転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第163話 村人転生者、花園の主を訪ねる

大森林、そこは多くの強力な魔物が跋扈する危険地帯である。大地から溢れる魔力に魅かれ集まる魔物は、その強さにより棲み分けを行う。浅層、中層、深層。それは魔力濃度によって明確に区分けされた領域、各層に住む魔物の強さは世界が変わると評されるほどに格の違いを見せつける。

そんな冒険者の上澄みとされる金級冒険者ですら侵入を躊躇する危険地帯に居を構え、人との交流を一切断つかの様に住み暮らしていた者がいた。

大賢者シルビア・マリーゴールド。オーランド王国近代魔法文明の基礎を築いたとされるこの偉人は、その業績とは裏腹に人々の嫉妬や欲望に飲み込まれ姿を消したとされている。

そんな彼女には一人の愛弟子がいた。賢者イザベル、多くの魔法を操り大変希少な収納魔法の使い手として時の勇者と共に旅だったとされる人物である。だが彼女は出自不明であるとして彼の物語で語られる事は無く、その功績に対し罠に嵌められ儚くされた悲劇の女性でもある。救いは彼女自身がその事実に気が付いていないと言う事であろうか。

そんな英傑の御霊が眠る聖地、それが大森林中層部にひっそりと佇む常春の花園、多くの昆虫や小動物が集まる楽園である。

 

「アッハッハッハッ、何よ、ケビン君それでビビりまくっちゃったっての?訳分からなくなって魔境の蛇を瞬殺って、そっちの方が訳分からないわよ」

 

「何よこのホーンラビット、全然かわいくないんですけど。って言うか角はどうしたのよ角は。挑んで来たから叩き折った!?角はホーンラビットの象徴じゃない、ホーンラビットの誇りを叩き折るってケビンって思いのほか鬼畜?」

 

全然眠っておられませんでした。

 

いや~、最強生物ドラゴンの精神的プレッシャーの後遺症が凄まじくてですね、三日目は完全アウト、一日中テントの中で震えておりました。

周辺警戒は大福、緑、黄色にお任せ。報酬としてドラゴンの爪を三つ出してそれぞれに渡したところ、ビシッと整列してから任務に当たって下さいました。

で、(わたくし)はと言えばダンジョン産高級寝具に包まれスヤスヤ。もうね、これ最高、心の傷が一晩で完全回復って、下手な治癒魔法よりも凄いから。このお布団様に包まれたらケイトの死んだ目すら完治しちゃうんじゃないかって勢い。

これはダンジョンコアにお礼に行かねば、三年後の旅立ちの儀に行った際には是非寄らせてもらおう。

その前に行かないのか?だってあそこってグロリア辺境伯様がいるのよ?怖いじゃん、執事様に捕まりそうじゃん。

あの執事様、有無を言わさぬ笑顔でお出迎えしそうなんだもん。避けれるものなら避けたいでござる。

 

そんで四日目の朝、どうせここまで来たのならって事で賢者様方(故人)の秘密の花園に立ち寄らせて頂いたって訳です。

 

「しかし相変わらずケビン君は気配を隠すのが上手いわね。冬場で蜂の活動が落ちているとは言えこうもあっさり警戒網を抜けられちゃうと自信なくすわよ。それにその三匹の魔物、どう見ても普通の魔物じゃないんだけど?何でそんな魔物がこの結界を抜けて来れるのよ、意味解らないわ」

 

そう言い頭を振る大賢者シルビア・マリーゴールド改め、花園の主シルビーさん。

 

「そうですよ、私の張った結界は強力な魔力を持つ魔物の侵入を防ぐんですよ?力強き者はその存在すら気付く事が出来ず近寄る事も出来ない、この魔物たち一見ほとんど魔力が無い様に見えますけど、見るからにそんな事ありませんよね?」

 

自分が張った絶対の結界がいともたやすく魔物に破られたことに困惑する、勇者の荷物持ち改め賢者イザベル。

 

三匹の魔物と従魔の指輪から排出した角無しホーンラビットを見てなにか検討を始める透けてない二人。そう、透けてないんです。

この方々、幻影の魔法で肉体を再構成しちゃってるんですね~。しかも秋の収穫祭からの僅かな期間に触覚、嗅覚、味覚の疑似的再現に成功。“まだ細かい感触とか繊細な味覚とかにまでは行き着いていないのよね、やっぱり生者の仕組みって凄いわ”とかなんとか仰ってますが、やってる事が無茶苦茶ですから。

何時かの化け物、自らをリッチエンペラーと名乗っていたって言う呪いの塊みたいな奴がいたけど、こちらのお二方は永劫の死を克服なされちゃってますから。

前にボビー師匠に聞いた吸血鬼と違って陽の光だろうが光属性魔法だろうがへっちゃらって言うね、イザベルさんに至ってはターンアンデッドに失敗してますから、成仏したかったら教会で“本部長様”にお願いするしかないんじゃないかな?

