転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第20話 転生勇者のお隣さん

「「ミランダおばさん、お邪魔します!」」

村の薬師ミランダの家には今日も子供たちがやって来る。

 

「くそ~、大福の奴容赦なしかよ、複数の属性を投げ付けるってそんなの処理し切れる訳無いだろうが~!」

今日もずぶ濡れ泥まみれのジェイク君が唸りをあげる。

 

「何とか投げ合いまでは出来る様になったけど、属性を複数混ぜられちゃうと手元の変化を間違えちゃうからね」

ジミー君はそれでもそこまで酷く汚れてないみたい。

 

「アハハハ、ジェイク君の顔面白い」

エミリーはなぜかチリチリになった髪の毛先を弄りながら笑っている。

最近怪我はしなくなったみたいでローポーションの使用頻度は減ったけど(それでも偶に火傷や打撲はしているが)、代わりにスタミナポーションをよく飲む様になった。全身泥だらけのずぶ濡れで帰って来た時は一体何が起きたのかと心配になったものだ。どうやら新しい遊びを始めた様で、相変わらず大福ちゃんに遊んで貰っているらしい。

 

「よし、作戦会議だ。今のままじゃじり貧だ、俺たちの練度はほぼ同じ、ならば脚を使って翻弄するってのはどうだ?」

「いや、大福は目がある訳じゃない、逆に言えば全方位に目が向いている様なもの。ここは開き直って片側に意識を集中させた隙に遊撃を行うと言うのはどうだろう?」

「え~、だったら均等に三方向から同時攻撃すればいいんじゃない?今のところ大福ちゃんは縛りプレー?って奴をしてるんでしょ?だったらその隙をつくのがいいと思うんだけど」

う~ん、何を言ってるのかはよく分からないけど何か楽しそう。この村は子供が少ないし、うちには父親がいないからエミリーには寂しい思いをさせて申し訳ない気持ちで一杯だったけど、あの子がこんなに楽しそうに。この村に来た当初は先行きの見えない不安に心が押し潰されそうにもなったけど、ここに来て本当に良かった。

 

ああではない、こうではないと顔を付き合わせて何やら話し合いをする三人。ミランダはそんな子供たちを嬉しそうに見詰めながら、温かいハーブティーを淹れてあげようと席を立つのでした。

 

―――――――――――

 

「ミランダ、お前は一体何を考えているんだ!」

「お父様の言う通りです、あなたは誇りあるアルバート家の人間なんですよ?それが平民の、しかも冒険者風情とお付き合いするなど正気の沙汰とは思えません」

 

王都の片隅にある古びた屋敷、狭くあちこちにがたが入った建物に響く両親の叱責。事あるごとに聞かされるアルバート家の誇り、領地も持たない法衣貴族の小役人である父はそれでも家族を支えて来たと言う思いがあるのだろう。だが貴族の誇りと言っては見栄のために借金をしてまでパーティーに出掛けるのはどうかと思う。大体今の生活だって食費を入れてるのは私だと言うのに。

上の姉たちが次々と相手を決めて家を出てから私に対する当たりが急にきつくなってきた。それまでは全く興味を示さず放置していたくせに一体なんだと言うのか。

 

「そんな相手は直ぐに別れなさい。お前の相手は既に決めてある」

「そうですよ、お父さんの上司に当たる人ですがとても良い方と聞いています。あなたの事もきっと大事にしてくれますよ」

この親は一体何を言っているのか。父の上司と言えば以前我が家を訪れた際にボロ屋敷と馬鹿にした挙げ句、私にイヤらしい視線を送り続けた禿げ親父ではないか。しかも年は父より上、父は私に愛人になれとでも言うのだろうか?

 

「うむ、クラウディア殿は此度財務管理局局長に栄転なされる予定でな、私に補佐役として共に来ないかとお誘い下さったのだ。私は仕事でお前は私生活でクラウディア殿をお支える、さすれば我が家も安泰と言うもの。お子が生まれた際は我が家の跡取りにとも仰ってくださっているのだ、こんなにあり難い話しはないではないか」

そう言い高らかに笑う父と無条件に父に従う母。そこに私と言う人格は存在しない。この二人はこう言いたいのだ、“お前は私たちの踏み台になれ”と。

 

恋人ユーゴの訃報が届いたのは、両親からそんな話しを聞かされて直ぐの事だった。魔の森でのハイポーションの材料採取の帰り道だったそうだ。慣れた行程、よく見知った群生地、問題など起きるはずもない開けた場所での凶刃。盗賊の仕業かそれとも魔物によるものか、状況は明らかに不自然であるものの、それを証明するだけの証拠も手段もない。泣き崩れる私を慰めてくれたのは、ユーゴのパーティーメンバーであるマリアとトーマスであった。ユーゴは私との結婚資金を貯める為パーティーでの依頼以外にも積極的に依頼を受けていたとの事。今回の事故はそんな依頼の最中(さなか)の出来事であった。

 

「うぷっ」

「ミランダ、あなたまさか!?」

そう、私のお中にはすでにユーゴとの愛の結晶が宿っていたのだ。男の子ならゲイル、女の子ならエミリー。生まれる前から名前を決めるほど彼は喜んでくれていたのに。

 

“バシンッ”

“ドサッ”

