転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第165話 転生勇者、ドラゴン?に出会う

“フンッ、フンッ、フンッ、フンッ”

 

振るわれる木刀、その一振り一振りに“切る”と言う明確な意思を込める。

 

“ボッ、ボッ、ボッ、ボッ”

 

その一刀はかつて自身が憧れた友人ジミーの一振り。ジェイクは思う、随分と時間が掛かってしまったなと。

そして彼の憧れは更なる高みに登って行ってしまった。自身が成長するに従い彼我の差が鮮明に見えてくる、追いかける背中の遠さも、その大きさも。

 

“エイ、ヤァ、ハッ!”

 

隣ではそんな親友が、幼馴染のエミリーと剣を交え鍛錬を行っている。剣と言ってもそれはマルセル村特製の訓練用具“ヨシ棒”ではあるのだが。

 

“パンッ”

 

「そこまで。両者下がって、礼!」

 

「「ありがとうございました」」

 

グロリア辺境伯様が行ってくださった近隣エルセルの街の掃討作戦は、街の腐敗を一掃し、エルセルを根城にしていた多くの盗賊が捕まった。辺境伯領所属の騎士様方からその知らせが届くこと数日、ビッグワーム干し肉の仕入れに訪れたミルガルのバストール商会所属行商人ドラゴさんの話によれば、エルセルの街の鍛冶工房ビスク工房をはじめ複数の商会が取り潰しになり多くの逮捕者を出したらしい。

中には商会ぐるみで人身売買を行っていたところもあったとか、地下室には粗末な衣類を身に着けた子供や女性が監禁されていたとのこと。

大胆なところでは攫って来た女性を集め、エルセルで娼館を営んでいたところもあったらしい。隙を見て逃げ出して街の衛兵事務所に逃げ込んでも、その場で捕まり見せしめにされていたらしく、女性たちは恐怖で怯え切っていたとの事であった。

 

その話を聞き改めてこの世界は理不尽に溢れているのだと思い知らされた。そして自身はそんな世界に生きている、甘えや同情は自身ばかりでなく身の回りの大切な者達を巻き込んで不幸に変える。

俺はただの村人ジェイク、世界を変える力も全ての人々を救う力もない。冒険者にあこがれる只の村人、ただの子供。

 

この冬に起きた盗賊たちの襲来は村人たちの心を大きく変えた。自分たちは狙われていると言う事を知った、大切なものを守るためには戦わなければいけないと言う事を知った、そして自分たちはずっと守られて来たのだと言う事を知った。

 

“村の防衛に英雄はいらない”、ケビンお兄ちゃんは誇らない、ケビンお兄ちゃんは語らない。必要だから、安全に、効率的に、そのための最善を尽くす。

村人ジェイクは思う、かつて勇者に憧れた自分、多くの者を救い、世界を旅してゲームの英雄のような自身の人生を夢想した自分。

この世界は現実だ、このマルセル村は自身が生きるただ一つの故郷だ。

戦うことを恐れるな、人々の悪意を恐れるな、そして多くの悪意、多くの理不尽を忘れるな。

 

冬のマルセル村は、多くの村人がボビー師匠の訓練場に集まる。彼らは皆手にヨシ棒を持ち、基礎魔力を纏って体を動かす。

その顔は真剣そのもの、その心は戦士のそれ。愛する家族を、愛する故郷を、愛するマルセル村を守る。

理不尽はいつ襲い来るのか分からない、そのことを心底理解したが故に。

 

「よし、そこまでじゃ。皆真剣に剣に向かい合ってくれておるようで儂もうれしく思う。だが何事も緩急が必要じゃ。張り詰めた弦はいつかは切れる、ケビンの奴の話を聞いて皆に思うところがあったであろうことは分かる。

じゃがそれを奴が望むかの?あ奴の望みはマルセル村でお腹いっぱいにお肉を食べてのんびり暮らす事、皆がその様に根を詰めておってはあ奴も気が気ではないじゃろうて。

あ奴が村に帰ってきて一番にしたかったことが何だか知っておるか?布団に潜り込んでキャタピラーになることだそうじゃ。

あ奴らしいと思わんかの?

