転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第196話 村人転生者、マルセル村に到着する。お嬢様のお供として

太陽の輝きが天より下り横から差し込みだした頃、広い草原を抜ける街道を、馬車に揺られた一団が走り抜けていた。

車列の前後を騎兵に守られた三台の馬車。

見るからに高級そうな性能重視の馬車を筆頭に、田舎臭い荷馬車と機能性の高そうな幌馬車が続く。

どう見ても商隊の様には見えず、高位貴族が関係しているだろう事が明らかなその一団に関わり合いになろうとする無謀な者など居らず、一団はこれまで順調な旅を続けて来ていた。

 

やがて一団の向かう先に集落の影が見え始める。

村の境界を示しているのだろう二本の石柱の前には、予め先触れがあった事で待機していたのであろう二人の村人が、姿勢を正し一行の訪れを歓迎していた。

車列は礼をする二人の間を通過し村門の中へと入って行く。

一団を先導する護衛騎士は、これと言った問題も無く無事に辺境の地マルセル村に辿り着けたことに、安堵のため息を漏らすのであった。

 

「ようこそ辺境の地マルセル村にお越しくださいました。私共マルセル村の者一同、心より皆様のご訪問を歓迎させて頂きます」

 

馬車が止まり、中から質素でありながらも気品あふれるドレスを身に付けた女性が、お供のメイドたちに傅かれながら姿を現す。

一団の到着した先はマルセル村の村長宅前。そこではこの村に住む老人から子供まで、多くの者達が集まり一行の訪れを歓迎していた。

 

「申し遅れました、私はここマルセル村の村長代理を務めさせていただいておりますドレイク・ブラウンと申します。現在村長のシンディー・マルセルは領都におり不在であることを心からお詫び申し上げます」

 

そう言い慇懃に頭を下げるドレイク村長代理、対して一団のリーダーであるメイド長であろう女性は笑顔で言葉を返す。

 

「マルセル村村長シンディー・マルセル様の事は聞き及んでいます。“守護者シンディー”、領民の為日々戦い続ける彼女の人気は領都でも大変高く、グロリア辺境伯様からも大きな信頼を得られているご様子。

近々発表される辺境五箇村重要農業地区の話と共に、これまでの業績を受けて騎士爵の叙爵を受けられるとか。またその場でご子息のマイケル・マルセル殿に爵位を委譲し、御自身はこれまで同様に、いえ、これまで以上に冒険者として民のために戦うと公言なさっておられるとの事。

グロリア辺境伯家に仕える者として頭の下がる思いです。

 

ドレイク・ブラウン殿もシンディー・マルセル様不在の中マルセル村をはじめとした辺境五箇村を引き上げた功労者、その様に謙る事はありません。

 

此度の訪問はその成果の一つ“ホーンラビット牧場”の見学です。どうぞよろしくお願いします」

 

「ドレイク村長代理殿、お久し振りでございます。いつぞやは大変お世話になりました。またこうしてお会いできたこと、嬉しく思います。

滞在中はよろしくお願いします」

 

ドレイク村長代理に礼をするメイド長様と(はかな)げに微笑まれるパトリシアお嬢様。

一行はドレイク村長代理の案内の下、村長宅の中に入って行くのでした。

 

・・・・・終わった~。はい、ケビン君の任務は一旦終了。ザルバさんもお疲れ様でしたって感じ?

村長宅前に揃った馬車はジェラルドさんの案内で村長宅脇に移動、グルゴさんとギースさんは飼葉と水桶を持ってお馬さんのお世話に走ります。騎士様のお馬様方は厩舎脇に括り付けですね、厩舎には冬に村人が倒した魔物(人科)のドロップアイテムのお馬様方がおられますから入れる所がないんですわ、申し訳ない。

村の子供らも大人に混じって馬のお世話、護衛騎士の騎兵様をこれほど間近に見る機会なんてまずないですからね、もうお目目がキラキラとしちゃってまぁ。

でも君たちもそろそろお帰りの時間ですからね、いくら何もない村でも暗くなったら物騒なんだからね、早くお家にお帰り。

 

