転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第179話 村人転生者、ミルガルの教会を訪れる、再び

ミルガルの街の大通りは沢山の馬車や荷馬車、多くの人々が行き交い、街の喧騒を作り出している。その顔は皆どこか笑顔で、春の訪れを心から喜んでいる様であった。

冒険者ギルドの建物を後にしたマルセル村一行は、本日の宿泊予定の宿ブラックウルフの尻尾亭に向かう前に、領都グルセリアまでの旅の安全を女神様に祈る為ミルガルの教会に向かっていた。

 

「ケビン君、先程は一人で従魔登録をしに行っていたけど大丈夫だったのかい?何か解体所受付で私たちに絡んできた冒険者がウロウロしている姿が見えてね、幸い荷馬車の方には近寄って来なかったんだが、受付カウンターのある二階に向かい階段を駆け上がって行ったものだから心配になってね」

 

荷馬車を操作しながら声を掛けてくれたザルバさん。

「まぁそうですよね、どうも冒険者と言った人たちは見た目で判断するところがあるのか、自分よりも小さい者、筋肉の少ない者、女性と言った対象に絡んで行く習性があるみたいですからね。

本当はザルバさんが一緒にいた方が牽制にはなるんでしょうが、ブラッキーとケイトが。冒険者をする様な人間って基本好奇心の塊だったり、自己主張が強かったりするんですよ。良いにつけ悪いにつけぐいぐい自分を押し付けて来る。

ケイトはそんな感じの人間は苦手だろうし、ブラッキーは取り囲まれて大変な事になりますから。

俺と白玉なら気配を薄くする事も出来ますしね、見つかっても所詮はホーンラビットですから。

 

まぁそれでも絡まれちゃったんですけどね、“模擬戦だ~!!”とか言って騒いでましたよ。冒険者ってお祭り好きと言うか暇人と言うか、なんか楽しそうにしてましたね」

 

「えっ、大変じゃないか。それじゃってケビン君なら瞬殺か、何の心配も無かったな」

そう言い何故か得心が行った顔になるザルバさん。

 

「イヤイヤイヤ、やる訳ないじゃないですか、皆さん揃って訓練場とやらに向かったんで無視して出て来ちゃいましたよ。大体何で俺がそんな事をしないといけないんです?戦闘狂でもあるまいし馬鹿馬鹿しい」

そう言い俺が然も心外ですと言う顔を向けるとなぜか引き攣った顔になるザルバさん。解せん。

 

「ま、まぁケビン君だしそうなるか。そうか~、無視して出て来ちゃったのか~。そうなると冒険者連中がバカにされたとか言って騒ぎだすんじゃないのかい?」

ザルバさんが心配そうに聞いて来ます。

 

「その辺は大丈夫です。ギルド長のエミリアさんが現場におられたんでその辺はきっちり言い含めておきましたから。

それでも絡んできたらねぇ、それはそれって事で」

そう言いニッコリ微笑む俺氏、そして何故か再び顔を引き攣らせるザルバさん。

 

「ハハハ、そうだね、そうならない事を祈ろうか、彼らの為に」

 

荷馬車は進む、カタコト音を立てて。ミルガルの教会はすぐ目の前に聳え立っていた。

 

ミルガルの教会、そこはこの街の財力を示すかの様に荘厳な雰囲気を漂わせている。

そしてその大聖堂の周りには多くの屋台が軒を連ねている。

そう、ミルガルの教会と言ったらこれ。

「お姉さん、ピタパンの肉野菜包みあるだけ頂戴♪」

 

「あら、坊やまた来てくれたのかい?あるだけって事は例のあれだね?でも丁度昼時だったからね~、十五枚しか用意出来ないけどそれでもいいかい?」

 

「あ~、それは残念。でもこういうモノは縁ですから仕方がないですよね。お姉さん、それじゃ十五枚お願いします」

 

「はいよ、ちょっと待っておいで」

 

そう言いサクサクとピタパンに具材を挟んで行くお姉さん、流石職人手慣れていらっしゃる。

 

「そう言えば坊やはこの前授けの儀に行くとか言ってなかったかい?どうだい、望みの職業は授かれたかい?」

 

次々と完成したピタパンを渡すお姉さんは、作業の手を止める事無く話題を振って来ます。これって授けの儀を終えた子供に対する会話としては鉄板ネタですよね。

「えっと俺は<田舎者>って言う結構便利な職業を授かる事が出来ました。なんか器用貧乏とか言われているらしいですけど、何でも出来るって凄く助かるんですよね」

 

