オリジナル装備、それは男のロマン。
素材はある、だがそれが加工可能なものなのか。俺は収納の腕輪の中から一枚の風呂敷ほどの大きさのものを取り出す。
先ずは裁断出来るのかどうか。ゾイル工房製の裁ちばさみを取り出し、いざ!
“ガッ”
全く歯が立たず。これ無理したらハサミが壊れるんじゃね?
次に大森林中層の材木(ブー太郎のログハウス建設材料の余り)から作り出した平板の上にそれを置き、ソイル工房製の剣鉈に魔力を込め、いざ!
“ダンッ”
マジかよ、傷一つ付いてないじゃん。
俺はそれを手に取りまじまじと見つめる。その辺の布地のように柔らかく肌さわりもさほど悪くないそれ、剣鉈を突き立てた箇所には跡すら残っていない。
やっぱ凄いな、最強生物の抜け殻。
改めてドラゴンの凄さを思い知らされると共に、これを最高の素材と言い張る職人の凄さに敬服するケビンなのでありました。
いや~、やっぱりね、作りたいじゃないですかドラゴン装備、ロマンですよロマン。
でもやたらな所には出せないって言うね、だったら基本的な部分は自分でやるしかないかと。って事で挑戦してみたんですけどね、こんなの切れない。
冷静にワイバーンですらミスリルで切るんだからドラゴンなんて言ったらね~。
例の棘出しちゃう?潰してナイフでも作る?でもそれも色々と問題が出そうなんだよね。
時代に名を残す様な名工が作り出したであろう対ドラゴン用武器、それを鋳潰すって言うのもな~。凄い罪悪感。
どの道死蔵でしょ?って言われるとそうですとしか言えないんだけどね。
刺さってたって言うくらいなんだから脱皮後の皮だったら切れそうなもんなんだけど、どっかに立て掛けて押し切りでもする?それなら何とか加工くらいは・・・縫えないじゃん。膠で貼り付けって言っても衝撃で剥がれちゃうじゃん、う~ん。
俺は畑の小屋のトレーニングルームに素材を広げ眺めつつ、頭を捻るのでした。
現場百篇とはよく言ったもの、糸口は必ず現場に転がっている、昔の人は本当に良い事を言う。ありましたよ、糸口。
この資源ごみを回収した場所の事をよくよく思い出してみましょう。
魔力が濃厚な薄暗い洞窟、目の前に広がる凹凸の激しい岩場、その隙間に詰まる資源ごみ(脱皮カス)。注目すべきはここ、脱皮カスは隙間に詰まっていたんです。つまりこの岩場は脱皮した皮よりも強く、それを切り裂く事が出来る。
早速収納の腕輪から資源ごみと共に回収した岩の欠片を取り出しナイフに加工、あの暇潰しの石剣作りがこんな形で役に立つとは思いもしなかった。
作業板の上に皮を敷き、いざ!
“スッ”
「おぉ~~!!」
きれいさっぱり切れたじゃありませんか。
でもここから先は専門家に相談ですね、俺は道具類を仕舞い裁縫の専門家、ベネットお婆さんの元へと向かうのでした。
「はぁ~、またケビンは変なものを持って来たね~」
そう言い呆れた様な顔をするベネットお婆さん。ベネットさんにはこの皮の性能とその用途についてよく説明してあります。その上で皮の加工をお願いしようとしたんですが。
「うん、無理だね。素材が足りないよ」
「え~、素材が足りないって何が足りないんですか!?」
「簡単に言えば裁縫用の糸だね。ケビンはこの皮を使って鎧を作りたい訳じゃないんだろう?それこそ普段使いにも使える様な革装備、だからこそここに裁縫を頼みに来た。
その石のナイフと石の針、この丈夫な皮を切ったり縫ったり出来るって事は見せて貰ったから分るよ。でもこれだけの逸品が本領を発揮するような場面で、それこそキャタピラーの攻撃糸かなんかで縫い付けていたらどうなると思う?ばらばらになっちまうよ?糸が耐えられないってね。
方法は二つ、一つはこの皮を細く切ってひも状にして繋げる事、カバンなんかを作るんだったらこの方法でもいいかもしれないね。でも着る物となるとね。
もう一つはこの皮に匹敵する糸を見つける事。大森林に棲むジャイアントスパイダーの蜘蛛の巣に使われる繊維なんかは最高のローブの材料と言われているけど、それでもこの皮の性能に追いつけるかどうか。
難しい所だね。
一応縫い付けの前段階までは作業を進めておいてあげるけど、そこから先は素材が入り次第かね。
