転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

184 / 860
第184話 村人転生者、招待される

領都グルセリアで一番の商会と謳われるモルガン商会、そしてここはそんなモルガン商会の心臓部とも呼べる商会長様の執務室。今目の前におられる御方々はそのモルガン商会の頭脳であらせられるモルガン商会長様と行商人ギース氏。

マルセル村の者として交流を深める事は大事でしょうが、あまり長居してお二人のお時間をお取りしてはかえってご迷惑。

俺はザルバさんに目配せをし、それではこの辺でと言って席を立とうと「失礼いたします、ロイドです。領都学園入学の為のお品をお持ちいたしました」

そうでした、ケイトの学園入学の準備品を用意してくれるって話でした。

俺たちは再び腰を下ろし、ロイドさんの入室を待つのでした。

 

「何から何まですみません。一応学園の入学案内書はいただいていたのですが、これ程色々なものが必要だとは思いもしませんでした」

 

恐縮し頭を下げるザルバさん。目の前のテーブルに並べられる数々の品は、学用品から生活雑貨まで様々。質実剛健の騎士団生活しか知らないザルバさんは、流石に女の子の寮生活に必要な細々とした雑貨までは気が回らなかった様です。

そうだよな~、制服の手入れに使うブラシや髪を()かす櫛、コップに歯ブラシなんて全く考えてなかったもんな~。って言うかあったのね歯ブラシ、マルセル村じゃ木の枝よ?名前は知らないんだけど、何か結構繊維質の奴。

周りの皮を剥いで先っぽを良く噛んで少し解してから使います。これが中々快適でして、マルセル村の子供たちは皆お口がツルンツルンです。最も虫歯になるくらいの甘味なんてないんですけどね、食事の後には必ず歯磨き、医療の乏しいマルセル村の常識です。

 

ケイトさんは用意して貰った新品のブラウスにご満悦。生地はキャタピラー繊維ですか。

他に綿繊維の物や麻の繊維の物などがあるそうで、夏場などは麻生地の物がお勧めだとか。と言うかあったのね綿繊維、お隣のスロバニア王国からの輸入品ですか、それはお貴族様が喜ばれそうで。

麻生地シャツは庶民が着ると、その辺は棲み分けと言いますか何となく決まってるんでしょうね。キャタピラー繊維製品はオーランド王国の主繊維製品と言う事もあって、貴族庶民関係なく一番無難な物らしいです。

因みに攻撃糸繊維のシャツなんてのは・・・バレるとうるさいと、了解です。

衣服一つにも色々とまぁ、階級社会は面倒事が多いですこと。

 

「それではこれらの品は学園の寮の方に送っておこう。ケイトちゃんは既に入学手続きを終えているという話しだったから寮の部屋も決まっている筈だよ、学園の寮は入学式の五日前には入れるから問題なく届ける事が出来るはずだ。

ロイド、悪いが手配の方を頼む」

 

「畏まりました。それではザルバさん、ケイトちゃん、この荷物は私が確り届けさせてもらうね」

そう言い荷物の乗った台車を押して執務室を後にするロイドさん。お~い、ロイドさ~ん、商会長様は“手配を頼む”って言ってたんだよ~。届けて来いとは言ってないよ~。

あの御方、おもいっきりサボる気です。しかも商会長の前でザルバさんとケイトちゃんの名前を出して“私、大事なお客様の為に頑張ります!!”的なアピールまでされて行かれる徹底ぶり。

これは怒るに怒れない。ギースさんがこめかみを抑えていらっしゃる。商会長様は“困った奴だな~”的な笑みを浮かべておられます。

スゲ~、俺あんな大人になりたい。ロイドの兄貴、勉強させて頂きました!!

