「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を突き飛ばせ、ダークボール”」
“シュッ、ド~~ン!”
だ~、まだ強いよ。もっと弱くしないと対戦相手の生徒さん死んじゃうから、良くてハイポーションが必要だから。
「ん。」
「難しいって言っても何とか頑張って。
これってマジで死活問題だから」
俺は的になっていたばらばらに弾け飛んだ丸太を闇属性魔力と収納のコンボで片付け、新しい丸太を設置する。目の前ではウンウン唸りながら魔法の詠唱アリで魔法の威力を落とす訓練をするケイト。
ケイトがマルセル村に帰って来てから二カ月の時が過ぎた。四月からは領都の学園に通わないといけないケイトさん、学園は寮に入る予定なので生活の準備はさほど掛らないとしても、少なくとも三月半ばにマルセル村を出発しないといけません。
それまでに何としても少量魔力での魔法の行使を身に付けなければ。スキル魔力支配を身に付けてしまったケイト、ダークボールの威力が凄い事になってましてね。
元々魔力量が豊富なので威力高めだったものが破壊力抜群くらいにまで進化しちゃいまして。“今のはメラゾーマではない、メラだ。”が地でやれちゃうって言うね、超ヤバヤバ。ハエ叩きでゴキブリを叩いたら床が抜けたってレベルです。
だもんで何とかその威力を落とそうと四苦八苦。デチュ-ンって奴なんだけどこれが中々に難しい。
「よ~し、次は小突くくらいで行ってみようか」
「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を小突け、ダークボール”」
“シュンッ、ドカーン”
大きな音を立ててくるくると後方に飛ぶ丸太。うん、今回は抉れてるけど弾け飛んでない。これは大きな進歩。
後は何が問題なんだ?う~ん。
これまで誰も行った事のない魔法のデチューン。書物によるヒントも貰えず、何度も失敗を繰り返し頭を捻るケビンなのでありました。
魔法、それは決められた現象を引き起こす神の奇跡。例え自身に魔法の知識がなくとも詠唱さえ唱えれば誰でも同様の事が出来るある種のプログラム。
であるのならなぜ威力が高まるのか?それは魔力支配のスキルにより通常の魔法使いよりも効率よく魔力の運用が出来るから。
通常は一の現象を起こすのに十の魔力を使用しているとする。そこには無駄に消費されている九の魔力が存在する。ではその無駄に消費している分が全て威力に乗せられるとしたら。プログラムでは無駄な消費の分を計算に入れ魔力設定をしていると考えれば辻褄は合う。
俺は上空に手を向けると、体内の魔力の動きに意識を向けながらボール魔法の詠唱を行う。
「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ダークボール”」
“ブオッ、バシュッ”
手の平に集まる闇属性魔力、それは一際大きな闇の球を形成し、空高く飛んで行くのであった。
なるほど、そうかそうか、やっぱり効率だったんだわ。特化型魔法使いが何で高威力の魔法を撃てるのか、それはその魔法に最適の魔力運用、言い換えれば属性特化の魔力運用が出来るから。
多くの魔法使いが繰り返し魔法を使い込む事で威力や命中精度を上げるのもそれが目的、つまり身体に流れる魔力を最適に運用する為の訓練。
魔力支配のスキルを覚えたケイトはその運用がすでに最高レベルで最適化されている、そりゃ高威力になる訳だよ、特化型云々関係ないじゃん。
じゃあどうするのか、要するに低燃費になったって事だからその分の燃料、込められる魔力を減らせばいい。逆に言えば最初からそう設定しちゃえばいい。
確か以前母メアリーに魔法の威力について聞いた時スライムならウィンドボール一発、ゴブリンだったら二発から三発って言ってたからそれを基準として特化型魔導士って事を考慮してゴブリンを一発で倒せるくらいの威力を一と設定。普通よりやや多い程度の魔力量って事で入学する事を考えると、多くて十五発って所かな?最初の内は十発程度で限界ですって言っておくのが無難かも。それくらいで肩で息でもしておけば残念魔導士って事で行けるんじゃないかと。
ゴブリンがゴブリンダンジョンの奴だとすると成り立ての冒険者でも一回から二回攻撃すれば倒せる程度、って事はケイトが魔力を纏った状態でデコピンする位かな?