伝説の大賢者とその愛弟子、半端ないです。

 

で、魔物たちはと言いますと、従魔の指輪から出た直後のウサギが目の前にいる御三方に一瞬勝負を挑もうとしたんですが、速攻土下座(箱座り)。

野生の嗅覚と言いますか、魔力を隠している三匹の強さに瞬時に気が付くって凄いと思います。流石あの魔境で己を高めていたウサギ、相手の強さを図る事が出来なければ生き残る事など不可能、そうした点はホーンラビットの本領発揮と言ったところなんでしょう。

出て来たついでに角が無くても索敵とか大丈夫なのかと聞いたら、その辺は既に克服しているらしく、ホーンラビットの本能である周囲に敵性生物が来た際のパニック行動も起こさないとの事でした。

折角なんで名前を付けてあげようと言って“白玉”と命名してあげたら、えらく喜ばれました。

そんでこっちの三匹がスライムの大福と元ビッグワームの緑に黄色と言って互いを紹介、暫く交流を取って貰いました。

 

・・・ジ~ッ

何やら俺の方に熱い視線を送る白玉。

 

「・・・もしかして雇用契約を結びたいとか?」

“コクコクコクコク”

 

えらい勢いで首を縦に振る白玉、あまりやり過ぎると在りし日のビッグアーティストみたいにコルセットが必要になるから止めようか。

こちらとしては別に問題ないんで、すぐに了承。<長期雇用契約>ってこれで完了っと。

 

“キンコン♪

<昇進>の条件を達成した魔物が一体確認されました。昇進を行いますか?”

 

っておい、ビックリするやんけ。

この頭の中に響くアナウンスってどのスキルが出してるんだろう。長期雇用契約と自己診断の相乗効果?よく分からん。

 

自己診断

<魔物の雇用主>

現在の契約魔物・・・五体

昇進可能魔物

白玉(バトルホーンラビット)

 

はっ?こいつってホーンラビットじゃないの?頭にバトルってついてるんですけど?すでに自己進化してた個体なの?まぁそりゃそうだよね、普通のホーンラビットがあんな危険地帯に生息出来る訳ないもんね。

 

「白玉~、なんか進化出来るみたいなんだけど、進化する?」

 

“!?キュキュ~~~!!”

 

「おぉ、超喜んでるし。それじゃって、待て待て俺。シルビーさん、イザベルさん、ちょっといいですか?」

 

「だから魔物の魔力をってどうしたの、ケビン君?何かその角無しホーンラビットと遊んでいた様だったけど」

 

「あぁ、ちょっとスキルを使って<雇用契約>を結びまして。それでその関係でこのホーンラビット、白玉って言うんですけどこいつが進化出来ることが分かりまして。

ただこれってスキルを使う関係なのかは分からないんですが目茶苦茶眩しいんですよ、それこそ失明するんじゃないかってレベルで。だもんでお知らせを」

 

「「えっ、ホーンラビットが進化するんですか?目茶苦茶興味があるんですけど!!」」

 

あ、うん。そう言えば賢者って呼ばれる部類の人って研究とか発見が大好きなんだったわ、前にボビー師匠に聞いてたんだけど周りにそう言う人がいないからすっかり忘れてた。

 

「えっと、本気で眩しいですから気を付けて下さいね。大福たちもだぞ、緑と黄色は今は目があるんだからな?ちゃんと瞑っておけよ?」

 

“ピョンピョンピョンピョン”

““クネクネクネクネ””

 

「任せとけって本当に分かってるのかね?まぁいいや。

それじゃ白玉は目を瞑っててね、<昇進>」

 

“ピカ~~~~~~”

 

「「うわ~~~~!!目が~、目が~~~~~!!」」

 

「・・・なんてお約束の師弟なんだか。あのお二人、どうやら進化の過程を見逃すまいとおもいっきり目を見開いていた様です。って言うか幻影を解いて霊体の状態だったら平気だったんじゃないの?」

 

「「あ、すっかり忘れてた」」

 

速攻で幻影を解きショックから立ち直るお二人、案外バカなのかもと思ってしまうのは致し方が無い事かと。

で、白玉はと言いますと!?