今も村の防衛を手伝ったスライムの大福、ビッグワームの緑、黄色と共に森に出掛けておる。いったいどこで何をしていることやら。

何やら力が抜けてこんかの?

あ奴は心底自由じゃ、何ものにも囚われん。

お主らもそれくらいの心構えでおらんとまたあ奴に振り回されるぞ?

何と言ってもケビンじゃからな」

 

「「「「ブフッ、アハハハハハハ」」」」

 

広がる笑い、皆が知らず知らずに肩に力が入っていたことに気が付かされる。

そう、相手はあのケビンお兄ちゃんなんだ、変にこちらが頑張っていても、また何かあっけにとられるようなことを仕出かすに決まってる。

だってケビンお兄ちゃんなんだから。

 

「ふむ、皆いい顔になったようじゃの。それでは今日の訓練は終了じゃ、皆も少し身体を労わるがよいぞ」

 

「あら、皆さん今日の訓練は終了ですか?これから解散?危ない危ない、間に合ってよかった~」

 

村の皆がボビー師匠の訓示を聞いて和やかな雰囲気になっているところに、ひょっこりと顔を出した人物。それは三匹の魔物と共に森に向かい、しばらく帰ってこなかったケビンお兄ちゃんその人でした。

 

「おぉケビン、思ったより早く帰って来たの。当初の話では十日ほど掛かる様な事を言っておらなんだかの?まぁなんにしても無事に帰って来れた様で良かったわい。

今は冬眠期間で魔物の活動が大人しいとは言え全くいないと言う訳ではないからの」

 

「はい、何とか無事に。大福や緑に黄色も満足してくれたみたいです。ただまぁ、今度は草原で遊ぶ約束をさせられちゃいましたが」

 

そういい頭をポリポリ掻くケビンお兄ちゃん。でもケビンお兄ちゃんが森に出掛けて今日で五日目、その最中は森で野営をしていたってことなんだろうか?いくら魔物の活動が少なくなっているこの時期とは言え、それって無謀じゃない?

でもまぁ大福と緑に黄色がついてるし・・・全く問題ありませんね、うん。

 

「それでその三匹はどうしたんじゃ?水辺と畑に放して来たのかの?」

 

「いえ、その、大福と緑と黄色、どうも進化しちゃったらしくてですね。一応ご報告がてら連れて来てはいるんですよ。大福~。」

 

“ピョ~ン、ピョ~ン、ピョ~ン”

 

ケビンお兄ちゃんの背中から元気よく跳ね飛んで現れたそれは、漆黒の艶のある身体をしたスライム。・・・普通の大きさのスライム、体表は漆黒で艶々してるけど。

 

え~、大福縮んじゃったの!?我らが宿敵、デカスライムの大福はどこに行ったし。

絶対に倒すと決めた俺たちの目標が~!!

 

「ん?ジェイク君どうしたの、行き成り突っ伏して。何ジミー、大福が小さくなっちゃってショックを受けてる?ってエミリーちゃんの目が怖いんですけど?大福を違う意味で狙っちゃだめだからね?

えっとジェイク君、大福は自在に大きさが変えられるそうです。ですんでそんなにガッカリしなくても大丈夫ですよ?俺にくっ付いて移動するときはこの大きさの方が何かと都合がよかっただけですから。いつもの大きさだと重いんだもん。」

 

えっ?そうなの?スライムって自在にサイズ変更が出来たの?そんな設定聞いたこともなかったんですけど、やっぱリアルのスライムってスゲー。でもそれって大福が特別ってことであってほしいです、大福みたいなスライムがごろごろいたら、正直死にます。

 

