転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第175話 村人転生者、スライムマスターに会いに行く

「お久し振りでございます、ジニー師匠。師匠におかれましてはお元気なご様子、冬を無事に乗り越えられた事、お喜び申し上げます」

 

朝靄漂う廃村の野営地を出発したマルセル村一行は、日が昇り村の人々が働き出す頃にはオークの森の一つ前の村ラッセル村に到着していた。

ラッセル村と言えば養蜂家のジニーさんが住まう村、授けの儀の帰り道に諸事情により立ち寄る事が叶わなかったケビンは、何時か訪ねて行ってその際の非礼を詫びたいと心から思っていたのである。

 

「おぉ~、君はいつぞやの少年。授けの儀は無事に済んだ様じゃな。その様子では望みの職に付けたのかの?」

 

「はい、お陰様を持ちまして、<田舎者>と言う村人に似た職業に就く事が出来ました」

 

「うむ、<田舎者>の~。確か冒険者時代にその様な職業を授かった者に会った事がある。俗に言う“器用貧乏”であったか、様々な事が出来るがそれぞれの職業の劣化版とか言われておったかな。

そ奴はそんな周りの声も全く気にせず、それどころか物凄く便利とか言って喜んでおったがな。そ奴も儂と同じくソロ冒険者での、偶に共に依頼を熟す事もあったんじゃが、武器の手入れから調薬迄ほんに器用に熟す者であったわいて」

 

「はい、その<田舎者>です。総合職と呼ばれるものらしいんですが、スキルの中に<テイム>スキルに類似した<魔物の雇用主>と言うスキルがありまして。やっている事はこれ迄と全く変わらないんですが、魔物と雇用契約を結ぶ事が出来る様になりました。

ただ雇用契約なんで、魔物の状態を知る様な鑑定は出来ませんでしたが。

でもこれからは堂々と“スキルで従魔にしている”と言える様になりました」

そう言い胸を張る俺氏。ジニー師匠はそんな俺の姿に目を細め、“おめでとう、何にしてもこれからは立派なテイマーだの”と祝いの言葉を掛けてくれるのでした。

 

「領都の商会から大口の契約が決まったんですか?おめでとうございます」

 

以前エルセルの街で出会った蜂蜜の屋台を営んでいたロイさんが後を継いだお兄さんと一緒に蜂の巣箱準備をしていたので話を聞くと、どうもこの冬に訪れた領都の大商会の行商人から大口の契約の話を貰ったらしい。

 

「あぁ、俺も驚いたんだがな、なんか新しい商品を作るのにフォレストビーの蜂蜜が必要だとかで、定期的に仕入れたいとの話が纏まったんだと。でもそうなるとこれまでみたいな自然任せのやり方じゃ収量的に間に合わないだろう?そこで花畑を開墾したりと人手が必要になっちまってな、急遽呼び戻されたって訳よ。

まぁエルセルの街も監督官やら衛兵やら冒険者ギルドやら教会やら大商会やらが悪さをしていたってんで街中大騒ぎになっちまってな、蜂蜜どころじゃなくなっちまってたんだよ。

だからこの話は渡りに船だったって訳よ。

ただまぁ久々に鎌やら鍬を使ったんで身体のあちこちがガタガタでな。やっぱり身体は普段から使ってないと駄目だわ、すっかり(なま)っちまってやがった」

 

そう言いながら頭を掻くロイさん。でも表情が生き生きしてますね、実はこの仕事好きなんですね、分かります。自然と共に生きる蜂蜜農家、やりがいはありますもんね。

 

「そうだ、これ、俺のスキルの練習で作ったモノなんですけど、良かったら使ってください」

そう言い俺がカバンから取り出したのは、大量の蓋が閉まった陶器製の小瓶。

 

「おいおい、結構な量だがこれって何なんだ?」

訝しげな顔で聞いて来るロイさん、まぁ当然な質問なのでお答えしましょう。

 