それとカバンはどうする?それだったら加工可能だよ、加工道具を幾つか用意して貰う事になるけど」
「あ、でしたら背負いカバンでお願いします、その方が便利なんで」
「背負いカバンかい?そうなるとやっぱり糸がいるね。どっちにしても途中までは進めておいてあげるよ」
何という事でしょう。ロマン装備には素材が足りませんでした。
最強生物の抜け殻に匹敵する素材を出す何か・・・思い浮かばね~。
両膝両手を床に突き、がっくりと項垂れるケビンなのでありました。
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「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、ダークボール”」
“ビュ~~~~~、バンッ”
ケイトの威力調整トレーニングは何とか成功を収めた。
これってやり方の問題だったんですよね、詠唱の工夫でどうにかしようとするから難しかったんですよ、だってどれ程の威力になるのか分からないんだもん。
そこで発想の逆転、先ずは完成形を体感しちゃってそこから詠唱を考える。俺もケイトも無詠唱で魔法を撃てますからね、ケイトのデコピン位の威力ってイメージでダークボールを撃ってみて、その感覚を体に覚えさせるところから始めました。
最悪詠唱してるフリでも行けるかと。
この方法がビンゴ、無詠唱デチューン版ダークボールは割とすぐに出来ました。
そんで今度はこれに詠唱をって流れ。もうね、敵じゃないんですよ、小虫って一体。指先でプチってデコピン以下じゃん。
でもなんとかゴブリンを一撃で倒すくらいの強さに出来たかと。でもこの辺ゴブリンいないんだよな~、今の時期草原にグラスウルフもいないし。
これで強過ぎるって事は無いと思うんだけど、威力が弱かった時用に“指先で押し潰したまえ”ってバージョンもございます。
こっちだとさっきの二倍くらいの強さ、“ビューーーー、バシンッ”ってくらいの威力です。
「お~い、ケイト~。大体感じは掴めた?」
「ん。」
「なら良かった。もう今月には出発しないといけないって所だったからね、間に合ってよかったよ。それと始めの内は大体十発で限界って事にしておいて。回数を増やすのは周りを見ながらって事で」
本当に危ない所だった、なんやかんやでもう三月、村の大人たちは既に畑に畝を作り始めてます。そんで今週末にはボビー師匠の訓練場で春のお祭り、例の“今年も生き残ってよかったね”って奴です。
そんなに掛かったのか?掛かったんだよ、めっちゃ難しかったんだよ、内視鏡手術並みに難しかったんだよ。改めて俺って凡才だわ~って思いましたもん。これまでが出来過ぎてたんだって、偶然って凄いわ。
「そんで頑張ったケイトにはこれを差し上げます」
そう言い俺が取り出したのは二本の組み紐。ケイトは深緑色をしたその組み紐をしげしげと眺めた後、説明を求むと言った顔でこちらに目を向けて来ました。
まぁ簡単に言えば目立たなくなる組み紐ですね。色々考えたんですよ?ワンピースにしようか、ローブにしようか、スカーフにしようかってね。
でもずっと身に付けられて尚且つ違和感が無い物って事になるとこれなんですよね。ワンピースは一年中同じ格好ってのも変だし、ローブは学園にいるときや教室内で着込んでいるって言うのもおかしいかなって。
そんでやっぱりスカーフ?ってなったんだけど、夏場は暑いんですよ、やっぱり。その辺は村の女衆からもクレームが出てまして。
で、一年中身に付けていても違和感が無くて尚且つ効果的な装具って事でそれになりました。
この大きさで効果的な隠蔽能力、いや~大変だったわ~。
先ず材料ですが、丈夫な組み紐と言う事で紬に頑張って貰いました。どうしたかって言うと紬に御神木様の葉っぱを食べて貰って魔力充填、丈夫な攻撃糸って事を意識して貰って吐き出すって手順です。これ、例の抜け殻装備を作る為に作って貰ったんですけどね、ベネットお婆さん曰く素材のバランスが悪いって事らしいです。その辺は裁縫師のスキルで分かるとか、やっぱプロって奴は違います。
