転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第176話 闇属性魔導師、ミルガルの街に到着する

「次、身分と目的を告げよ!」

 

グロリア辺境伯領北西部最大の都市ミルガル。そこはグロリア辺境伯領北西部周辺地域からばかりでなく、他地域からも多くの人や物が集まる交易都市。

この街に集まった物が他地域や他領へと流れ、他地域や他領から送られて来た物が周辺地域に広がって行く、そんな集積地。

春の訪れと共に動き出した経済は、交易都市に多くの流れを生む。

街門前ではその為に集まって来た行商人や旅人を相手に、数多くの屋台が並んでいる。

あ、肉串の屋台。確かジルバさんだったかな?前にゼノン精肉店のオヤジさんがそう言ってたような。

 

「ザルバさん、ちょっと買いに行って来ますね」

俺はザルバさんに一言断りを入れ、肉串の屋台へと走るのでした。

 

 

昨日はそれなりに大変であった。

オークの森で出会ったワイルドベアは魔物としては強い部類であり、目撃したら注意喚起を行わなければならない凶暴な魔獣であった。森を抜け、次の村であるホドマリ村で宿を取った俺たちは早速その事を宿の女将さんに報告、驚いた女将さんに引っ張られる様にして村長宅まで向かい事の詳細を説明、村長がしたためた書状をミルガルの門番詰め所にまで届けるお使いを頼まれてしまった。

でもまぁこの辺は旅人のマナーと言いますか、お互い協力し合わなければならない部分ですからね~。凶暴な魔物の情報は広く共有、これは魔物蔓延るこの国の常識です。

 

えっ?でもワイルドベアいないじゃん?お前が指輪に閉じ込めたんじゃないのか?

そうだね、今頃白玉に特訓を受けてるね。

でも言えないでしょうが、そんな事話したら冒険者ギルドミルガル支部ギルドマスター“白銀のエミリア”が何言って来るのか分からないでしょうが。

かと言ってあの場にはワイルドベアが出現した痕跡がバッチリ残っている訳で、報告をしないのも変って事になっちゃう訳なんですよ。

これで何か被害が広がっていれば討伐依頼って事になるんだけど、その辺は分からないので情報収集も兼ねホドマリ村で宿屋の女将さんにお話ししたって訳です。まぁ村長の所に引っ張って行かれるとは思いませんでしたが。

 

それでホドマリ村で一泊、久々のベッドに全員ぐっすり。やっぱり野営をしないで済むのって心身共に休まりますね。夜番に起きないでいいって言うのが最高、食事も上げ膳据え膳ですしね。

だからケイトさん、そんな目でこっちを見ない。ケビンのスープの方が美味しいだなんて言わないの、宿のご飯だって美味しいんだから。

ケイトが表情の読み取りづらい子で良かったって思える唯一の瞬間は、こうした点ですね。ケイトさん自分に正直だからな~、文句を言いながらも黙って全部食べるあたりは偉いと思います。

ザルバさんがこっちを見て感心した様な顔をなさってますが何故なんでしょうか?その辺がちょっと分からないです。

 

そんで早朝、他の宿泊客が街門の開門に合わせ急いで出発する中、のんびりと宿で朝食を頂き、焦ることなくゆっくりと街門までやって来て検問の行列へと並んだって訳です。安全第一、変に急いで事故でも起こしたらそれこそ大変ですからね、その辺の時間ロスは確り旅の行程にも組み込んでございます。

それで本日はミルガルに宿泊、ゾイル工房にも顔出ししないといけませんしね、時間に余裕を持たせているって訳です。

 

“ジュ~~~~~~~”

 

「肉串の屋台から聞こえる肉の焼けるメロディー。炭火で炙られたそれは内包する肉汁をぽたりぽたりと真っ赤に燃えた炭へと垂らし、心地よい音色と共に香ばしい香りを辺り一面に広げて行く。

これはもはや肉のコンサート、オヤジさん、アンコールだ、肉串二十本頂戴!!」

 

「はいよ、坊主、ちょっと待ってな。って言うか何で坊主は屋台の前で肉串の素晴らしさを朗々と歌い上げてるんだい。もしかして吟遊詩人とかって奴かい?

あの連中は酒場で勇者様や冒険者の英雄譚を歌ったり、恋物語を歌にするもんだとばかり思っていたんだが、坊主みたいに肉の歌を歌う奴もいるんだな」

 

何か肉串屋台のオヤジさんからとんだ勘違いをされてしまいましたが。

「もしかして俺口に出してました?」

 

「はぁ?無意識だったのか?授けられた職業とは言え難儀なもんだな。

周りを見てみな、坊主の歌声につられてお客さんが集まって来ちまった。

お客さん方、ちょっと待っていてくれや。いまこっちの坊主の注文を焼いてるからよ」

 

そう言い肉串の焼け具合を見ながら串肉の準備をするオヤジさん。その手に握られた包丁には美しい波の様な波紋。

「おやじさん、もしかしてその包丁って・・・」

 

