山深い渓谷、周囲には巨大な樹木が大きく手を広げ、山向こうから流れ着いたであろう巨岩が行く手を塞ぐ。
俺は目の前の岩に手を触れ深く息を吐くと、ボツリと呟く。
「収納」
瞬間にその場から消え失せる大岩、目の前には大きく開いた窪みが一つ。
そして向ける目線の先には“岩場って楽し~♪”とばかりに先行する三匹の魔物。
俺は本日何度目かのため息を吐きつつ、魔物たちの後を追い掛けるのであった。
ってあいつら俺の事置いて行く気かよ、まぁ追い付くけどもさ、普通待っていてくれるもんじゃないの?魔物の普通なんて知らんけど。
もうね、渓谷に着いてから連中のテンションが高い事高い事。なんか酔っぱらってない?魔力酔いって奴?
魔境に来てからハッチャケるって、あいつらどんだけなのよ。
あ、でっかい蛇の首が飛んだ。胴体だけバタバタ暴れてるじゃん。
早く仕舞え?へいへい分かりましたよ。
御山に入ってから魔物の全体数が減ったからか、お三方、無双状態で暴れられております。
そんで
まぁウチの勇者様方は権力とは無縁なんで大丈夫なんですが。
でもここって気を付けないとヤバいのがやって来そうなんですよね~。さっきから上空を飛び交う小さな鳥みたいなのがですね。
あれって高過ぎて小さく見えるだけですから、降りて来たらめっちゃデカいですから。
その名を呼びたくないヤバい奴の気配に、ビビりまくりのケビン少年なのでありました。
「あ、ホーンラビット、ってデカ。ウチの団子と変わらんやん。って言うかめっちゃマッチョ」
“チョイチョイ”
「えっ、掛って来いと。イヤイヤイヤ、遠慮させて頂きます、お宅さん強そうですし。
掛かって来ないならこっちから行く?やめてくださいよ、おっかない」
“キューーー!!”
「問答無用って危ないわ、身体に風属性魔法を纏うってどんだけなのよ」
“キュキッ”
「ふっ、やるな。じゃないわ、戦いたいのならあちらの御三方にしなさいな」
“キュイ~”
「分かってないな、私は無茶や無謀はしない主義だ、あのレベルにはまだ達していない事ぐらい自分でも分かってる。
まぁ何とも魔物にしては理知的でいらっしゃる。
言葉でなく拳で語れって奴ですか、それじゃ一度だけですよ?」
“シュタンッ”
“ドサッ”
「瞬間的に光属性魔力で脳を活性化、体内に火属性魔力を回し体表を風属性魔力で覆えばあら不思議、なんちゃって加速装置でございます」
俺は地面に落ちている角を拾い上げ、倒れ伏す角無しホーンラビットに語り掛ける。
「あなたの角はいただきました。これで彼我の差はお分かりいただけたかと」
“キュキュッ、キュイ”
「お見逸れいたしました、私をあなた様の配下にお加えくださいってどこの武侠小説?
しかもそれって土下座じゃなくってただの箱座りだから、可愛いだけだから。
お前さんそんな調子であちこち喧嘩売って来たの?よく今まで生きて来れたね?」
“キュイ~、キュキュ”
「ホーンラビットは一人じゃ何も出来ないと思われるのが悔しかったって、ホーンラビットの真価は集団戦なんだから仕方がないじゃん。
森の悪魔の名は伊達じゃないんだよ?
