転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第174話 闇属性魔導師、ミルガルの街に向け出発する

“ガラガラガラガラ”

 

エルセルの街の教会を後にした俺たちマルセル村一行は、街門を抜け一路ミルガルの街に向け荷馬車を走らせる。

途中襲って来たグラスウルフの皆さんは、揃ってケイトの魔法練習の実験台に。手加減した最弱ダークボールだと倒すのに大体二発から三発は必要と。二倍の威力にした弱体化ダークボールだとほぼ一発、たまに虫の息でも生き残る個体がいるので注意が必要と。

流石にこの辺は実際の戦闘を行わないと分からない事ですね、勉強になります。

 

「ザルバさんの経験からすると、新兵のボール魔法の威力と回数ってどのくらいなんですかね?」

 

荷馬車の荷台からグラスウルフを見つけては正確に撃ち倒して行く俺たちに、始めは驚愕と言った表情だったザルバさんも、何処か諦め顔になり荷馬車の操作に集中なさっておられます。

時折“これはケイトの為になること、ケビン君だから仕方がない”などと仰られておりますが、元々魔力過多症になるくらい魔力豊富だったんですから、これくらいは当然なんじゃないんですか?

“魔力過多症は福音”でしたっけ?宮廷魔法使いにも魔力過多症を経て魔導師になった方々が在籍されてるとか。

そんな方々だったらこれくらいね~。

 

「あ、ケイト、進行方向に対し後方左敵影あり。迎撃準備最弱ダークボールの詠唱始め」

 

「ん。“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、”」

 

ガサガサと揺れる草むら、未だ姿を見せぬ魔物、そして魔法の詠唱を途中で止めたケイト。

 

“ガサッ、ガ~!!”

 

「撃て!!」

 

唸りを上げ飛び出す魔物、その姿が見えるやいなや俺の合図に合わせ詠唱を完成させるケイト。

 

「<ダークボール>」

 

“ビュ~、バンッ”

“ゲインッ、ドサッ”

 

「うん、見事カウンターが決まりましたな。大きく開かれた口の中に魔法が飛び込んだのも良かった、あの距離からの魔法攻撃じゃ避けようが無いからね。

タイミングが難しいけど覚えておいて損のない技だと思うよ?

これなら弱い魔法でも魔物を倒せるって証明になるし、最悪噛まれても魔力を纏ってれば歯形すら付かないしね。今も薄い膜状に纏っているけど、それくらいの圧縮率なら完璧じゃない?

流石ケイト」

俺の言葉にどや顔を浮かべるケイト(顕微鏡レベル)、まぁ素直に凄いと思います。

 

「えっとザルバさん?今度は何ですか?またおかしな点でもありました?」

 

「あっいや、ケイトが魔法詠唱を途中で中断していたにも関わらず発動した事に驚いてね。

それって“魔法待機”と呼ばれる非常に高度な詠唱方法だった筈なんだ。

宮廷魔法使いの中でもごく一部の者にしか使えない技術とか言われていた筈だよ」

驚きを持って教えてくださったザルバさん、それってマジですか?

 

「不味いな~、それじゃこの技使えないじゃん。

何発か待機状態にする“ストック”って技も作ったんですけど、そうなると当然披露出来ないですよね?」

 

「なっ!?」

 

あら、今度は完全に固まってしまわれた。マジで使えないじゃん、あれだけ二人で頑張ったのに。

 

「それじゃこの技はどうです?ケイトさんや、“ダークアーム”行ってみよう」

 

「ん。“大いなる神よ、闇の魔力よ、我が手に集いて我が手を包み込め、ダークアーム”」

 

「ケイトの詠唱と共にその突き出した右腕から溢れ出す闇属性魔力。それは明確な意思のもと右腕を覆う闇の衣となる。

これぞケイトの新技“ダークアーム”。その力、未だ未知数。力が欲しいか、ならばくれてやる!ワハハハハハ♪

 

えっとザルバさ~ん、大丈夫ですか~、帰って来て下さ~い」

 

「はっ?えっ?はぁ~!?

ケビン君、君はケイトに一体何を教えてるんだい!?

いや、分かるよ、マルセル村の住民なら皆魔力が纏えるからね?それに比べたらこれくらいは些事だってことはね?

