転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第157話 転生勇者、戦いの終わりを知る

「<ストーンアロー×5>」

 

“ビュビュビュビュビュッ”

“ギャー!”

 

月の無い暗闇の草原。僅かに感じる気配を頼りに狩人は獲物を仕留める。

 

「剛腕剛球、擬似ストーンボール。」

 

“ゴウンッ”

魔力の繊細な運用、それは何も己の身体の内だけには限らない。己を知り、己を見詰め続けた者の感性は、知らず知らずの内に周囲の隠れた魔力を感知するまでに至っていた。

そしてその様な者が繰り出す剛球は、闇夜に蠢く魔力の塊を正確に打ち砕く。

 

“ドゴッ、ドサッ”

 

「“大いなる神よ、この手に集いて眼前の敵を射ぬけ、五月雨の如く、ライトアローレイン”」

 

エミリーの手から打ち出された光の矢は暗闇の上空に高く舞い上がる。そしてそれは遥か天空で細かく分裂し、まるで雨の様に草原に降り注ぐ。

 

「「「ギャー」」」

光の矢を受け思わず立ち上がる獣達、そんな目立つ獲物を村の狩人達が見逃す筈もない。

 

“ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ”

“ドサドサドサドサドサ”

 

「そこまでじゃ、索敵に敵影は見られん。ヘンリー、グルゴ、ギース、何か気配を感じるかの?」

 

討伐隊長のボビー師匠が村の男達に声を掛けるも、帰って来た答えは周囲に敵はいないと言うもの。

それは今夜の狩りの終了を告げる合図でもあった。

 

「では一旦解散じゃ。亡骸の処理は翌朝明るくなってから行う。夜道は足場が悪いからの、何事も安全第一じゃて。

子供らもようやった、暗闇での戦闘には大分慣れたようじゃの。危な気ない戦いであった」

 

ボビー師匠は戦いを終えた後も周囲の警戒を怠らない子供達の姿に、何処か頼もし気に目を細める。

村のお兄ちゃんことケビンとケイトの二人がドレイク村長代理と共に領都グルセリアに授けの儀を受けに旅立って、早いもので半月。その間ここマルセル村を襲った盗賊の回数は大きいものが今の襲撃を含めて三回、二~三人の小パーティーと言ったものが四回。ボビー師匠の話では小パーティーの盗賊は冒険者崩れの破落戸であろうとの事であった。

 

冬場の時期は魔物の出現も減り、冒険者の討伐依頼も少なくなる。領都周辺と言った大きな都市周りは別として、地方では地域間の交易も減る為に護衛依頼も少なくなる。その為食べるに困った破落戸冒険者が盗賊行為を行う事は、割とよくあるとの事であった。

地域によっては銅級以下の冒険者の入村を断る場所もあるのはそうした事が原因と、ボビー師匠はため息混じりに子供達に語って聞かせた。

 

冒険者は銀級になって一人前、それ以下は他領への自由な移動が出来ない。

冒険者の存在は魔物対策の一環であり勝手に他所に行かれては困ると言う切実な理由もあるだろうが、これは暗に下級冒険者による犯罪がそれだけ多いと言う事も示しているのであった。

 

 

「おはようジェイク君」

 

村人達の生活は例え夜の狩りがあろうとも変わる事はない。空が白み始める頃に起き出して、日が昇る頃に健康広場に集まり体操をし、朝食を終えれば各自の仕事に向かう。

時間の空いた者は率先してボビー師匠の訓練場に集まり、ヨシ棒を振ったり的に向かい投擲を行ったり。

 

村の子供達はボビー師匠やグルゴさん、ギースさんからより実践的なアドバイスを貰い訓練に取り入れて行く。

今は戦時、冬場のマルセル村は無法者どもにとっての美味しい獲物、生き残りたければ戦い勝ち続けるしか道はない。

ここは辺境の最果てマルセル村、逃げて逃げて逃げ延びた者達が最後に辿り着く終焉の地。

そんな所謂よそ者にとってここマルセル村は最後の砦、絶対に守り抜かねばならない唯一の希望なのであった。

 