 

陽の光を浴びて美しく煌めく真っ白な毛並み、シュッとした横顔は何処か気品を漂わせ、鍛え上げられた肉体はシャープでありながら柔軟性を持った強靭なものへと生まれ変わっている。白玉はその頭部の耳をピンと立て、こちらを向くと慇懃に礼をし口を開いた。

 

“キュキュッ”

 

「身体中が活性化してまるで生まれ変わったみたいだと、なるほど。まぁ大きく見た目が変わったって感じはしないかな?変化と言えば角が生え変わってるから、立派にホーンラビットだから」

 

“キュキュ~~”

 

「これからも変わらぬ忠誠をってそんなに気にしなくていいからね、だからそんな爛々とした瞳でこっちを見ない様に、普通にしてなさい普通に」

 

“ねぇケビン君、さっき言ってた<魔物の雇用主>ってスキル、テイマーのテイムスキルとは結構違ってたりするの?私の知るテイマーは、今のケビン君程魔物との意思疎通が出来ていなかったと思うんだけど”

俺と白玉のやり取りを聞いて不思議そうに尋ねて来るシルビーさん。

 

「これって割と前から出来ていた事なんですけどね。どうも先天的に持っていた<自然児>ってスキルの影響らしいんですよ」

 

自己診断

<自然児>

燃えるぜ、野生の魂!!森だ、大地だ、生き物だ!自然は俺の遊び場だ!

色々楽しめる。

 

「意味が分からないでしょ?俺この結果を自己診断で見た時その場に突っ伏しましたもん。スキルって一体って。

職業を授かった時職業スキルに統合されなかったのはなんでだろうとは思ったんですけどね、統合できませんってこんな訳の分からないスキル。職業スキル<田舎暮らし>さんも頭抱えたと思いますよ?

そんでそんな訳分かんないのがもう一つありましてね」

 

自己診断

<棒>

棒っていいよね、ロマンだよね、なんかウズウズするよね♪

棒に関するあらゆる事象にプラス補正。

 

「・・・俺にどうしろと?これを見た時は人物詳細鑑定をされなくって心底良かったと思いましたから、鑑定士さんの何とも言えない顔が目に浮かびましたから。

そんな訳の分からないスキルが先天スキルで二つもあったんですよ、俺。まぁ色々役には立ってくれてるみたいなんでいいんですけどね」

 

俺の話に若干引き気味になるシルビーさん。“ま、まぁ気にしないで、いつかは良い事もあるから”ってそこまで気にしてないんで大丈夫なんですが。

 

花園の主シルビーさんとそんな会話をしていると、横にいた賢者イザベルさんが首を傾げながら疑問を投げ掛けて来ました。

 

“えっと、ケビンは授けの儀では詳細人物鑑定は受けてないのよね?それに授けの儀を受けるまで鑑定なんか受けた事はないのでしょう?それなのにどうして先天スキルなんてことが分かったの?

スキルの詳細はさっきから<自己診断>って唱えているから<自己診断>で知ったんでしょうけど、スキル詳細にそんな事出ているのかしら?”

 

その疑問は尤も、お貴族様でもない俺が授けの儀の前に自分の状態を知ってるなんておかしいですからね。知ろうと思えばジェイク君に頼んで見て貰う事も出来たんだけど、それもなんか違うって言うか、ジェイク君を利用しようとする大人と同列って言うか。

それに楽しみは取っておいた方がいいじゃないですか。

そう言う訳で全く知らなかったって言うのが実情なんですが。

 

「実は俺、教会で鑑定の儀を受けた時に不思議な体験をしまして・・・」

そこから語られる“あなた様”や“本部長様”との邂逅、そしてスキルにまつわる数々の秘密。その濃厚でいてこれまでの常識を大きく叩き壊す話の数々に、唯々呆然とする賢者様方(故人)なのでありました。

 




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