「<田舎者>の調薬系スキルで作ったローポーションですね。小瓶の方は魔道具作成スキルの練習で作った日持ちする小瓶です。未開封の状態であれば夏場で三か月、冬場なら半年は大丈夫ですよ。ただ一度封を開けちゃうとただの小瓶なんですけどね。

その辺は本職の魔道具職人には敵いませんよ」

そう言い頭を掻く俺に目を丸くするロイさん。

 

「イヤイヤイヤ、こんなに貰えないって。しっかりした商品じゃないか、薬師ギルドにでも持ち込めばそれなりの金額になるんだろう?」

恐縮するロイさんに、俺は手を振りながら答える。

 

「いえ、お気になさらずに。その薬師ギルドに卸す為の練習なんですから。俺ってこれまで手作りでローポーションを作って来たんで、結構腕には自信があったんですけどね、それが逆に作用しちゃいまして。

スキルでの作製にも関わらず最高品質になっちゃうんですよ。品質鑑定で見た時はびっくりしましたもん。個人的に売る分には問題ないんですけど、これがギルドに卸すとなると問題でして、ああ言う所は安定した品質が求められますから、良品質にするのがですね~。

それにローポーションにも使用期限がありますんで余らせても仕方がないんですよ。

言ってもローポーションですからそこまで大した効果じゃないんですけどね、身体が疲れた時なんかに寝る前に飲んでおけば翌朝は元気に起きれますよ?

何だったら蜂たちに与えてもいいんじゃないんですか?魔物は魔力豊富なものが大好きですから。うちのフォレストビーなんかは干し芋を魔力水で煮たものにローポーションを混ぜた餌を与えると大喜びしますけどね。

魔力水は生活魔法<ウォーター>を唱えるときに魔力を多めに込める事を意識すると簡単に作れますんで試してみてください」

 

俺がそこまで言うと、ロイさんは頭を搔き、“なんかすまないな”と言いながら受け取ってくれるのでした。

 

 

「ケビン君や、何かロイが大そうなものを頂いたようですまんかったの」

 

俺達マルセル村一行はジニー師匠たちに別れを告げ、再び領都に向けた旅路に就こうとしていた。

そんな俺たちを見送りに来てくれたジニー師匠が、何やら紙の束を差し出しながら話し掛けて来た。

 

「これはこの冬の手慰みに書き綴ったスライムについての覚書じゃ。内容は前にケビン君に話したものとあまり大差ないとは思うが、良かったら貰ってやってはくれんかの?」

 

それはこれまでのジニー師匠のスライム人生が詰まったスライムの聖典。

「こんな貴重なものを私の様な若輩者が頂いてもよろしいのでしょうか!?」

 

「イヤイヤイヤ、そこまで凄いものではないからの?わしが若いころ体験した事や儂なりのスライムに対する考え、スライムの有効活用についてを書いただけのモノじゃ。世間一般では何の価値も無い文章じゃからの?」

そう言い謙遜なさるジニー師匠。

 

「価値がない?とんでもない誤解でございます、これは値千金、いくら黄金を詰まれようともその価値には及ばず。このケビン、一生の宝とさせていただきます。

あ、そうだ、書士さんに製本して貰いましょう。確か授けの儀の時に領都の教会で働いていらっしゃったんで、領都に行けば会えるはずですから。<転写>ってスキルで白紙の本に写し取る事が出来たはずです。この原稿を基にした製本版、完成したらお持ちしますんで、楽しみに待っていてください」

物凄く良い事を思い付いた俺氏、領都に行く明確な目的が出来た瞬間であった。

 

「って何よケイト、私の学園の入学が一番の目的なんじゃないのか?あっ、そうでしたね、ケイトさんが一番ですよね、アハハハハ、とんだ間違いを。

これは大変失礼いたしました、ですんでその身体から溢れ出る濃厚な闇属性魔力を引っ込めようか。右手に<ダークアーム>を纏いながら“この右手に宿りし漆黒の魔力よ”とか唱えるのは止めようね?勇者病とか言われちゃうよ?」

