転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第201話 村人転生者、畑の管理人と御茶をする

“シュ~~~~~”

囲炉裏の真ん中で五徳に掛けられた鉄瓶が白い湯気を上げる。

取っ手を掴み、鉄瓶から癒し草の若葉を使った煮出し茶を湯呑に注ぎ入れる。

癒し草の若葉のお茶は、春先のこの時期の若葉を使った物でしか楽しむ事の出来ない季節のご馳走。冬場に知らず溜まった疲労を癒し、体調を整えてくれる逸品。

 

“コトッ”

差し出された湯呑より漂う若葉の香り、一口口に含んだ瞬間口内に広がるほんのりとした甘み。そのスッキリとした味わいが、今年も無事春を迎えられたことを祝ってくれているようである。

 

目の前の皿に乗せられた摘みに箸を伸ばす。擂り鉢で良く磨った癒し草の若葉に小麦粉を加え、光属性マシマシウォーターを注ぎ入れながらよく練り込んだものを一晩寝かせ、平べったくして焼いたものにフォレストビーの蜂蜜を掛けた春のお菓子。

モチモチとした食感と若葉の香りがフォレストビーの蜂蜜に包まれ口の中でハーモニーを奏でる。

そんな甘さを若葉のお茶で爽やかに洗い流し、また一口。

これ無限ループですやん、止められない止まらないですやん。

アナさん、また腕を上げましたな。

俺は食の探究者でもある畑の管理人アナさんの研究成果に唸りを上げる。

そう、この癒し草の若葉茶と癒し草焼き餅擬きはアナさんが開発したものなんですね~。

俺の何気ない言葉、“小麦粉には無限の可能性がある”“偽癒し草のお茶があるんなら癒し草をお茶にしたっていいんじゃない?”

その言葉を独自に消化し、実践して見せたアナさんの行動力には感服です。ただ与えられるだけじゃない、それを基に新しい何かを作り出す。

森の賢者エルフの名は伊達じゃない。

俺はアナさんに対し感謝と賛辞を込めて言葉を送るのでした。

「とてもおいしかったです、ご馳走様でした」

 

 

畑の春は芽吹きの春、もはやビッグワームと呼べなくなってしまった緑と黄色はその巨体を器用に動かし、せっせと畑の管理に勤しみます。

えっと、何か畝間が広くなってるんですが?身体に合わせたと、なるほど、作業しやすい方がいいですものね、納得です。

ホーンラビットの実験飼育場では団子が一羽、若草を食んでいらっしゃいます。

皆さん旅立たれちゃいましたものね。業務連絡ではお城の皆さんに大事にされて大変快適な生活を送っているそうですよ?

・・・団子、いつかいいお相手が出来るって、元気出せ。

俺は青い空に浮かぶ雲をじっと見詰める団子に、掛ける言葉が見つからないのでした。

 

「えっ、あの白くてふわふわしたものがなんか美味しそう?

う~ん確かに美味しそうだね。在りし日の記憶には綿飴ってモノがあったけど、ザラメどころか砂糖も手に入らないから作れない。

取り敢えず蜂蜜きな粉飴でも食べる?」

 

“コクコクコク”

団子はやっぱり団子だったようです。

 

まぁそんな感じで畑を見て回った後、小屋に戻ってアナさんからお茶を頂いてるんですけどね。アナさんがニコニコしながらこちらを見詰めていらっしゃるんですが、何か妙な圧がですね~。

 

「・・・全部話せって事ですね」

“コクコク”

 

“はぁ~”

俺はため息を一つ付いてから事の起こりから説明するのでした。

 

「最初からと言われてもあれなんで、状況からお話しますね。

先ずなんでグロリア辺境伯様の孫娘パトリシア様がわざわざマルセル村にまで足を運んでホーンラビットをお求めになられたのかと言いますと、お嬢様、公衆の面前で婚約破棄されちゃったからです。

お相手はランドール侯爵家三男ローランド・ランドール様。幼い頃からの御関係だったらしく良好なお付き合いをなさっていた、そう思っていたんだそうです。

で、そのバカボンがお嬢様を振って新しくお付き合いするとご紹介したのがお嬢様の妹君フローレンス嬢、簡単に言えばローランドがフローレンスに唆されて浮気した挙句お嬢様を捨てたって事なんですけどね、このやり口が最悪でして。

婚約解消は女性にとっては醜聞となりかねない、男性から不適格の烙印を押されたって事ですから。ただこれが両家の話し合いによって決められるのならその傷は浅く、次のお相手も見つけ易い。