そう言いニコニコ笑う俺に、最初訝しみの表情になったお姉さん。<田舎者>が世間的には外れ職業と呼ばれている事を知っているみたいです。

 

「<田舎者>と言えば何でも出来る代わりに本職には及ばないって理由で敬遠されている職業だったんじゃ。あぁ、坊やの住んでるのはマルセル村だったね、辺境の地マルセル村、何でも出来るに越したことはない。

確かにミルガルの様な人の多い街では役立たず扱いされるかもしれないけど、辺境だったらこれ程頼りになる職業も無い、なるほど納得。

そうか、<田舎者>の職業は開拓村や辺境で活きる職業だったのか。それは都会の者には分らないわ。はい、これが最後の一つ。

今日はおまけに上げれるピタパンがまだないから、一つ分おまけして十四枚分いただくよ」

 

「はい、一枚銅貨四枚だから全部で銅貨五十六枚、確認してください」

俺がそう言い銅貨を出すと、例の格子の付いた板に銅貨を並べ確認するお姉さん。

 

「はいよ、確かに五十六枚いただいたよ。ま、職業は人それぞれ、その職業で全てが決まるもんでもないさ。要は使う本人次第、坊やはその辺を良く分かってるみたいだし楽しんで行ったらいいさ。

またこの街に来たら寄っておくれ。坊やに女神様のご加護を」

 

俺はピタパン屋台のお姉さんに手を振り、その場を後にするのでした。

 

 

神聖な雰囲気の漂う教会の大聖堂の中は、幾人かの信者が女神様の像に向かい祈りを捧げている。

お昼の食事として頂いたピタパンの肉野菜包みはケイトさんに好評だった様で、次々にお代わりを要求なさり結局四枚ほどをぺろりと平らげてしまわれました。

あの身体のどこにそんなに入るのかと目を丸くしてしまいましたが、在りし日の記憶にあるフードファイターと呼ばれる猛者たちは割と細身の方が多かった様な。十キロ近いラーメンを食べきるって本気で意味が分からなかったもんな~。ケイトさんもそう言った部類になるんだろうか。

何ですかザルバさん、騎士団所属の女性騎士ならこれくらいあたり前だと、ケイトのお母さんはもっと食べる女性だったと。ケイトは両親共にフードファイターだったんですね、納得です。

 

ケイトさん、ザルバさんのモグモグタイムの後、教会に赴き大聖堂奥の女神様像の前で祈りを捧げる俺たち。

周囲はほどほどに人がいるもののそれほど混雑しているという程でもありません。

ケイト、ザルバさんは目を瞑り何か祈りを捧げていますが、ケイトさんや、ちゃんと旅の安全を祈って下さいね?“もうあまり時間がない、既成事実を作り上げるには・・・”とか不穏な単語が聞こえるんですが?

お願いですから真面目にやりましょう?

俺は床に膝を突き、両手を組んで女神様に祈りを捧げる。

“あなた様、ちわっす、酒屋のケビンで~す”

 

“遅~い、いつまで待たせるのよ~!!**#@様には怒られるしもう最悪。

あの方これ見よがしに感想を聞かせて下さるのよ?まるで夏の日差しのような力強さ、キラービーの野性味が濃厚な光属性魔力と溶け合いお酒の美味しさをより一層引き立ててって嫌がらせ?私はお預けを喰らったグラスウルフなの?

ケビン少年、私にも光属性マシマシカクテルをちょうだ~い!!”

 

“あ~、相変わらず神聖さの欠片も無い御方ですこと。まぁいいんですけど。でもその前に本部長様からお預かりした品があるでしょうが。そちら産のお酒。

最強生物がお気に召している様でしてね、こっちは死活問題なんですよ。

定期的にお届けしてお気を鎮めていただかないとですね~。

あんなのがウロウロした日には大森林でスタンピードが起きちゃいますからね?マルセル村なんて一瞬で滅んじゃいますっての”

 

“はいはい、話は聞いてるわ。ケビン少年の腕輪収納に送ればいいのよね、はい、完了。こっちから送るのは簡単なんだけど、そっちからだと一度女神様像を経てからじゃないと無理なのよね。アクセスポイントの関係なんだけどね”

 

“まぁ何事も手順は必要ですからね。一応本部長様にお渡しした物と同じ物を五つ用意しておきました。他の同僚の方にたかられたとか言って文句を言われても困りますから、ご自分の分はしっかり確保してお楽しみください”

 

俺はそう言うとゆっくりと目を開き周囲を確認する。

周りの人々はまるで時が止まったかの様に微動だにもせず、ケイトとザルバさんも熱心に祈りを捧げている様に見える。

 

“コトッ、コトッ、コトッ、コトッ、コトッ”

 

女神像の前に並べられた五つの壺。その全てが出そろった時、それらは淡い光に包まれ光の粒子となって姿を消すのでした。

 

“キャ~、これよこれ。どれどれ早速お味見を。$%&’()”#$%!!

