転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第172話 闇属性魔導士、エルセルの街に向かう

ガタガタと荷馬車に揺られ、春の暖かな日差しを受けながら移動すること暫し。ゴルド村に到着した俺たちマルセル村一行は、ドレイク村長代理からのお使いを果たす為、ゴルド村村長ホルンさんの所に顔を出す事になりました。

何でもザルバさんがドレイク村長代理の手紙を預かっているとか。この時代の通信手段はこうした手紙が主、何かの用事の(つい)でに届ける、行商人に託すと言った事はごく普通に行われる手段の様です。

 

「ふむ、五箇村の農業重要地区入りが決まった際の取りまとめを私に頼みたいと言われても、それこそそうした事はこの計画の立役者であるドレイク村長代理の役割なのではないのかな?

こちらは一方的に貰ってばかりで申し訳ない気持ちで一杯なのだが」

 

渡された手紙を一通り目にしたホルン村長は、その内容に驚きつつ素直な感想を口にする。

 

「それに関しましてはそちらの手紙にも書かれていると思いますが、幾つか理由がございます。

 

先ずは立地。

ここゴルド村は他の四箇村全てに通じる街道の分岐点であり、五箇村の顔。農業重要地区を訪れる全ての商会がこのゴルド村を通過します。

おそらくですが監察官様が居を構えられるのもここゴルド村、他の村には代官様が送られる事になるでしょう。その方が効率が良いと言うのがドレイク村長代理の考えです。

 

次に歴史です。

ここゴルド村は周辺五箇村の中で一番歴史があり、かつ他の村との繋がりも深い。それは発言の重みともなり、物事の決定権を持つと言ってもいい。

新参者のマルセル村の村長代理の言葉より、代々続くゴルド村のホルン村長の方が代表者としては相応しいのです。

 

第三にやっかみです。

人の嫉妬心と言うものはどうにもならない負の感情です。これは人として生まれた以上どうしようもない事だとドレイク村長代理は考えておられます。

新参者が偶々生み出したビッグワーム農法でのし上がる、この事に引っ掛かりを覚えない村人の方が少ないはず。それは各村でのよそ者に対する対応を考えれば明らか。ドレイク村長代理は自身が婿であり現在は離婚しドレイク・ブラウンに戻っている事、見方によってはマルセル村を乗っ取ったように見えると言う事を気にしておられるのです。

周辺五箇村の村人達はそうではないと仰って下さるかもしれませんが、詮索好きな人間と言うのは何処にでもいますから。

これから始まるであろうこの地区の発展を自身の都合で邪魔してはいけないと言うのが、マルセル村村長代理ドレイク・ブラウンの決意なのです」

 

ザルバさんの言葉に身を震わせ感動するホルン村長。名誉でも私欲でもない、ただ辺境に暮らす者達を救いたい、その高潔な心、その献身。

 

「分かりました。ドレイク村長代理にお伝えください。ゴルド村村長ホルン・ゴルド、ドレイク・ブラウン村長代理の志をしかと受け止めたと。

取り纏めの任、確かにお引き受け致しました」

 

そう言いその立派な(かいな)でがっしりと両手で握り込むかの様に握手するホルン村長、そんなホルン村長の感激を笑顔で受け止めるザルバさん。

ザルバさん、魔力纏いが上手くなったよな~。身体の表面に薄く魔力の膜を纏って何をされ様とも対処出来るようにしてたもんな~。

これってドレイク村長代理の助言だよね、前にドレイク村長代理もベアハッグされてたもんな~。熊式鯖折り、この偉丈夫にやられたらどんな男性でも昇天しちゃうよ?物理的に。

 

「そう言っていただけると助かります。私もドレイク村長代理に良い報告が出来ると言うものです。

それと今回の農業重要地区入りに際し発生するであろう問題についてです。

これはおそらくはという話になりますが、ヨーク村村長ケイジ・ヨーク氏が何かと不平不満を訴え掛けて来ると思います。そうしたら一度マルセル村に赴きドレイク村長代理に直接話をするようにと促してみてください。

ケイジ村長は自分がこうと決めたらそれが絶対であると考える御方、他者の意見で納得する事などあり得ません。ケイジ村長を説得するにはケイジ村長自らがそう思い込む事が必要です。

その為の策はすでに用意してありますので、ご安心ください」

 

そう言い笑顔を向けるザルバさん。

なんか言葉使いは丁寧なのにその裏に見え隠れするナイフがですね~。最後の笑顔が超恐いんですけど。

 

「う~ん、ケイジ村長はな~。奥さんはまともな方なんだが、いかんせん自尊心が高く自己愛が強いからな~。あの手合いを相手にしないでいいと言うのは助かるが、本当にドレイク・ブラウンと言う御方はどこまで。

このホルン・ゴルド、何かの際には必ず力になるとお伝えいただきたい」

 

「はい、ホルン村長の御言葉、確かに伝えさせていただきます。ドレイク村長代理も心強く思われる事と思います」

 

ホルン村長との会談は無事終了、ホルン村長はケイトの領都学園行きの話を聞き“おめでとう”と声を掛けて下さった後も、玄関先でいつまでも手を振って見送りをしてくださったのでした。

 

でもあの手紙ってドレイク村長代理が面倒事をホルン村長に丸投げしただけだよね?言ってる事はいちいちごもっともなんだけど、マルセル村の経営に集中したいだけだよね?

