転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第183話 闇属性魔導士、学園入学の準備をする

「えっ、学園って制服なんてものがあるんですか?」

 

ガタガタと多くの馬車が走り抜ける領都グルセリアの大通り。行き交う人々の顔は皆明るく、商店の店主は大きな声を上げ客引きを行っている。

そんな喧騒漂う街並みの片隅を、俺達マルセル村一行はここ領都でも一番と謳われる大商会モルガン商会に向け歩を進めていた。

 

「そうなんだ。これは元々は王都の所謂上級学園と呼ばれるところで始まった仕組みでね、ケビン君も大好きな剣の勇者様が王家主催の晩さん会に呼ばれた際に王都学園の思い出話になってね。

その中で“学生の頃の心残りと言えば制服が無かった事、女子生徒の可愛い制服姿が見たかった”と言った事が始まりとされているんだ。

ケビン君はもうすでに理解していると思うが、学園とは有益な職業を授かった者を貴族が囲い込む為の言わば顔合わせの場所。貴族側からすればそうした有力な職業を授かった者達の意見に耳を傾けない訳には行かない。

それに服装が統一されていると言う事はその事によっての差別化が生まれにくい。つまり貴族間の流行合戦を行わないで済む。

これは人材勧誘に力を注ぎたい彼らにとってはありがたい話でもあったんだ。

副次的に貴族が親しみ易くなったとして勧誘が上手くいく事例が増加した事も、この流れを決定付ける事となった。

そうした中央の動きはすぐに王都の二大学園や各地域の領都学園にも波及した。

切っ掛けは剣の勇者様ではあったが、学園の制服とはこうした貴族の様々な事情から生まれたものなんだ」

 

剣の勇者様~~~!!またあなたですか~~~!!

オーランド王国の歴史にちょいちょいその痕跡を残す剣の勇者様、軍事国家でもあるまいしなんで学生が制服と思いきや転生者が知識チート?趣味?をぶち込んだ結果でした。

 

「まぁそれでもこの制服と言うものが優れていてね、ある種の魔道具になっているんだよ。ケビン君は魔法使いのローブと言うものを知っているかな?

魔法職の人間が好んで着用する装備なんだが、これは魔法に対する耐性が込められた魔道具になっている。

学園では授業の一環で対人戦、魔法による模擬戦も行われる。その際直ぐに倒れてしまっては訓練にならないだろう?その為制服には各種耐性の魔方陣が付与されているんだよ」

 

「えっ、なんですかその贅沢装備は!?そんなの幾らするんですか!?金貨が必要じゃないですか、一般平民なんか払えませんよ?」

あまりの話に驚き、声を荒げる俺氏。だってそんなの平民が買える訳ないじゃん、聖水布もびっくりな逸品じゃん。

そんな俺の様子にザルバさんは苦笑しながら話しを続けた。

 

「まぁそうだな、貴族でも貧乏貴族と呼ばれる人たちはかなり苦労をすると言われているからな。その為多くの地方貴族が派閥と呼ばれる集団に属し、その派閥の長、寄親からの資金援助を受けていると聞いているよ。

有力貴族にとっては自分の派閥の結束を強める手段の一つにもなっているな。

一方平民は学園に入学すると言ってもそんな資金を行き成り用意出来るはずもない。そこで学園側から制服を貸し出す、借与すると言う形で対応する事になったんだよ。

要するに古着となるんだが、そこは裁縫師の職業持ちが各人の体格に合わせ型を変更してくれるから問題はないんだ。

そして貴族たちは古着を着ると言う事はあまりしない。家族間での譲り渡しはあるものの、基本的に他人の古着を着る事は彼らの誇りが許さない。見栄は彼らの生き方そのものだからね。

そうした貴族の古着は卒業後学園に寄付されると言うのが通例でね、平民用の制服は潤沢に用意されているのさ。

 

ただし内に着るシャツなどは各自負担になるが、その辺は学園が資金貸付を行っていて申し込めば学園の購買で受け取る事が出来る。

学園には小規模だがダンジョンもあってね、生徒はそのダンジョンに潜って自己研鑽を行うんだが、ドロップアイテムの買取を購買でする事が出来る。また購買には様々な依頼が張り出されていて依頼を熟す事で資金を調達する事も出来る。

要は学園内に設置された疑似冒険者ギルドの役割も果たしているのが購買なんだ。

そこで稼いだ資金で様々な買い物ができるし貸し付けのお金も返済できるって言う仕組みになっているんだよ」

 

「へ~、色々考えられてるんだ。教本代に食事代、学園関係者の給料といくら国から補助金が出るからってこのご時世に三年間の強制学園って無理があると思ったけど、意外とそうでもないんですね」

俺はザルバさんの話に唯々驚きつつ、“でもそんな場所で果たしてケイトは大丈夫なんだろうか?”と一人親戚のおじさんの様に心配になるのでした。

 

春は様々なものが行き交い始める大切な時期、領都の大商会モルガン商会の店前には多くの荷馬車や幌馬車が詰め掛け、荷物の出し入れを行っていた。

そんな中俺達マルセル村一行は、店の責任者らしき人に声を掛けようと

「やぁケビン君じゃないか、久し振りだね。これはザルバさんにケイトちゃん、学園の入学式迄に無事領都に辿り着けたみたいだね。毎年幾人かの生徒が遅れて来る事があってね、マルセル村はここ領都に来るにはずいぶんと遠いから心配だったんだよ。

ギースさんは商会長と打ち合わせをしている筈だから案内しよう。“マルセル村の皆さんが訪ねてきたらすぐにでもご案内しろ”って商会長からも厳命されているからね」

・・・えっと、向こうから来て下さった様です。

以前色々とマルセル村一行の面倒を見て下さった案内人のロイドさん、立て板に水のトークで有無を言わさず俺たちをモルガン商会商会長様の元へとご案内。

やっぱり出来る男は違います。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。マルセル村の皆様がいらっしゃいましたので、ご案内いたしました」

「構わない、入って貰ってくれ」

 

商会長執務室の中から聞こえる入室許可の声、大商会のお忙しい商会長が辺境の村人相手に時間を割いていていいのかと思わなくもないが、そこはそれだけマルセル村が利益を与える可能性のある金の卵だと言う事なんでしょう。

 

「失礼します。マルセル村のザルバです。

この度我が娘ケイトが学園に入学する事となり領都までやって参りました。モルガン商会様には我々マルセル村の者一同、大変お世話になっております。是非ご挨拶をさせていただきたくお忙しいとは思いましたが立ち寄らせて頂きました。御面会いただき誠にありがとうございます」

 

俺たちはザルバさんの口上に合わせ頭を下げる。本来商会長様にお会い出来る様な立場じゃないんだけどな~、何で商会長執務室に案内するかな~、ギースさんにだけ会えればよかったのに。(グスン)

 

「いや~、ザルバさん、お久し振りです。それとケイトちゃん、学園入学おめでとう。もう入学手続きは済ませたのかな?“コクコク“

そうか、それは良かった。ザルバさん、ケイトちゃんの入学準備はお済みですかな?

まだの様でしたらご用意いたしますが?なに、モルガン商会では学園の生徒が必要とする各種用品も取り扱っていましてね、学園の購買にも卸しているんですよ。

ロイド、一通り見繕って来てくれ。」

 

モルガン商会商会長の言葉に一礼をし部屋を後にするロイドさん。あの方の事だからさっさと準備をしてタイミングを見計らって入室して来るんだろうな~、サボる事に関しても超一流、出来る男は時間を作る事も上手い。そこに痺れる憧れる。

 

「それで確かケイトちゃんは闇魔導士の職業を授かっているんだったかな?一般的には闇属性魔導士と言われている職業だね。

そうなるとここで扱ってる学業品の他に魔法の杖も必要かな?学園での借与品でも問題はないんだが、あれはあまり質が良くなくてね。先々の事を考えたなら専門店で購入した方がいいんだが」

 

そう言い何か考えるそぶりを見せる商会長様。

魔法の杖の購入?えっと魔法って別に道具なんて必要ないですよね?呪文を唱えれば勝手に出るんですよね?

 

「あぁ、ケビン君はあまり魔法については詳しくなかったのかな?一般的に魔法職と呼ばれる人たちは魔法杖、魔法の杖と呼ばれるものを使って魔法を発動するんだよ。

魔法の杖には魔力を増幅したりより精密な操作を手助けする効果があるんだ。

その形状は短杖と呼ばれるものから長杖と呼ばれるものまで様々、個々人の使い勝手の良さで決められることがほとんどかな?