 

いまにも膨れ上がらんとするケイトの闇属性魔力に、冷や汗を掻きながら言い訳をする俺氏。そんな俺たちの様子を見ながら“あの可愛らしかったケイトが・・・”と涙を浮かべるザルバさんなのでありました。

 

 

荷馬車は走る、春の街道をカタコト音を立てて。荷馬車の荷台では何故かケイトに正座を言い渡される(わたくし)ケビン。この正座の作法は剣の勇者様が御広めになられた自身の反省を示す最上級の姿勢なのだそうです。

って言うか剣の勇者様、所々でぶっ込んで来るの止めて。なんてものを後世に残すのよ、一緒に旅をしていた賢者様によくこうやって謝っていたらしいですけど、椅子文化の人間に正座は辛いのよ?

既に痺れ始めた足に魔力を纏いたい所でございますがケイトさんがですね~、しっかり目に魔力を集中なさって監視なさるものですからね。

・・・牧歌的な荷馬車の振動が、とっても辛いです。(涙目)

 

え~、話は飛びましたがジニー師匠のところには自作ローポーション入りの壺(長期保存用)と干し芋をどっさり置いて参りました。これからフォレストビーを繁殖させないといけませんからね、蜂さんたちには元気になってもらいませんと。

ローポーション芋汁の作り方はジニー師匠にも説明しておいたので、後は蜂の専門家であるジニー師匠方が何とでもするでしょう。芋汁についてはジニー師匠も唸ってたくらいですしね。

 

「ケビン君、そろそろオークの森だ、警戒に入った方がいい。ケイトもその辺にしておきなさい、しつこい女は嫌われるとお母さんも言っていたぞ?」

 

ザルバさんの仲裁により漸く正座解除です。急いでローポーションを飲み回復した俺は、これから向かうオークの森の警戒に入るのでした。

 

それまではグラスウルフに襲われなかったのか?うん、何か分からないんだけど、ある一定の範囲まで近付くと急いで逃げ出して行くんですよね。ブラッキーは影に籠っていたはずなんだけどな~、不思議だな~。(冷や汗)

 

春先のオークの森は、一年の内で最も危険であると言われています。この時期は冬眠から目覚めお腹を空かせたオークが徘徊するばかりでなく、フォレストウルフやフォレストディア、中にはワイルドベアなんてヤバい奴がですね~。

この熊さん、蜂蜜が大好きでしてね、キラービーの蜂の巣に突貫かますほどの猛者なんですね。体表が厚く丈夫な皮と強くて硬い毛に覆われてまして、目茶苦茶タフなんですわ。しかもパワーファイター。

オークの森じゃあまり目撃例も多くないんですけど、春先は遭遇確率が高くなるって言うね。

 

本当、俺って呪われてるんだろうか。

遭遇確率が高くなるって言っても、普通一発目で引き当てる?

オークの森の街道中央にどっしりと佇みこちらに鋭い視線を送る大熊。

その身体から漂う風格はこれまで多くの戦いを生き抜いて来た戦士のそれ。

えっと見逃してくれる気は・・・無いんですね。あの、お肉だったら手持ちがありますんでそれでお引き取り願うって事は・・・戦士は施しは受けないと、戦い自らの手で手に入れてこその獲物であると。

野生の矜持って奴ですか、分かりました。

 

互いの間に漂う戦いの波動。ワイルドベアの野生の威圧とケビンの発する覇気とがぶつかり合い、場の空気が動きを止める。

 

ケイトの影から顔を出し唸りを上げるブラッキーに手を出し静止を指示するケビン。

 

「ブラッキー、よく見ておけ。これがお前がこれから行わなければならない肉弾戦の世界だ。

ラビット格闘術初伝マルセル村ケビン、推してまいる!」

 

