転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第168話 村人転生者、装備作りに勤しむ

冬のマルセル村はやる事が少ない。冬場に行う仕事と言えば焚き付けとなる枯れ枝拾いや薪作り、薪は森から木を切り倒して来たからと言ってすぐに使う事は出来ないので、畑仕事のないこの時期に作り溜めをする必要がある。

森で切り倒した原木を使い勝手の良いサイズにカットし、薪割りを行い井桁状に積み上げ野ざらしにしておく。マルセル村には薪小屋の様な小洒落た設備はなく、一年ほど乾燥させていい感じになった薪を家の壁際に積み上げていつでも便利使い出来る様にしている。

以前マルセル村や他の寒村で冬の餓死者や凍死者が出ると聞いた時には、“餓死はまだ分かるけどなんで凍死?薪の材料なんてそこら中に生えているじゃん”と思ったものだったが、薪作りの実情を詳しく聞きなるほどと納得したものである。

 

マルセル村の隣は魔の森と呼ばれる魔物蔓延る危険地帯、そんな場所で悠長に木の切り倒しなど出来ようはずもない。冬場の魔獣の冬眠期ですら油断する事の出来ない危険な作業は、多くの人員が必要だったはず。その為村の全世帯に通年を通して潤沢な薪の供給を行う事は大変難しい。

これが魔物の比較的少ない一般の森であったとしても危険である事に変わりはなく、機械による切り倒しや動力車による運び出しが行えないマンパワー頼りのこの世界では、当然のように薪は価値の高いものとなってしまう。

一般的な森では一度切り倒した木々が再び薪として使える大きさに育つまでに早くて八年、遅いものだと二十年近く掛かる。人口の少ない辺境の村ならまだしも、人の多い都市部なら森の木々などあっという間に使い切って只の草原に早変わりだろう。

安全な都市部は森の木々が無くなり、危険な辺境は危な過ぎて切り倒す量に制限が掛かる。

物が少なければ値段は上がる。貧乏人は冬の寒さに震え、凍える夜を迎えた翌朝薄い布団の中で・・・世知辛い世の中である。

 

では今のマルセル村はどうか?

ケビン君、森に行く。魔力を纏わせた剣鉈で太い幹でもスパンスパン。

ケビン君とケイトちゃん、ブラックウルフの太郎に見守られながら何本もの原木をえっちらおっちら、魔力の触腕を使って村に運び入れる。

村の健康広場まで運んだら簡単に枝落としをして、幹を使い勝手の良い適当なサイズに切って転がしておく。

ここから先は村の男衆の仕事、切り分けた幹を手斧に魔力を纏ってスパンスパン。出来上がった薪を背負子に括り付けて各家に運び、庭先に井桁状に積み上げて作業終了。

こんな事を大体一年分の薪の使用量分が溜まるまで行うんですけどね、最も人の手を使う原木の切り出しをたった二人の子供が行ってしまうものだから、作業の終わるのが早い早い。十日も掛からずに必要量の二倍の薪を準備出来てしまうって言うね。

そんなに大量の木々を切り倒しちゃって大丈夫なのって思うでしょ?でも大丈夫なんですねこれが。マルセル村のお隣ってすぐ魔の森なんですよ。魔の森は通常の森に比べ魔力が潤沢、その為植物の成長速度も速くてですね、切り倒した木々も四年もすれば元通りって言うね。逆に空き地を作りたかったら根から引っこ抜かないといけない、その辺は痛し痒しですな~。

因みに周辺のゴルド村、ヨーク村、スルベ村、マルガス村は魔の森からかなり離れています。ですんで薪用の原木の切り出しは計画的に行わないといけないんですが、ヨーク村はな~。ザルバさん曰く日々の煮炊きにも困ってる状態だったらしいからな~。(遠い目)

 

材料となる原木は豊富(魔の森産)、更に言えばこのケビン君、水属性魔力を使って原木の乾燥まで出来ちゃう高性能、何だったらすぐにでも必要量分の薪を用意出来ちゃったりします、やらないけど。

たった一人の能力に頼り切った生活は、その人物がいなくなった途端破綻する、所謂テンプレですね。カリスマワンマン社長に頼り切った企業経営のそれと同じ、個人よりも組織、継続可能な村の運営構造を作らないといかんのです。

ってな訳でいずれ原木の切り出しも村人が出来るようにしないといけないんだけど・・・いつでも出来るんじゃない?今の村人めっちゃ体力あるし、戦闘民族だし、原木の運搬も魔力纏えば余裕じゃね?

