ない事を不審に思わないものかと首を傾げますが、そこは盗賊。無駄に自信過剰なんでしょうな、俺たちなら大丈夫って。

マルセル村は自らの武勇を一切誇らない、だって余計な面倒事がやって来るから。

だから盗賊共は分からない、マルセル村に向かう事は死を意味すると言う事を。

 

ドレイク村長代理達がやって来たのは領都を出発してから十日目、俺が馬防柵を築き終わってから七日目の事でした。

最初はえらい驚かれたものですが、例の“ケビン君だから仕方がない”の呪文で乗り切った様です。

ドレイク村長代理にはこれまでにあった盗賊襲来の回数を報告(人数は伏せております)、顔を青ざめておいででしたが、昨日今日は来なくなったと告げるとグロリア辺境伯様率いる領兵部隊がエルセル周辺に展開しつつあることを教えてくださいました。

また懸案の冒険者ギルドは“白銀のエミリア”率いる冒険者ギルドミルガル支部が、教会はシスターアマンダを中心とした領兵との合同部隊が強襲、今やエルセルの街はてんやわんやの大騒ぎだとか。

って言うかドレイク村長代理達はよくそんな紛争地帯を抜けて来れましたねって言ったら、グロリア辺境伯家の騎士様が直々に通過させてくれたんだそうです。

例の会談の時にその場に控えていた騎士様で、ドレイク村長代理及びマルセル村一行は顔パスだったとか。持つべきものは親とコネ、至言です。

 

本当はこの時点で皆さんと一緒に撤収しようかと思ったんですけどね、後から残党がやって来てもあれなんでと思って泣く泣く居残りを決断。御一行を見送った後も門番業務に励んでいたんですよ。

案の定来る来る、大集団と言った感じの連中はいなくなった代わりに四~六名ほどのパーティー単位の連中がですね。そのほとんどが冒険者崩れってマジで腐ってたんだなエルセルの冒険者ギルド。

ですんでドレイク村長代理と別れてから約一月半(ひとつきはん)、寒風吹きすさむ冬の草原で野営を続けていた訳でございます。

 

まぁ門番をしていると言っても基本暇ですから、大盗賊団の襲来が収まってからは土属性魔法で門番詰め所を作ったりスキルの確認をしたりして時間を潰していたんですけどね、本日漸く吉報がありまして。

エルセルの街方向から馬の背に乗って訪れた数名の騎士様、馬防柵と門番詰め所を見て目茶苦茶驚いておいででしたが、エルセルの街の掃討作戦が終了した事を伝えにゴルド村、ヨーク村、スルベ村、マルガス村、マルセル村の五箇村を回る事になっていると教えてくださいました。

先を急ぐ騎士様方とはその場でお別れし、騎士様方の姿が見えなくなった所で馬防柵全体を指定しての魔力抜き、込められてる闇属性魔力を完全に抜き取ってくれる魔法の腕輪さんマジ優秀。次に土属性魔力を馬防柵及び門番詰め所に広げて一言。

「<破砕>!!」

一気に砂に変わり崩れ去る建造物、超快感。気分は某名作アニメ映画の飛行少年。

少女と一緒に手を繋いで叫ぶ禁断の呪文ですわ。

「バル・・・」

いかんいかん、仮性心が暴走する所だった。

 

そんな感じで後片付けをした後、ダッシュでマルセル村に向かってたんですけどね、途中でいい感じの枝を拾いまして、ブンブン振り回しての帰村と相成った訳です。

 

でもこれ家に帰ったら絶対怒られるんだろうな~。産後間もない母メアリーに余計な負担を強いるのもあれなんで、ドレイク村長代理には“エルセルの街の用事で帰りが遅くなる、期間は不明”って事で伝えて貰ってるんだけど、あの人も心配性だから。

ケイトに話しを聞いたアナさんが太郎を連れて門番詰め所に様子を見に来たことがあったんだけど、その時も結構怒ってるって言ってたもんな~。

アナさんにはそのフォローを頼んでおいたんだけど、なぜか獰猛な目をしてたんだよね、そっちもコワインデスケド。

 

村の為、家族の為、戦って戦って戦い抜いた戦士は、家で待つ母親が恐くて仕方がありません。これってとっても理不尽と思いつつ、先を行く少女に連れられ家路につくケビン少年なのでありました。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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