なにこれ、前にいただいた光属性魔力マシマシ蜂蜜ウォーターよりも数段美味しいんですけど!?濃厚な光属性魔力が全身に染み渡って、まさに天上の味なんですけど!?”

 

“あぁ、今回の奴は対最強生物仕様ですからね。光属性魔法マシマシマシマシマシマシウォーターを使ってますんでそれなりの耐性がある方じゃないと危険?ほとんど攻撃魔法じゃね?ってくらい込めさせていただいております。

だってあのドラゴン、光属性系の攻撃魔法だったら幾らでも撃って来いって言うくらいなとんでも生物なんですよ?これ位しないとご満足いただけないじゃないですか。

キラービーの蜂蜜はアクセントですね、ジャイアントフォレストビーが芳醇な甘さとするとガツンと来る劇的な甘さ、でもそれだからこそこの濃厚な光属性にも負けないんだと思うんですよ。まぁこの辺は好みですかね?

で、そこにあなた様の忘れ物のお酒をブレンドしましてね。俺はまだお酒が飲めないんで味わっていないんですが、本部長様や最強生物には評判が良い様ですし、あなた様もお楽しみいただけるんじゃないかと”

 

“少年、いえケビン様、流石は職業候補に神級バーテンダーが現れた御方なだけの事はございます。堪能させて頂きました。

ですので是非これからも教会にいらした際は奉納の方を、何卒何卒伏してお願い申し上げます”

 

“おいおいあなた様、何畏まっちゃってるのさ。酒か?そんなにカクテルが欲しいのか?”

 

“はい、定期的に頂きたいです。こんなのあっという間に飲み干してしまいます、だって美味しいんだもん♪”

 

“だ~、残念な大人がいるよ、しかも存在が遥か上なのに残念さんだよ。

でもな~、その為に一々教会に通うのもな~”

 

“あ、それなら女神様像があって簡単な祭壇さえ作っていただければアクセス可能ですよ?ケビン君は闇属性魔力回収用の腕輪がありますから、神具の所持者って事で開通するはずです。

流石に回線が細いので授けの儀とかは出来ませんが、こうして会話するとか奉納品を受け取るとかは出来ますよ。元々女神様の像は下界の者とよりスムーズに交信を行うと言う目的で作られたモノですから”

 

う~わ、またまた人には話せない裏事情を知ってしまいましたよ。(涙目)

でもまぁ一々教会に行かなくてもいいって事は助かるし、マルセル村に女神様の祠を建てるのも悪くないかな?

俺はあなた様にお礼を言いつつ女神通信(神託とも言う)を終了するのでした。

 

 

「ザルバさん、ケイト、結構熱心に祈りを捧げているみたいだけど、そろそろいいかな?」

俺が声を掛けると瞑っていた目を開けこちらを向く二人、ザルバさんは旅の安全を(必死)、ケイトは何やら怪しいお願いを(私欲全開)それぞれ女神様にお祈りしていた様です。

 

お昼を過ぎ、教会には遠方から訪れた信者の方々が祈りを捧げに集まって来る。

俺たちは立ち上がり、場所を開ける様に聖堂出口へと向かった。

今夜の宿はブラックウルフの尻尾亭、あの従魔大好きなご主人、白玉を見たらどんな反応をするんだろうか?

俺は宿の美味しい食事を思い浮かべつつ、気持ちも軽く教会を後に「これはこれは、そこを行かれるのはマルセル村の方々ではないですか。無事に春を迎え再びお会い出来るとはなんと喜ばしい。よろしければお茶でもいかがですかな?」

 

ギギギギと軋み音がしそうなくらいぎこちなく声を掛けられた方に顔を向ける。

そこには大変良い笑顔のメルビン司祭様。その柔和な微笑みから覗く眼光は、“ちょっとお話し宜しいでしょうか?”と職務質問を掛けるおまわりさんの様に、絶対に逃がさないぞという決意が伺えるのでした。

 




本日一話目です。
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