転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第185話 村人転生者、領主様とお話する

“コトッ”

 

ローテーブルに新しく差し出されたティーカップ。立ち昇る湯気と広がる香り。

鼻腔に感じたそれは、調剤でも頻繁に使われる“カモネール”の香り。

その効果は心を鎮め、身体の緊張をほぐし、疲れた身体を眠りへと誘うと言うもの。

こうしてお茶として楽しむ分にはそれほど強い睡眠効果を発揮する事はないが、リラックス効果は十分期待出来るハーブティーの一種。

メイド様の細やかなお心遣いに涙が出そうです。

 

パトリシアお嬢様は私の事に気が付かれたご様子でしたので、二~三お言葉を交わさせていただきましたが、やはりお疲れが見られたためメイド様に連れられてお部屋にお戻りになられました。

命を狙われ婚約者も奪われたパトリシアお嬢様。しかも相手は腹違いとは言え実の妹、お貴族様の世界って。

せめてパトリシアお嬢様には良いパートナー(角無しホーンラビット)を紹介してあげよう。

 

部屋を出て行かれたパトリシアお嬢様を見送った後、もう要件は終わったんだろうとグロリア辺境伯様の方を向くも、何かまだ帰して下さらないご様子。

しかもどの話からしてやろうかと思案なさっている様な。

そして俺の隣に座られているモルガン商会長様は・・・この顔はもしかして杖か!例の杖の話をぶっ込む気か!?

うん、これはどっちにしろ不味いですな。

俺は思案(刹那)の末、気になっていた話を振ってみる事にした。

 

「グロリア辺境伯様にお伺いしたいのですが、ここグロリア辺境伯領はオーランド王国北西部の玄関口として隣国ヨークシャー森林国との交易が盛んだとか。

私も以前ドレイク村長代理よりヨークシャー森林国に伝わるという精霊と親しくなるペンダントを頂いた事があったのですが、あちらのお貴族様などがこちらの領都を訪ねて来られるという事もあるのでしょうか?」

 

「ん?あぁ、ヨークシャー森林国は主に木材や木工製品を輸出する国でな、魔力を多く含んだ丈夫で長持ちする見事な材質の木材を多く産出しておる。これらの素材は我が国でも貴族を中心に人気が高く、家具や部屋の内装などばかりでなく魔法杖の素材として広く利用されておる。ケビン君がこちらに来る際に乗用してきた馬車の素材もヨークシャー森林国産の物であるな」

 

へ~、マルセル村の暮らしには一切関係してこないから知らなかったけど、結構この世界って国際貿易が盛んだったのね。そうなるとこちら側からは加工製品か農産物?

穀物の輸出って所かな?

 

「我がオーランド王国南部で採れる穀物類の最大の輸出先がヨークシャー森林国となる、その為両国の貴族の関係は密接なものとなっておる。

私の娘の一人もヨークシャー森林国の高位貴族に嫁いでおるしな」

 

お~、婚姻外交ですか。この婚姻外交と言うものは堂々と諜報員を送り込む事が出来るかなり重要なもの。諜報員と言っても謀略を行おうとかって訳じゃなく、ヨークシャー森林国国内の情勢や経済状況、市場の流行りなどと言った基本的な情報を集めるだけでも十分意味を持つ。

その点を確り理解した上で自身の娘を嫁に出し、向こうも承知の上で受け入れる。

そうして互いの国の関係をより親密にしていく。

オーランド王国の懐刀は未だ衰えずと言った所でしょうか。

それに比べジョルジュ伯爵は・・・。いくら側室にいい様にやられてるとは言え、なんて残念な。

 

「して、それがどうかしたのかな?」

 

グロリア辺境伯様は軽い話題と理解しつつも、その目には警戒の色を強めておられます。

やっぱ前回やり過ぎたんだよな、ケビン君反省。

 

「いえ、これは旅の途中で小耳に挟んだのですが、なんでもヨークシャー森林国からグロリア辺境伯様を訪ねて来られた御方が途中何者かに襲われたとか。グロリア辺境伯様をお尋ねになられるような御方ですからそれなりの身分を持たれた御方々だったのだろうかと。

