転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第173話 村人転生者、エルセルの街の教会へ向かう

“グツグツグツグツ”

 

空が白み始める。白靄が立ち上り、徐々に明るくなり始めた草原を幻想的に覆い尽くす。

夜営地に置かれた釜戸の上で、鉄鍋が旨そうな匂いを周囲に広げる。

テント脇に控え、主人の護衛を行っていたシャドーウルフが、眠そうに大きな欠伸を浮かべた。

 

“ゴソゴソゴソ”

 

テントの中から物音が聞こえ、一人の少女が(ひら)いているのかどうかといった(まなこ)を擦りながら顔を出す。

一日の始まり、今日もまた彼らの旅が始まろうとしていた。

 

「やぁ、おはようケビン君。夕べは大変だったね」

起き抜け一発ジト目を向けながら挨拶の言葉を掛けてくださったのはザルバさん。

 

「いや~、あれは不可抗力と言いますかなんと言いますか。俺もまさかこんな場所で行き成りお馬さん方に“グラスウルフがうざい、どうにかしてくれ”なんて相談事を持ち掛けられるとは思わなかったものでして。

そりゃあいつらがちゃんと野生動物として生きて行ける様にって手助けしたのは俺ですけどね、いくら盗賊たちの持ち物だったからってね~、あいつらには罪は無い訳ですし、放置も可愛そうかなって。

えっと、ちゃんと届けて来ましたよ、マルセル村。突然顔を出した俺と馬の群れにグルゴさんはえらく驚いていましたけど、井戸の脇にサクッと馬用の水呑場だけ作って、水やりだけお願いして戻って来ました。

で、帰って来てからは夜番をしていたって感じですかね。

真夜中になる前には戻れたんじゃなかったかな?その辺の時間的な事はちょっと。夜空を見ても分かりませんからね」

俺は出来上がったスープをよそい、収納の腕輪から取り出した棒パンと一緒に土属性魔力で作ったテーブルの上に並べていく。

 

「いや~、夕べはなんやかんやで食べ損なっちゃいまして、結局干し肉を齧っただけって言うね。やっぱり食事と言ったら温かなスープですよ」

そう言い皆で席に着くと、女神様に祈りを捧げ朝食にするのでした。

 

「それじゃ出発しますね、忘れ物はないですよね?」

俺は荷馬車に乗り込んだザルバさんとケイトに言葉を掛ける。

 

「ブラッキーは本日もケイトの影の中で待機、君がいるとグラスウルフが近寄って来ないからね」

二人から了承の返事を頂いたところで周囲を覆う外壁に土属性魔力を送り一言。

「<破砕>」

 

設定は砂粒サイズ、一夜の夢の如く崩れ去る外壁に目を丸くするザルバさん。

“ケビン君だから仕方がない”って、ザルバさんもその呪文が好きですね。

 

「ん。」

 

ケイトの掛け声にカタコト音を立て動き出す荷馬車、これから向かうはかつての魔物(人科)の巣窟。グロリア辺境伯様の粛清の後、街は一体どうなってしまったのか。若干の不安を感じつつも、以前よりかはましだろうと気持ちを切り替えるケビンなのでありました。

 

 

「次、身分と目的を述べよ」

 

「はい、マルセル村のザルバと言います。領都の学園にこちらのケイトが入学することになり、向かうところです。

こちらが村民証になります」

 

「ん、確かに。それでそっちの子供は?」

 

「あ、はい。俺は同じくマルセル村のケビンと言います。今回の入学に際して付き添う事になりました。これが薬師ギルドの身分証です」

 

「ほう、薬師見習いか、調薬師はどこでも不足しているからな、頑張れよ。

よし、通ってよし」

 

エルセルの街の門兵様は礼儀正しい態度になっていた。そう、袖の下すら要求しない徹底ぶり。グロリア辺境伯様、よほど苛烈な処分を断行したんだろうな~。(遠い目)

 

「あ、ザルバさん。ちょっと寄りたいところがあるんですがいいですか?」

 

「ん?いや、別に構わないが、何か雑貨屋に寄って買いたい物でもあるのかな?」

何か訝しげな顔をするザルバさんですが、それほど大した用事じゃないですよ?