「ケイト、ちょっとこっちに来てって何よ俺の顔を見て」
“ジ~~~~~~~ッ”
「だから何なのよ」
「ん。」
指を上に向けこちらを死んだ様な目で見詰めるケイト。
「さっき撃ったのは何だと?
えっと闇属性魔法のダークボールですが?
俺には魔法適性が無かったんじゃないのか?
そうですよ、俺には一切の魔法適性はございません。
それじゃなんでダークボールが撃てるのか?
スキルの相乗効果ですね、魔力支配のスキルで闇属性魔法を覚えました」
「ん!?ケビン、学園、行く」
「イヤイヤイヤ、だから魔法適性ないから、学園の入学基準を満たしてないから。職業田舎者だから」
「ん~~~!!」
「そんな事を言われましても。“詐欺師、噓つき、女誑し~~~!!”って、別に誰かを騙してる訳じゃないですからね?ちゃんと決まり事に則っての結果ですから。
それと最後の女誑しって何?意味解んないんだけど?」
“ポカポカポカ”
「なんだよ、痛いよ、叩かないでよ。ってだんだん闇属性魔力が籠って来てるんですけど!?打撃音がドカドカ言い始めてるんですけど!?」
ケイトの可愛らしい?戯れ。ケビンとケイトの魔力偽装修業は、彼女が威力調整をマスターするまで続いて行くのでした。
―――――――――――――――
“シュ~~~~~”
五徳に掛けられた鉄瓶から勢いよく立ち昇る湯気、その取っ手を掴み湯呑にお茶を注ぎ入れる。
湯呑から広がる偽癒し草の落ち着いた香り、冬場の寒村では偽癒し草の煮出し茶が一番のご馳走だ。
“フ~~~ッ”
両手で湯呑を持ち、良く息を吹き掛けてから口を付ける。
“ズズズズズズッ”
冷えた身体に熱々の煮出し茶が染み渡る。ってこれって癒し草の乾燥茶葉じゃん、そりゃ身体に染み渡るっての。要はなんちゃってローポーション、魔力の込められたお茶って奴ですからね。
俺は手に持つ湯呑を床板に置き、この小屋の主人、アナさんに話しを向ける。
“それで、その後緑と黄色はどうですかね?”と。
緑と黄色の衝撃。
そりゃね、驚くなって方が無理かと。だって顔があるし、今まで口っポイ何かはあっても仕草からこの辺が頭なんだろうな~って程度だったのよ?
口を開いてギャ~ギャ~鳴いたらそりゃね~。
やや切れ目がちで理知的な緑、くりくりした目で甘えん坊風な黄色。どこをどう見てもミミズじゃないし。身体付きも蛇?トカゲ?アジアンドラゴン?って雰囲気。
この辺は外骨格ワーム時代の名残?尻尾はシュッとしちゃったからミミズっぽさはもうないんだよな~。もともと蛇の魔物だったと言われた方が納得しそうな外見ですが、ミミズです。
そんで広場でお披露目した後に家に帰って帰村の報告(母メアリーが怖いでござる)をしたんですけどね、二匹を見るやその場で固まるわ、父ヘンリーに至っては獰猛な笑みを浮かべて秘蔵のグレートソードと斬馬刀を持ち出して“挑ませろ。(ニチャ~)”って、怖いわ!!
なに討ち取ろうとしてんのよ、目が本気じゃん、正しく<笑うオーガ>じゃん!
そりゃ周囲の冒険者から恐れられるっての、強敵相手にテンション爆上げってドン引きだわ!!