先程お伺いしたほどの関係性を持たれておいででしたら、何かお話を聞かれているのではないかと思いまして」

 

俺の言葉に表情が真剣なものに変わるグロリア辺境伯様。モルガン商会長様も何か事情を知っているのか真面目な顔に。

俺はローテーブルのティーカップを手に取ると、ゆっくりお茶を頂きながら二人の言葉を待つのでした。

 

「ふむ、ケビン君の様子からするとまたとんでもない話を持ち込んだ、そう言う事なのかな?まぁいい、結論から言うとその話は耳にしている。詳しくは伏せるがさる高貴なる身分のご息女が何か治療の為にここグロリア辺境伯領を訪ねたらしい。

残念ながらその方々はグルセリアに辿り着くこと叶わず儚くなられたとか。

あちら側からはご迷惑をお掛けしたと言った旨の手紙が届いておる」

 

あ~、やっぱりな~。いつまでも放置は出来ないもんな~。とは言え手紙が届くのが早過ぎなんだよな~。あの地点でゴブリンさん方が生存していたって事はまだ然程日数は経っていない筈、いっても四日って所?

これはご実家が切り捨てた説が濃厚かな?

モルガン商会長様は何かご存じないんだろうか。俺は隣のモルガン商会長様に視線を向ける。

 

「あぁ、その御方の事なら私も聞き及んでいる。なんでも国中の治療師を呼び寄せても快癒しなかったとか。ヨークシャー森林国国内でもかなり人気の高い御方であったと聞いている。強力な精霊と契約した精霊魔法の使い手として有名だったのだがご病気になられてからは精霊魔法も全く使えなくなってしまったとか。

一日でも早い快方をと望まれていたのだがな」

 

そう、ゴブリンさん方精霊魔法が使えなくなっちゃってたんですよね。ヨークシャー森林国といえば国民全てが精霊魔法の使い手と呼ばれる様なとんでも国家、バルカン帝国の侵攻を完勝で打ち砕いた話は有名だもんな~。

そんな方々が刺客に襲われたくらいで逃走を選ぶか普通?と思ったんですが、これもそうそううまい話じゃないって言うね。

第一に精霊魔法が真価を発揮するのは魔力豊富な森の中、つまりヨークシャー森林国みたいに森で覆われた地域では無類の強さを発揮するが、グラスウルフの草原みたいなところだと結構弱々になってしまうってのが一点。

第二に精霊様はゴブリンが大っ嫌い。呪いとは言えゴブリンになってしまったお二方、精霊契約を解除されちゃったんですね~。

この精霊契約、実は精霊側からの一方的な解除も可能なんですね~。まぁそう言った事はほとんどないらしいんですが、ごくたまに頭のおかしな輩がですね?

でもまぁ精霊を使い捨ての道具のように考える様な相手は、端から精霊契約が出来ませんから、ヨークシャー森林国の人間は皆精霊を崇め精霊と共に在ろうと森を大事にするって訳です。

要は共生関係にあるって訳ですね。

 

「で、ケビン君は一体何を知ってるのかな?覚悟は出来たから話してみなさい」

 

そう言い俺の目をじっと見据えるグロリア辺境伯様。う~ん、内容的に知ってる人間は少ない方がいいんですが、そうですね、執事様と騎士様以外、メイド様方は下がっていただいてもよろしいでしょうか?影の護衛の方々はそのままでも結構ですんで。

俺がそう言うと一瞬目を見開いたグロリア辺境伯様ですが、すぐに執事様に指示を出されるのでした。

 

「さて、先程から話に出ていらっしゃるさる高貴な御方ですが、そのご病気がとても特殊な姿の変わってしまう奇病であったという事は御存じでしょうか?

そのお顔は薄々知っていたと言った所ですかね。まぁ簡単に言えば強力な呪いですね、しかもかなり悪質な。

状況としてはパトリシアお嬢様の比じゃないくらい悲惨です」

 

俺の言葉に眉根を寄せ不快感をあらわにするグロリア辺境伯様。でもこれくらい言っておかないとあのインパクトには耐えられないんだよな~。

 

「ではなんで私がそんな事を知っているのか、それはその御方にお会いし現在保護しているからにほかなりません。ではなぜもっと早くその事を話さなかったのか?

