転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

178 / 860
第178話 村人転生者、冒険者ギルドで従魔登録を行う(三回目)

“ガヤガヤガヤガヤ”

 

冒険者ギルド、そこは戦士たちが集う場所。

魔物蔓延るこの世界において、人々は日々危険に晒され怯える暮らしを余儀なくされる。そんな力なき人々を魔物や盗賊の脅威から守り、ときには剣となり時には盾となって戦う者達、それが冒険者。

そんな高潔で命知らずの者達が集まる、それが冒険者ギルドでありここミルガルの誇り。

 

「なぁシャロンちゃん、今日の仕事は何時ごろ終わるんだい?良かったら俺と食事でも」

 

「はい、冒険者パーティー<山男達>様、無事依頼を完了されたことを確認いたしました。こちらが今回の依頼報酬大銀貨三枚と銀貨五枚です。

でもせっかくの依頼報酬を一晩で使い切ったりしたらダメですよ?生活力の無い男性って思われちゃいますからね?」

 

「お、おう。俺だってちゃんとその辺は考えてるさ。この仕事は身体が資本だからな」

 

「流石パーティーリーダーのロイドさんです。冒険者ギルドではお預かり業務も行っていますから、七番受付に行ってみてください。リーダーさんって頼もしいですね」

 

「おうよ、仲間の事を考えて資金をやり繰りするのもリーダーの仕事だからな。七番受付だな、ありがとうよ、シャロンちゃん」

 

「次の方どうぞ~」

 

明るく快活な受付嬢、確りとした活動計画を立てる冒険者パーティーリーダー。

 

「てめえふざけんな、この依頼は俺が先に目を付けていたんだよ!」

 

「はぁ?あんた馬鹿?依頼ボードの依頼は早い者勝ち、張られた依頼票を受付に持って行き受理される事で依頼が開始する。そんな事入り立ての新人でも知ってる事でしょうが。

で、あなたの手元にその依頼票はあるの?私が今持ってるのはそこの依頼ボードから取って来た物なんだけど?あんたから奪った訳でもないんだけど?

私これでも忙しいの、どいてくれる?」

 

「うるせえ、俺が目を付けていたって言ってんだよ、さっさとその依頼票を寄越しやがれ!」

 

「まぁ怖い、ここに居直り強盗がいるわよ。誰か衛兵を呼んで来て~」

 

「なっ、ざけんなよ!模擬戦だ、模擬戦で決着を付けてやる。手前も冒険者なら逃げるんじゃねえぞ!」

 

「はん、女だからって舐めてるのはアンタでしょうが!上等よ、暫く仕事できない身体になっても文句は言わないでよね」

 

互いに切磋琢磨し実力を高め合っていく冒険者たち。

 

・・・高潔とは一体。

ザルバさんとケイト、ブラッキーには荷馬車で待機して貰ってよかった。こんなんカオスじゃん、どこの場末の酒場?って状態じゃん。

あ~、静かな場所で本部長様から頂いた緑茶を啜りたい。

 

俺はさっさと要件を済ませこの魔窟からオサラバする為に、二人しか並んでいない六番受付の列につくのでした。

ん?他の受付嬢?なんかまちまちですけど少なくとも五人、多い所は十五人ほど並んでるかな?

ここってアイドルの握手会会場か何かなの?仕事に来てるんじゃないの?意味解らん。

 

「すみません、一階解体所受付で従魔登録審査をして来ました。これが審査証明書になります、登録をお願いします」

 

「どれ、ホーンラビットか。坊主は新人テイマーって所か。ん?お前さん前にも従魔登録に来てなかったか?確か女の子の付き添いで。」

 

「はい、冬の授けの儀の時に。お陰様で俺もテイマー系スキルを授かりまして。

それでこいつがホーンラビットの白玉です」

そう言い床に控えていた白玉を掴み受付職員に見せる俺氏。受付職員さん、白玉の大きさと毛並みの美しさに驚いていらっしゃいます。

 

「また随分立派なホーンラビットを従魔に出来たもんだ。ホーンラビットは森の悪魔と呼ばれるほどに鋭い突進力を持ってるからな、テイマー成り立ての従魔としては悪くない選択なんじゃないか?例のデカいのは悪目立ちするからな。

