魔の森、それは多くの魔物が住む危険地帯。魔物自体は通常の森でも多く見られるが、魔の森と呼ばれる場所では生息数の桁が変わる。
魔の森の主役は人ではなく魔物、ある学者の研究では魔の森は通常の森よりも魔力濃度が高く、魔力を好む魔物を多く引き付けるのだと結論付けられている。
だがそこに生息する魔物の種類は場所により異なる。同じ魔の森と呼ばれる場所でも、比較的安全なものからオークの森のような危険地帯など様々なタイプがあるとされている。
そうした森には魔力由来の有用な植物も多く自生しており、人々は食と生活の両面からも魔の森を上手く活用してきた歴史がある。
大森林、そこは魔の森とは一線を画す超危険地帯である。その地に一歩でも足を踏み入れた者は常に死の危険に晒され続ける。その土地は明確に魔力が濃く、土地が魔力を発生させているのではとすら言われる場所。当然のように多くの魔物が生息し、魔物同士の激しい生存競争が繰り広げられている。
大森林はその危険度から
冒険者の上澄みと呼ばれる金級冒険者や白金級冒険者ですら訪れる事を躊躇する場所、それが大森林なのである。
「で、君たちは何処まで行くのかな?」
““スイーーーーーーーーーッ””
俺の前を音も立てずに高速で進む二本の綱、外骨格ビッグワームの緑と黄色。
“ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ”
木から木へ、枝から枝へ。自身のスライムと言う特性を十分に発揮し、立体機動を実現させたデカスライムの大福。
って言うか大福身体が小さくなってない?あまり大きいと重くなって効率が悪いから少し小さくなってると。ほうほう、で、それってどう言う事?
身体の大半を別空間に仕舞っていると、なるほど・・・って意味が分からないんだけど?魔力を大量に食い溜めしていたら出来る様になったんだ、へ~。
以前から身体の大きさ以上に物を食べると思ったら、そんなカラクリがあったのね。
それで勢いを殺さずに触腕を投げて掴んで縮めてってのを繰り返してると、めっちゃ器用じゃん。って言うか格好いいじゃん。
スライムの大福が森の中でどうやって付いて来るのかと思っていたらまさかの高速立体機動、ロマンじゃん、凄い悔しい。これに関しては大福に勝てる気がしない、究極スライム大福、お前は何処に向かってるんだ!?
冬の魔の森は静かである。ホーンラビットが冬眠期に入りボアやマッドボア、フォレストウルフたちも巣穴から出て来ない。
御神木様のところのグラスウルフたちはログハウスの部屋の中でご就寝、ブー太郎だけがのんびりと畑とビッグワームの世話、それとご神木様にビッグワーム肥料を差し上げているらしい。
御神木様曰く大分幹も確りして来たのでポーションビッグワーム肥料はたまにでもいいとの事。普段はブー太郎が撒く通常のビッグワーム肥料で十分との事であった。
まぁ皆が仲良く生活しているのならそれに越したことはないかな?ブー太郎も今のところこれと言った不満も無いと言ってたしね。
そんで当然の様に大森林に向かい進んで行くお三方、まぁこいつらが“旨そうな気配”と言ってる段階で大森林だとは思いましたともさ。
ここまでは想定内、問題はこれから何処に行くのかって事なんですよね~。
こいつらも漂う気配を追い掛けてるだけだからな~、場の特定は出来ないって言うね。まぁすぐには見つからないと思うんで数日の猶予は貰って来たんだけど、本当にどこまで行くのやら。
俺はテンションの上がった上機嫌の三匹を追い掛け、深い冬の森の中を只管駆け抜けて行くのでした。
二日目の朝がやって来た。
森で迎える朝は、意外な事にグラスウルフの草原ほど寒くはなかった。木々がフィヨルド山脈からの吹き下ろしの風を受け止めてくれているからなのだろう、ブー太郎やグラスウルフたちが寒く厳しい生活を送らないで済むと分かった事は、収穫であった。
広げたテントをたたみ朝食の準備をする。夜の番は大福先生が買って出てくれた。大福先生曰く、スライムには睡眠の概念が無いとの事。水辺でじっとしているスライムたちも、別に寝ているのではなくただボーっとしているだけらしい。
それじゃビッグワームたちはと思って二匹に聞けば、ビッグワームは確り寝るらしい。ただその時間ははっきりと決まっている訳ではなく、一日中寝ている時もあれば十日以上起きている時もあるとの事であった。また五分くらい寝れば二日くらいは平気らしく、その気になれば一月寝てなくても普段と変わらないとの事であった。
流石魔物、その生態は謎だらけである。
「さて御三方、本日もよろしくお願いします」
準備を終えいざ出発、俺は只管三匹の後を追い掛けるのであった。
“ブワッ”
明確に気配と言うか空気が変わる。森の植物が冬とは思えないほど色鮮やかに葉を茂らせる。地面に生える癒し草もってめっちゃデカくね?ポーションビッグワーム肥料を撒いて育てた癒し草レベルじゃん、ハイポーション並みのポーションが作れちゃう奴じゃん。
ここってどう考えても深層だよね~。
えっと御三方?目的の場所って・・・まだ先なんですね、そうですよね、分かりました。
「あの、すみません、目の前に大きなトカゲがいるんですけど、しかも二足歩行なんですけど?これって大丈夫なんですかね?