飄々と世渡りをする商人の姿に、憧れの目を向けるケビンなのでありました。

 

「本当に何から何までありがとうございます。それでお支払いの方ですが」

「いえいえ、お気になさらず。これは私からケイトちゃんへのお祝いです。これから三年間、ケイトちゃんは一人領都で頑張らなければならない。そんな彼女を応援したいと言った“コンコンコン”「失礼します。商会長、ハロルド様が御見えになりました」あぁ、構わない、入って貰ってくれ」

 

モルガン商会長の言葉にガチャリと開かれる扉。そして綺麗な所作で入室してこられる一人の老紳士。

 

「モルガン商会長、ご連絡ありがとうございます。それとケビン君、お久し振りです」

こちらを向きにこやかに微笑まれるその御方は、かつてお城でお会いしたグロリア辺境伯家にお仕えする執事様その人なのでありました。

 

―――――――――

 

馬車は走る、石畳の道をカタカタと軽快なリズムを刻みながら。

行き交う人々、広いガラス窓を備えた立派な商会。道具屋に花屋、あれはカフェテラス!?窓から流れ見える街並みの光景は、田舎者の自分にここが多くの人々が住み暮らす大都会だという事を教えてくれる。

整備された道、揺れの少ない馬車。

そう、この馬車揺れが少ないんです。前に乗った辻馬車も思わず眠気を誘う程だったんで、“やっぱり都会の整備された道って違うんだな~”って思ってたんですけどね、実はこの馬車、板バネ式サスペンションが装備されておりました。

・・・誰だ~、知識チートかました奴は!!ちょっと出てこいや、正座だ正座!

何でもこの技術は東方の国から伝わって来た物らしく、“東方の賢者”と呼ばれた人物がオーランド王国に来た際に乗用していた馬車に使われていたものだったそうです。

“東方の賢者”、そうです、“小鳥の巣箱亭”をホテルにしちゃった例の御方です。

自重なしだよ転生者、他にも何か出て来そうで怖い。

馬車の足回りをしげしげと眺めていた俺に“馬車が好きなのかな?”と言ってモルガン商会長様が御話しして下さったのですが、なんでも隣国のバルカン帝国には“捻じりバネ方式”と言う板バネとは違った方式の衝撃緩衝方法を使った馬車があるとか。

「その馬車はこの板バネ式の物よりも更に衝撃が少ないらしいんだが、オーランド王国ではまだ作られていなくてね」

そう笑って教えて下さったモルガン商会長様。どうやらバルカン帝国には自重を忘れた転生者様がおられるようです。絶対に関わらない様にしよう。

 

馬車は進む、石畳の道を軽快なリズムを刻んで。ハロルド執事様、モルガン商会長様、村人ケビンの三人を乗せて。

・・・(わたくし)ケビン、捕縛されてしまいました。

どうやらケイトの学園入学に際し俺が同行するという事は予測されていた様で、モルガン商会にマルセル村一行が現れたらすぐにお城に知らせが行くように手配がなされていた様です。手配されていた者は二名、ドレイク村長代理と村人ケビン。

どうやら私共、前回やり過ぎたようです。

 

だってあれは仕方がないやん、エルセルの街が酷かったんやもん。って言うか俺もあそこ迄盗賊が蔓延ってるだなんて思わなかったっての。何あの大盗賊団の数、ちょっとした軍隊よ?あれだけの数の魔獣(人科)を抱え込んで表面上平和な街を維持していたエルセルの街の監督官様は、ある意味凄いと思います。

周辺の村や街の被害は半端ないけど、エルセルの街自体は比較的生活し易かったみたいだしね。無法者が羊の皮を被って暮らす犯罪都市エルセル、マルセル村から一番近い街。

うん、マルセル村って環境最悪だったのね。

メルビン司祭様も盛大に愚痴を言ってたけど、それこそ知らんがな、こちとら被害者やぞ!?