 

「ちょっとエルセルの街の教会に寄ってこの旅の安全とケイトの事をお祈りしようと思いまして。

以前のエルセルの教会は腐敗塗れだったらしかったんで近寄りたくもなかったんですが、ミルガルの司祭様方がすっかり掃除してくれたらしいじゃないですか。

一度顔を出してどんな様子か見ておいた方がいいかと思いまして」

 

「あぁ、そう言えばバストール商会の行商人ドラゴ氏もそんな事を言っていたな。監督官及び行政、教会に冒険者ギルド、各商会と本当に街全体を徹底的に捜索したって話だったか。

囚われていた女性や子供が何人も発見されたり子飼いの盗賊団があったりと、とんでもない状態だったらしいからな」

 

以前よりかは若干人もまばらなエルセルの街の大通りを、マルセル村の荷馬車はカタコト音を立てて進んでいく。

街の中心部に佇む教会の建物を目指して。

 

 

教会の聖堂はミルガルの街程ではないもののそれなりの大きさを誇り、この街の人々が祈りを捧げる為に集うには十分な広さを保っていた。

その扉はまだ若干の肌寒さ感じるこの季節にも関わらず大きく開け放たれており、この教会が広く人々に向け解放されていること、これからは公明正大な運営を行うと言う事をアピールしているかのようでもあった。

 

「あ、えっと確かミルガルの教会のシスター様でケティーさんでしたっけ?

もしかしてこちらの教会所属になられたんですか?

立て直しのために派遣されたと、主任になられたんですか、それはおめでとうございます。

もしかしてシスターアマンダもこちらに?新しい司祭様が来られるまで代理をなさっているんですか、それはそれは。

って事はこれからはこちらの教会でもまともな聖水を頂けるってことですか?

えっ?ご存じなかったんですか?以前は聖水もどき、ひどいとただの井戸水が渡されていたらしいですよ?これって結構有名な話だから街の住民に聞けば知ってると思うんだけど。俺もドレイク村長代理から聞いたんですけどね」

俺がそんな話をすると“ちょっと用事が出来た”と言ってその場を離れるシスターケティー。何かオーガの様な気配を纏っていらっしゃったんですけど、どうなされたんでしょうか?

 

聖堂の中では、数名の街の人たちが女神様の像に向かい祈りを捧げていた。聖堂奥に鎮座する女神様の像は、ミルガルや領都の物と同じく優し気な笑みを湛え人々を見守ってくださっていた。

やっぱり問題は人間なんだよな~、神様は関係ないんだよ。だって天上から等しく見守ってくださってるだけなんだもん、教会の女神様像の事をアクセスポイントって言ってたくらいだし。

教会の腐敗、そしてそれに伴い失われた信仰。あなた様方はあんなに頑張っていらっしゃるって言うのに。

美しい面立ちに凶悪なクマを抱えたあなた様のお姿を思い出し、やるせない気持ちになるケビンなのでありました。

 

女神様像の前に膝を突き旅の無事を祈るザルバさん、ケイト、俺の三人。

聖堂の中には清廉な空気が流れ、心の不安を穏やかなものへと変えてくれる。

俺は心の中で呼びかける。“本部長様、いつもお世話になっております。ケビンでございます。”と。

 

 

“ケビン君、お久しぶりです。しばらく会わないうちにまた色々とあった様ですね。ケビン君の話は“$$%&”から聞いています。

あぁ、こちらの言葉はあなた方人族には聞き取れないのでしたね、ケビン君が言う“あなた様”の事ですよ。

何でもケビン君の行動は見ていて飽きないのだとか、仕事上がりに一杯飲みながら鑑賞会をするのが日課とか言ってました。あの子も一体何をやっているのか”

 

静まり返り物音一つしない聖堂の中で、本部長様の声だけが頭に直接聞こえて来る。そっと目を開けると、まるで時間が止まったかの様に身動き一つしないケイトとザルバさん。

“えっと、これってミルガルの教会であなた様にされたアレですね”

 

“あぁ、俗に言う神託と同じ状態ですね。ケビン君には別に神託のスキルがあると言う訳ではないのですが、女神様の像を中継器としてこちらの言葉を繋げさせていただいてます。ケビン君は多くの称号を持たれていますから、人物の特定がし易いのですよ。

その間の時間経過は刹那、周りの者から気付かれることはありません”

 

“あ、そうなんですね、了解です。

それとこちらはお礼の品と言うか何と言うか、お陰様で無事に生き残っております。どうぞお納めください”

俺はそう言い祭壇前に収納の腕輪からドラゴンの牙と爪、壺に入った光属性魔力マシマシ蜂蜜カクテル(キラービーの蜂蜜版)を取り出して捧げるのでした。

 

“これはこれはご丁寧にありがとうございます。この御酒の話は“$$%&”から聞いていたので気にはなっていたんですよ。

ドラゴンが雄叫びを上げる一品、ゆっくり味合わせていただきます。

それとドラゴンの牙と爪はこちらでも貴重品ですから、ありがたく使わせていただきます”

 

お返事が聞こえるや淡い光と共にその場から消える捧げものの数々。

どうやら本部長様にはお喜びいただけたご様子、良かった良かった。

“でもそっか、ドラゴン素材はあちらの世界でも貴重品なのか~”

 

“はい、ドラゴンの素材は私たちでも早々手に入れる事の出来ないものですから。下手をすればドラゴンと天界との抗争に発展しかねませんからね、やたらな接触は禁止されているのですよ。

しかしこれは・・・エンシェントですか、なんとも貴重な品を。

ここまでの物を頂いてそのままと言う訳には・・・。

ケビン君は何か欲しい物とかお困り事とかございませんか?私の裁量の範囲とはなりますが、ご希望にお応え出来ると思いますよ?”

 

“いえ、俺もたまたま手に入れただけですんでお気になさらないでください。

あ、そうだ。それだったらお酒を頂けませんか?なんか最強生物が光属性マシマシ蜂蜜カクテルを気に入ったらしいんですが、本部長様から頂いたあなた様の忘れ物のお酒が後どれ程持つのか心配でして。

こっちのお酒で満足していただけるのかも分かりませんし、大体俺お酒の味なんて分かりませんから、未成年ですからね?”

 

“ウフフフ、そうですね、ケビン君ではまだお酒の味は分かりませんよね。

分かりました、幾つか見繕っておきましょう。それと申し訳ありませんが“$$%&”の分のカクテルも用意してあげてくれませんか?

先ほどから執務室の中を恨めしそうな顔で覗く者がおりまして。

お酒の引き渡しはその者に頼んでおきますので”

 

う~わ、あなた様何やってるんだよ。そう言えばあの御方、俺の行動観察してるって言われてたよな。でも今は仕事中だろうに、あとで本部長様に怒られるぞ~。

“えっとこちらとしては構いません、後程ご用意して奉納させていただきます。

それとその際は“あなた様”に御呼び掛けすればよろしいのでしょうか?”

 

“はい、その様にお願いいたします。それとこの前進化したケビン君の従魔の件ですが、詳しいステータスをお伺いしたいと思いまして”

 

“あぁ、それなんですけど、俺も知らないんですよ。

一般的なテイマーは従魔の状態を知る事の出来る鑑定スキルがあるらしいんですけど、俺の場合<魔物の雇用主>なんで、そう言った状態確認が出来るスキルはないんですよ。あくまで信頼関係による仕事の契約ですから、支配系のものとは少し違うようでして。

あいつら基本的に自由なんですよね、これ迄と全く変わらないどころか俺から一方的に魔力を吸い取って行くって言うね。まぁ困ったときには手を貸してくれるんでいいんですが”

 

“あぁ、そういえばそうでしたね、一般的なテイマースキルの感覚で話をしてしまいました。申し訳ありませんでした。

では従魔の件については機会があればと言うくらいに気に止めておいてください。”

 

“あ、はい、分かりました”

これは本部長様、ジェイク君の事を知ってますね。勇者や聖女の候補者はあらかじめ決まっているみたいですしね、統括本部長様なら当然ですね。

そのうえで無理強いしない辺り流石に人物が出来ていらっしゃる。あなた様も上司のこう言うところを見習わないと、出世出来ないぞ?

何か思考の中にどなたかが文句を言っている声が紛れて来ますが聞こえない聞こえない。

俺は本部長様との会話を終え、ゆっくりと目を開けるのでした。

 

 

「ケビン君、随分と熱心にお願いをしていたようだが、何か心配事でもあったのかな?」

 

そう声を掛けてくれたのは隣で膝を突き女神様の像に祈りを捧げていたザルバさん。この様子なら先ほどまでの本部長様との会話はバレていないみたいですね。

 

「いえ、普通に旅の安全をお祈りしていただけですよ?

前回はゾイル工房が襲われセシルさんが浚われたり、廃村の野営地で怨霊に襲われたりオークの森でお貴族様のお嬢様を拾ったりと、本当に色々と起きましたから。

帰りは帰りで冬の草原で一人門番、祈りも熱心になるってものですよ」

そう言い遠くを見詰めながら乾いた笑いを浮かべる俺にドン引きするザルバさん。

もうね、平穏無事が一番ですっての。

 

「あ、シスターケティー、先ほどはどうも。いい話を教えてくれてありがとう?これからはちゃんとした聖水をお渡し出来る様になると、そうですか、助かります。

実は例のスカーフ、夏場は暑苦しいという声がありまして、どうにかならないかって言われていたんですよ。

領都の帰りにでも寄らせていただきますので、その際は聖水の方をよろしくお願いします」

俺はそう言うとカバンの中からフォレストビーの蜂蜜が入った壺を取り出し、“シスターアマンダによろしくお伝えください”と(ことづ)けを頼み教会を後にするのでした。




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