子供達は思い知る、自分達に選択肢など初めからなかったのだと言う事を。

戦う事が生きる事、それは比喩でも何でもない、単なる事実。

これまでは優しい村のお兄ちゃんが密かに守ってくれていた。お兄ちゃんはその事を誇るでもなく押し付けるでもなく、ただ淡々と清掃作業に励んでいた。

今この村にケビンお兄ちゃんはいない。

ケビンお兄ちゃんがいない間、お兄ちゃんが愛するマルセル村を守るのは自分達なんだ。

子供の成長は早い、村の子供達は一人一人が一人前の狩人に、村を守る戦士になった。

彼らは今日も戦う、村の大人達と共に、愛するマルセル村を守る為に。

 

 

「「「オギャア~、オギャア~、オギャア~」」」

 

メアリー、マリア、キャロルの三人の妊婦が続けざまに元気な赤ちゃんを産んだ。

その知らせは直ぐ様村中に届けられ、マルセル村はお祭り騒ぎの様な温かな雰囲気に包まれた。

ドレイク村長代理達授けの儀に参加していた者達が帰村したのは、そんなお祭り騒ぎの最中の事であった。

 

「メアリーさん、マリアさん、キャロルさん、本当におめでとう。全員女の子、元気な子供達だ。

これでマルセル村が一段と華やかになる。ヘンリー、トーマス、ジェラルド、子育ては共同作業、奥様方は出産と言う大仕事を終えてくれた。これからはお前達が彼女達を支え助けて行くんだ、頼んだぞ」

 

ドレイク村長代理の温かい励ましと力強い激励の言葉は、新たな家族を迎えた大人達の心に強く響いて行くのであった。

 

「あの~、ところでケビンお兄ちゃんの姿が見えないんですけど、どうかしたんですか?」

 

こんな喜ばしい出来事、率先して騒ぎに加わりそうな人物が先程から見当たらない。

ジェイク少年の素朴な疑問に一瞬ヒクッと頬を歪めたドレイク村長代理であったが、すぐに態度を戻し返答を返す。

曰く、ケビンはエルセルの街で起きた所用の為に暫く帰れないとの事。

子供達は気付く、“あぁ、ドワーフの鍛冶工房に寄ってるのか”と。

 

半年前にエルセルの街で知り合った鍛冶師のフレム・ゾイル氏の作る剣はそれは見事なモノであった。

刀剣に対し造詣が深い元金級冒険者ヘンリーにして、“この美しい剣の作りは見事の一言。酷く使い手を選ぶもその切れ味は並ぶものがない名剣、是非一振打って貰いたいものだ”と言わしめるほどのもの。その言葉を聞いた時のボビー師匠の自慢気な表情は生涯忘れる事がないだろう。“これは儂の愛剣じゃ~!!”と言わんばかりであったと言う。

 

そんな名工が工房を構えるエルセルの街を前にして、授けの儀が終わり後は村に帰るだけとなったケビンお兄ちゃんがそのまま素直に帰って来るなどと言う事があるのだろうか。

勇者病仮性重症患者であるケビンお兄ちゃんがただ授けの儀を受けて素直に帰村する・・・あり得ない!!

この瞬間、村人全員の心が一つになった。

“ケビンお兄ちゃんだから仕方がない”と。

 

 

月日は流れる。

ミランダさんはドレイク村長代理が帰村するのを待っていたかの様に村長代理が顔を見せた途端に産気付き、部屋から閉め出された村長代理が廊下でソワソワする中、“オギャア~、オギャア~、オギャア~”と大きな声で泣く元気な男の子を出産した。

 

村では四人の妊婦が無事元気な赤ちゃんを産んだ事を祝い簡単な酒宴が開かれ、嬉しさのあまりベロベロに酔っ払ったドレイク村長代理が助産師のお婆さんにこっぴどく叱られると言う場面もあった。

そんな村長代理の姿に村人たちは大いに笑い新たな命の誕生を盛大に祝った。

自然と起こる笑いと緩む心、そんな馬鹿騒ぎはこれまで盗賊の襲来に怯え何処か緊張していた村人の心を解きほぐし、ゆっくりと日常に引き戻してくれるのであった。

 

そしてその日からケイトの村門詣でが始まった。彼女は朝靄漂う早朝に出掛け、日が暮れる前に家に戻る。それはまるで願掛けの様に、来る日も来る日も。

村の大人達も初めの内は何か微笑ましいものを見る様な視線を送っていたが、次第にそれは心配の視線、何か痛ましいものを見るかの様なものへと変わって行った。

 

