「お久し振りでございます、ケビン君。昨年、授けの儀で領都に向かって以来ですね。あの時は色々と所用が発生した為ゆっくりとお話をする事も出来ませんでしたが、こうして無事に春を迎えお会いする事が出来たのも
ミルガルの教会奥の応接室、品の良いテーブルが設えられたそこにこの教会の長、メルビン司祭様に案内された俺たちマルセル村一行は、勧められるがままテーブル席に着いていた。
メルビン司祭様はにこやかな笑みを浮かべ、再会を祝して春の挨拶をくださってって目が笑ってないんすけど?その瞳に宿る“この野郎、嵌めてくれやがったな!”って言わんばかりの光は一体なんなんでしょうか?
「メルビン司祭様と言えばここグロリア辺境伯領の各教会を取り仕切る実質的な最高指導者と呼ばれる程の御方、その様な御方がまだ授けの儀を終えたばかりの成人にも満たない未熟者にその様なお顔を向けられては他の者に示しも付きますまい。
ここは穏便に事を運ばれて、あぁ、シスター様、こちらマルセル村で取れましたフォレストビーの蜂蜜でございます。まだ春先であまり量も取れませんが、よろしければお納めください。
それとどうでした?例の蜂蜜の飲み方は。中々良かったと、それは何より。司祭様も初日は領都の夜をお楽しみになられた様ですし、皆幸せ皆良しと言うことですかな?
アッハッハッハッ。
何ですか?皆さん頭を抱えられて?
頭痛薬でもお出しいたしましょうか?
俺ってこれでも村の調薬師様(ミランダさん)に、初級調薬師の称号を頂いた程の腕前なんですよ?
スキルを必要としない薬の調薬ならお任せください」
「ケビン君、そう言う問題じゃないから。司祭様、大変申し訳ございません。ケビン君はこう言う青年でして」
そう言いメルビン司祭様に深々と頭を下げるザルバさん。俺、また何かやってしまったんだろうか?
「ケイト、どう思う?特に問題なかったと、そうだよね、おかしな事は言って無いよね?
大人の社会は少年から青年に成り立ての自分には難しいです」
「だからそう言うところだよ!まぁ本当に口のよく回る、こっちの道を塞ぐ塞ぐ、何も文句が言えない状況を作るのはマルセル村村長代理ドレイク・ブラウン殿と一緒だな、おい。
俺も悪童やらなんやら結構色々と言われてるけど、ケビン君程じゃないからな?
何その交渉術、どこぞの大商人と会話しているみたいなんですけど?」
「えっ、俺がですか?またまたご冗談が上手い。俺なんて辺境の田舎者ですから~。職業だって<田舎者>だったんですよ?
もう女神様が御認めになる程の田舎者、そんな俺が大商人と同じだなんて、ナイナイナイ」
俺の言葉に“ブフォ、えっ、<田舎者>ってあの<田舎者>?器用貧乏の残念職業って言われる不人気職業の?それは何とも。”とか仰るメルビン司祭様。
うん、良い感じに同情されてるな。これなら変に敵愾心を与える事もない、ビバ・<田舎者>!!
「それはまぁ、頑張ってくれとしか。って違うわ、領都の一件だよ領都の。
流石に俺もただ領都に行って接待を受けるだけとは思ってなかったよ?報酬には対価が生じる事は当たり前の事だからな?
そりゃ“聖水布”には驚かされたけどよ、接待をする理由としては逆に納得したくらいだよ。あんなの一地方で抱えられる問題じゃない、ケビン君達が教皇様に丸投げした判断は間違っちゃいないさ。俺だってそうする。
利益よりも身の安全、中々出来る判断じゃないけどな、俺も感心したくらいだよ」
そう言いシスター様が出して下さったハーブティーに口を付けられるメルビン司祭様。
それでは俺たちも一つ。仄かに口に広がる甘い香り、早速蜂蜜を使って下さったんですね、ありがとうございます。
「これ旨いな、何か落ち着くわ。シスターちゃん、ありがとうね。
で、問題はその後だよ、なんだよエルセルの腐敗って。何で聖水布の話からそんな事になるんだよ、お陰で後処理がえらいことになったんですけど?決済処理の書類の山に囲まれて夢にまで出てくるんですけど!ケビン君は俺に恨みでもあるの?」
「ハハハハ、それこそそれは教会の問題では?孤児院を隠れ蓑に人身売買に協力しちゃ駄目でしょう、人として。
あちらの御方々はそんな細かい人の営みには口を出さない様ですけど、仮にも女神様をお祀りしているんですから。
女神様をも恐れぬ所業とはこの事では?
グロリア辺境伯領の実質最高指導者なんですから、その辺はねぇ。頑張っていただかないと。
シスター様、お茶のお代わりいただけますか?大変美味しくて、つい飲み干してしまいました」
「く~、人の痛いところをぐいぐい来るよこのお子様は。
まぁそんなこんなで、その実績もあって今度領都の教会に配置替えだとさ。
俺はここミルガルで、のんびり気ままにシスターちゃんと楽しい日々を過ごしたかったのに~!!」
「それはそれは、おめでとうございます。そう言う事ですと領都の前司祭様は無事に王都に?」
「あぁ、ケビン君の提案の通り教皇様の名代として王家や有力貴族との折衝役に就任なさったよ。今や枢機卿に最も近いとまで言われて有頂天だろうさ。
教皇様も飴の使い方がお上手でいらっしゃるからな」
「なる程、行き成り枢機卿にするのではなくそれを餌に馬車馬の様に働かせようと。周囲からの覚えめでたくなれば周りからのやっかみや疑いの声も押さえられる、上手いやり方ですね。これは俺も考えが及びませんでした、流石は王都で魑魅魍魎とやり合う教皇様、感服致しました。
ってメルビン司祭様とザルバさん、さっきからなんなんです?
