転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第187話 闇属性魔導師、ダンジョンに挑む

狭く薄暗い洞窟、男は通路脇の窪んだ場所に佇み何やら岩壁(いわかべ)をペタペタと探っている。

“ガコッ”

小さく鳴った音と共に岩壁の一部が外れ、ゆっくりと開かれていく。それはまるで深淵へと誘う扉の様に。

男はニヤリと笑みを浮かべると、その開かれた扉の奥へと歩を進める。そこは身を屈めねば通れない程の狭い空間。男はその狭く薄暗い通路を進んでいく。開かれていた岩の扉は、音もなく静かに閉まって行く。

そして無人の洞窟には、静寂の時間だけが流れ始めるのであった。

 

 

「ダンマスお久し振り。オーク階層人気みたいじゃない、外も冒険者が沢山って凄いね。」

 

あ、どうも、ケビンです。お前は何をやってるのか?いや~、グロリア辺境伯様とモルガン商会長様方との会談を無事終え(物事をぐちゃぐちゃにして誤魔化して来たとも言う)宿に戻ったのはいいんですけどね、ザルバさんとケイトはまだ学園の寮の見学から帰られていない様でして、折角と思い宿の女将さんに言付けを頼んでちょいとダンジョン迄やって来たってだけなんですけどね。

何かゴブリンダンジョン、えらい人気になってまして。いつぞやの新人冒険者大混乱程ではないんですけど、ダンジョン洞窟前には結構な数の冒険者や関係者がですね~。

 

“ギャギャギャ、グギャ、グギャグギャ”

 

「えっ、単体オークの階層と二~三体がセットで出るパーティーオーク階層を作ったの?

魔力足りたの?大丈夫?

それで冒険者が沢山来るようになったんだ、良かったじゃない。

彼らが魔法をバンバン使うから黒字でウハウハ、たまりませんな~♪

しかし冒険者もこのダンジョンにいるだけで余剰魔力を吸われ続けているだなんて気が付いていないんだろうな~、あいつらって即物的だから目の前の事にしか興味ないし。

敵を倒す、肉が手に入る、魔石が手に入る、それだけだもんな~」

 

そう、実はダンジョンってそこにいるだけで魔力を吸われちゃってたんですね~。そうは言ってもあくまで余剰魔力、本人が気が付く事もないんですけどね。俺やケイトみたいに魔力支配のスキルを獲得するレベルになるとそう言った事は意図しない限り一切ないんだけど、金級や白金級冒険者と呼ばれる人でもこの余剰魔力と言うものは出まくってますからね、ダンジョンにとっては美味しい餌って訳です。

要は尽きる事のない飴、閉じ込めないのは外に行ってリフレッシュして来てくれた方がより新鮮な魔力を垂れ流してくれるかららしいです。

 

“グギャ、グギグギャ”

 

「ん?オーク階層まで行くのが遠いって愚痴を言う冒険者が多い?

ほっとけほっとけ、そんなの。下手に冒険者に媚びたらこっちの存在を疑われるから。

あくまでダンジョンが自然に拡張しただけって思わせとかないと。それとこれ以上の拡張は暫く避けた方がいいかな?急激な成長は偉い人達に危険視されかねないから。何事も塩梅ってのが大事なんだって。

そうそう、例の瀕死冒険者からの追い剥ぎは上手く行ってる?」

 

“グギッ、グギャギャ”

 

「出現場所を一定にしたらそこに救護テントが張られるようになったんだ。

あぁ、それでダンジョン入り口の脇に大きなテントが張られてたのね、納得。

服とか下着とかは残してるんでしょ?」

 

“グギ?グギャギャ”

 

「腰巻くらいはって・・・ま、いいか、ダンジョンだし。死にそうになる本人が悪い。

そんで修繕修理して宝箱行きと。順当ですな」

 

ダンマスに人の尊厳に対する配慮を期待する方が間違っていた様です。いきなりダンジョンの前に出現する瀕死の状態の半裸冒険者、そりゃ救護テントも設置されるわな。

弱り目に祟り目、命あってのものだねと諦めて下さい。

 

“グギャ、グギャギャギャ”

 

「素材があるとリソースの節約になると、そりゃそうだわな。

ま、上手い事やって下さい。

それでちょっと聞きたかったんだけどさ、ダンジョン内って魔法を撃っても壊れない?今度学園に入学する子がいてさ、魔法の練習がしたいんだよね」

 

“グギャ?ギャギャグギャ”

 

「二階層の端の広間が丈夫と、了解」

 

“グギャ、クキャキャ”

 

「モンスター発生スイッチ?これを押すとモンスターが生成されるの?いいの?こんなのもらっちゃって」

 

何か凄い便利なものをいただいたんですが?これがあればケイトの魔法練習し放題?まぁダンジョンの魔物は疑似生物ですんで、何の心の痛みもないですけどね。

 

“グギ、グキャキャ”

 

「人が一杯来て楽しい、ほんのお礼って、気にしなくてもいいのに。

そうだ、お礼って言えばこないだもらった寝具セット、あれ最高だったわ、もう離せないって感じ。

で、悪いんだけどあれをもう二セットもらえない?無論魔力は支払うから」

 

“グギャ、グギャグギャ”

“ホワン、ホワン”

 

「ダンジョンコア久し振り。こないだの寝具セット、まさに神具だったわ、最高でございました。

それでは魔力を捧げさせていただきますんで、よろしくお願い致します。

取り敢えず二百年分くらいでいいかな?余裕があるみたいならダンマスにも何か出して上げてね。」

 

“ズズズズズズ”

俺の魔力一日分で大体ダンジョン収益の十年分らしいから二十日分でいいのかな?