とりあえずその凶器は降ろさせて大剣の木剣(魔境の枝製、秘密の花園で作製しました。)に交換、二匹に頼んで遊んでもらう事にしました。
木刀を渡した時父ヘンリーが“ほう、これはなかなか。滾る!”とか言っていたのは聞かなかったことにしましょう。その後ものすごい打撃音と衝撃波を発生させながら戯れていましたが、楽しそうなので放置です。
“アッハッハッハッハッ、滾る滾る滾る!!”とか言いながら二匹に突貫をかます父ヘンリー、そんな父を“あなた~、頑張って~、素敵~❤”とか言いながら応援する母メアリー。お母様、打撃音と衝撃波で目を覚まされた模様です。
家の前でこんな轟音を響かせて赤ちゃんは大丈夫?心配になってミッシェルちゃんの様子を見に行けばスヤスヤ寝息を立てて眠る赤子様が。
この子は大物になりそうです。
「えっとケビン君、これは一体・・・」
庭先にテーブルと椅子を作り(土属性生活魔法)、本部長様から頂いたお茶を頂きながら三匹の戯れを眺めていたところに息を切らせながらやって来られたドレイク村長代理様。どうやら村人から話を聞いてこちらに向かっていたところ、物凄い戦闘音がしているので慌てて走って来たとの事。
いや、本当に申し訳ない、うちの三匹の魔物(緑・黄色・笑うオーガ)が遊び始めちゃいまして。
二本の大剣(木剣)を振り回し伝説のスネークドラゴン(ビッグワームの進化魔物)に挑むバーサーカー、もうね、これだけでお客さん呼べるわ。
「あ、うん、大丈夫ならいいんだけど。でもあの二体って緑君と黄色君だよね?なんか違う魔物になってない?」
「あぁ、どうも進化したみたいです。一応大福も進化したんですけどね、見た目高級感が増しただけなんですよね。石工の人が見たら生唾を飲みそうなくらいの艶々加減、流石大福って感じです」
そう言い俺が向ける視線の先には、テーブルの上で触手を使って魔力マシマシ癒し草茶をいただく大福の姿。その磨き抜かれた黒曜石の様なフォルム、こんな漬物石があったら使いづらそう。
「そ、そうなんだ。それでそっちのホーンラビットは団子君も進化したってことなのかな?随分と瘦せたと言うか精悍になったと言うか、別人みたいになってるんだけど。」
「えっと、こいつは森で知り合ったホーンラビットで、俺に戦いを挑んできたので倒したら配下にお加えくださいって言われちゃって。名前は白玉って言います。
白玉、こちらはこの村の長ドレイク村長代理さんだ、人族は力よりも統率力が長の基準となる。戦いを挑んだりするなよ?」
“キュキュッ”
姿勢を正し礼をする白玉に、“ケビン君、ホーンラビットにこんな事まで仕込んで”と呟くドレイク村長代理。イヤイヤイヤ、俺仕込んでないですから、白玉は初めからこんなウサギですから、冤罪ですから~。
“グホッ、バタッ”
打撃音が止む。倒れ伏す大男、クネクネと勝利の舞を踊る二匹の巨大ミミズ?
「あ、ちょっとお父さんを家に運んできますんで」
俺はドレイク村長代理に断りを入れ父ヘンリーのもとに向かうと、腰のポーチからポーションを取り出し気を失った父親の口に含ませ、触腕を使い寝室のベッドに運び込むのでした。
「うん、二匹ともこれまでと変わりなく生活してるわよ。太郎や団子もすぐに慣れたみたいだし、ホーンラビットやフォレストビーたちは冬眠中だし。でも食事量が増えたからか、癒し草の畑を広げてたみたいよ?」
囲炉裏を囲み、同じく癒し草の煮出し茶をズルズルと音をさせて飲むアナさん。
はじめは緑と黄色の進化後の姿に悲鳴を上げた彼女も、今ではすっかり二匹に慣れた様です。
目に涙を溜めた彼女にポカポカ叩かれたのはいい思い出です。
でも次の日目が覚めたら右腕に“アナスタシア命”、左腕に“売約済”と言う呪いの刻印がですね・・・。
すぐに魔法の腕輪さんに闇属性魔力を吸い取ってもらって事なきを得ましたが、精神的に来るのでマジ勘弁してください。<(_ _)>
俺がアナさんに二匹の様子を聞いていると、スッと開かれた小屋の扉。目を向けるとそこにはぴょんぴょんと跳ねる黒色スライムが一匹。
大福どうした?お前が畑に顔を出すなんて珍しくない?
ん、草原に行って遊ぼう?約束ってあれか!?
大福が来たことに気が付き小屋に戻ってきた緑と黄色、俺たちも一緒に行くとクネクネし始める二匹。
そっか~、あの約束が残っていたか~。
さらば、俺の平穏な日々。三匹の進化魔物に連れられ冬の草原へと去っていくケビン、その背中には零細商会経営者の哀愁が漂っていたと言う。
本日二話目です。
五月終わっちゃった。
塩分チャージを持ち歩かないと。
いってらっしゃい。
by@aozora