どれ程の月日が経ったのだろうか、一月、いや一月半。

途中心配になったアナさんが太郎を連れてエルセルの街まで様子を見に行ったので無事だと言う事は分かっていたものの、村人達は自然ケビンお兄ちゃんに対する不満を募らせる、自由人にも程があると。

 

そんな村中を心配させたケビンお兄ちゃんは、ある時ひょっこりと何事もなかったかの様に片手に何処かで拾った棒を振りながら鼻歌混じりで帰って来た。

ケビンお兄ちゃんの前を先導するのは毎日朝から夕方までケビンお兄ちゃんを心配して帰りを待ち続けたケイトさん。

えっとそれでいいの?ケイトさん。ビンタの一発でも食らわさないとケビンお兄ちゃんは分からないと思うよ?

今も多分ケイトさんが怒ってないみたいでラッキーくらいにしか感じてないよ、絶対。

 

そんな自由人過ぎるケビンと常に共にあろうとするケイトに、なんとも言えない哀れみを感じるマルセル村の村人達なのでありました。

 

 

「マルセル村村長代理ドレイク・ブラウン殿はおられるか?」

 

その知らせが届いたのはケビンお兄ちゃんが帰村した次の日の事。

ケビンお兄ちゃんがメアリーおばさんに散々怒られた挙げ句両の頬を真っ赤に腫らし、罰として赤ちゃんを抱っこさせてもらえず悲しみにうちひしがれているところを子供達皆で慰めている時に、村長宅を訪れた三人の騎士様によってもたらされた。

 

「これはこれは騎士様方、私がマルセル村の村長代理の任を預かっておりますドレイク・ブラウンでございます。何やら緊急の知らせの様ですが何か御座いましたのでしょうか?」

 

「うむ、領都の来賓の間で出会って以来であるな。無事の帰村、何よりである。

此度は領主グロリア辺境伯様よりのお言葉をお伝えしに参った。

“辺境に巣くう害獣の駆除は終了した。暫くは荒れるであろうがいずれ落ち着きを取り戻すであろう。少年に伝えて欲しい、すまなかった”

以上である。確かにお伝え申した。

我々は任務があるゆえ失礼する。それと一つ聞きたいのだが、あの草原の馬防柵は一体なんであったのだ?

他の村で聞いても誰もその事を知らなかったのだが。」

 

「あ~、いや~、あれはですね~、所謂まやかしと言いますか、盗賊に対する牽制と言いますか。

恐らくはもう残っていないと思いますが、スキルによってそれっぽく見える様にした張りぼてとか言っていましたよ?流石にそうそう簡単に出来る事では無いらしいですが」

 

「そうか、それは残念だ。見た目通りのものであれば領の防衛に有効な手段であったのだが。

辺境の地にて何とか生き延びる為に女神様がお与えになられた職業であったか、執事殿も少年らしい職業だと苦笑いされておったよ。

彼とは一度ゆっくり話でもしてみたいと思っておったのだがこちらも忙しくてな、ドレイク村長代理殿からよろしく伝えておいて欲しい。

では失礼する」

 

三騎の馬に跨がった騎士様方は、一通りの用件を伝えると現れた時と同じ様に颯爽と去って行くのでした。

 

・・・えっとつまりこれってどう言う事なんだろうか?

 

村に騎士様が訪れたと言う知らせは、娯楽の少ない辺境の村中を瞬く間に駆け巡り、気付けば俺たちみたいな野次馬があちらこちからその様子を覗いていた。

そんな俺たちに対し、ドレイク村長代理は手隙の者は村長宅前に集まる様にと告げると、家の中に戻って行くのでした。

 

「まずは急な召集に関わらず集まってくれた事を感謝する、ありがとう。その上で先程騎士様がお伝えくださった事に関して話をしよう」

 

それは村人達にとって衝撃の話であった。

近隣の街エルセルの腐敗、これ迄マルセル村を襲っていた盗賊達の元凶がエルセルの街を取り仕切り犯罪者を取り締まる側の監督官であった事。そしてその腐敗は行政ばかりでなく教会や冒険者ギルド、大手商会にまで及んでいた事。

 