「ん?あぁこれかい?最近出来たゾイル工房って言う包丁やらナイフやらを専門に作る鍛冶工房で購入した逸品よ。

切れ味が最高でな、肉を押し潰さないから旨味をぎゅって閉じ込めてくれる。これを使っちまったらもう以前の包丁には戻れないって程の品さ。

街門を入ってすぐの肉屋のおやじに教わったんだが、大正解。本当にいい事を聞いたもんだよ」

         

おぉ~、こうやって街の人にゾイル工房の刃物が受け入れられてる姿を見ると、何か感慨深いものがありますな~。これはゼノン精肉店のオヤジさんにも良くお礼を言っておかねば。

 

「そうそう、そう言えば冬に入ってすぐ位にエルセルの街で大きな取り締まりがあったって聞いたんだけど、何でもミルガルの教会の司祭様と冒険者ギルドのギルドマスターが大活躍したって話じゃないですか?

こっちではなんか噂になってなかったの?」

 

俺の言葉に瞳をきらりと輝かせたオヤジさん、どうもこの話は鉄板ネタになっていた様で、得意満面に語って聞かせてくださるのでした。

 

「地下室に追い込まれるも子飼いの盗賊たちを使い最後の抵抗を試みる悪徳商人。だが多くの冒険者たちの攻撃を前に一人、また一人と打ち取られて行く。

 

“さぁ、これで終わりだ、観念しろ”

そんな冒険者の呼び掛けに、不敵な笑みを浮かべる悪徳商人。

 

“何を言うかこの強盗ども、勝手に押し入り部下を殺したその所業、必ずや監督官様に裁かれる事だろう。貴様らが正義を語るなら証拠を見せろ、証拠を!!”

剣の前に自らを晒し強い眼光で睨みつける商人の言葉は、冒険者たちを怯ませるには十分であった。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

睨み合いの続くその場に足音を響かせやって来たのは、冒険者ギルドミルガル支部ギルドマスター“白銀のエミリア”。彼女は部屋の中を軽く見回すと壁際に向かい腰のサーベルを抜き打った。

 

“スタン、スタン、スタン、スタン、スタン”

それは瞬間、振るわれたサーベルにより切り刻まれた壁、音を立てて崩れ去ったその壁の向こうには囚われ攫われて来た多くの女性と子供たちの姿が。

 

“そんな、魔方陣で強化された鉄の扉をいとも容易く”

驚きのあまり口を開けたまま固まる悪徳商人。

 

“これがお望みの証拠です。この者を領兵の下に連れて行きなさい”

ギルドマスター“白銀のエミリア”により白日の下に晒された悪徳商人の所業。

こうしてまた一つ悪が倒されたのであった~~~!!」

 

“パチパチパチパチパチパチパチパチ”

いつの間にか集まった多くの聴衆から送られる拍手、そしてオヤジさんに飛ぶ肉串の注文。

「イヤイヤ、オヤジさん、オヤジさんの方がよっぽど吟遊詩人だからね、本職顔負けだからね」

 

俺は恥ずかしそうに頭を掻きながら二十本の肉串を差し出すオヤジさんにお金を払い、繁盛する肉串屋台を後にするのでした。

 

 

「やっぱりエルセルの街の騒動は結構な噂になっているみたいでした。それとゾイル工房は大分街に溶け込んでいる様です、屋台のオヤジさんが包丁の切れ味を絶賛してましたから」

 

カバンから自作の陶器の皿を四枚取り出し、肉串を五本ずつ並べそれぞれに差し出す。

焼き立ての肉の旨味に顔をほころばせる(顕微鏡レベル)ケイト、その姿を嬉しそうに見詰めるザルバさん。

 

「ブラッキーの分は今串を取ってあげるから待ってなさいね」

俺の言葉にお座りをしてその時を待つブラッキー。嬉しいのは分かるけど尻尾をパタパタし過ぎ、埃が立つから止めなさい。

その後も軽い雑談をしつつ肉を頬張るマルセル村の一行。ズルズルと進む検問行列に、自分たちの順番を気長に待つしかない俺たちなのでありました。

 

 

「次、身分と目的を告げよ」

 

街門での検問は特に問題なく、門兵様にホドマリ村の村長さんに頼まれた書状を渡し、オークの森で見た熊さんの話を報告。従魔であるブラッキーが警戒される場面があったものの、首から下げた従魔鑑札はしっかり仕事をしてくれました。

そんでその足で向かった先はと言えば。

 

「へい、いらっしゃい。お客さん方は外から来たって事は買い取りだね?一体どんな獲物を仕留めて来たんだい?」

そう、ゼノン精肉店ですね。

 

「オヤジさんお久し振りです、マルセル村のケビンです」

 

「ん?あぁ、例のフォレストウルフの。お、後ろに控えてるのはってなんか以前より大きくなってないか?迫力が増してる様に見えるんだが」

 