ケイト、俺おかしな事は言ってないよね?周囲のシスター様方も何か優しい笑みを浮かべていらっしゃるじゃないですか、お二人とも変ですよ?」
「「イヤイヤイヤ、おかしいのはケビン君、君だからね?」」
何故かおかしな人物認定を受ける俺氏、とっても理不尽だと思います。
「色々楽しいお話をお聞かせ頂きありがとうございました。
領都ではこちらケイトが学園に通う事になっています。何かの機会にお伺いする事があるやもしれません、その際はよろしくお願い致します」
楽しい時間と言うものはすぐに経ってしまうもの、俺たちはメルビン司祭様に別れを告げ、本日の旅の宿“ブラックウルフの尻尾亭”へと向かう事にしたのでした。
去り際メルビン司祭様がザルバさんに、“大変だと思うが必ず良いこともある、頑張れ”と仰っていたのは何だったのでしょうか?
「あ、シスター様方、例の軟膏はこの度“天使の贈り物”と言う商品名で売り出される事になりました。
春の行商で領都モルガン商会の行商人ギース氏がお届けに上がると思いますので、そちらの使用感等をギース氏にお伝えいただければ助かります。
イエイエ、大したことではございません。こちらとしても使用される方々のご意見は貴重ですので」
俺がシスター様方と別れの挨拶を交わしているとジト目でこちらを見詰めるお三方。
ザルバさんはメルビン司祭様に“こう言う時はこの呪文を唱えるんです。<ケビン君だから仕方がない>”とか教えてるし、ケイトはケイトで“年上狙い?師匠とは協定を結ぶべき?”とか仰ってるし。
ほら、さっさと宿に向かいますよ~。
ブラックウルフの尻尾亭、今日のご飯はなんでしょか?
荷馬車は走る、カタコト音を立てて。俺のお腹は宿のご主人の作る料理に期待を膨らませ、“ぐ~~~”と盛大に声をあげるのでした。
「いらっしゃい、ブラックウルフの尻尾亭へようこそ。
ブラッキー君、久し振りだね、元気そうで何よりだよ。今日も腕によりを掛けて料理を振る舞わせて貰うよ」
“ガウッ”
「それとこちらは?あぁ、ケビン君がテイマー系スキルに目覚めたんだね。
それで白玉君と言うんだね、私はここブラックウルフの尻尾亭の主人だ、どうかよろしく。
それで君は何か食べたい物とか食べれない物はあるのかな?
ケビン君の食べるものと同じで構わないと、野菜は生が好きなんだね、それならサラダとかはどうかな?市場にも春物野菜が並び始めてね、新鮮な葉野菜が手に入ったんだよ」
“キュキュッ”
「そうか、ならよかった。
ケビン君達、よく来てくれたね、部屋は空いているよ。今日は三名様と従魔が二名様でいいのかな?」
・・・流石ご主人、従魔愛に溢れていらっしゃる。あの白玉が素直に敬意を払うって、凄いなご主人。
そして人より従魔最優先、その全くぶれない経営姿勢、素晴らしいと思います。でもちゃんと仕事もしたほうがよろしいかと、後ろから女将さんがオーガの形相でこちらの様子をご覧になられてますよ?
俺達はブラッキーや白玉に夢中なご主人に鉄拳を加えた女将さんの案内のもと、今夜宿泊する部屋へと向かうのでした。
暖かなベッドで目覚めた朝は、なんでこんなにも心地よいのでしょうか。お布団様最高。このケビンに初めてお布団の有り難さを教えてくれたブラックウルフの尻尾亭のベッドは、あの神具を知ってしまった今でも色褪せる事なく俺の心と身体を包み込んでくれる。
そのいつまでも覚めない温もりに・・・温もりにってここで何をしているのかな、ケイトさんや。
ゆっくりと掛け布団を捲ると、そこには艶やかな金色の髪をした美しい面立ちの少女がスヤスヤと寝息を立てて潜り込んでおられました。
「ん、もう朝?もう少し一緒に寝よ?」
掛け布団を剥がれた事で意識を覚ましたのか、眠そうな顔を擦りながら上目遣いでそう仰るケイトさん。
あざとい、めっちゃあざとい、どこでそんな技を覚えたし。
元助産師のセシルお婆さんに教わった?王都の淑女なら当然の嗜みだと。
こえ~よ王都、ジェイク君大丈夫か?王都は魔窟だぞ!?
俺は眠気も一瞬で覚め、さっさとお布団様から離脱するのでした。
だからケイト、舌打ちしない。“このヘタレ”ってそんな言葉を使っては行けません!お隣でザルバさんが涙をながされているじゃないですか。
“妻よ見てるか?ケイトはこんなにも逞しくなったぞ。”って止めよう?親ならここは叱る場面だからね?ケイトももう少し慎みを持とう?
領都に向けての旅は続く。
“この旅、俺は無事に辿り着けるのだろうか?”(精神的に)
攻勢が強まる戦場に、もとい、領都まで続く残りの行程に、一抹の不安を覚えるケビンなのでありました。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora