ドラゴン、それは生ける厄災。大きな翼を広げ天空を舞うその姿は、見る者の心を砕き、この世の終わりを幻視させる。
その巨体は王城をも破壊し、ドラゴンブレスと呼ばれる最強の一撃はこれまで多くの国を滅ぼして来た。
“ズズズズズズッ”
過去においてはそのドラゴンに勝利し、ドラゴン討伐祝賀会なるものを開いた国があったと言うが、その伝承に感化されドラゴン肉やその素材を手にせんとして滅ぼされた国がどれ程あった事か。
“愚者の夢”
人々はドラゴン肉の事をこう称し、ドラゴンに挑む事の愚かさを後世に伝えたと言う。
だが人間と言うものは傲慢であり愚かである。かような前例があるにも拘らず、自身ならばと己の名誉と欲望の為に民を顧みず兵を差し向ける権力者が後を絶たない。
近年であれば百数十年ほど前にとある貴族がドラゴンに挑み一国を滅ぼしかねない状態になった事件があった。
その解決の為に自らドラゴンに挑み、実力を認められ怒りを鎮めた剣の勇者様の話は広く大衆に知られた事実である。
“ふむ、この癒し草の煮出し茶と言うものは中々に味わい深いものだの”
ケビンは思う、ドラゴンに認められた剣の勇者様って半端ね~と。
単身ドラゴンに挑む?無理無理無理、剣の勇者様って頭がおかしい、イカレテル。
全世界の勇者物語ファンの子供たちに言いたい、あの勇者様方に憧れて勇者を目指してはいけないと。
「あ、お摘みがありませんでしたね、途中で捕まえたトカゲや蛇の肉がありますがいかかでしょうか?簡単に炙るだけですが」
“おお、それはすまんの。頂くとしよう”
俺は腕輪収納からでっかい蛇やらトカゲやらを取り出すと、剣鉈に魔力を流しサクサク下処理を行っていくのでした。
“ジュワ~~~~~~~”
洞窟全体に広がる巨大蛇の焼ける旨そうな香り。
俺は魔力の触腕を使い、即席巨大コンロの上で焼ける巨大蛇の開きを石串を持ち上げてひっくり返す。
“しかし其方は器用なもんじゃの、魔力を自在に操り調理を行うとは。それにその魔力量、とてもただの人族とは思えんが、もしや神の使徒とやらなのかの?”
「へっ?自分が神様の使徒様ですか?無い無い無い、自分只の辺境の村人ですから。
一応食料の神様から加護は頂いてますが、それだけですよ?
特にこれと言った役割なんてありませんっての。しいて言えば美味しいお肉を腹いっぱい食べたいって事ぐらいですかね。
あ、いい感じに焼けましたんでそっちの皿に移しますね、お熱いのでお気御付けてお食べ下さい」
俺はそう言い巨大蛇肉を巨大な皿に移すと石串を抜き、適当なサイズに切り分けて楊枝?を刺して差し出すのでした。
“ふむ、こうしてきちんと調理された食べ物を食すのは初めてであるか。我のブレスは強過ぎるでな、弱めても焦げだらけになってしまう。
うん、これは中々に美味、強き魔物は魔力豊富故生でも旨いとは思うが、これはこれで趣深い味わいであるな。
この煮出し茶と共に味わうと更に旨い”
目の前では俺の出した串焼きに舌鼓を打つ最強生物。背後ではいまだ食事を続ける三匹の魔物。・・・何このカオス。
俺は一先ず思考を放棄し、残りのトカゲをコンロで炙るのでした。
“では其方らはここがどう言った場所か知らずに訪れたと?”