家同士の関係なら致し方ないと言うのが貴族社会の一般的な見方ですからね。

で、今回のバカボンが行った行為、婚約解消ではなく婚約破棄、しかも公衆の前で。

卒業パーティーの席だったそうです。

王都で流行りの物語の一場面の様な展開、集う貴族子弟とその関係者、パトリシアお嬢様の社交界での評判は“男に捨てられた底辺令嬢”って所でしょうかね。今後碌な婚約者が見つからない事は請け合いです。

しかも自身からお相手を奪った相手が実の妹、そりゃ落ち込みますよ。

長年の付き合いのある婚約者の裏切り、身内の裏切り、あまり人生経験のないお嬢様が人間不信になってもおかしくはない。

食事も喉を通らずやせ細り衰弱するパトリシアお嬢様、それに追い打ちを掛けるように自身の父親から掛けられた心無い言葉。

ジョルジュ伯爵家はパトリシアお嬢様を切って、妹のフローレンス嬢とローランド様の婚姻を御認めになったそうですよ。

まぁそれにブチ切れたパトリシアお嬢様の母君がお嬢様を連れて実家であるグロリア辺境伯様のところに出戻ったってのが背景ですね」

 

“ズズズズズズッ”

 

「あ~、お茶が旨い。

続きです。あぁ、お貴族様って馬鹿?とかのツッコミはいらないんで。もうそんなものなんだなくらいに思ってください。

で、傷心の弱って行くパトリシアお嬢様をどうにかしたいとお思いになったグロリア辺境伯様が目を付けたのが角無しホーンラビットだったって訳です。

お嬢様が直接来られたのはお嬢様の気分転換って事もあるんでしょうけど、正直見てられなかったんじゃないんですかね?グロリア辺境伯様、相当怒っていらっしゃったんで。

 

まぁこちらとしても手段がない訳じゃなかったんですよ。アナさんに渡した寝具セット、あれって目茶苦茶寝心地が良くなかったですか?翌朝の目覚めの爽快感、まるで生まれ変わったかのように。

あれって物凄い精神回復効果があるんですよ。それこそ魂の傷も癒す程に。

領都の学園に入ったケイトですけどね、あのお布団のお陰で死んだ目に光が戻りましたから。あのままこの世の全てに絶望した目だったら、違う意味で目立ちそうでしたんでね。仇名が死神になる所でしたよって痛い痛い。

何で菜箸で叩くんですか!?地味に痛いから止めてって痛い痛い、本当やめて、あちこちの女に粉を掛けてって言葉の意味が分からないから!

 

あ~、酷い目に合った。

そんでパトリシアお嬢様もあの寝具を使えばすぐにでも回復する事は分かっていたんですよ。ただお貸しする訳には行きませんから、相手はお貴族様、奪われるのは目に見えてますから。

ですんで代わりの誤魔化しアイテムが必要になったって訳なんですよ。

それがベネットお婆さんに作って貰ったホーンラビットの毛を中綿にしたお布団ですね。布地は攻撃糸製ですから結構な高級品なんですよ?

普通の状態であればあれでも十分癒し効果はありますしね、ふんわりモコモコですし。

今回はパトリシアお嬢様一行が村長宅にお泊りになった際に一旦あのモコモコお布団でお休みになっていただいて、夜中にこっそりお布団を入れ替えて朝方こっそりすり替えるって事をいたしました。

お布団効果で熟睡なさってましたからね、バレないバレない。

まぁパトリシアお嬢様の問題についてはこれで良かったんですけどね、付属でまた色々と。

 

パトリシアお嬢様の婚約破棄、ジョルジュ伯爵領の乗っ取りを画策するランドール侯爵家と、正妻のパトリシアお嬢様のお母様を疎ましく思う側室様勢力が裏で暗躍していたって言うね。パトリシアお嬢様の存在は、この両勢力からしたら邪魔者以外の何物でもなかったって訳です。

そりゃ国で禁止されている誘魔草をあんなに大量に手に入れるなんて、相応の権力を持っていないと出来ませんっての。

領都を出発してからずっと後を付けて来る怪しい幌馬車が二台いたんで、周りの動きをよく監視していたんですけどね、案の定テイマーさんが買収されてまして。一行の中にもほかに協力者がいそうだったんで気を付けていたら、メイドさんの一人が違和感バリバリだったんですよ。

だってあれだけ美容にうるさいメイド様の中で、今流行りの聖水布を身に付けていないなんてあり得ないでしょう。後を付けてたら案の定こっそりテイマーさんと接触してまして。

 