「この親不孝者が!よりによって平民の、しかも冒険者風情の子供だと!クラウディア殿になんとお詫びをすればよいと思っているのだ!」

床に倒れ伏す私には目もくれずにブツブツ独り言を言う父、一瞥をくれた後一切こちらを見ようともしない母。

 

「こんな事があっていいはずがない、そうだ、そんな子供など最初からいなかったのだ」

瞳に怪しい光を宿し不穏な言葉を呟く父に身の危険を感じた私は、一礼し執務室を後にする。急いで自室に入り必要最小限の荷物を持ち出してこっそり屋敷を抜け出したのは言うまでもないだろう。このままでは大事な子供の命が危ない、私は必至だった。

 

「マリア、トーマス、お願い、私達の、ユーゴとの子供を助けて!」

恥も外聞もなく縋ったのはユーゴのパーティーメンバーであるマリアとトーマスの二人であった。彼らはこれまでの事情を察したのだろう、その場で承諾すると準備を始め、私たちは朝一番の駅馬車で王都を後にした。でもいくら亡くなったパーティーメンバーの忘れ形見の為とはいえ共に王都を出てくれるとは。

王都を離れて数日、その事を二人に聞けば何の事は無い、元々彼らも王都を離れる予定であったとの事。私とユーゴとの結婚話が出た時点でパーティーの解散を考えていたらしい。

 

「それにね」

マリアは自分のお腹をさすり愛おしそうに目を向ける。

 

「このお腹には私とトーマスの大事な赤ちゃんがいるの」

小さな子供を抱えての冒険者活動はそれなりのリスクが伴う。マリアとトーマスはマリアの妊娠出産を機に冒険者を引退し田舎で農家にでもなろうと前々から準備していたとの事であった。

 

「これから向かうのはグロリア辺境伯領の更に辺境地、いくらミランダの親父さんが貴族とは言え、この国の最果てにまで手が伸びるほどの権力は無いだろうさ」

“それこそ王族でもない限り無理だね”と言って笑うトーマスの言葉にドッと肩の力が抜ける私なのでした。

 

「君たちがヘンリーの話していた入植希望者かね?」

辿り着いた辺境の地マルセル村は本当に何もない長閑な土地でした。辺境やら最果てなどと言われていた私は余りの牧歌的雰囲気に拍子抜けしてしまったほどでした。

 

「ここはよく最果てなどと言われているが世間が思うような魔境でもなんでもない。ただ主要街道からは大きく外れ、周辺を魔獣が跋扈する草原や森に囲まれている事、大森林の先に本物の魔境であるフィヨルド山脈を抱えている事、農村地帯としての開発にそこまで旨味がないと言う事が理由で放置されている土地と言うだけに過ぎない。

幸いな事に周辺の森には大型の魔獣や危険な魔物などの目撃例はほとんどない為生存に適してはいる。但し町場とは違い物流が極端に少ない。私が村長になる前は冬場に凍死や餓死と言った事もあり、今では王国法で禁止されている”人減らし”と言う悪習すらあったと聞く。幸い私は大容量のマジックバッグを持っているため食料品の保存は問題ない、今の所冬場の餓死とは無縁だと思ってくれていい。

ところで君たちはこの村で何が出来るのかね?」

 

村長さんは見た目とは違い大変理知的な男性で、この村の事、生活の事、様々な問題について隠し立てする事なく教えてくださいました。

 

「ふむ、ならばヘンリーの家の近くにある空き家を君たちに提供しよう。ヘンリーの隣の家の老婆は昔王都でお産婆をやっていた経歴がある。これから子供が生まれると言う君たちにとっては近くにお産婆がいると言うのは何かと安心出来るだろう。なに、彼女も君たちと同じ訳アリだ、事情は察してくれるはずだ。その分村の為に貢献してくれればいい」

私たちの入植は村人にすんなりと受け入れられ、村長の計らいで私は村の薬師として、トーマスは農業を営む男衆の一人として生活する事になりました。

 

―――――――――――

 

「だからさ、やっぱり目くらましの為の攻撃が必要なんだって。三人でウォーターボール(偽)を上に放り投げて注意を逸らした隙にファイヤーボール(偽)を投げ込んでだな~」

「ならばいっそのこと全員属性変えない?その方が対処が煩雑になるはずだから」

「だったら私はライトボール(偽)とダークボール(偽)がいい!」

「よし、決まりだ。明日こそズタンズタンのギッタンギッタンだ、絶対泣かせてやるぞ!」

「「お~!」」

 

元気よく手を上げて掛け声を上げる子供たち。フフフ、全属性の初級魔法だなんて、今度は一体どんな遊びをしてるのやら、本当に可愛い。今度大福ちゃんに干し芋でも持って行ってあげようかしら。

 

ミランダは窓の外に広がるすっかり色の変わった村の樹々を見ながら思う、”ユーゴ、あなたと私の子供はこんなにも元気に育ってくれているわよ”と。

王都の両親が今どうしているのか、世の中が今どうなっているのか、この辺境の村でそれを知るすべはない。だがそれでもいいとミランダは思った。この幸せがいつまでも続きます様に。

季節は少しずつ冬の気配を強めている、でもそんな事はお構いなしに騒ぐ子供たち。

 

「はいみんな、お茶の時間ですよ」

ミランダは子供たちの(もと)に淹れたてのハーブティーを差し出すのであった。お手製のクッキーを添えて。




本日二話目です。
今日からはこれでお終い。
また明日よろしくお願いします。
いってらっしゃい。
by@aozora
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