それは信じて貰えない公算が強かったから、そしてその事でおそらくは高貴な御方はそうであると認識されず儚くなられてしまうからです。

何故ならその御方が変えられてしまったお姿、それがゴブリンだったからです」

 

そこまで話し再びお茶を啜る俺氏。対して一切の動きを止めるこの場の一同。

グロリア辺境伯様のお話が真実であるのなら、おそらくあのゴブリンさんは高位貴族のお嬢様。そんな御方がいつ終わるとも知らぬゴブリン道を歩まれている。

そりゃ言葉も失うよな~。

 

「私は先の授けの儀において<田舎者>と言う俗に総合職と呼ばれる職業を授かりました。その職業スキルの中の複合スキルと呼ばれるものの中に<魔物の雇用主>と呼ばれるスキルがございました。

このスキルは<田舎者>の職業の者が誰でも持つものではなく、偶々目覚めたものであった様ではありますが。

そしてこの魔物の雇用主と言うスキルは、魔物と雇用契約を結ぶ事で疑似的にテイマーのまねごとが出来るという便利なスキルでありました。ただテイマーと違うのは契約した魔物を使役支配するのではなく、仕事をお願いし報酬を支払うと言った関係ではありますが。つまり互いに信頼関係を築く事が出来なければ全く無意味なスキルな訳です。

私は現在このスキルを使いとある魔物を雇用しています。

ご紹介いたしますが魔物ですので少し離れさせていただきます。騎士様は私の傍で警戒をお願いします」

 

俺はそう言いソファーを離れ、開け放たれた窓の向こうの中庭へと移動しました。

 

「ブラッキー出ておいで」

その声に俺の影が横に広がり、中から大きな狼が姿を現しました。

 

「シャドーウルフだと!?」

声を上げ剣の柄に手を掛ける騎士様。まぁ警戒は御尤も、そのままでお願いします。

 

「このウルフ種は先程騎士様が仰られたようにシャドーウルフなのかと。まぁ影に潜りますし。<魔物の雇用主>と言うスキルはテイムスキルの様に魔物の状態を知る鑑定スキルがないんです。ですので私はこの魔物がどんな魔物でどんなスキルを持っているのかが分かりません。このブラッキーの特性も、共に暮らす中でこの子が教えてくれなければ知る事はなかったくらいなんですから。

現在この子にはこの度領都の学園に入学するケイトの従魔として、彼女を護衛する仕事を頼んでいます。ただ今回の突発的な事態に対し協力を願っていると言った感じです。

先程も言いましたがさる高貴な御方はゴブリンの姿になるという呪いを掛けられました。そしてその解術の手掛かりを求めここグロリア辺境伯領を訪れた。

その手掛かりとはここグロリア辺境伯領のいずこかに住まわれている賢者様におすがりする事だとか、私もそれ以上詳しい事は分かりません。

グロリア辺境伯様のお許しがあるのでしたらその御方様をこの影より御呼びいたしますが、いかがなさいますか?今でしたら子供の戯言で済みますが」

 

俺の問い掛けに瞑目し考えを巡らせるグロリア辺境伯様。下手に即答せず、確りと状況を整理し理性的に判断を下される所は為政者として信用に値する点でしょう。

 

「うむ、これまでの状況を考えてケビン君がわざわざそのような作り話をする事は考えにくい。君はどちらかと言えばすぐにでも帰りたいと言った顔をしているからね。この話も私が聞かないと言えば素直に何もなかった事にするつもりだろう?」

 

そう言い獰猛な笑みを向けるグロリア辺境伯様に、俺はニコリと微笑みを返す。

 

「分かった、会おうじゃないか。それで何かが出来るという訳ではないが、その方々はここグルセリアに危険を顧みずやって来られた。その心意気には応えようではないか」

 

そう言い覚悟を決められたグロリア辺境伯様。俺は深々と礼をすると「それでは連れてまいります」と言ってブラッキーと共に自分の影の中へと沈んで行くのでした。




本日一話目です。
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