それほど強くなさそう?えっ、
“スーーーースパンッ”
“ドサッ”
緑先生無音移動からの一刀両断って半端ね~、首筋スパンじゃないですか。
血が流れてもったいないんで処理しちゃいますね。
俺は急いで土属性生活魔法で甕を作製、首筋と頭部から流れ出る血をコントロールして壺に収めるのでした。なんかこれ“血界領域”って仮性心を刺激する名前を付けたら目茶苦茶楽に操作出来る様になったんだよね。
もしかしなくても生活魔法に登録されちゃったとか?まぁ便利だし生活に密着した技だけど、また詠唱呪文を考えないといけないって奴?
うん、黙っておこう。
で、血抜きが終わったら甕に蓋をして腕輪収納にポイ。本体と頭も仕舞いましょう。こんな場所で解体なんざ死にに行く様なもんですからね。
あ~、マジでクリーンの魔法が欲しい。そんな魔道具ないかな~、今度行商人のギースさんに相談してみよう。
見果てぬ夢、クリーンの魔法。
血の匂いに魔物が集まって来ませんようにと祈りつつ先を急ぐケビン少年なのでありました。
“““グルルルルル”””
甘かった様です。
周囲を囲むブラックウルフの群れ、見渡す限り三頭、姿を隠しているのが二頭、リーダーらしきものが一頭、計六頭の群れですね。
流石深層、体格は皆太郎の二倍くらい、さっきのトカゲとかを狩って食べてるのかな?
えっと見逃してくれる気は・・・無いんですね、そうですよね。代わりのお肉を渡しま・・・その肉と一緒にお前も食べると、そうですか、当たり前ですよね。
“ドスッ、ドスッ”
奥に控えていた一際大きな個体が前に出て来られました。
俺たちのことを見て!小馬鹿にした様な笑いを浮かべていらっしゃいます。
そりゃそうなりますよね~、俺気配消す為に魔力を抑えてますし、他の三匹もそうですから。匂いがしなかったら気付かれなかったんじゃないかな~、小物過ぎて。
そう言う意味ではさっきの出会い
まぁ初戦でしたし、過ぎた事をどうのと言っても仕方がないんですが。と言う訳で皆さん、さようなら。
“ドスドスドスドスドスドスッ”
いや~、影魔法って超便利。細く伸ばした影を相手の影に接続しちゃえば攻撃し放題、<影縛り>って流石は闇属性魔法って感じだし、<影槍>なんてもうね。
しかもまだ息のある内でもそのまま影の中にご案内、周囲に血の匂いが広がる前に処分終了でございます。
あ、全部死んだみたい、それじゃそのまま収納の腕輪にポン。影魔法と収納の腕輪のコンボ、最高♪
「なんか危ないから早く移動するよ~。何さ大福、自分が戦いたかった?久々の獲物ってお前何時から戦闘狂になったのさ。
子供たちの“大型魔物ヒドラに挑戦”が終わっちゃったからつまらないって仕方ないじゃん、冬場にやったら風邪ひいちゃうっての。
首を何本も操ってウネウネやるのが楽しかったって言われてもね、お前が本体でそれやったら子供たち只の怪我じゃ済まないから、ポーションビッグワームの出番だから。
今度草原で遊んでやるからそれまで我慢しなさい」
俺がそう言うとピョンピョン跳ねて喜ぶ大福。
えっ、大福だけズルい?緑と黄色もやりたいの?しようがないな~、帰ったらね。春になったら作付けとかあるんだから、ずっとは無理だからね。
何か三匹に変な約束をさせられるケビン少年なのでありました。
「えっとここってどこよ」
そこは森を抜けた先、俗に言う渓谷。
あれから移動すること数時間、その最中もひょいひょい現れるトカゲに狼。
御三方にはくれぐれも血の匂いはさせない様にと言い含めておいたんですけどね、そうしたらこの方々撲殺し始めちゃいまして。
まぁオーダー通りではあるんですけど、戦闘を控えてくれるとありがたかったかな~と。
戦闘後の回収は私のお仕事、生死の確認は後にして影の中にズブズブ、お亡くなりになったところでサクッと腕輪に収納。
気を失っているだけの個体は影の中で追撃って、怖いぞ影魔法。
これって収納量が魔力依存なのが肝、ケビン君の影の中、めっちゃ広くなっております。おそらくマルセル村の範囲と変わらないくらい広いです。
何かあったら影の中に避難しちゃえば・・・、確実性が無いから止めておきましょう。
で、そんなこんなを繰り返してたら森を抜けちゃいましてね、あからさまに植生が変わったと言いますか空気が濃くなったと言いますか。
ここってもしかしなくても魔境じゃね?
えっと目的地って・・・。
森を抜け、更に山岳部に進む三匹の魔物。魔物は魔力が大好きである、強い魔物ほどより魔力豊富な土地に住んでいる。何故なら魔力は美味しいから、魔物の身体がそれを欲するから。
弱い個体は戦闘を避け浅層へ、強い魔物はより豊富な魔力を求めて深層へ。
ではそれを遥かに上回る強さを持った魔物が向かう先は?
魔境、そこは金級冒険者や白金級冒険者と言った強者の上澄みでも侵入を拒否する絶対領域。過去にワイバーン討伐を夢見て向かった七名の金級冒険者パーティーが、半壊状態で戻って来た死の大地。
メアリーお母様、これまでいろいろご迷惑ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。ヘンリーお父様、家族の事、よろしくお願いします。
ジミー、冒険と無謀は違う。お前は強い、だが生き延びるのは逞しい冒険者だ。
ミッシェルちゃん、明るく元気に育つんだよ?その環境はお兄ちゃんが用意しておいたよ。
目の前には渓谷に向かって元気よく進んで行く三匹の魔物。
俺はがっくりと肩を落としながら、魔物たちの後をついて行くのでした。
本日一話目です。