問題はそれを魔法の詠唱として完成させちゃったって事なんだよ、ケイトがこれ迄にない魔法を作り出してしまったって事になってしまうんだよ。

ケビン君が考えたって言ってもケビン君には魔法の適性がないだろう?誰も相手にしないんだよ。しかもこれはおそらくちゃんとした闇属性魔法として確立しているんじゃないのかな?」

 

「お、流石ザルバさん、中々鋭い。でも大丈夫です。これはギリギリで生活魔法の範疇でしたから。

この詠唱を“大いなる神よ、闇の魔力よ、我が手に集いて我が身を守る盾となれ、ダークシールド”ってしたり“大いなる神よ、闇の魔力よ、我が手に集いて我が身を包み我が身を守れ、ダークアーマー”ってやっちゃうと闇属性魔法になっちゃうみたいでしたけど。

これは既に実験済みですんで確かです。

ジミーも<ダークアーム>は出来ましたけど<ダークシールド>や<ダークアーマー>は出来ませんでしたから。

って大丈夫ですか?胃薬を飲むと、はい、水筒です」

 

何故か胃に激しいダメージを食らったザルバさん。どうやら折角ケイトと一緒に考えたロマン魔法もお蔵入りになりそうです。

でも学園を卒業しちゃえば関係ないですよね?

これからもめげずにロマンの追求を誓う、ケビンとケイトなのでありました。

 

―――――――――――

 

「それじゃすみません。最初の夜番、よろしくお願いします。」

 

ミルガルの街に向かう途中の廃村の夜営地。冬が開けたばかりで未だ亡霊の噂が残っている為か、この場所で夜を明かそうと言う者は殆んど居らず、今回の夜営でも貸切状態になっていた。

魔物や盗賊の危険性と言う安全面を考えるとどうかとも思うが、ケイトがあまり知らない人間を信用していない事や余計な面倒事に巻き込まれにくいと言う点で考えれば、この事態は私にとってありがたい事でもあった。

 

“パチンッ、パチンッ”

 

炎の中で爆ぜる(たきぎ)を眺めながら、その揺らめきを瞳に映す。

この領都までの旅はまだ始まったばかり、ミルガルの街まで後二日、少なくとも領都までは後六日程掛かる計算になる。

今のところの行程は至って順調。至って順調・・・と言って良いのだろうか?結構な回数グラスウルフに襲われているんだが。

 

本来夜営を伴う旅では魔物を避ける。こうした少人数での移動なら尚の事、夜営の食事も煮炊きは控え、堅パンに水だけと言った食事は定番だ。

だがこの旅ではそうした事を一切気にしていない。温かなスープに焼き立てのピタパン、肉野菜炒めが出て来た時にはこれは本当に少人数での夜営なのかと頭を捻ったものだ。

それもこれもブラッキーやケビン君、そしてケイトの索敵能力があっての話ではあるのだが。

 

まず驚かされたのはケイトの魔法であった。普通の詠唱による初級攻撃魔法である<ダークボール>の魔法。

空に向かって放たれたそれ、初級魔法とは一体何であるのか。まさか娘の攻撃魔法の威力が強過ぎて頭を抱える日が来るとは思いもしなかった。

あの子が魔力過多症に掛かったと知った時には絶望感に包まれた。そんな絶望から解放された後はその将来性、可能性に悩まされた。

王都の学園入学、その最悪の選択肢はケビン君の尽力により見事回避する事が出来た。

ケビン君が戦闘職でも魔法職でもない<田舎者>と言う変わった総合職を授かったと聞いた時は驚いたが、よくよく話を聞けば何ともケビン君らしい職だと納得したものだった。

 

そしてケイトは領都の学園へと向かう事が決定した。

ケビン君が草原での戦いを終えマルセル村に戻って暫くしてからは、ケイトは毎日の様にケビン君と魔法の訓練に勤しんだ。それは本当に熱心に。

私はてっきり魔法の熟練度を上げているものとばかり思っていたが、まさか手加減の訓練をしていたとは。

そしてそれが必要不可欠なほどケイトの魔法が規格外であったなどと、気付けと言う方が無理があるだろう。

 

そして今日見せられた魔法の数々、あの内の一つでもバレてしまえば王都の学園からの呼び出しは確実なほどの偉業。

新魔法の創造など長年魔法に携わる宮廷魔法使いや賢者でも中々出来る事ではない、それを三つも造り出すなどと誰が想像出来るだろうか。

 

“パチンッ、パチンッ”

 

焚火の明かりをじっと見つめる。揺らめく炎は自身の心の揺らぎを優しく落ち着かせてくれる。

 