でもそんな事グロリア辺境伯様相手に言えないしな~、凄く胃がしくしくしてきた。胃薬飲んじゃダメだろうか?もうすぐ到着するから我慢しなさい?そうですか、分かりました。

 

因みにザルバさん、ケイトとはモルガン商会でお別れ。お二人は学園の寮に入寮の準備をしに向かっております。ロイドさんが「荷物を届けるついでですからどうぞ、ザルバさんも一度寮の様子をご覧になられてはいかがですか?」と誘った結果ですね。

これで誰もロイドさんを止められません。去り際に「お二人に軽く学園の周辺をご案内してから戻ります」とか仰っていたんで、もう仕事する気ゼロですね。宿屋までしっかり送迎するつもりの様です。

まぁこっちとしてはありがたいんですけどね、ロイドさん優秀だし。

ロイドの兄貴、二人の事をよろしくお願いします。

 

「そろそろ到着ですよ」

周囲の景色は喧騒漂う街並みから静かで落ち着いた雰囲気に。そして遠くにあったはずのお城の城壁はすぐ真横に。

 

「ハロルド執事長様、ご苦労様です」

そして城門の審査は当然のようにスルー、お貴族様専用入り口からご入場です。

 

「やぁ、ケビン君、よく来てくれたね。モルガンもご苦労だった。二人とも座ってくれたまえ」

ご案内いただいたお部屋は前回お伺いした来賓の間ではなく、よりフランクと言うかどちらかと言うとプライベートな雰囲気のする中庭の見えるお部屋。

そんな部屋のソファーの前に立ち着座を勧めて下さるにこやかな雰囲気の初老の男性、グロリア辺境伯様。

・・・誰か助けて。

 

俺って平民よ?辺境の農家の小倅よ?

辺境伯様との面会?メイド様方のご用意を見るにこれってプライベートなお茶会?

絶対誰にも話せないから、お貴族様の嫉妬で抹殺対象決定案件だから。

せめて辺境伯様が盆暗領主とでも呼ばれていたら“また領主様の気まぐれか”で済むんだけど、こちらの御方はオーランド王国の懐刀と呼ばれた御仁ですから。

背中の冷や汗止まらね~。

 

「本日はお招きいただきありがとうございます。マルセル村のケビンでございます。無知蒙昧故ご無礼が多々ございましょうが、何卒ご容赦願いたくお願い申し上げます」

俺はそう挨拶の口上を述べ深々と礼をする。

下手に遠慮して“下賤な自分が”などと言おうものならそれはこの場に俺を呼んだグロリア辺境伯様を愚弄する事になる。さりとて馴れ馴れしくするなど礼節を知らぬ愚者の行い、いくら招待を受けた身とは言え身分制度が絶対のこの場で平民が行ってよい行為ではない。

俺に出来る最善の行為、それは貴族社会の望む人形になる事。お手本は部屋に控えておられる執事様や騎士様、メイド様方。あの主人に対して礼を持って接し決して出しゃばらないという態度、勉強になります。

 

そんな俺の態度に“ふむ”と言って頷かれるグロリア辺境伯様・・・今度は何!?

なんか物凄く嫌な予感しかしないんですけど!?

 

「あ~、うん。二人とも席に着いてくれ。執事長、パトリシアを呼んで来てくれないか?」

俺とモルガン商会長様は促されるまま席に着きます。すると控えていたメイド様が、さり気なくお茶の入ったティーカップを差し出してくださいました。

俺はチラリとグロリア辺境伯様を見てからティーカップを口に運びました。

口腔に広がるほのかな甘い香り。これってなんてお茶なんでしょうか、ちょっと気になります。

無論ズズズとか音は立てませんよ?静かに喉を潤させて頂いております。

辺境伯様の前で図々しくないのか?

緊張で喉がカラカラなんだよ!まともに声が出せないんだよ!まったく余裕がないんだよ!

しかもパトリシアお嬢様の登場、マジで帰りたいんですけど!?

 

「失礼します。パトリシアお嬢様が参られました」

「うむ、相分かった。これへ」

 

開かれた扉、一礼をしてしずしずと入室してきた御方は、何か凄く疲れた様な、どこか魂が抜けたかのような黄昏たお顔をなさった女性でした。

・・・えっと、これは一体?