まぁ、いいけどさ。で、これからどうするの?俺たちはまだ先に進むみたいなんだけど?って言うかあいつら次第なんだけど?」
“キュイ、キュ”
「ご主人様に付き従うが従者の務めって、マジか~。でもこの先なんかヤバそうだから取り敢えず指輪に入っていてくれる?<ホーム>」
俺は従魔の指輪をした右手を角無しホーンラビットに向けると、呪文を唱え指輪に収納するのでした。
って言うかホーンラビットであれかよ、ここの魔物ってどんだけ強いんだよ、魔境って半端ないわ~。
ピョンピョン跳ねて先に進むように催促する大福に、若干の苛立ちを覚えるケビン少年なのでありました。
「で、ここでいいの?」
そこは巨大な洞窟。岸壁にぽっかりと開いたそれは、大自然の雄大さを如実に語るほどの迫力を持って俺たちを出迎えていた。
うわ~、スゲ~。高層ビルが丸々入りそうなくらいデカイでやんの、やっぱこの世界ってスケール半端ないわ~。
洞窟から流れ出る小川の水も魔力水?ってくらい魔力が豊富そうだし、こりゃ大福たちが魅かれるはずだわ。
洞窟内から漏れ出る魔力の気配、それはこの魔力が濃いと言われる魔境においても一段と格が違うと言った様子であり、魔力が大好きなはずの魔物ですら避けているように思われた。
だが我らが大福先生をはじめとする御三方は、そんな事は関係ないとばかりに嬉々として洞窟侵入を試みるのであった。
濃厚な魔力漂う空間、そこは何処か空気が重いと言うか身体に纏わり付くと言うか。
スキル<魔力支配>のお陰か然程不快と言った感じはしないものの、普通の魔物なら一目散で逃げだすであろうそんな洞窟内を嬉々として進む三匹。
どうやら目的の場所は目の前の様でさっきから“ご飯♪ご飯♪”と騒ぐ騒ぐ。
在りし日の記憶ではトリュフという風味豊かな土の中で育つキノコの一種を探すのに豚を使うと言う話があった。なんでもそのキノコは豚の雄が発情期に出すフェロモンに似た臭い物質を分泌しているとか。その為雌の豚が一目散に走りだし発見すると言う事であった。
只やはりそこは豚、折角見つけたトリュフをそのまま食べてしまうと言う事でその役割は訓練された犬に取って代わられたとの事であったか。
こいつらを見てるとそんなトリュフに向かってまっしぐらな豚の様に・・・ちょっと違うな、チャオ〇ュールに向かって真っすぐ駆け出す猫だな。
食欲まっしぐらだもんな、恐れを知らぬ本能全開って、こいつら野生動物としてどうなのよ?
だってこの洞窟に来てから一切魔物を見てないのよ?襲い来る気配すらないのよ?
ある意味安全地帯?ってそうじゃない、魔物すら恐れる程の魔力が漂ってるって証拠じゃないですか~、嫌だ~。
でもそんな場所を遠くマルセル村から感知するこいつらの魔力感知(食欲)って一体。俺絶対無理なんですけど。
“ピョンピョンピョンピョンピョンピョン♪”
““クネクネクネ、バタバタバタ♪””
どうやら目的地に到着した模様。って言うか目の前にあるのってゴツゴツした岩場となんかゴミみたいなものが大量に散らばっている光景なんですが?
「えっと本当にここが目的地なの?」
“ピョンピョンピョンピョンピョンピョン♪”
““クネクネクネ、バタバタバタ♪””
「超美味しそうってあのゴミ山が?まぁいいですけど、そんじゃ俺はここで待ってますんで心行くまでお楽しみください」
俺がそう言うと勢いよく突貫をかます三匹。
あ、大福が巨大化したってデカいなおい、村長の家くらい大きくないか?昔ボビー師匠に聞いたビッグスライムって言うスライムの化け物でも人の背丈ほどじゃなかったか?
こんなのがいたら領兵派遣されちゃうじゃん、リアルで多頭ヒドラが出来ちゃうじゃん、勇者様案件じゃん。
えっ?もっと大きくなれるの?この倍くらいの高さなんだ、ふ~ん。
「絶対にやらないで下さい、お願いします」
思わず土下座をして頼み込む俺なのでした。(死活問題)
“ジュワジュワジュワジュワジュワジュワ”
“ガリガリガリガリガリガリガリガリ”
広い洞窟内に響くお三方の咀嚼?音。そんな中手持ち無沙汰になった俺は、周りの岩をハンマーでコンコン。なんか目茶苦茶堅いんですけど、鍛冶用のハンマーで叩いてもびくともしない。
魔力ありき、だったらご神木様の枝製スコップが最強じゃね?
俺は腕輪収納からMyスコップを顕現、濃厚な土属性魔力を流し込みいざ、勝負!
“サクンッ”
うん、知ってた。
軽~く行けちゃいました。流石はMyスコップ、最近“魔剣黒鴉”に出番を持って行かれがちだけど、我が最強はやっぱり君ですな。
でもこの岩、ハンマーで叩いても傷一つ付かないんなら石剣や石盾を作ったら強力な武器になる様な、重過ぎかな?ブー太郎ならワンチャン行ける?