「あ、そう言えば森で新しいお仲間を見つけまして、先に紹介しますね。ホーンラビットの白玉です」

 

ケビンお兄ちゃんはそう言うと従魔の指輪を嵌めた右手を前方にかざし、<オープン>と唱えました。

 

美しく煌めく真っ白な体毛、スッと通った鼻筋と切れ長の瞳、真っ直ぐに伸びた角。気品漂うその所作は、男装の令嬢の様な流麗な色香を放つ。

そのホーンラビットは村人達の方を向くと綺麗な一礼をし、忠実な騎士の様にケビンお兄ちゃんの背後に控えるのでした。

 

「・・・イヤイヤイヤ、ちょっと待って、これってホーンラビットだよね?村で飼育しているホーンラビットだよね?なんでそんな騎士みたいなマネが出来るの?俺たちよりもよっぽど品がいいんですけど!?」

 

「あ、うん。アハハハ、なんでだろうね~。ちなみにこれって俺一切仕込んでないから、白玉が自主的に行ってることだから、他のホーンラビットに同じ事させろって言われても無理だから。

想像してみてよ、団子が同じ事出来ると思う?」

 

礼儀正しい団子・・・ないですね、了解です。

この白玉って言うホーンラビットが特別なだけ、ケビンお兄ちゃんの言葉に一瞬で納得する一同。団子の説得力、半端ないです。

 

「それで最後は緑と黄色なんですが、だいぶ変わっちゃってるんで驚かないでくださいね」

 

ケビンお兄ちゃんは村の皆に注意を促してから再び<オープン>と唱えました。

 

そこに現れたのは二体の魔物であった。女性のウエスト程の太さはありそうな体躯、体表を覆う濃紺の鱗、スッと伸びた尻尾。ビッグクローの嘴を幅広にしたような、前世で観覧した大恐竜展で展示されていたトリケラトプスの面立ちを彷彿とさせるシュッと前に伸びた口元。

二体の魔物はその優し気な瞳を村人達に向け、大きく口を開く。

 

““ギャ~~~~!!””

 

はぁ~~~~!?

えっ、あっ、はぁ~~~!?

イヤイヤイヤ、えっ?ビッグワームだよね?最底辺魔物のビッグワームだよね?

いくら進化したって言ったからって、完全に別物でしょ!!

村人全員が口を開けたまま固まる。ケビンお兄ちゃんにはこれまでいろんな非常識を見せられたけど、今回のはこれまでの比じゃない。

なんだってミミズがアジアンドラゴンになっちゃうのさ~、漢方薬か、ミミズの生薬名が<地龍>って言うからか、解熱作用でもあるのか~~!!

 

あ、こんな時の為の<鑑定>だった。

 

(ボソッ)

「<鑑定>」

 

名前 緑

年齢 三歳

種族 ファームドラゴンワーム

スキル

薬液濃縮生成 剣聖 龍鱗 魔力支配 身体支配 空間支配 健啖爆食

魔法適性

水 土

称号

進化せし者 畑の守護者 付き従いし者

 

ファームドラゴンワームって何?えっと新種?ドラゴンなの?ワームなの?意味が分からない。

 

「えっと、見た目は変わって少し大きくなったけど中身は変わらないんで、これからもよろしくお願いします。それじゃ皆一旦俺の家に行くよ~。ちゃんと顔を出さないとメアリーお母さんに怒られるからね、お母さん容赦ないから。

ジミー、先に帰るからね。それじゃ、皆さん失礼します」

 

そう挨拶をしてその場を後にするケビンお兄ちゃん。

 

「「「「ケビンだから仕方がない」」」」

 

五日振りに村に帰って来たケビンは、やっぱりケビンであった。

心に決めた重い決意も、明後日方向に吹き飛ばす。

すっかりと毒気を抜かれ(強制)、いつも通りの牧歌的な辺境の村人に戻るマルセル村村人一同なのでありました。

 




本日一話目です。
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