なんやかんやで四箇村を走り回ってたらミランダさんやエミリーちゃんと一緒にいられないってのが最大の理由だよね?

流石相手に気付かせずに要求を通す男、私欲全開、欲望一直線ですな~。

尊敬する大人ドレイク村長代理の手腕に、感心しきりのケビンなのでありました。

 

 

「ケビン君、今夜はこの辺で野営になる。ブラッキーを出してもらってもいいかな?」

 

ザルバさんの言葉に、影で待機していたブラッキーを呼び出す俺氏。一応主人はケイトって事にはなってるけど、実際繋がってるのは俺だしその辺は今更ですかね。

そんで場所はと言うとグラスウルフの草原のど真ん中、懐かしの門番詰め所跡でございます。

前に俺が一月半野営していたって事もあり、周辺の環境は完全に街道脇の野営地。壊し忘れの窯とか地均しされた地面とか、テントを張るにも最適な環境でございます。

 

って事で早速テントをセッティング、日が落ちる前に夕食の準備ですね。

少人数の野営なのに煮炊きをして良いのか?襲われるんじゃないのか?

まぁそうですね、ここはグラスウルフの草原ですし、冬眠から目覚めたグラスウルフが匂いを嗅ぎつけて襲ってきてもおかしくない。

でもまぁその時は的が増えるだけですし?ケイトの闇属性ボール魔法(弱)と(微弱)の練習にお付き合い願えればと。

 

早速窯に鉄鍋をセット、収納から薪をぽいぽい。

「ザルバさん、荷台の上の薪はそのままにしておいてください。まったく薪を積んで無い荷馬車は変に思われますから」

 

<ウォーター>で水を入れて<プチファイヤー>で火を付けて、乾燥野菜をポイポイ。ビッグワーム干し肉を取り出してチャチャッと刻んだら鉄鍋にザザザ~。

「ってどうなさいましたザルバさん?こっちを見てボケッとしちゃって」

 

「いや、何かケビン君が何もない所から色々と物を取り出して夕食の準備をしている様に見えたものだからね?どうやら私は少し疲れているみたいだよ」

 

「あぁ、それならこの“収納の腕輪”ですね。前に賢者様から頂いたものです。

授けの儀が終わるまでは誰にも話してはいけないって言われていたもので、別に大きな声で言う事でもないんで話してないだけなんですけどね。

一応ドレイク村長代理にだけは報告してあるんですが、頭を抱えた後あまり人に言わない様にって言われちゃいました。

ハハハハハハ」

 

俺の言葉にドレイク村長代理の時と全く同じリアクションをするザルバさん。

内緒にしておかなくて良かったのかって?まぁこれまでは変にばらして便利使いされても困るしって事があったんで村でも秘密にしていたんですけどね、正直一々カバン経由で物を取り出すフリをするのが面倒になったのと、そのカバン自体が結構な容量のマジックバックと化しちゃったってのがありましてね?

変に隠すよりも公にしちゃって便利使いしておいた方が安全かなと。全ては流浪の賢者様のお陰でございますって事で。

本当にイザベルさんと知り合えた俺ってツイてるわ~。

 

ってな感じで下準備は完了、暫く煮てから岩塩で味付けでございます。

それまでの時間を利用してカバン収納からアナさん印の野営テントをスルスルッと取り出しましてセッティング、お馬さんの前に飼葉とお水を用意。

これで野営準備完了でございます。

 

「うん、流石この場所で一月半生活していただけの事はあるね、凄く手慣れている。これなら領都までの旅路も何の問題も無いね。」

 

「あ~、そうですね~、そうだと良いんですけどね~。

俺って村から出ると何かしら厄介事に遭遇するんですよね。それもあってあまり村を出たくないって言うか、外っておっかない事ばかりですから」

俺がそう言うと何とも言えない微妙な顔になるザルバさん。

 

「えっと、俺今変な事を言いました?」

 

「いや、うん、ケビン君の強さを知っている身としては“それだけ強いのに今更何を言ってるの?”って言う気持ちがね。

元金級冒険者のヘンリーさんや“下町の剣聖”ボビー師匠ですら手も足も出ない緑や黄色、大福を相手に互角以上の戦いを繰り広げ、村の男衆を瞬殺するケビン君が村の外が怖いと言ってもね」

 

「あ~、うん、まぁそう言われちゃうとあれなんですけど、俺って基本ビビりですから。怖い事だらけなんですよ。

魔物が恐い、大商人が恐い、教会勢力が恐い、貴族が恐い。

戦いってなにも武力が全てじゃないじゃないですか。もしそうならマルセル村にグルゴさんやザルバさん、ギースさんがいるのって変ですから。

 