 

「うむ、おそらく耳の早いモルガンは知っていようが、これは我が家の醜聞でもある故あまり口外しないで欲しい。 

孫のパトリシアが王都の学園に通っていた事は二人とも知っていると思う。彼女はこの春卒業し、来年にはランドール侯爵家に嫁ぐ事になっていたのだ。

ランドール侯爵家の子息は第三王子殿下の側近をしていてな、領地を接するジョルジュ伯爵家としても大事な婚姻と言う事になっていた、その筈だったのだがな」

 

そこで言葉を切るとグッと怒りの表情を露にするグロリア辺境伯様、コエ~、めっちゃ怖いんですけど!覇気纏いまくってるんですけど!こんなの大森林の魔物・・・まぁあっちの方が怖いか、うん、割りと平気かも。

 

「あの馬鹿息子、よりによって卒業パーティーの最中に婚約破棄などと、あの物語かぶれが!それが何を意味するのか分かっているのか!

婚約を解消する事自体はいい、ちゃんと手順を踏んで行うのなら文句はあるが致し方のない事とあきらめもしよう。だが公衆の、しかも多くの貴族が集まる卒業パーティーの中での婚約破棄など、あ奴は孫の人生をなんだと思っておるのか!

しかもパトリシアを捨て選んだ相手が妹のフローレンス、あ奴もあ奴なら妹のフローレンスもフローレンスであろうが!

それをジョルジュの大馬鹿者は「互いの関係をより良い物に」とか抜かしてあっさりパトリシアを切り捨ておった。「婚約者に見限られる貴様が悪い」などとどの口が申すか!

領地ごと潰すぞ!!」

 

う~わ、なんだそりゃ。え~と、詳しくは分からないんですが、要するにジョルジュ伯爵様のところに嫁いだグロリア辺境伯様の娘さんが、おそらく側室であろう御婦人とその娘に親子そろって上手い事やられちゃったって事かな?

そんでもって怒り心頭の娘さんと傷心のパトリシアお嬢様が療養を理由に実家に戻って来ちゃったって所なんでしょうかね。

ま~、お貴族様って大変だよね。でも婚約破棄か~、そんな事って実際にあるんだ~。怖いもの知らずというか何と言うか、そんでもってそれを許しちゃうジョルジュ伯爵って御方も頭のネジが足りないんじゃないだろうか。オーランド王国にネジなんてないんだけど。

 

「まぁその件についてはこちらで確り報復するとして、問題はパトリシアでな。そんな事があってからすっかりふさぎ込んでしまっての。

以前マルセル村の者達が訪れた際に角無しホーンラビットと言うものを持参した事があったであろう?あの愛らしい魔物に囲まれればこの子の心も少しは癒されるのではないかと、そう考えたのだが。

無論安全面も考えテイマー職の者を雇い入れる事も検討しておる。

以前の様に行き成り触りに行かせる様な事はしないと誓おう」

 

あぁ、アニマルセラピーですね、分かります。確かにあいつらの破壊力は半端ないもんな~。癒しって点で言えばウチの実験農場で飼ってる連中なんか凄いよ。団子の薫陶を受けて日々可愛い動作を研究してるって言うね。

アイツら喰われない様にするのに必死、なんか最近じゃ芸を覚え始めてるんだよな、ちょっと食いづらい。

そんで新しい就職先にお嬢様の癒し担当と、うん、悪くないかも。

 

「畏まりました、このケビン、必ずやご要望の角無しホーンラビットをご用意いたしましょう」

そう言い深々と頭を下げる俺に満足そうに頷くグロリア辺境伯様。

これで用件は終わりですね、後は角無しホーンラビットを何羽か見繕ってモルガン商会の行商人ギース氏にお渡しすれば。

 

「いや、引き受けてくれた事、感謝しよう。パトリシアもこのまま城に引き籠りでは晴れる気分も晴れんでな。ペットとの出会いは一生ものと聞く、良き従魔と出会えることを期待しようではないか」

そう仰り朗らかに笑われるグロリア辺境伯様。

・・・ちょっと待って、もしかしてパトリシアお嬢様が。

 

「出立はケイトと言う娘の学園入学を見届けてからになるのであろう?その翌日にでも城より迎えの使者を出すとしよう。

ケビン君、よろしく頼むぞ」

明るい声で語られるグロリア辺境伯様の御命令。村人ケビンは痛む胃を抑えながら慇懃に礼をするより他に道がないのでありました。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。