パトリシアお嬢様とお付きの方々はこのまま村長宅にご宿泊、ドレイク村長代理はミランダさんちに戻る予定との事。テイマー様方も空き部屋で御就寝の様です。

俺も一応関係者ではありますが、ただの村の子供ですからね。他の村人が解散するのに従って家に戻らせて頂きましたともさ。

背後からザルバさんが恨めしそうな視線を送って来ましたが知った事ではありません。今夜は母メアリーの美味しい家庭料理を食べるのさ♪

久々の我が家に心弾ませるケビンなのでありました。

 

昨日も帰ってたんじゃないのか?昨日は忙しなかったの、ゆっくり出来なかったの!

心の余裕は重要なのよ?

因みに夕食時に“ケイトちゃんとの旅はどうだったの?”とか“その後の進展は何かあったの?”とか“ケビンは年上派?幼馴染派?”とか途中からよく分からない事を聞かれましたが、あれは一体何だったんでしょうか?

村の女性は噂好き、深く考えない事にしましょう。

 

―――――――――――――

 

夜の帳が下りる。領都から訪れたグロリア辺境伯様の孫娘パトリシアお嬢様への接待を終えたマルセル村の者とドレイク村長代理は、後の事をメイド様方と護衛騎士の方々にお任せし、それぞれの家路に就く。

 

村人たちが深い眠りに就き、護衛騎士が二回目の夜番交代を迎えた頃、闇の者達がそれぞれの目的に従い動き出す。

 

月夜の明かりに照らされて、夜の草原をマルセル村に向かい移動する集団。

 

「もう一度任務の確認をする。我々はあくまで二次策となる。当初の計画通り標的がホーンラビットに襲われ絶命すれば良し、そうでない場合我々がマルセル村を襲う盗賊として標的もろとも騎士を殲滅する。メイド共も同様だ。

マルセル村では木札と言う物を使い現金は村長が一括管理しているとの事だ、我々も盗賊らしく村長宅を襲い現金を奪った後馬車を奪って逃走、集合地点で乗り換えて姿を消すと言う流れになる。

襲撃の合図は頭目から魔道具を通じ送られる手筈だ、以降は私の指示に従う様に。

それと呼称は“お頭”とする」

 

「「「了解しました、“お頭”」」」

 

月明かりに照らされた集団はマルセル村周辺に展開、頭目からの合図を待つ。

これから起こるのは悲劇か、それとも惨劇か。それは頭目の合図次第、彼らはこれまで同様に淡々と仕事をこなすのみ。

 

「何やら物騒な連中じゃの。夜になりもぞもぞ動き出すとはまるで魔獣の様じゃわいて」

 

集団の動きが止まる。それぞれが腰に刺した剣を抜き、声がした方に視線を移すも、周囲に対する警戒も同時に行う。

 

「ほう、すぐに戦闘態勢に入ったばかりでなく儂に意識を割きつつ周囲の警戒を行う。中々どうして優秀な魔獣ではないか。

これはどうして、腕が鳴るのう。

ヘンリーよ、ここはひとつ半分ずつといかんかの?お主の一太刀で終わらせるにはもったいない、儂にも剣を振るわせい」

 

老人が声を掛けるのは集団の先、そこにはいつの間にか巨大な何かを構えた大男が鋭い眼光を集団に向け佇んでいた。

大男の持つあれは何だ!?剣と呼ぶにはあまりにも巨大、だが月明かりに照らされ鈍く光るそれは・・・。

「巨大な剣、斬馬刀を振るう大男、何故“笑うオーガ”がここに・・・」

その呟きは夜の草原に広がり、人々の記憶からとある噂を掘り起こす。

かつて起こった災害級のスタンピード、その迫り来る魔物の群れに単身立ち向かった大男。二振りの巨大な大剣を持ち、地獄の戦場で高笑いを上げ迫り来る魔物を屠り続けたその姿から付けられた二つ名は“笑うオーガ”。

 