俺は巨大急須に干した癒し草を突っ込みそこに熱湯を注ぎ入れ、巨大湯呑に触腕を使って煮出し茶を注ぐ。
“ゴトッ”
俺が差し出した煮出し茶を、息を吹き掛ける事も無く舌を器用に使いズルズルと音を立てて吸い込む最強生物。その口から灼熱のブレスを吹き出すドラゴンにとって、熱々淹れ立てのお茶など熱くもなんともないのであろう。
「まぁそうですね、先程も言いましたがあの三匹のお供、付き添いですから。
何故かあの三匹がこちらから旨そうな気配がすると言って聞かなかったんですよ。
未だに夢中で食事しているくらいですから、よっぽどだったんだと思うんですが」
そう、大福、緑、黄色の御三方、この状況を全く意に介さず食べ放題を楽しんでおられます。まあ別にあいつらはボディーガードでもなんでもないんで仕方がないと言えば仕方がないんですけどね、それにあいつらがいようがいまいが今の状況がどうにかなるとも思えませんしね。
もうね、自分開き直りの境地ですよ。以前草原で化け物に合った時は恐怖でおかしくなっちゃいましたけど、あれから色々あったお陰か心の切り替えの早い事。深く考えても仕方ないですしね、人間の防衛本能ってスゲ~って思います。
“うむ、それはおそらく我が脱皮をしたからであるの。そこの岩場は言わば我の脱皮場でな、我が身体を擦り付けても壊れぬ丈夫な岩が肌を
今あ奴らが食べておるのは我の抜け殻じゃな、古い物もあるからの、綺麗にしてくれる分には助かるの”
う~わ、こいつら新鮮な抜け殻の匂いに反応したのかよ、そりゃ魔力豊富だよ、だってドラゴンの皮だもん。古い皮って言ってもこんな魔力豊富な洞窟内だったら朽ちる事なく残っちゃうっての、どんだけ溜まってたのって話だよ。
「あの~、それじゃこの脱皮場の抜け殻っていらないんですか?」
“うむ、いらないと言うよりも片付けてくれると助かる。近頃は岩と岩の間に目詰まりが目立って来ておっての、どうしたものかと思っておったのだ。
細かい隙間は手が届きにくいでな”
そう言い頭をポリポリ掻く最強生物。
ドラゴンが岩場で脱皮した皮をほじほじ・・・。凄いシュールな光景。
「それなら俺がどうにかしましょうか?
お~い、御三方、一旦終了。そちらのご飯をこれからお持ち帰りします。そんなに急いで食べなくてもゆっくり楽しめるぞ~」
“ピタッ、ピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョン!!”
““ピタッ、クネクネクネクネ、バタバタバタバタ!!””
お~、どうやらあいつらこの絶好の機会に食い溜めをしていた様です。
俺の言葉にいそいそとその場を離れる三匹。と言うか大福はいい加減小さくなりなさい、圧迫感が半端ないから。
それじゃ行きますかね。俺はこの岩場全体に濃厚な闇属性魔力を流し込みます。
背後で最強生物が“何だこの濃厚な闇の力は!!これは我が力に匹敵する”とかなんとか騒いでいますがフル無視です。って言うか結構な量溜め込んじゃってるのね、本当に掃除しようよ。岩場の間って土じゃなくって皮が挟まってたのかよ、汚ねえな~おい。
岩場の表面を覆うように全体を固定、細かい石や小岩なんかも
何と言う事でしょう、そこにはまるで洗い出されたかのような綺麗な岩場が。これには依頼主のドラゴンもびっくり。“お~、素晴らしい。これで痒いところも確り擦れる”と大変なお喜び様でございます。
三匹はと言えば“やった~!!お弁当だ~!!”とでも言わんばかりに大喜び。
お互いWin-Winの関係って奴ですね。
“ふむ、しかしこれ程綺麗にして貰ってこのままと言うのも申し訳ない、礼と言う程のモノでもないが抜け変わった牙や爪が幾つかあるが持って行かぬか?
我にとっては何の価値も無いのだが、人族は欲しがると他の同胞より聞いた事がある。なんでも我らの素材は貴重だとか、そ奴らのおやつにしても良いしの”
そう言い音もなく洞窟の奥へと引っ込んで行く最強生物。あの巨体で足音すらさせずに移動って、無音行動なんだろうけど改めてドラゴンって半端ないです。
「あ、そう言えば俺って授けの儀で<魔物の雇用主>ってスキルに目覚めたんだけど、お前さん方契約する?利点は離れていても連絡が取れる事と定期的に俺からの魔力供給があるって事なんだけど」
“!?、ピョンピョンピョンピョン!!”
““!?、クネクネクネクネ!!””
うわっ、こいつら現金。定期的な魔力供給って言葉に大喜びしてやんの。
まぁ、魔物は魔力大好き生物だから仕方がないんですけどね。
俺は早速三匹の頭?に触れ、長期雇用契約を結ぶのでした。
“キンコン♪
条件が達成されました。スキル<魔物の雇用契約>に<昇進>が加わりました。
<昇進>の条件を達成した魔物が三体確認されました。昇進を行いますか?”
わっ、何?えっ、何?
スキルが条件達成って何の事?