そしてその増幅効果はやはり素材によっても異なる。その辺の材木で作っても何の効果もないが、魔の森の奥地や大森林の素材であればかなりの増幅効果が見込めるね。

でもやはり一流の品と言えばトレント材を使った魔法杖だろう。これはその個体品種によっても異なるんだが、マッドトレントの杖などは下級魔物を避ける効果もあり貴族出身の魔法使いなどには好まれたりするかな?」

 

魔法の杖、全く考えてなかった。

そっか~、そうだよね~、魔法使いと言えば杖だよね~。

まぁあるにはあるんだけど、問題はそこじゃなくって増幅されちゃうって所なんだよな~。

 

「あの、すみませんがちょっと見ていただきたいものがありまして。」

俺はそう言いながらカバンを漁り目的の品を取り出す。

それは大小さまざまな所謂魔法の杖っぽいもの。

ん?何でそんなものを持ってるのか?作ったんだよ、俺が。

最強生物の洞窟で石剣を作ってからしばらくもの作りに嵌った時期がありましてね、複雑なものは大変だけどファンタジーの“魔法の杖”だったらイケるんじゃね?って軽いノリで作ったのがこれらの品々。

魔力の通り的にご神木様を筆頭に魔境の木の枝、大森林深層部の材木製、ブー太郎のログハウスの余った材木製、近所の魔の森の材木製になりますかね。

まぁ俺っちちゃんとした魔法の杖の作り方なんて知らないんで、全部格好だけの魔法杖なんですけどね。

「ってなんか商会長様とギースさんが固まっちゃってるんですけど?

ザルバさん、今の状況分かります?」

 

「あ、あぁ、うん。いつものあれだな、“ケビン君だから仕方がない”。よし、私は大丈夫。

えっとケビン君、取り敢えずヨシ棒は引っ込めようか、これは見た目的に問題だからね。それとこの長杖、私は魔法に関しては詳しい方ではないが、そんな私から見ても危険だって事が分かる品だな、これも引っ込めよう。

詳しい話はしなくていい、いや話すな、これは私の勘が告げているんだ、聞いてはいけないと。

それと短杖だが、この三本、これは駄目だな。モルガン商会長とギース氏が猛禽類の様な目をしているだろう、この品はそれだけ価値があるって言う証拠だ。

商人と言う人たちは詳細は分からなくともその物が持つ価値と言うものが感覚的に分かるらしい。これは職業補正なのかそれとも長年の研鑽によるものなのかは不明らしいんだが、とにかくその嗅覚は侮れない」

 

そう言いザルバさんは俺が出した杖擬きを次々に引っ込めてしまい、残ったのはブー太郎ログハウスの余った材木製の物と魔の森の材木製の物だけになってしまいました。(グスン)

 

「イヤイヤイヤ、えっ、今のは一体!?と言うか是非売っていただきたいんだが!?

あ、でもあの三種は無理か、物が良過ぎる。王都オークションに出したらどれ程の値が付く事か、あれは一体どう言った、イヤイヤイヤ、これを聞くのはマナー違反か、う~ん」

 

何故か大混乱に陥る商会長様。そして頭を抱えながらこちらにジト目を向けるギースさん。

 

「なぁケビン君、怒らないから正直に言ってごらん?ケビン君、大森林に入っただろう、しかもかなり奥地迄」

 

なんと、ギースさんあの品を見ただけでその出所を正確に予測しちゃいましたよ、やっぱり手練れの行商人は俺なんかとは桁が違う、スゲーの一言です。

 

「その驚いた顔からすると当たりかよ、何をやってるんだ君は。と言うかよく生きて帰って来れたな。いくら魔物の活動が減る冬眠期だからって一歩間違えば即死なんだからな?もっと自分を大切にしろ。

それとこの魔法の杖だが、確りその役割を果たすと思うぞ。見た所魔方陣が見られないから増幅割合はそこ迄でもないが、魔法の杖としては合格だろう。

詳しく知りたかったら魔法道具の専門店に持って行って品質鑑定をして貰うといい。

それとこれ、こっちは魔の森製の素材じゃないのか?こっちはギリギリ魔法杖って感じだな。基本は押さえてあるし出来は良いと思うが、さっきも言ったが魔方陣が無いからな、素材の性能だけに頼る事になる。

俺から言わせたら材質は悪くないだけに勿体無いといった感じかな」

 

お~、これは良い事を聞きましたぞ。確かこの材木はブー太郎のログハウス建築を行う際に御神木様に許可を頂いて切り倒したあの周辺の木じゃなかったかな?一応魔の森の最奥って事になるから物としては良かった様です。

後はこの杖を使ってケイトさんの魔法の練習をですね。

 

「ケビン君、先程の杖の事だが!」

 

「わっ、びっくりした。行き成り大きな声を出さないでくださいよ、モルガン商会長様。そんで杖の事ですね・・・でもさっきの話を聞いちゃうとな~。面倒な貴族が押し寄せて来ますよ?多分」

 

俺の言葉にガックリ項垂れるモルガン商会商会長様。

「まぁ上手い事誤魔化す手段が見つかったらお知らせください」

俺はそう言うと全ての杖をカバンに仕舞い込み、ローテーブルに出された冷めたお茶をズズズズッと啜るのでした。




本日一話目です。
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