「何を呆けておる、既に戦いは始まっておるぞい?」

瞬間の閃光、気が付いた時にはもう遅い。肉薄する老人の振るった剣は、その痛みに気が付く隙も与えず胴を真っ二つに断ち切る。

 

「流石ゾイル工房の逸品、一切の抵抗を感じる事無く両断とは。

血糊すら付いておらんとはどれ程じゃ、これなら切れ味が曇る事も無かろうて。

ほんに良い剣と巡り合えたものよ、昔の血が疼くわい」

 

「俊足の太刀、まさか“下町の剣聖”ボビーだと!?」

 

「ほう、儂の事を知っておる者がおるとは。何どうして、嬉しいものじゃの。

礼に全力で事に当たろうかの」

 

元金級冒険者“笑うオーガ”ヘンリー、元白金級冒険者“下町の剣聖”ボビー。

二人の伝説級冒険者の登場に、自らの死を悟る一団。

 

「フンッ」

“ドフッ”

「ウッ、グウウウ」“ドサッ”

不意に接近したヘンリーに鳩尾を殴られ意識を失う“お頭”と呼ばれた男。

ヘンリーはその男を後方に投げ飛ばすと集団に向け宣言した。

 

「遊びは終わりだ、全力で来い。俺も全力で相手をしてやる」

引き上げられたヘンリーの唇、全身から溢れ出す覇気。

笑うオーガと下町の剣聖の蹂躙は、悪意を瞬く間に飲み込むのであった。

 

 

「あっ、お疲れです」

血の匂いが漂う殺伐とした草原、そんな場所に響く気の抜けた掛け声。

 

「ケビンか。そっちは終わったのか?」

それは村の青年ケビンから掛けられたものであった。

 

「えぇ、見張りの者が二名、生かして捕らえています。この馬たちは引き馬ですね」

そう言いケビンが向けた視線の先には四頭の馬と馬の背に乗せられた二人の男。その手足は生活魔法<ブロック>で固められた枷が嵌められ、口元には猿轡(さるぐつわ)がされている。

 

「どうもこいつら制約の呪いが掛かっているみたいで雇い主とか言えない様になってました。ですんで魔力枯渇状態にしてから光属性魔力マシマシ蜂蜜ウォーターを飲まして回復した後再び魔力枯渇にしてってのを三回ほど繰り返したらベラベラお話ししてくれるようになりました。

まぁ下っ端なんで大した事は知らなかったんですが。

で、そちらの御方は?」

 

ケビンが指差す方向、そこには先ほどヘンリーが吹き飛ばした“お頭”と呼ばれた男。

 

「あぁ、何か連中のリーダーの様だったんでな、生かしておいた」

「ほうほう、それは重畳。それでは早速制約解除の実験と行きましょう。

先ず取り出しますのはこのゴブリンの腰巻き、これをお口に突っ込みますとあら不思議、どんな眠りでもたちどころに覚めてしまうこと請け合いです♪」

 

ケビンは草原に転がされている手足の縛られた男性に近付いて行く。

 

「ま、まて、起きてる、起きてるから!!」

男性は途端目を開けバタバタともがき始める。

 

「おや残念、でも大丈夫、すぐに気持ちよくなりますって。“おやすみなさい”」

“バタンッ”

ケビンの“おやすみなさい”の声に、急に倒れ込む男性。

その様子にヘンリーとボビーは驚きの目を向ける。

 

「あっ、後片付けはこっちでしておきますんで、馬とこの魔獣(人科)をグルゴさんのところに連れて行って貰えますか?明日近衛騎士様に引き取ってもらうんで。

俺は実験と片付けが終わってから戻ります。さてこいつは何回くらい魔力枯渇したら素直にお話ししてくれるんでしょうかね?

楽しみだな~♪」

 

ヘンリーとボビーは思う、“ケビンの好奇心に触れてはいけない”と。

 

錆びた鉄のような生臭い香り漂う夜の草原、二人の人物が月明かりに照らされる。

恐怖に怯え身を這わす男性の呻き声を掻き消すように、青年の「さ~、もう一回行ってみよう」という場違いな程の明るい声が、星空の下に響くのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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