だが馬鹿は何処にでもいる、十分気を付けるんだぞ?」

 

「はい、ありがとうございます」

俺は従魔登録料の銀貨一枚を支払い従魔の鑑札を貰うと、いそいそとその場を後に「小僧、どこ行きやがった!模擬戦だと言っただろうが、何で直ぐに来やがらねえ!!」・・・出来なかった様です。

 

俺はなるべく身を低くし、白玉と共にこっそり「お前だお前、そこのウサギと一緒にいるお前!大体街にホーンラビットなんか引き入れやがって、今すぐ討伐してやる!」

 

「・・・えっと受付職員さん、あちらの方、あんな事を仰ってますがよろしいんですか?白玉の従魔登録は終わってるんですよね?あれって犯罪じゃないんですか?

しかも剣を抜いてるんですけど、衛兵さんを呼んでくれません?」

 

何か勝手にヒートアップする脳筋冒険者、そして周りを取り囲み面白そうな余興でも見るかのようにヤジを飛ばす周囲の冒険者。受付職員さんは額を抑えながら警備の職員を呼んでくださっています。

 

「一体何事ですか?」

 

ざわめきが止まる。周囲を取り囲んでいる冒険者の視線が、声のした方向に向けられる。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

 

その人物は靴音を響かせながらゆっくりと近付いて来る。

 

「これは一体何の騒ぎですか?ロイド、あなたは一部始終を見ていましたね?説明してください。」

 

威厳のあるその声は、どこか愉悦を含みつつ受付男性職員に状況の説明を求めた。

 

「はい、ギルドマスター。先程こちらの少年が従魔登録を済ませギルドを後にしようとしたところ、そこの冒険者が難癖を付け模擬戦を挑んだ。その過程で剣を抜き彼の従魔に切り掛かろうとした、そう言った状況であると見受けられました。

冒険者ギルドとしては基本ギルド会員同士のいざこざは本人同士で解決する事を推奨していますが、ギルド受付の場での抜刀は論外、警備職員により捕縛の上衛兵事務所に付き出すのが妥当と考えます」

 

男性受付職員さんは事態を冷静に観察、その上で適切な判断を下してくださいました。

ですがその話を聞くべき上司はオーク掃討前で気分が高揚しているいたずらっ子“白銀のエミリア”、このままタダで済むとは・・・。

 

「話は分かりました。そちらの冒険者は危険なホーンラビットを従魔と言って街に持ち込む事が許せない。そう言う事かしら?」

 

「そ、そうだ!です。ホーンラビットは危険な魔物なんだ、いつ街の人間が襲われるかなんて分かったもんじゃない。すぐに討伐すべきなんだ」

 

冒険者からの話を聞き仲裁者面をするギルド長。だが普段からほぼ変化の無いケイトの表情を読み取ってきた俺にはよく分かる。あのギルド長、楽しんでやがる。

 

「そうですか、分かりました。それではこうしましょう。互いに冒険者同士、模擬戦で決着を付けましょう。審判には私が付きます、命の心配はない事をお約束しましょう」

 

「よっしゃ~、模擬戦だ~、お前らどっちに賭ける?」

 

途端盛り上がりを見せるギルド受付ホール。脳筋馬鹿冒険者は“もう逃げられると思うなよ、そのウサギもろともずたずたにしてやるからな”と言って多くの冒険者を引き連れ受付ホールを出て行くのでした。

 

そんな彼らを見送った後、俺は六番受付の男性職員さんに礼をし、そのまま出口へと「ちょっとお待ちなさい、どこへ行こうと言うのですか?訓練場は向こうですよ?」

 

そう言いその場に残るギルド長“白銀のエミリア”が指差すのは、先程多くの冒険者が向かったギルド出入口とは別の扉。

 

「えっと、従魔登録も終わった事ですし帰ろうと思っただけですけど、何か御用ですか?」

俺はさも不思議そうなキョトンとした表情で聞き返す。

 

「あなたは何を言ってるのですか?先ほどまでのやり取りを聞いていなかったのですか?これから冒険者ギルド長である私の審判の元模擬戦を行う、そう言う話になっていたではありませんか」

 

何かギルド長様が訳の分からない事を仰られておりますが?なぜ俺がそれを受けないといけないんです?