そんな訳でマルセル村の冬場は結構暇だったりします。

 

一般的な村では薪作り以外に山から採ってきた蔓科の植物を使った籠作り、木工細工の作製などを行ったりしています。

近年マルセル村周辺四箇村では、マルセル村村長代理ドレイク・ブラウンより齎された“誰にでも出来る魔法ブロック”の作製が流行っているとか。これ迄辺境過ぎて職人が集まらないと言う理由で手付かずになっていた家屋の修繕も、各村の村長が音頭を取る事で次々と行われていっている様です。約一村アレですけど。

ヨーク村に関しては、本気でどうにかした方がいいと思うよ?村長夫人が頑張ってるみたいなんだけど、他の三村との開きが。

 

ミルガルの街でのバストール商会様との会談の後、機を見るに敏のアベル・バストール商会長は、北西部商会の雄バストール商会を中心にこれから始まるであろうマルセル村を中心とした公共事業の取り纏め、要は談合を行ったんだそうです。その際マルセル村以外の四箇村についても分かる範囲での調査を行ったとか。

四箇村の中でも目覚ましく収量を上げたのはゴルド村、次いでスルベ村とマルガス村は同率、ずっと離れてヨーク村と言った結果だったそうです。

これは小麦だけに限らず夏野菜や秋野菜でも同様だったとか、やはり元石工のホルン村長率いるゴルド村はビッグワーム農法に対する取り組み方が違っていた様です。

尚ビッグワーム干し肉の品質に至ってはゴルド村がダントツ、マルセル村のビッグワーム干し肉と変わらないとの事。現在差別化を目指し新たな味の開発に取り組んでいるとの事でした。(ドレイク村長代理情報)

 

こうなると面倒なのが妙にプライドが高く“良い事は俺様のお陰、悪い事は貴様らが悪い!”を地で行くヨーク村村長ケイジ・ヨーク氏、絶対難癖付けて来るよな、これ。特に春には五箇村の農業重要地区入りが決定するはず。その連絡を受け村長権限の委譲、利益剥奪を喰らったケイジ村長、オーガのごとく怒るだろうな~。ごめん、オークだった。

ですのでその対策を今から用意しないといけないって言うね。よし、完成。

 

えっ、何をやっていたのか?えっと先程も言いましたが冬のマルセル村は割と暇な訳です、やる事はとっとと済ませましたんで。って言うか遊んでばかりいないで(森の探索&草原での戯れ)仕事しろってせっつかれた結果なんですが。

ケイトの魔力訓練はまだ時間が掛りそうですし、あまり根を詰め過ぎてもね。

ですんで今日はお休み、前にドレイク村長代理に頼まれたゴブリンの腰巻を使ったキャタピラー攻撃糸回収道具、ゴブリンシールド(丸盾型)の作製を行っていたって訳です。

土台となる木製たての部分は魔の森の材木を使用、取り回しし易い様に取っ手と固定用のバンド(ホーンラビットの革製)を装備、丸盾表面に膠を使ってゴブリンの腰巻を張り付けてあります。

パッと見は蛮族の盾、ゴブリンの腰巻って布じゃないのね、何か動物の皮みたいな奴でした。まぁゴブリンが機織りしてる訳ないし当然と言えば当然?でもこれって何の皮なんだろう、ダンジョン産だからそれっぽい何かでしかないんですが、凄い気になります。実際のゴブリンは普通にその辺で狩った獲物の皮なんでしょうけどね、製法がね。

膠の作り方はボイルさん(元商人)が知ってました。この村って色んな技能持ちがいるので助かります、ホーンラビットの皮から作れると言うのでお願いして作って貰っています。因みにこの世界の皮なめしの基本は闇属性魔法の生活魔法でした。

動物の脳みそを溶かし込んだ魔力水に一晩漬け、取り出した物に闇属性生活魔法<タンニング>を掛けるって言うね。何がどうなってなめせるのかは全く分からないんですけど、これで一応なめし革になるんだそうです。

革細工職人って言う職業の人は本格的な革なめし(職人スキル)でもって色んな高級な革とか作れるみたいなんですが、流石にそこまでは知らないって仰っていました。

でもそっか~、革なめしって自分でも出来るのか~。表に出せない革・・・一杯あるな~。(遠い目)

 

作ってみたからには使ってみないといけません。俺は早速マルセル村の側に広がる草原にGO、右手には五十センチほどの長さの木の棒(加工済み)、左腕にはゴブリンシールドを装着。

「お~い、キャタピラーやーい」

 

“ゴソゴソゴソ”

 

お、早速第一キャタピラーを発見。キャタピラーの目に付く位置にゴブリンシールドを構え音を立てて挑発します。

「さぁ来い、繊維製品の原材料!」

 

“ピッ!?ピーーーーーー!!”

