転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第192話 闇属性魔導士、領都学園に入学する (2)

大きな正門、重厚な造り。

まるでお城の城壁の様なそこは大きな扉を開け放ち、新たにこの学び舎にやって来た子供たちを迎え入れる。

続々と集まってくる揃いの制服を纏った若者たちの姿に、執務室の窓辺に佇み様子を窺っていた老人は自慢の髭を撫でながら笑みをこぼす。

 

「ふむふむ、今年も生きの良い生徒が集まって来おったわいて。この子供たちがどの様な成長を見せるのか、ほんに楽しみよの~。

してグロリア辺境伯様肝入りの子とやらはどの子であるのか。何でも話ではフォレストウルフを従えておるとか。

テイマーでもないと言うのに大したもんじゃて。

何やらワクワクが止まらんの~」

 

ここはグロリア辺境伯領領都グルセリアの領都学園。多くの子供たちが学び、研鑽し、そして巣立って行く場所。

学園長マルセリオ・サルバドールは、新たに入学してきた子供たちが紡ぎ出すであろう多くの青春物語を思い、眩しそうに目を細めるのであった。

 

 

「ではケイトちゃん、寮暮らしは大変だと思いますが頑張ってください。

ザルバさん、ケビン君、入学式が終わりましたらこちらにいらしてください。一度商会の方へお連れいたします。

何でも商会長からケビン君に渡したいものがあるとか。それとザルバさんに帰りの分の物資の確認をして欲しいとの事です。確認が終わり次第宿の方へお届けさせて頂きます」

 

礼をするロイドさんに見送られ、領都学園の正門を潜る。

周囲にいる魔法陣の付与された揃いの制服を着る者達の姿に、ここがファンタジー世界の学園なんだと改めて思い知らされる。

繰り出される魔法、立ちはだかる魔物、多くの困難を仲間と共に乗り越える青春の日々。

く~、堪らん。しゃべる帽子は無いのだろうか、“お主は何々寮じゃ~”とかやってくれないんかな~。それと魔力判定の水晶を爆発させちゃって“俺、何かやっちゃいました?”的な顔をする典型的な転生主人公。

え~い、主人公様は何処じゃ~、ビューポイントは何処よ、ビューポイントは!?

なんかハーレム主人公様のご様子を端で見ながら“またやってるよ、アイツら馬鹿じゃね?”って悪ガキどもと語り合うのって絶対楽しそう!

仮性心がウズウズする~!!

 

でもな~、学園ってお貴族様の御狩場だからな~。

優秀な平民を自分たちの配下に加えようと奔走するお貴族様、でも中にはその辺が良く分かっておられないお花畑な御仁も。

どう考えても面倒事盛りだくさんだし、ここは大人しくケイトの土産話に期待ですかね。

 

「なぜ貴様の様な下賤の輩が神聖な学園にいるのだ、とっとと荷物をまとめて立ち去るがいい!」

 

うわ~、早速馬鹿がいるよ。あの口調からするとお貴族様?いや、流石にお貴族様はそこまで馬鹿じゃないか、だってこの学園の平民は獲物だもん。帰しちゃ駄目でしょう、帰しちゃ。

って事は商人?だったら相当馬鹿よ?

折角コネを作りに来てるのにそんな態度じゃ碌な貴族と伝手が作れないよ?

 

「も、申し訳ありません。えっと、俺、その、親に言われて。その、本当に申し訳ありません、どうかご容赦ください!」

 

そう言い頭を下げる少年。親に言われたって事は高い入学金を払って入学した口か~、そりゃ追い出されたら堪らんよな~。

しかもどうやら相手はお貴族様みたいだし、俺でも頭の一つや二つ下げるっての。

 

「ちょっとすみません、あれって一体何がどうなってあんな騒動になってるんですか?俺始めから見てなくって」

 

「あぁ、何かあの怒鳴ってるお貴族様が目を付けた女の子がいたみたいなんだけど、結構しつこく迫っていた様でな。そこにあの男の子が割って入って女の子を逃がしたって感じ?

まぁそれでお貴族様の怒り爆発って奴だな、どっちも阿呆だよな~」

 

う~わ、あの男の子、多分平民?根はやさしい奴なんだろうけど、それをやったらあかんやろ。学園言うても身分制度は絶対なのよ?