「“うぅ~、ケイト~、やめろ~。キャタピラーの踊り食いなんか出来るか~、キャタピラーは生で食べるモノじゃないんだ~。グォ~~~”」

 

「“スゥ~~~、ケビン、家族、スゥ~~~”」

 

テントの中からは子供たちの寝言が聞こえて来る。

ケビン君は一体どんな夢を見ているのやら、思わず笑いが零れる。

ケイトはマルセル村に来て本当に子供らしくなった。以前は生きるのに必死でそんな事にも気付く事が出来なかった。

妻が死に、残されたあの子を育てる為に必死になって働いた。優しいあの子の歌声が王都で評判になり多くの貴族から招待された。その結果人々の悪意に飲み込まれ我が家は潰された。

あの街には良い思い出も悪い思い出も沢山ある。

逃げ出して戦って、逃れ逃れ逃げ延びた先がヨーク村だった。その頃にはすっかり心がすり減っていた私たちは、ただ言われるがまま村はずれの小屋のような家に住み着く事となった。

そして気が付けばケイトの心は失われていた。

いや、正確にはその事にすら気付く事が出来なかった。

ドレイク村長代理に拾われて、マルセル村に辿り着いて。温かい食事と快適な寝床を与えられて、人の生活とはこう言うものだったのだと言う事に気付かされて。

そこで初めて自分がケイトの心を殺してしまっていたと言う事に気が付いた。

気付いた時には何もかもが遅かった。

私のこれまでの人生はそうした事の繰り返しであった。

妻の死も、貴族たちの嫉妬も、騎士団副団長の憎悪も、そして一番の宝、娘のケイトの事も。

 

揺らめく炎、それは私の心の現れ。もう決して見失わない、もう決して損なわせはしない。私は娘を守れなかった駄目な父親であった、娘の心の苦しみに気が付けない愚かな男であった。

 

「“ケイト~、く、苦しい~、魔力が~、闇の魔力が~。ぐがぁ~~~~”」

 

「“フフフフ、ケビン、ケシテハナサナイ。スゥ~~~~”」

 

あの子が恋をした。あの心を失い、表情を失ったケイトが、彼の事を話す時だけはまるで天使のような笑顔を取り戻す。

そしてその目はまるで虚無を見詰めるかの様ではあるものの、私の前で楽し気に一日の出来事を話してくれる。

少しずつ、本当に少しずつではあるものの、あの優しく快活であったケイトリアルが戻って来てくれている。

 

“ピクピクッ、ガウッ”

 

テントの脇で身体を横にしていたブラッキーが、何かに気が付いたかのように首を上げる。

私は脇に置いていた剣の鞘を掴み、地面から腰を上げる。

 

“ガサッ、ガサガサガサッ”

 

草むらが揺れ、複数の何かが近付いて来ている気配に、剣の柄を掴んだ手に力が入る。

 

“ガウッ”

“ズバズバズバズバズバッ”

“ズブズブズブズブズブ”

 

“パチンッ、パチンッ”

 

焚火から聞こえる薪の爆ぜる音。

静まり返った廃村の野営地。

テントからのっそりと顔を出したケビン君が、“そろそろ交代ですね、あとはお任せください”と声を掛けてくれる。

・・・えっと、ブラッキーってそんなに強かったの?今のって多分だけど勇者物語に出て来た影魔法使いジルバが使っていた<影槍>だよね?それでその後<影収納>で獲物を仕舞っちゃってたよね?

魔物の姿なんて一切見えなかったんだけど?

影の中はシャドーウルフの領域だと、夜の闇は彼らの空間、気配も位置も隠す事は出来ないんだ。へ~、全然知らなかったよ、シャドーウルフって凄いんだね。

よくやったと言いブラッキーをわしゃわしゃ撫でるケビン君。そんな彼に嬉しそうに尻尾を振るブラッキー。

流れる冷や汗、どうやら娘の護衛はとんでもない魔物だったらしい。

 

「でもな、ブラッキー、お前はフォレストウルフって設定なんだからな。影魔法の方は今の感じで進めるとして、今度は肉弾戦の訓練だ。今夜は特訓だからな」

 

“ガウッ♪”

 

楽しそうに戯れる両者から漏れ聞こえる不穏なセリフ。

“ケビン君だから仕方がない”

領都までの旅はまだ始まったばかり、今夜はしっかり寝ようと心に決めてテントへと潜っていくザルバなのでありました。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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