人間社会って怖いですよね~、俺偶に大森林の方が安全かもって思う事がありますから。

今度マルセル村にも監察官様や領兵様が常駐なさるんですよね、緑や黄色を見てどんな反応を示すのか。

寄越せって言われても俺にはどうする事も出来ないんですけどね、テイマーじゃないんで」

 

「えっと魔物の雇用主だっけ?それってテイマーと何が違うんだい?その辺よく分からないんだけど」

 

「まぁ簡単に言えば人の雇用と同じって事ですかね。嫌なら辞めれるんですよ、これ。しかも命令に逆らう事も出来るんです、正確には業務命令なんで反抗可能なんですよ。

つまり緑や黄色に領兵様の命令に従って領都に行きなさいって命令を出しても嫌がられたらお(しま)いなんです。そのくせ俺は確り魔力を支払い続けなければならない。支払いたくなかったら解雇するしかないんだけど、そうなれば完全に野良魔物ですよ。

そんな事怖くて出来ないでしょ?

この魔物の雇用主ってスキルは信頼関係が大切なうえに、魔物に有利なスキルなんですよ」

 

俺の言葉に呆れ顔になるザルバさん。まぁそうですよね、俺も魔力支配による相乗効果が無かったらそこまで有用なスキルとは思いませんでしたから。

でも遠距離通信が出来るのは便利かも、もしケイトに何かあったらブラッキーが知らせてくれますからね。

 

「ん。」

 

おっ、ケイトも気が付いたみたいだね、何かがこっちにやって来る事に。

ブラッキーも気が付いていたみたいなんだけど、待機してもらってます。

 

“バッバカバッバカバッバカバッバカバッバカ”

“ドドドドドドドドドドドドドドドドッ”

 

何かに先導されるかのように押し寄せる大型獣の群れ、その気配に驚き警戒を強めるザルバさん。

そしてそれは目の前に現れるのでした。

 

「よっ、シルバー、久し振り」

 

“ブルルルルル”

 

(いなな)きを上げ俺の声に応える立派な体躯のお馬さん。そう、こいつら全員盗賊さん方の忘れ物なんですね。その数五十六頭、多過ぎだろうって思うでしょ?

それだけ来たんですよ、盗賊団が。最初の盗賊団赤鷲なんか全員騎乗してましたからね?どこの騎馬隊?って編成でしたから。他の大盗賊団も大概馬を持ってましたし。

奪ったお宝は幌馬車でお持ち帰りって奴ですね、分かります。

お陰で腕輪収納に十台ほど荷馬車や幌馬車がですね~。

そう言えばマルセル村にもお馬さんが増えてたよな~、あれも盗賊たちの忘れ物なんだろうな~。荷車が三台増えてたんだけど、マルコお爺さん車軸周りの修理をしたんだろうか。このお使いが終わったら一緒に修理しないといけないかも、足回りは大事だからね。

 

「で、お前たちはどうしたのよ。魔力の使い方も教えたしこの草原でも十分生きて行けるように指導したと思うんだけど?」

そう、こいつらにはマルセル村のお馬さん同様魔力指導をさせていただいております。

だって可哀そうじゃん、行き成りこんな草原に開放されても野生動物に襲われてお(しま)いよ?せめて自立出来るくらいにはしてあげませんと。

 

“ブルルル、ブルッ”

 

「グラスウルフが増えて来て鬱陶しい?アイツらしつこい?

あ~、まぁここはグラスウルフの草原って言われるくらいの土地だからな~。

それじゃお前たちマルセル村に来る?ホーンラビット牧場周辺なら魔獣も近寄って来ないから比較的安全だし」

 

““““ヒヒ~~~~ン””””

 

「よし、それじゃ決定ね。シルバー、一応連絡取りたいから<雇用契約>を結んでおこうか?

<短期雇用契約>と<長期雇用契約>があるけどどっちにする?」

 

“ブルルルルル”

 

「<長期雇用契約>ね、了解。それじゃ頭下げて」

“スッ”

 

俺は差し出された顔に手を触れると<長期雇用契約>と唱えるのでした。

 

「ザルバさん、そう言う訳ですんでちょっとマルセル村に行って来ます。夜中までには戻って来ますんで。ブラッキー、後は頼んだ。

念の為に周囲を塀で囲っておきますんで」

 

俺はそう言うと地面に手を突き土属性魔力を流し込みます。

「<防御城壁>」

 

“ズゴゴゴゴッ”

行き成り馬車とテントを取り囲む様に地面から盛り上がる壁、これって一応生活魔法なんですよね。暇な一月半の成果って奴です。

かなり魔力頼みの力技ではあるんですけどね。

 

「それじゃちょっと行って来ます。

お前たち、魔力の事は気にするな、全身に魔力を纏ってついて来い。シルバー、行くぞ!マルセル村まで競争だ!」

 

“ドドドドドドドドドドドドドッ”

 

マルセル村に向け走り去る馬の群れ、その先頭を走り高笑いを上げながら先導するケビン。

“ケビン君だから仕方がない”

村人ザルバは荷物カバンからドレイク村長代理に渡された胃薬を四錠取り出し、“これ、帰り迄持つんだろうか”と不安に思いつつ、一気に飲み込むのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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