えっ、もういいの?まだ十六日分しか渡してないけど?二百年分を軽く越えてる?

あぁ~、そう言えば最近また魔力量が増えてたんだったわ。じゃこの辺で。

 

「それじゃまた来るよ、今日は時間がないからゆっくり出来ないけど、次は何か美味しいものでも持って来るから」

 

“グギャ、グギャギャギャギャギャ”

“ホワン、ホワン、ホワン”

 

俺は見送りをしてくれるダンマスゴブリンとダンジョンコアに別れを告げ、ゴブリンダンジョンを後にするのでした。

 

―――――――――――

 

「ただいま戻りました。ザルバさんとケイトもお帰りなさい。それで寮の方はどうでした?」

 

俺は街の宿に戻ると、早速ザルバさん達に学園の寮の事について聞いて見ることにした。

 

「お帰りケビン君、ケビン君の方こそ大丈夫だったのかい?

行き成り辺境伯様からの呼び出しなんてただ事じゃない、どうしているのかと心配していたんだ。

何か面倒事にでも巻き込まれているんじゃないかってね」

 

ザルバさん鋭い、もう面倒なんてもんじゃないんですけどね、その件は後程と言うことでまずはケイトの事ですよ。

 

「それで学園の寮の事だったね。どうもグロリア辺境伯様が手を回して下さったらしくてね、ケイトは第二女子寮に入る事になっていたよ」

 

「えっと、俺学園の事は何も知らないんですけど、それってどう言う事なんですか?」

俺は訝しげな顔でザルバさんに聞き返す。

ザルバさんは苦笑いをしながら俺の問いに答えてくれるのでした。

 

「前にも話した事があると思うが、学園とは貴族が優秀な職業を持った平民を自身の陣営へと雇い入れる為の出会いの場、多くの貴族が平民と対等な態度で接するのもその為だな。

貴族が平民に対しその権力を(かざ)して強引に引き込むことは女神様のご意志に反する。これはこの世界で広く言われている事でね、女神様のご意志に反する行為は神罰が下る、実際そうして滅ぼされた国もあったと言われているんだよ。

 

そこで考えられたのが第二寮と言う制度、既に貴族の勧誘が決まっている生徒を保護する為のものだな。この寮に入っている者を強引に勧誘する事は貴族間で禁止されているんだよ。

高位貴族が下位の者に圧力を掛けて既に契約を結んだ平民生徒を奪い取る行為も、無論禁止されているな。

ケイトの場合グロリア辺境伯様の紐付きと言う形で見られる、つまりこれで他貴族からの余計な接触は完全に絶たれた事になるんだよ」

 

つまりケイトは魔法はショボいけどグロリア辺境伯様から目を掛けられてると言うことで逆に注目を浴びると、成る程、ザルバさんが苦笑いになる訳だわ。

耳目のいい者ならその背景にマルセル村と五箇村農業重要地区と言う話がある事に気が付く。ケイトの存在はグロリア辺境伯家と農業重要地区との架け橋、グロリア辺境伯様がどれ程期待しているかの表れにもなる。

問題はその事にすら気が付かない馬鹿の存在、“何であんな平民が”と突っ掛かって来るのは必定、悩ましいわな。

 

「ケイトさんや、暫くは髪留めは無しで。ケイトには干し肉の魔導師様としてビッグワーム干し肉と角無しホーンラビット干し肉の啓蒙に励んで貰います。

何か言われたら干し肉を差し出して“文句はこれを食べてから言え”とでも言っておいて下さい」

 

俺はそう言うと、鞄の中から真っ黒な腰巻きポーチを取り出しました。

 

「これはベネットお婆さんに作って貰った腰巻きポーチを闇属性マシマシインクを使って染めた物に、闇属性魔力を込めて作った“なんちゃってマジックポーチ”です。

あくまでも“なんちゃって”なんで、たまに中に手を入れて闇属性魔力を注ぎ入れてあげてください。

容量はそれなり、この部屋くらいはあるんじゃないかな?ただポーチだから口が小さいのとマジックバックみたいに欲しいものを瞬時に取り出せないのが欠点、分類分けなんかの整理整頓をしておかないと、一体何処に何があるのか訳分からなくなっちゃうからね?

それでここに干し肉を入れておけば“干し肉の魔導師”の出来上がり、しっかりマルセル村の特産品を売り込んでおいて下さい」

 

そう言い腰にポーチを着けてやると、満更でもない顔になるケイト。

そんな中ザルバさんだけが「はっ!?この部屋くらいって、それって小型のマジックバッグ並みじゃ。そんなものを頂いては余計にケイトが、でも見た目はマジックポーチだし問題はないのか?」などと仰って、一人悩まれるのでした。

 

「そうそうザルバさん、帰りの行程はグロリア辺境伯様のお孫様のパトリシアお嬢様がご同行すると言うことになりましたので、よろしくお願いします。

何でも角無しホーンラビットを飼育なされるとか。ケイトの入学を見届けた翌日に城から迎えが来るそうです。私達はそれに付いて行く形ですね」

 

「はぁ!?えっ、はぁ?なんだってまたそんな事に。ケビン君、君がまた何かしたんじゃないんだろうね」

 

目を見開き疑問の声をあげるザルバさん。気持ちは分かりますけど冤罪です。“なんでまた”とはこっちが聞きたい。

 

「少々(おおやけ)には言えない事情がありまして、グロリア辺境伯様の呼び出しもそれに関しての物でした。

それと例のゴブリンさん達の事は一応グロリア辺境伯様に話を通しておきましたので、後々問題になる可能性は少なくなりました。

パトリシアお嬢様とは別件で、ボビー師匠に丸投げしたいと思います。

後ケイト、明日魔法の練習をしにゴブリンのダンジョンに行くから、今日は早く寝るように。

それとこれは俺からの入学祝い」

 

俺はそう言うと収納の腕輪からとあるものを取り出しました。

 

「ジャジャ~ン、高級寝具セット~。俺がマルセル村で大事に使っていたものと同じ奴です。

これって目茶苦茶貴重な品だから、絶対に人に貸したりしないように、あと欲しいと言われても手に入りません。人には絶対に言えない特殊なコネで手に入れた物になります。

取り敢えず今夜使ってみて、良かったら明日学園の寮に持ち込むって事で、それからダンジョンに向かいましょう。

ザルバさんは明日何か用がありますか?」

 

俺は高級寝具セットを眺めながら何やら呪文を唱えているザルバさんに、明日の予定を聞いてみた。

 

「ケビン君だから仕方がない、ケビン君だから、ん?あぁ、明日だね、大丈夫だよ。

一度学園の寮に寄ってからダンジョンに向かう事にしよう。

確かゴブリンダンジョンだったかな?ケイトの練習には丁度良いだろう」

 

「それなんですが、何でも最近階層が増えたらしいですよ?第三層と第四層が出来たとか。

魔物はオークが出るらしいです。入場には身分証があれば入れますが、冒険者以外は三階層と四階層には行かない様にとの事でした。

下見がてら入口迄行ってみたら思いの外人が多くって、びっくりしちゃいましたよ」

 

ザルバさんは“階層変動があったのか、ここのダンジョンは丁度成長期だったんだな”とか仰っておられます。どうもダンジョンの階層が増えると言うことは広く知られている事らしいです。

 

「まぁそう言うことなら今日は早く休む事にしよう。今夕食を持って来てくれる様に頼んでこよう。それと宿の延長も頼んでおかないとな」

 

そう言い部屋を後にするザルバさん。ケイトは俺がベッドに出した寝具セットを(つつ)きながら、ご満悦といった顔で微笑むのでした。(間違い探しレベル)

 

― 翌朝 ―

 

「お父さん、おはよう」

 

「あぁ、ケイト、おはよう。

・・・ケイト?」

 

窓から差し込む明るい光、その陽光に照らされるくすんだ髪の地味な顔の女の子。その生気に満ちた瞳は真っ直ぐにザルバの目を捉え、何か用?と言いたげに細められる。

 

「えっと、ケイトだよな?いつも死んだ様な目をした愛娘のケイトだよな?」

 

「え~、お父さん、それって酷くない?いくらなんでも死んだ様な目って、私これでも年頃の女の子なんだよ?傷付いちゃうな~、もう」

 

そう言いむくれた顔をするケイトにさらに戸惑いが加速する。

 

「おはようケイト、ザルバさんもおはようございます。

それじゃ寝具セットは一旦しまうから、寮に着いたら交換しちゃおうか。

でも寮の布団ってどうしたら良いんだ?」

 

「あぁ、それって何でもグロリア辺境伯様がご用意下さった物らしいわよ?寮側とは関係ないんですって」

 

「そうなんだ、だったら収納の腕輪に仕舞っておいた方がいいかな?ってザルバさん、どうなさいました?」

 

俺は俺とケイトを交互に見て口をパクパクさせているザルバさんに目を向ける。

 

「えっ、あっ、ケイトが、ケイトが」

 

「あぁ、ケイトって普段からこんな感じですよ?ただいつもはこんなに声には出しませんけど。

いいお布団でぐっすり眠って、身も心も生まれ変わったんじゃないんですか?

なんと言っても“寝具は神具”ですから」

 

そう言い微笑む俺に、ザルバさんは涙を流しながら抱きついて来るのでした。

 

「ザルバさーん、魔力駄々漏れ~!!

めっちゃ締まってるから、これ俺じゃなかったら死んでるから~!!」

 

俺の訴えも虚しく、“ありがとう、ありがとう”と叫ぶザルバさんの抱擁は、ザルバさんの気持ちが落ち着くまで続くのでした。

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