 

勢い良く飛んで来る白い攻撃糸、俺はそれを右手の棒で受け止めクルクル巻き取って行きました。

うん、いい感じ。一回の攻撃だとそれほど大きな塊にはならないけど、二回から三回分を一塊とすればそれなりって感じかな?前にベネットお婆さんに聞いた時はこの一回分の攻撃糸百個で漸く製品加工が出来る量って言ってたから、結構時間が掛かる感じ?そりゃ高級品にもなるか。

 

“ピピッピーーー!!”

 

おっ、今回は二発連射して来たってなかなかやるな!?そんなお前さんに敬意を表して見事キャッチして見せようぞ!

 

“クルクルクル”

 

これ結構楽しい。で、キャタピラー君はと言えば・・・お疲れみたいですね。さらばキャタピラー、君の雄姿は忘れない、良くご飯を食べて攻撃糸用の魔力を貯めるんだよ?

俺は激闘を繰り広げた好敵手に別れを告げ次なる戦いに赴くのでした。

 

「ほう、それでこれがそのゴブリンシールドになるんだね」

 

あの後草原を彷徨い何とか一回分に必要な量の攻撃糸繊維を確保した俺は、商品の提出と実験結果報告の為ドレイク村長代理の元を訪れました。

 

「そうですね、使い勝手は悪くないかと。強度的にも一般の木製の盾と変わらないのでグラスウルフの強襲にも耐えられると思います。ただ問題は攻撃糸繊維を回収する人員ですね。一匹のキャタピラーが一回の遭遇で行う攻撃は平均三回、攻撃糸製品を作る為に使用する攻撃糸繊維の量は攻撃回数に直すと約百回分に相当します。巻き取り棒一本に三回分の攻撃を巻き取ったとしても三十五本分、運び出しにも人手が必要かと。

それと加工です。マジックバッグがあれば巻き取った繊維の状態でも持ち運びが出来ますが、その為に大容量マジックバッグを持ち込む商会があるかどうか。

ヨーク村で攻撃糸繊維の状態にまで加工してくれれば喜んで買い取ってくれるでしょうけど、その辺はケイジ村長次第かと。

一応加工設備の準備の仕方及び加工方法までを資料としてまとめておいた方が良いかと思います。このゴブリンシールドを渡しただけだと、どうせ上手く行かなかったと言って文句を言って来るでしょうから」

 

「だよね~、ケイジ村長ってそう言う人物だから。本格的に監察官様が常駐するようになれば大人しくなると思うけど、それまでが面倒なんだよね」

 

そう言い呆れた表情と共にため息を吐くドレイク村長代理に、俺は一つの提案をする。

 

「ドレイク村長代理、逆に考えるんです、これはいい機会だと。今回グロリア辺境伯様と行った会談の事は、いずれ多くの商会に知れ渡ると思います。その詳しい内容はともかくマルセル村で攻撃糸繊維製品が作られていると言う話しはすぐに噂になるでしょう。そうなったらどうなるか、我が商会にも攻撃糸繊維製品を卸して欲しいと言って来るところが出て来るに決まってる。でもそんなに作る事が出来ますか?

商人は貪欲です、相手の懐の更に奥まで引っ掻いて来る。

だったら他の懐を紹介してあげればいい。マルセル村は元々キャタピラーがいなかった村であり領都のモルガン商会様とミルガルのバストール商会様に卸す分で精一杯、でもヨーク村なら多くのキャタピラーが生息しているうえにキャタピラーの攻撃糸繊維の収穫も行っていますよって。お宅様がただ買い上げるのではなく共同経営に乗り出すのなら、どれほどの利益になるのでしょうってね。

 

ヨーク村には既にビッグワーム農法がある、真面目にやって行く分には十分以上に食べて行けるんです、ただその真面目にって所が出来ていないだけで。

後はヨーク村の判断次第、自分たちが中心になって新たな産業を育てるのか、それとも監察官様にお任せするのか、はたまたよその商会に乗っ取られるのか。

いずれにしても餓死とは無縁になれるんですから、いい事ずくめじゃないですか」

 

そう言いニッコリ微笑む俺に引き攣り笑顔で応えるドレイク村長代理。

お困り村長代理に俺なりの提案をしただけなのに。

なんか理不尽だと思うケビンなのでありました。




本日二話目です。
六月も頑張るぞ~。
いってらっしゃい。
by@aozora
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