俺は意味も分からず混乱したまま、取り敢えず<自己診断>で<魔物の雇用主>を見てみる事にした。
自己診断
<魔物の雇用主>
魔物を雇用する事の出来るスキル。雇用契約は両者の合意の元結ばれ、雇用主は労働の対価として繋がりを通じ魔力を支払う。
被雇用者と雇用主は繋がりを通じ意思の疎通を取る事が出来る。雇用主は被雇用者が持つスキルを一割程度の規模で行使する事が出来る。
<スキルツリー>
・短期雇用契約
魔物に対し魔力を代償に仕事を依頼する事が出来る。仕事の内容と報酬はその都度決める事が出来る。
・長期雇用契約
魔物に対し定期的に魔力を支払う事で仕事を依頼する事が出来る。契約は互いの話し合いにより解除する事が出来る。
・解雇・辞職
魔物及び雇い主は、三十日前に宣言する事で解雇・辞職を行う事が出来る。
・昇進
契約した魔物は、一定の条件の下雇用主の判断で進化する事が出来る。進化条件はその魔物ごとに異なる。
現在の契約魔物・・・四体
昇進可能魔物
大福(スライム?)緑(ビッグワーム?)黄色(ビッグワーム?)
「・・・えっと大福さんに緑さんと黄色さん、どうやら進化出来るっぽいんですけどどうします?俺としてはどちらでも構わないんですけど」
“““!?、ザザザザッ”””
「あ、進化したいんですね、了解です。
綺麗に整列って、いつの間にそんな事を覚えたんだか。
では早速。<昇進>」
“ピカ~~~~~~”
それはまるで閃光であった。薄暗くヒカリゴケに淡く照らされた洞窟内を、眩く照らす一瞬の煌めきであった。
「ぐわ~~~、目が~、目が~~~~~!!」
その焼ける様な閃光は、何の心構えも無いケビンの目を一瞬にして焼き尽くしって失明するわ!!眩し過ぎじゃボケ~~~!!
俺は腰のポーチに手を突っ込むと急いでポーション(ハイポーション並み)を目に振り掛け、残りをゴクゴク。
「あ~、酷い目に合った。お前たちは大丈夫だった?何ならポーション飲むってどちらさん?」
体表を覆う濃紺の鱗、スッと伸びた尻尾、在りし日に図鑑で見たトリケラトプスと言う古代生物の面立ちを彷彿とさせるシュッと前に伸びた口元。その優し気な瞳を俺の方に向け、口元を開く。
““ギャ~~~~!!””
「腹減ったってうるさいわ!!先まで散々ぱら食べてただろうが!!
えっ、腹が減って仕方がない?しょうがねえな、そこにドラゴンの抜け殻を出すから食べてなさい。
で、大福さんはってあんまり変わってない?元々黒かったボディーがまるで磨き上げられた黒曜石の様に艶々に。なんか身体の調子が良くなったと、それはようございました。で、大福さんはお腹の方はどうなのよ。食い溜め分がまだまだあるから大丈夫なんですか、そうですか。
今はドリンクな気分なんですね、それで向こうに見える池にダイブって大丈夫なの?そこってかなり濃厚な魔力水っぽいんですけど?
美味しいんだ、まぁ平気ならいいんですが」
“待たせたの。って何かその三体の気配が桁違いに上がっておる様なのじゃが、一体何が起きたと言うのかの?”
「あ、これはどうもありがとうございます。
いえ、なんかこの三匹が進化したみたいでして。何かよく分からない事になってるって言うか」
“うむ、進化であるか、であるのなら納得である。進化とは言わば存在の生まれ変わり、その姿形が全くの別物になる事もままあると聞いている。
その切っ掛けが何であるのかは分からんが、おめでとうと言っておこう”
「どうもありがとうございます。それとこちらなんですが、なんか回収した抜け殻の中に混じっていたみたいなんですけど」
俺がそう言って取り出したのは一振りの大剣、それは長年放置されていたとは思えない程の輝きを放っていた。
「なんかこんなのがあと数本あるんですが」
“あぁ、その棘か。昔よく外を出歩いていた頃、人族が挑んで来ての、たまに背中の鱗に残る事があったのだ。しかし曲がっても折れてもおらんとはよほど丈夫な造りをしておるのだな。
我には用の無い物である、処分を頼む”
そっか~、ドラゴンの背中に刺さってた棘なんだ~。しかも折れない曲がらない、前にボビー師匠がそんな剣の話をしてたっけな~。
立て続けに起きる様々な出来事に、思わず遠い目をするケビンなのでありました。
本日一話目です。