「私達はその事実を示す証拠を偶然にも手に入れ、領都においてグロリア辺境伯様との会談の際にマルセル村の窮状と共に訴えた。

グロリア辺境伯様はやはり聡明なお方であった。我々の為に直ぐに領兵を編成、大規模な取り締まりを行って下さった。先程の騎士様方はその全てが終了したと言う知らせをお持ち下さった。

マルセル村は救われたのだ」

 

「「「「ウォーーーーーー!!」」」」

上がる男衆の叫び、女衆の喜び、彼らの、彼女達の戦いが一応の終息をみた瞬間であった。

 

「ヘンリー家が長男、ケビン。

前に出て来てくれるかい?」

 

突然の呼び出しにビクッと身を震わせるケビンお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんの様子に、こいつまた何かやったのかとやれやれ顔を向ける村人達。

そんな中、恐る恐る前に出るケビンお兄ちゃんの姿に驚きの目を向けるドレイク村長代理。

 

「えっとケビン君、その顔は一体どうしたんだい?」

 

「あ、いや~、昨日家に帰ったらお母さんに怒られまして、その場でボロ雑巾の様に。めっちゃ怖かったですわ~」

 

そう言い頭を掻くケビンお兄ちゃんに、大きくため息を吐くドレイク村長代理。

 

「まぁメアリーさんには私からも説明してあげるから、その傷は早くポーションで直してしまいなさい。見ていて痛々しい。

村の皆はもう知っているだろうが改めて言わせて貰う。

これ迄マルセル村を襲っていた盗賊達をこのケビン君が密かに討伐していてくれた事を、このマルセル村がいかに危険な状態であったかと言うことを。

私達が授けの儀の為に領都に向かっている間皆が力を合わせ村を守ってくれていた事は、昨日の内に報告を受けている、本当にありがとう。今こうしてこの場で話が出来るのも全て皆さんのお陰と言ってもいい。

だがそんな皆さんに敢えて言わせて貰う、我々はケビン君に守られていたのだと。

 

私がこのマルセル村に戻って来て以来、いやその数日前から盗賊の襲撃がなくなっていたことを皆は気付いていただろうか?

グロリア辺境伯様の取り締まりに気付き、我先に逃げ出した盗賊どもが最後の仕事に選ぶ最も手頃な襲撃先は何処か。

 

ケビン君、寒風吹きすさむグラスウルフの草原で一人孤独に戦い続けてくれて、我々を多くの脅威から守ってくれてありがとう。

私には君の献身に返す事の出来るモノは何もない、それ程に君から貰ったモノは大きく比べ様のない程の偉業だからだ。

これはせめてもの礼の気持ち、是非受け取って欲しい」

 

ドレイク村長代理の話を聞き、言葉を詰まらせる村人達。自分達は多くの脅威と戦ったと思っていた。戦って戦い抜いて、結果マルセル村を家族を守り抜いた、だから盗賊被害がなくなったのだ、そう思っていた、思い込んでいた。だがそれは違ったのだ。

寒風吹きすさむ冬の草原で、ただ一人孤独に耐え身を震わせて、来る日も来る日も盗賊達と戦った少年がいた。

少女は知っていたのだ、いつも一緒にいる少年が自分達の為に戦い続けている事を、だからこそ朝靄の立つ村門までの道を、毎日毎日、休む事なく少年を出迎える為に通い続けたのだ。

 

ドレイク村長代理が取り出した箱を広げる。そこに入っていた物、それは小さなペンダントであった。

 

「祝福のペンダント、隣国ヨークシャー森林国において精霊との契約の際に使われる大切な品であると聞いている。ケビン君の身を守る助けになればと思い選ばせて貰ったものだ、是非受け取って欲しい」

 

そう言いドレイク村長代理により首に下げられたペンダントは日の光に照らされてキラキラと輝く。

少年は決して誇らない、偉ぶらない、それが必要だから、それが一番効率的だから。それだけの理由で自ら戦場へと身を投じる。

真の英雄。村の子供達は思う、自分達はこの英雄の様に全てを捨て誰かの為に尽くす事が出来るのだろうかと。

 

<干し肉の勇者ケビン>、その少年の功績は、尊敬と憧れを持って長くマルセル村に語り継がれる事になるのであった。




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