貴族は怖いぞ~。

下手な事言って言質でも取られた日には一族郎党しゃぶり尽くされちゃうっての。

まぁ入学そうそうそんなのもかわいそうなのでちょっとばかり手を貸してあげよう。

俺は細い魔力糸を伸ばし男の子に対して“おやすみなさい”

”バタンッ”

 

突然意識を失い倒れ伏す男の子、目は完全に白目、これにはお貴族様もびっくりです。

 

「うわ、倒れちゃいましたね。そりゃ普通の平民ではお貴族様の覇気に当てられたら敵いませんものね。やっぱりお貴族様って凄いな~」

誰に聞かせるでもなく発した言葉、その言葉に呼応するかの様にざわめきが起きる。

“えっ、覇気ってあの高位冒険者が使うって言う?あの御方ってそんなに凄い御方なの?それじゃ平民では耐えられないわよ”

”覇気だと、あの年で。将来は王都の騎士団にでも迎え入れられるんじゃないのか?”

周囲の囁きに居心地の悪くなったお貴族様は、“行くぞ”と声を掛けられ取り巻きと共にどこかへ行かれてしまわれました。

 

あ、漸く学園職員様がご到着の様です。男の子は介抱されて担架で運ばれて行きます。おそらく医務室か何かがあるんでしょう、戦闘訓練もするみたいですし。

 

「なんか驚いちゃったね、ケイトも十分気を付けてね?」

「ん。」

俺の言葉に頷きで返すケイト。その表情は“ケビン君何かしたでしょ?怒らないから言ってごらん?”とでも言っているかの様でした。

 

 

「<諸君、よくぞこの学び舎へ集まってくれた。私は当学園の学園長マルセリオ・サルバドールである。当学園は諸君らの入学を心から歓迎しよう>」

 

拡張の魔道具とでも言うのでしょうか、学園長様の声は新入学生徒が集まる広場全体に広がり、かなり後方で入学式の様子を窺っている保護者のところにも確りと聞こえてきます。

 

「<諸君らに気を付けて欲しい事はこの学園では貴族平民の区別なく()()()()()()()()()と言う点である。これは貴族、平民という枠組みに囚われ国力を落とす事があってはならないと言う国王陛下のご意思である。

無論我が国は王国であり貴族と平民の間にははっきりとした身分の違いが存在する。

だがその事によって有能な者の意見を聞き逃す事は貴族にとっての損失であり、王国の損失でもある。

貴族子弟の者達はその事をよくよく胸に刻んで欲しい。

また平民の者達は相手が貴族であると言う事で変に(へりくだ)りその意見を下げる様な事はしないで欲しい。それは彼らの成長の妨げになるし、正しく貴族と言う者を理解する事が出来なくなるからだ。

敬意を持つことは大切であり重要だ、だがその事と実務は同じではない。

過剰な忖度は結果として王国に背き王国を裏切る行為であると憶えて欲しい。

 

貴族と平民、互いの適切な付き合い方の模索は非常に難しい。だが諦めず学んで欲しい、それが我らがオーランド王国の礎となるのだから>」

 

““““パチパチパチパチパチパチパチパチ””””

沸き起こる拍手、学園長様は満足げに頷かれ壇上を下がられます。

 

・・・なんて無茶苦茶な。そんなの“意見ははっきり言え、気に入らなければ処罰する”って言ってるのと変わらないですやん。変に勘違いしてお貴族様にズタボロにされる平民が大量発生ですやん。

ただでさえ民度の低いオーランド王国、平民の知的水準を舐めないでいただきたい。正門で騒ぎを起こした貴族と平民の男の子がいい例ですっての。

“貴族子弟の成長の糧に成れ、後は知らん”って言ってるのと変わらんですやん。

 

学園長様の言いたい事は分かりますけどね?貴族と平民のマッチングは大変でしょうから。でもそれだったら貴族と平民それぞれにきっちり身分教育を施してからじゃないと。

このくらいの年齢で授けの儀によって有能な職業を手に入れた全能感たっぷりのガキに、学園長先生の言葉の意味をきちんと理解しろって方が無理があると思いますよ?

俺は入学式の様子を見ながら“これ、絶対トラブル起きる奴やん”と一人頭を抱えるのでした。

 

――――――――――

 

「それじゃケイト、大変だとは思うけど頑張るんだよ?何かあったらすぐにモルガン商会のロイドさんかギースさんを頼るんだよ?それと確かメルビン司祭様が領都の教会の司祭様に就任なさると仰られていたはずだからそちらでもいい。

くれぐれも身体に気を付けて、無理はしないようにね」

 

「うん、お父さんも身体に気を付けて。それと一人で寂しい様だったら新しい奥さんでも見つけたらいいと思うよ?マルセル村にも独り身の女性がいたはずだから」

 

「ハハハハ、ケイトは優しいな。でも私は亡くなったお母さんのことが忘れられなくてね。それに私にはケイトがいる、それだけで十分なんだよ」

ザルバはそう言うと愛娘ケイトの頭を優しく撫でる。

ケイトはそんな優しい父親に甘えながら、小さな声で「チッ、使えない」と呟くのでした。

 

領都学園正門前、入学式と言う華やかな式典を終え多くの保護者達がそれぞれの家へと帰って行く。それはこの領都グルセリアばかりでなく、グロリア辺境伯領、果ては近隣の各貴族領から訪れた来訪者たち。

彼らは我が子が素晴らしいスキルを授かり入学を許された者の親であったり、地方貴族や優良スキル持ち達とのコネを求めて自らの子弟を高い入学金を支払って入学させた商家の者であったり。

 

遠方からの入学者は皆寮暮らしとなる為、家族の者と暫く会う事は出来ない。

これからの学園生活に夢膨らませ高揚する者、別れの寂しさから涙する者、事務的に淡々と過ごす者や両親の方が寂しがってしまい恥ずかしそうにする者。

その在り様や関係性は各人各様、しかしながらその全ての者がこれからは一学園生徒としての暮らしを迎えるのだ。

 

「ケイト、くれぐれも気を付けろよ?この学園で聞くすべての言葉に罠がある、それくらいの気持ちじゃないと簡単に足元を掬われるからな?

ザルバさんの言葉じゃないけど何でも自分で解決しようなんて思わないで大人を頼れ、ただしその相手はよく選ばないといけない。今のところモルガン商会とメルビン司祭様は頼れる大人と思っていい。グロリア辺境伯様のところは逆にケイトの立場を悪くするかもしれないから要注意かな。

どうしてもって場合はブラッキーに言ってくれれば俺に伝わるから。

 

散々脅す様な事を言ったけど、これは心構えだから。何にしても折角学園での生活が始まるんだ、十分楽しんでくれ。

それとビッグワーム干し肉の宣伝をよろしくお願いします、在庫の補充には来ますんで」

 

そう言いニッと笑うケビン。ケイトは“そこまで言うんなら一緒に学園に通ってよ!”と思うものの、無理強いをして嫌われでもしたらしょうがないと、その言葉をグッと堪えるのであった。

 

モルガン商会のロイドさんに迎えられ、辻馬車に乗り去っていく二人。ケイトはそんな二人に手を振り見送りをする。

 

「こんにちは、あなたがマルセル村のケイトちゃんでいいのかしら?」

掛けられた声に振り向くと、そこには気の強そうな顔をした女子生徒が立っていた。

 

「父からあなたの事を頼まれてね。あぁ、自己紹介がまだだったわよね。私はベティー、ベティー・スワイプ。こう見えても男爵家の娘よ。

父がグロリア辺境伯様の護衛騎士をしていてね、その関係であなたがマルセル村出身である事やマルセル村がグロリア辺境伯家において重要視されていると言う事は聞いているわ。

ビッグワーム干し肉、始めはなんて物を食べさせるのよって思ったけど、これがなかなかイケるのよね。でも私の好きなピリ辛味ってすぐ売り切れちゃって入荷待ちになっちゃうんだもん、もう少し出荷量どうにかならないかしら?

 

そうじゃないそうじゃない。えっと要するに私は他の貴族からの風除けね、グロリア辺境伯様に目を掛けられた辺境の小娘とか言ってちょっかいを掛けて来る馬鹿の対策。グロリア辺境伯様に仕える男爵家の者が側にいるって言う事が重要って訳。

そう言う訳でこれからよろしく」

 

そう言い右手を差し出すベティー。ケイトは腰のポーチを漁るとある物を取り出しその手に握らせる。

 

「えっと、これは?」

「ビッグワーム干し肉ピリ辛味と新作のピリ辛粗塩風味。お近づきの印にどうぞ。

これからもマルセル村のビッグワーム干し肉をよろしくお願いします」

 

そう言いニッと笑うケイト。その顔につられる様に大きな笑い声をあげたベティーは、「アハハハ、あなたいい根性してるわね、気に入ったわ、これからよろしく」と言ってケイトの背中をバシバシと叩くのでした。

 

「フフフ、でも中々面白そうな子じゃない。お父さんに“マルセル村から来るケイトと言う子の面倒を見てくれ”って言われた時は正直嫌だったけど、貴族相手に怯える事もないし、あの子となら上手くやっていけそう」

 

学園第一女子寮の自室に戻ったベティー・スワイプは、食堂で炙って貰ったビッグワーム干し肉ピリ辛味を齧りながら独り言ちる。

 

「でもお父さんが言っていたケビンって言う男の子?どう見ても普通の田舎の子供にしか見えなかったんだけど。別に格好いい訳でもないし、身体が大きい訳でもないし、顔はごついし。気にしておいてくれって言ってたけどなんでなんだろう?

ん!?この新作は中々!」

ベティーは父親から言われていた言い付けに疑問を持つも、新作のビックワーム干し肉ピリ辛粗塩風味に気を取られその事をすっかりと忘れてしまうのでした。




本日二話目です。
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