「あぁ、分かります?この冬で一段と大きくなりまして。ウチってビッグワーム干し肉で有名なマルセル村なんで、お肉なら売るほどあるんですよ。まぁそうは言ってもビッグワームなんですが。

でも従魔にはあまり関係ないみたいで、すっかり大きくなったんですよ。

前に冒険者ギルドに従魔登録に行った時に若い個体って言われたんですけど、確りとした大人の個体ってこんなに大きいんですね、俺ビックリしました。

育てて見て初めて分かる魔物の生態、美味しい餌と豊富な魔力、魔物ってどこまで大きくなるんでしょうね」

 

「ハハハ、まぁいくら大きくなるとは言ってもそれ以上は大きくならないと思うけどな。それで今回の獲物は何なんだい?この時期だとグラスウルフって所かな?」

 

「季節的なところから旅人が持ち込む獲物をズバリ言い当てるオヤジさん、流石です。で、結構な量になるんですけど、どこに出したら良いですかね?」

俺の問い掛けに“あぁ、例の収納か。”と得心が行くオヤジさん、話が早くて助かります。

 

「それじゃこっちの倉庫に出してくれ、持ち込みの魔物を検分する場所になる。床に並べてくれればいい。」

 

オヤジさんに案内されたのはこないだの解体場とは別の倉庫。通常はこっちの倉庫に運び入れてから分類し、順番に解体場に送るらしい。

俺は並べて行きますねと声を掛けてから一体一体丁寧に並べて行くのでした。

 

「ちょ、ちょっと待て。ケビン君、一体何頭狩って来たんだ!?」

オヤジさんからストップが入ったのは三十体目を並べた時でした。

 

「えっと、残り二十体くらい?ちょっと数は確認してなかったんですよね」

俺はそう言い再び並べ始めようとすると、“一旦こっちは解体場に運び入れるから少し待ってくれ。”と言われてしまいました。

まぁ冷静に個人が持ち込む頭数じゃないわな、これ。でもな~、来る奴来る奴みんなケイトが倒してたんだよな~。殆どクレー射撃状態、いい練習になった様です。

普通はこうならない様に魔物避けの臭い袋を用意したりホーンラビットの角をお守りにしたりするらしいんだけど、ウチらは逆に野営地で旨そうな匂いをばら撒いてたもんだから、ウルフさん方が来る来る。夜の獲物はブラッキーの影魔法の練習用、結果大漁となったって訳です。

で、最終的に五十四体でございました。お二人とも頑張った頑張った。

いや~本当、春先の移動は物騒ですよね~。

 

「イヤイヤイヤ、いくら春先でも普通こんなにいないからな、この数が出現したら領兵による討伐隊が組まれるからな?ケビン君は魔物避けの臭い袋とか用意しなかったのか?」

 

「あ~、今回はこっちのケイトの領都学園入学付き添いだったもんで、移動がてら魔法の訓練を行ってたんですよ。魔物を避けちゃったら訓練にならないじゃないですか?ですんでそう言った事は一切してないんですよ」

 

俺の返答に呆れ顔になるオヤジさん。まぁそんな顔をしながらも確り査定してくれるところはプロのお仕事ですね。

 

「ほとんどが頭部への一撃ってすさまじいな。こっちの十五頭は特に状態が良かった。肉の質に関してはどれも同じくらいの良品だな。春先のグラスウルフは冬眠明けだから痩せててな、この辺は仕方がないんだよ。

査定だがこっちの三十四体は一体に付き銀貨二枚、こっちの二十体は銀貨一枚と銅貨七十五枚だな。全部で金貨一枚と銀貨三枚になるがどうかな?」

 

おぉ、結構な稼ぎになりましたな。ま、冒険者だったらこれに討伐報酬とか付くんだろうけど、それに伴う面倒事が厄介ですからね。

 

「それでよろしくお願いします。

それと以前お願いしたゾイル工房の件ですが、その後どうですかね?街門外の肉串屋台のオヤジさんは、ゾイル工房の包丁をいたく気に入ってくれていたみたいでしたけど」

 

「あぁ、フレムさんの刃物は大人気だぞ。ウチでも使ってるが、切れ味が最高でな、肉の質が上がったって評判なんだよ。やっぱりいい仕事をするには道具選びが重要だよな。あれは手放せないわ。

俺も知り合いに勧めて感謝されてるよ、いい職人を紹介してくれてありがとうってな」

 

「なら良かったです、その後どうなったのか心配だったんで。

折角なんで後で訪ねてみる事にしますよ」

 

「あぁ、そうしてやってくれ。フレムさんも喜ぶと思うぞ」

 

ミルガルの街に新たに工房を構えたゾイル夫妻は、確りとこの街の住民として受け入れて貰えたようです。

俺たちはオヤジさんと従業員の皆さん方によくお礼を言い、ゼノン精肉店を後にするのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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