御三方は・・・当面帰って来ませんね。
俺は暇潰しに、石製品の作製に取り掛かるのでした。
“ブンッ、ブンブンブンッ”
うん、悪くない。
その形状、重心、これなら武器としても通用しそう。手に持つ大剣の振り心地に笑みを浮かべる俺氏。
いや~、石剣作りを嘗めてたわ~。もうね、最初の作品なんてひどいモノでしたよ。重心位置が悪い上に形が歪んでるものだから振るとブレるブレる。あんなの素振り用としても使えんわ。なんで一度<破砕>で粉々にしていつもの陶器作りの要領で形成。最適な形状と重心を試行錯誤するって言うね。
あまりに上手く行かなくて途中で蛮族棍棒や盾を作り出しちゃったのはご愛敬。で、漸く出来上がった試作品を基に削り出しを行ったって訳です。
えっ?よくそんな細かい作業をスコップで出来たなですって?
嫌だな~、そんな訳ないじゃないですか~。いくら俺でも蛮族棍棒が精々ですって。
それじゃどうしたのかって言いますと、普通にナイフや彫刻刀で削りましたけど何か?
ここの岩、魔力を纏った刃物なら普通に削れました。試しに色んな魔力を纏ってみたんですけど、土属性魔力が一番相性が良くって次いで基礎魔力、他の属性は全く受け付けないって言う不思議な岩でございました。
だもんで大まかな形成は剣鉈で行って、細かい調整や細工に関しては自作のナイフや彫刻刀なんかで行いました。俺っち自作の刃物類って、全部なんちゃって魔鉄製なもんだから魔力の通りがいいんですよね。
“ほう、なかなか良い振りであるな。さぞや名のある冒険者か高名な騎士と見た”
「はっ?俺が冒険者な訳ないじゃないですか。それに騎士様ですか?無い無い無い。
知ってます?騎士様ってね、権力争いに巻き込まれて死んじゃうんですよ?人の欲望は武力じゃどうにもならないんですから。
それに冒険者?冒険者ギルドマスターに強制依頼とか言われて、地獄の窯に送られちゃう様な職業ですよ?
なる訳ないじゃないですか」
“ふむ、では剣の道を極めんと強敵に挑む剣士であると”
「へっ?馬鹿言っちゃいけませんよ。なんでわざわざそんな危険な事をしないといけないんですか。まぁこの世界は危険に満ち溢れていますからね、生きる為には力が必要って意見には賛成ですけど、手段と目的を履き違えちゃダメですから。
力はあくまで生きる為に必要なんであって、力を求めて危険に飛び込むだなんて意味が分からない」
“では名誉を求めての探索者であると?”
「名誉?そんなものいりませんっての。知ってます?人の嫉妬って怖いんですよ?自分と全く関係がないにも拘らず勝手に恨んで呪いを掛けたり罠を仕掛けたり。
酷いと暗殺者を差し向けてきたりするんですからね?
名誉なんて貰っても、それに付随する危険がとんでもないんですから。
有名税って言葉があるんですけど、有名人や著名人って、それだけで日々害悪に晒されるんです。俺はごめんですよ、そんな人生」
“ふむ、では
「あぁ、ウチの魔物たちがなんか“美味しそうな気配がする”って言って催促するもんですからね、仕方がなく付き添いです。俺もまさか魔境に来るとは思いもしませんでしたけど、まぁ何とかなってよかったです」
“魔物の付き添いとな、では
「これですか?ここの岩場の岩って目茶苦茶堅いじゃないですか。暇だったんで石剣でも作ってみようと思ったんですけどね、これが難しくってですね。失敗作を粉々にして試作品を何度も作ってって作業を繰り返して、何とか完成したんですよ。
いや~、やっぱ職人さんって凄いですわ、石工の仕事嘗めてましたわ。
でもいい感じに仕上がったんで自分満足なんですがって先程からどなた様でしょうか?」
流れる冷や汗、自分は何時からその者と会話をしていたのか。
ここは魔境、他に人がいるなどと言う事も無い。
であるのなら誰が?この洞窟に隠れ住む隠者とか呼ばれる人達か?それとも修行の為に籠っている剣士か?
俺は恐る恐る声を掛けられていたであろう背後を振り返る。
そこには広い空間が開けている筈であった。この岩場に続く洞窟の道、だが今そこにあるのは凹凸の目立つ壁。よく見ればそれは何かの鱗の様に見えなくもない。
“ゴクリ”
飲み込む生唾、俺は震える身体に必死に命令を出し、ゆっくりと視線を上へと向ける。
全てのものを見下ろすような鋭い眼光、鳥類の嘴にも似た鋭角な口元、全身を覆い尽くす鎧の様な鱗。
“この地に人族が訪れるのは数百年ぶりであるか。しかし
魔物の頂点、万物の王、地上最強の種族、ドラゴン。
その威容に言葉を失い、ただ立ち尽くすケビンなのでありました。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora