転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第171話 闇属性魔導士、領都の学園に出発する

春のお祭り、それは大きな歓声と笑顔のまま幕を閉じた。

マルセル村を訪れた賢者様方は、再びの再会を約束した後白い巨大フェンリルに跨り遠方へと旅立たれた。(*1)

村人たちは気持ちも新たに、春の作付けに向け本格的な準備を始めるのだった。

 

(*1)花園にお帰りになられました。(わたくし)ケビンのアドバイスにより魔力を幻影の中心に抑え込む事で気配を薄くすることに成功、自由に結界を出入り出来る様になりました。永劫の死を克服せし賢者師弟、半端ないです。

 

「ケイトちゃん、領都の学園入学おめでとう。これから始まる領都の生活は大変だと思うけど、様々な出会いと学びがケイトちゃんをより一層成長させてくれるものと願っているよ。

身体に気を付けてがんばってね。

ザルバ、無事ケイトちゃんを領都に送り届けられる様に、道中は十分気を付けて向かってくれ」

 

ドレイク村長代理をはじめとしたマルセル村の人々の見送りを受け領都に旅立つザルバさんとケイト。これから始まる領都での暮らしは、彼女を一回りも二回りも大きく育んでくれることだろう。

がんばれケイト、負けるなケイト、俺は君がこのマルセル村に帰ってくるその日まで、遠く辺境の地からケイトの活躍を祈り“ガシッ”

「・・・え~っとケイトさん、この手は一体何でしょうか?

(わたくし)、本日ケイトさんのお見送りをですね」

 

「あ~、ケビン君。悪いけど領都までケイトちゃんを送り届けてくれるかな?ザルバがいるから大丈夫だとは思うんだが、やはり心配でね。

村の事だったら大丈夫、この冬の間ケビン君と大福君、緑君に黄色君が村の男衆を鍛えてくれただろう?

正直皆がどこを目指しているのか不安になるくらい強くなってるからね?これ、領都から領兵様方が来たらドン引きだから、一体何を言われるやら、今から胃がシクシクして仕方がないよ。

それに索敵と警戒は太郎と団子が行ってアナさんが知らせてくれるから、事前準備は完璧なんだよ。流石に短い期間に七回も襲われれば警戒心も育つし、皆の行動も迅速に行えるようになってるから。それに・・・」

 

ドレイク村長代理はそこで一旦言葉を区切るとある方向に視線を移す。その方向に見えるのは鎌首をもたげ優しい瞳でザルバとケイトを見詰める二体の守護獣。そしてその一体の頭の上にちょこんと鎮座する一匹の水饅頭。

 

「あの三匹がいる限りよっぽどの事でもどうとでもなっちゃうと思うんだよね。と言うかあの三匹でもどうにもならないんなら誰がいても同じだしね」

 

そう言い引き攣り笑顔になるドレイク村長代理と乾いた笑いを浮かべる村の男衆。

約二名、オーガと戦闘狂老人だけは獰猛な笑みを浮かべるのでした。

 

「・・・えっとそこに俺の意思は“ギリギリギリッ”無いんですね、そうですか、分かりました。

えっとアナさんと緑に黄色、畑の作付けに関しては予定通りで、種まきの方もよろしくお願いします。それとアナさん、呪い通信の方は無しで、緑か黄色に言ってもらえれば俺に通じますんで。俺の方から返事を返す手段はないんで、簡単な丸バツくらいなら返せますがそれ以上はちょっと。

ヘンリーお父さん、そう言う事になりましたんでメアリーお母様には・・・えっと、お母さんはこの話を承知していると、ケイトが挨拶に行って了承を貰ってるんですね、そうですか。外堀は既に埋まっていたんですね」(涙)

 

「ドレイク村長代理、それでは行ってまいります」

 

“ガタガタガタガタ”

マルセル村の荷馬車は出発する。その荷台にケイト、ケビンの二人と従魔のブラッキーを載せて。

荷馬車は揺れる、ガタゴト音を立て一路領都グルセリアを目指して。

ケビンは街道を進む荷馬車の上、遠くフィヨルド山脈の山並みを眺めながら、“市場に売られて行く子牛ってこんな気持ちだったのかな~”と一人妄想にふけるのでした。(現実逃避とも言う)

 

 

草原の景色も枯れ草色から若草色に変わり始め、あちらこちらから動物の気配が伝わる様になってきた。草原の緑は冬眠明けの彼らにとっては御馳走であり、元気な身体を作る栄養源。そしてそんな彼らを狙う者も長い冬の眠りから目覚め活動を開始する。

 

「お、来た来た。グラスウルフ、三頭の群れか、丁度手頃かな?

ケイト~、訓練の成果を見せるよ~。ブラッキーはしばらく影の中で休んでて、お前がいるとグラスウルフが逃げちゃうから」

 

“ガウッ”

ケビンの声にケイトの影に潜るブラッキー。ケビンは清掃のスキルを発動し荷台からブラッキーの匂いを消し去ると、ケイトに指示を出してグラスウルフを待ち構えるのでした。

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、ダークボール”」

“ビュ~~~~~、バンッ”

“キャインッ”

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、ダークボール”」

“ビュ~~~~~、バンッ”

“キャインッ”

 

「うん、怯んでる怯んでる。ザルバさん、どうですかね?新人初級魔導士のボール魔法の威力ってこれぐらいであってますか?」

俺の質問に意味が分からないと言った顔のザルバさん。まぁ普通はそうだろうね。魔物蔓延る世界で生き残る為に力を求めて魔法の訓練に取り組む、それがこの世界の人間にとっての“訓練”であり常識。威力が強過ぎて手加減する為の訓練を行う魔導士なんて、ケイトくらいなんじゃないだろうか。

 

「えっと、どんな答えを求められてるのかいまいちピンと来ないんだが、授けの儀を受けて魔法に目覚めた者が放つ一般的なボール魔法とさほど威力は変わらない様に思うんだけど?

ケイトがマルセル村に帰って来てから毎日魔法の訓練を行っていたことは知っているんだが、その成果がこれと言われてもどう返事を返していいのか正直分からないんだが」

 

「おぉ~、ケイト、大成功だよ。長年様々な新兵を見て来たであろうザルバさんが普通と言ってくれるんならこれで大丈夫でしょう」

固い握手を交わし互いの健闘を称える俺たちに、ますます分からないと言った顔になるザルバさん。

 

「ケイト~、それじゃ二倍の威力で行ってみようか。グラスウルフは仕留めちゃってもいいから」

俺がそう言うとケイトは再び闇属性初級魔法の詠唱を始めるのでした。

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で押し潰したまえ、ダークボール”」

“ビューーーー、バシンッ”

“ギャンッ、ドサッ”

 

「うん、こっちもバッチリだね。狙いもいいんじゃない?正確に身体の中心を捉えてるよ。これが狩猟を目的とするんなら狙い所も考えないといけないんだけど、ボール魔法は討伐や撃退目的の魔法だからね。狩猟ならアロー系の魔法じゃないと、傷口や皮の状態が悪くて商品として使い物にならなくなると思うんだよね。その際の威力調整もこのボール魔法の応用で行けるはずだから、その辺はケイトが工夫してみて。

肝心なのは狙いと精度。いくら威力が高くても当たらなければ意味がない。学園に入ったら魔法の訓練も当然行うはず。その時は的のどこに当てるのかをちゃんと意識して行う事。ただ中心を狙うばかりが訓練じゃ無いんだよ、的の端ギリギリとか印の丸の右斜め下とか。その時その時で目標を設定して正確に打ち抜く。

実際の戦闘において目標が停止していることなんてまずないからね?しかも魔法が必要とされる場面は集団戦や乱戦なんてこともざら。

味方からの誤射なんて笑えない話だけど、ボビー師匠に聞いたらこれってよくある事らしいよ?だから魔法職がいるパーティーなんかは始めに魔法職が遠距離攻撃で獲物を弱らせて、そのあと剣士なんかの前衛が近接戦闘で仕留めるってのが定石なんだってさ。魔法職との連携が取れた討伐を行えるのは銀級上位や金級の冒険者パーティーくらいらしいよ。

ま、こんな感じかな?」

 

“バスッバスッ”

それは見事にグラスウルフの眉間を貫いたシャドーアロー。

 

“ジト~~~~~~”

 

「やっぱりケビンはずるいってそんなこと言われても知らんがな。使えるモノは便利に使う、それが辺境の人間の正しい生き方ですんで。

因みに影魔法はこんな便利な使い方も出来ます」

 

“ズブズブズブ”

俺が手を振るや途端地面に沈んで消える三匹のグラスウルフ。その様子に驚き目を見開くザルバさん。

 

「あ、グラスウルフですか?俺の影の中に仕舞ってありますよ。

ブラッキーが丸太を仕舞ってるのと同じです。俺から魔力の影を飛ばして相手の影に繋いで浸食、その影に沈めたって形です。まぁ行先は同じなんですけどね」

その答えに口を開けたまま固まるザルバさん。

 

「えっと勇者物語に出て来た影魔法使いのジルバと同じじゃないのか?まぁやってることは同じかな?あのお話に出て来た影魔法は全部出来ましたし。影収納に影移動、影槍。影移動って瞬間移動なんかじゃなかったんですよ、要は闇属性魔力で繋いで出口を作ってるだけ。予め影空間からの出口を複数用意しておいて、さも空間移動したかの様に見せ掛けていたってだけだったんですよ。戦闘時の影移動はさっき俺がやって見せた影収納と同じ、分かり難い細い影を伸ばしてそこにある影を浸食、新たな出口として設定していたって訳です。

所謂奇術の手口ですね、それを魔法に応用した所が凄い、やはり勇者様の従者になるだけの事はありますよ。

 

それとさっきのケイトの魔法ですね、本当にケイトは凄い、ボール魔法の手加減を完璧にマスターしたんですから」

俺の言葉に訳が分からないと言った顔になるザルバさん。

 

「えっ、手加減?それってどう言う?最初の魔法と二回目の魔法とでは威力が段違いだと言う事は分かったんだが」

 

「う~ん、これは見てもらった方が早いですかね?ケイト~、空に向かって普通詠唱のボール魔法を撃ってもらえる?」

 

「ん。」

 

一旦馬車を止め、ケイトの魔法を真剣な表情で見詰めるザルバさん。そんな中、ゆっくりとした口調でケイトの詠唱が紡がれる。

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ダークボール”」

“ズドンッ”

 

ケイトの詠唱、その言葉に従うかの様に彼女の(てのひら)に集まる膨大な闇属性魔力。それは大きな球状の塊を作り、“ダークボール”の魔法名と共に轟音を上げ天高く飛び去って行ったのであった。

 

「・・・・・」

 

「ザルバさ~ん、起きてる~?」

 

「はぁ?えっ、はぁ?」

 

「まぁ驚くのも無理はないかな?ケイトの魔法って凄まじいですもんね。

でもこれを学園で使う訳にはいかないじゃないですか、ケガ人続出ですよこんなの、今からでも王都の学園行きですっての。ですんで手加減の訓練をしていたって訳です。

ね?ケイトって凄いでしょ?」

 

俺の説明に“ケビン君だから仕方がない”といつもの呪文を唱えるザルバさん。

えっ、今回ケイトだよね?俺悪くないよね?

 

「ん。」

 

「なによケイト、俺が魔法の指導をしたから魔法が強くなった?魔法の指導って言ってもしこたま生活魔法を使わせて生活魔法を無意識にでも使える様にしただけじゃん。

もともと水属性生活魔法のウォーターは無詠唱でも出せたし、他の魔法も練習して行ったら無詠唱で出せる様になったし、結果的に無詠唱を覚えてスキルが統合されて、多分今は魔力支配になってるはずだけど・・・それがまずかった?」

 

“コクコク”

 

良かれと思って覚えさせた無詠唱と魔力支配、結果的に余計な手間が増えましたとさ。

やっぱりケビン君が原因かとジト目を向けるザルバさん。返す言葉もなく、遠くに見えるフィヨルド山脈の雄大な山々を眺め続けるケビンなのでありました。




本日一話目です。
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