 

「俺別にどうでもいいんで、帰らせてもらいますね」

そう返す俺に、明らかに不機嫌になるギルド長。

冒険者なら実力を示して意見を主張するのが当然、その腰の得物は飾りじゃない。

なるほど、冒険者って大変なんですね、それじゃ俺はこの辺で。

 

「待ちなさい、あなたはそれでも冒険者ですか!冒険者ギルド資格を失ってもいいというのですか?」

 

“ピタッ”

俺はそこで一旦足を止める。このギルドマスターは一体何を言っているんだろう。

俺の態度に余裕を取り戻したギルド長は言葉を続ける。

 

「ギルド長にはその者が冒険者に相応しくないとして冒険者になる事を禁止する事の出来る権限があるのです。俗に言う“ギルド資格剥奪”ですね。これは特別な魔道具を使い対象となった者の魔力紋を計測、全てのギルド支部で共有する事でどこに行っても再登録が出来なくなるという厳しい措置です。

荒くれ者の冒険者たちがギルド職員の言う事を素直に聞くのもこの資格剥奪を畏れての事、あなたはまだ成り立ててその事を深く理解していなかったみたいね。

さぁ、それが分かったら素直に訓練場に向かいなさい。私が審判をするのです、やたらな事にはって何処に行こうと言うんです、本当にギルド資格を失いますよ?」

 

そう言うとギルド長は懐から小型端末の様なものを取り出しました。

 

「今この端末にあなたの魔力紋を登録しました。後はここのスイッチを押すだけです」

 

冒険者ギルドの受付ホールに広がる緊張した空気。少年とギルド長の間に静かな何かが流れる。

 

「俺には関係ないです、失礼します」

そう言い踵を返し、受付ホールを去ろうとする少年。

 

「分かりました、それがあなたの答えなのですね。その決意、評価に値します。では私も冒険者ギルドの長としてその想いに応えましょう。先程の冒険者と周りの者には私からこの決定を伝えましょう。彼らもそれで納得するでしょう」

 

冒険者ギルドミルガル支部ギルドマスター“白銀のエミリア”は彼女の名声や立場にもひるまず己の意見を貫き通した少年に敬意を表しつつ、ギルド資格剥奪の決定スイッチを押すのでした。

 

扉の手前、冒険者ギルド受付ホールを今にも出ようとしていた少年は足を止め、不意に後ろを振り返る。

「あの、一つだけお聞きしてもいいでしょうか?今のギルド資格剥奪って各ギルドマスターの権限で解除なんて出来ないんですよね?」

 

「そうね、ギルド総本部に行かないと無理ね。もしくはギルド総本部から本部長様以上の方が来られて、王都のオーランド王国冒険者ギルド本部で解除を行うしか方法はないわ。これはそれだけ重い決断なの」

 

「それってまだ冒険者登録をしていない人間でも適用されちゃったりするんですよね」

そう言い少年が懐から取り出したギルドカード。それは薬師ギルドの見習いギルド会員であることを示すもの。

 

「いや~、よかったですよ~。まだ授けの儀が終わったばかりの正規の会員にもなれない様な者を模擬戦と称して現役冒険者と戦わせようとしたり、ましてや冒険者でもない者に模擬戦を強要するような組織に属さないで済むんですから。

では皆さん、お仕事頑張ってください。

それと先程の冒険者さんにはよくよく言っておいてくださいね、街中で絡んで来たり襲ってきたりしたら完全な犯罪者ですよって。街の住民や旅人を襲う様な冒険者がいるだなんて怖いですよね、まるでエルセルの街みたいです。

このミルガルの街もグロリア辺境伯様に粛清されちゃうんですかね?

それじゃ、失礼します」

 

そう言葉を残し階段を下りて行く少年。

 

「急に書類仕事を抜け出したと思ったら、一体何をやってるんですかギルド長!!

まだ冒険者登録もしていない授けの儀が終わったばかりの者に対しギルド資格剥奪!?

王都の本部から監察官が派遣されるのは確実じゃないですか!!

私は一切庇いませんからね、ご自分で何とかしてください!」

 

またギルド長が悪さをしていると聞き急いで受付ホールに飛び込んだ副ギルド長は、事の詳細を聞きあまりの事態に頭を抱えつつ、一切の対応を放棄する事を宣言するのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。