そんで今度は素材を染め上げるんですが、身体を覆わずこの大きさで隠蔽効果を出すって事なので素材にこだわってみました。
魔力水に関しては
次にスライム溶液ですが大福に貰いました。
最後のインクの所に御神木様の葉をすりつぶしてその汁をって感じですね。
闇属性魔力水と大福スライム溶液のバランスがですね。魔道具作成用インクとして使える事は着定が出来たんで分かったんですが、丁度いい効果になる配分の割り出しが大変で。魔力水が多過ぎてもスライム溶液が多過ぎても着定しないんですよね。かと言ってスライム液が多過ぎると妙に効果が強くなっちゃうって言うね。
朝の体操の時にパンツ一丁でも誰にもツッコミ入れて貰えなかったときはマジでビビったわ。速攻家に帰って着替えて出直しましたから。
あれは関わり合いになりたくないから無視されたんじゃないと思いたい。
で、いい感じの影の薄い人効果に収まったのがこちらの商品って訳です。
色合いも黒や紺色ばかりじゃ面白みがないと思って深緑色、今回は御神木様に大変お世話になりました。
「ケイトさんや、ちょっと左手を出してみ」
俺がそう言うと素直に左手を差し出すケイト。俺はそこに短めの組み紐を巻き付けます。要はミサンガですね。
この組み紐の作り方は近所の元助産師セシルさんに教わりました。何でも昔王都で流行ったんだそうです。ケイトに何を送るか悩んでいた時に、組み紐のアイディアをくれたのもセシルさんでした。
困った時にはお婆ちゃん、お婆ちゃんの知恵袋とは良く言ったもの、先人の知恵には敵いません。
「それでこれが髪留めね」
そう言って渡した組み紐で髪を縛るケイト、うん、いい感じに影が薄くなった。
「人の多い所では髪留めと腕輪をして、寮に帰ってからなら腕輪だけで良いかな?あんまり存在感が無さ過ぎるのも不自然だからね」
俺がそう言うと、嬉しそうにニッコリ微笑む(顕微鏡レベル)ケイトなのでした。
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「お帰りケイト。魔法の練習の方はどうだい?」
ケビンとの訓練が終わり家に帰ったケイトは、父ザルバに今日あった出来事を話して聞かせる。
普段無口なケイトも、家にいる時は意識して話をするようにしていた。これはケビンが提案した事であり、ケビン曰く“人の心は分からない、それは家族であっても同じ事。だからなるだけ言葉にした方がいい、家族なら尚の事、だって家族なんだから”との事であった。
「それでね、魔法の訓練を頑張ったからって言ってこれをくれたの」
ケイトはそう言って自身の左手首に巻かれた組み紐を見せる。父ザルバは娘の差し出した左手に目を向けると、懐かしいと言って言葉を返した。
「これは“絆の腕輪”、お父さんも若い頃お母さんに貰ったんだよ。この腕輪には“あなたとの絆が結ばれます様に”と言う意味があってね、他にこの色にも意味が込められてるんだ。緑は<癒し、和み、優しさ>だったかな?
ケビン君は本当にケイトの事を思ってくれているんだね」
そう言ってニッコリ微笑む父ザルバに、動きの固まるケイト。
ケビンが私を“想って”くれている。
“私の事”を考えて・・・。
「ごちそうさま。今日は疲れちゃったから先に寝るね、お休みなさい」
そう言って自分の部屋に戻るケイト。部屋に入るやいなやベッドに突っ伏すケイトに、床で寝そべっていたシャドーウルフのブラッキーが訝しげに顔を向ける。
「フフ、ケビン君が私の事を・・・。フフフフ、エヘヘヘヘヘ♪キャ~~~~/////」
枕に顔を沈め、両足をバタバタさせるケイト。その身体からは濃厚な闇属性魔力が漏れ始める。
“ビクッ”
突然乱心し始めた主人に、思わず影に潜り警戒体制を取ったブラッキーを誰が責める事が出来ようか。
「フフフ、何か嬉しそうに騒いでるようだが、あの子も年頃の女の子だと言う事なんだろうか」
居間で寛いでいたザルバは、娘の部屋から聞こえる思春期の女の子らしい物音に、嬉しそうに顔をほころばせる。
同じ部屋にいる護衛役のブラッキーが、“ケイトさんがヤバいっす、どうにかしてください!!”と言う業務報告を雇い主に飛ばしまくっているとも知らずに。
本日一話目です。