“ダンッ”

瞬間ケビンの立っていた場所の地面が爆ぜ、その姿が消える。

 

「“重衝”」

“ドゴンッ”

 

まるで瞬間移動の様にワイルドベアの側面に姿を現したケビンが放つ張り手が、ワイルドベアの横顔を吹き飛ばす。

だがそこはタフで鳴らしたワイルドベア、すぐさま身体ごと反撃に応じる。しかし・・・。

 

「“重衝連脚”」

“ドドドドドドドドドドドドドッ”

 

ラビット格闘術の真価はその足技、ホーンラビットの突進を可能とする強靭な下半身を使ったその連撃は、凄まじい迄の衝撃をワイルドベアの身体の芯に叩き込む。

 

“グォ~~~~~~~、ドサッ”

 

勝負は決した。圧倒的に見えたその戦い、だがケビンは決して油断せずワイルドベアに構えを向ける。ケビンは感じているのだ、このワイルドベアがまだあきらめてはいない事を。

 

“ガサガサ”

藪が揺れ一匹の子熊が姿を現した。その子熊は心配気に大熊に寄り添おうとする。そんな子熊に唸りを上げ必死に逃げるように諭す大熊。

“この人間は強い、今のお前では敵わない、逃げて、そして生き延びて、愛しの我が子!”

大熊は、母熊は最期の気力を振り絞り立ち上がり、ケビンに戦いを挑む。我が子を思う母の心は魔物であろうとも変わらない。その心にあるもの、それは只管に子供の生存を願う母の愛。

 

「ってこんなん戦えるか~!!

そこの子熊~!!今出て来ちゃ駄目だろうが~!!

君のお母さんは戦士として戦ってたの、互いの命を懸けた重要な戦いだったの!

野生動物なら逃げなさいよ、彼我の差は歴然でしょうが!

あ~、もう無理、白玉先生、お願いします!!」

 

ケビンが左手の指輪を晒し<オープン>と唱える。すると指輪から眩い光が放たれ、一体の白く大きいホーンラビットが姿を現した。

 

“キュキュッ”

 

ケビンに向かい一礼をしてから側に立つホーンラビット。ケビンはそんなホーンラビットの白玉に向かい言葉を掛ける。

 

「白玉、悪いんだけどこいつら鍛えてくれる?なんか親子のドラマを見せられちゃって討伐する気が失せちゃったんだよね。

おいそこの熊、お前たちに選択肢をやる。一つはこの場で俺に親子そろって討たれる。もう一つは・・・」

ケビンはそこで言葉を切ると腕輪収納から一つの壺を取り出した。

 

「このキラービーの蜂蜜を取引しているオークの下で従業員として働く事。

給料はそこで扱ってるこのキラービーの蜂蜜でどうよ?」

 

“トコトコトコトコ、チョコン”

 

先程まで母熊に寄り添い心配気にその顔を舐めていた小熊が、まるでそんな事は無かったとばかりにケビンの前にやって来て腰を下ろし従属の態度を示す。

憐れ母熊、彼女の戦いとは一体。ってお前も従うんかい!

契約は・・・別にいいか。

俺は熊たちそれぞれにキラービーの蜂蜜入りの壺を渡し、白玉にこの二匹を鍛えるように指示を出すと、左手の指輪を向けて<ホーム>と唱えるのでした。

 

「えっとブラッキー君、少しは参考になったかな?」

“ガウッ♪”

「なら良かったってザルバさん、どうかなさいましたか?」

 

「いや、うん、ケビン君はケビン君なんだな~と思っただけだよ。

ハハハ、本当にケビン君が言った通り、村から外に出ると色々あるんだね。ケビン君が村から出たくないって言った意味が少しだけ理解出来た気がするよ」

 

ザルバさんはそう言い乾いた笑いを浮かべた後、カバンから取り出した胃薬の錠剤を、水筒の水と共に口に流し込むのでした。

 




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