あとは流れですね、襲撃者は力を持て余してた老人とオーガにお任せ、テイマーによる魔物暴走はこっちで対処、癒し隊に誘魔草が効かないってのは予め分かってましたから、他の角無しホーンラビットに触れさせる前に癒し隊を紹介したって訳です。

団子や白玉と言った攻撃行動を克服した個体に、暴走を促す誘魔草が効くはずないんですけどね。癒し隊も同様、角ありなのに攻撃行動に出ないホーンラビットの特徴です。

癒し隊はこのまま村の癒し担当でも良かったんですけど、新天地でのペット生活を望んでましたから。彼女達の努力の成果が実って良かったですよ。

 

でも流石にパトリシアお嬢様にはこの襲撃はきつかったみたいでしたんで、再び夜中に忍び込んでお布団様で癒させていただきましたが。

 

で、こんな感じで話が進むと大概輸送中に証人がお亡くなりになるってのがお約束じゃないですか。

こっそり後を付けて監視していたら案の定護衛騎士の御一人が監視役だったみたいで行動に出られまして。捕まえて影空間でお話をお聞きしたって訳です。

あまり根性は無かったですけどね」

 

“ズズズズズズッ”

 

「あ、お茶のお代わり貰えます?ありがとうございます。

これで話が終わればよかったんですけどね、ちょっと面倒な事が起きまして」

 

“ズズズズズズッ”

新しく頂いたお茶を一口飲んだ俺は、ため息を一つ付いた後五徳の炎に目をやり話しを続けるのでした。

 

――――――――――――

 

「楽しい実験♪楽しい実験♪頭目の呪いは解けるかな~♪」

 

ホーンラビット牧場で起きた凶行、テイマー様の馬鹿な行動により暴れ出した引き馬たち。テイマー様はそのどさくさに紛れて逃げ出すつもりだったんでしょうけど、そうはイカの一夜干しってね。

覇気をぶつけて一挙鎮圧、これってボビー師匠が魔物相手によくやる奴なんですよね~。結構使える便利技、長年冒険者をやっていながら五体満足に引退を迎えた人はこういった小技が上手いってね。父ヘンリーなんかその顔一つで相手をビビらすもんな~、身動きの取れなくなったホーンラビットの憐れな事、格上にも挑むホーンラビットが死を受け入れるってどれだけって感じです。

 

で、騒ぎを鎮圧して現場責任者を確保、昨晩のお頭さんは十回まで耐えたから二十回は行くかな?急速な魔力枯渇と急激な回復って魂のレベルできついみたいです。

壊れるって事はないんだけどトラウマにはなるみたいで、何でも素直に話してくれる様になるんですよね。

こっちとしては制約とかが掛けられてる場合の為の呪い解除の実験ってだけなんですが。ほら、ゴブリンズが制約を掛けられてるじゃないですか?その解除の為の実験ですね。

で、こちらの頭目さん、頭目って言うくらいなんだから沢山秘密を抱えている訳で、その為の制約の呪いは相当に厳重なはず、この実験は期待が持てますな~♪

 

“ゴロンッ”

先ずは被験者を床に寝かせて顎を引き上げて口を開きます。

次に魔力操作の応用でチューブと漏斗を作製、そのまま口の中にスルスルッと入れて、食道を通して胃に直接液体を送れる様にします。

最後に漏斗に光属性マシマシフォレストビー蜂蜜ウォーターをコップ一杯分ダバダバッと注ぎ入れればあら不思議、魔力枯渇から回復して目を覚ましてって何か身体から黒靄が出てるんですけど?

これってヤバい呪いって感じ?

 

「そんな事もあろうかと、ジャジャーン、光属性マシマシマシマシキラービー蜂蜜ウォータ~♪」

 

“ダバダバダバダバ”

「チューブと漏斗を消して少し待ってってうわ~!」

 

“ズオ~~~~”

頭目の口から鼻から目から耳から、全身から溢れ出す漆黒。

その闇の霧が部屋の一角に集まり形を作り始める。

 

“貴様か、我の邪魔をする者は貴様か~~~~!!”

地の底より響く様な声音(こわね)、聞く者全てを呪い殺さんばかりの憎悪の籠ったそれは、目の前に浮かぶ漆黒の闇より響き渡る。

それは正に闇、濃厚な闇属性魔力を纏いし呪いの塊。

 

“我が計画を邪魔したばかりか我が依り代にあの様な得体の知れぬ物を飲ませおって。許せん、許せんぞ!!

だがいい、我は次の依り代を見つけた。

先程の大男、あの者の持つ破壊の力、貴様に覇気を伝授したのはあの者なのであろう?

滾る、滾るぞ!

我が二百年の生を持っても中々目に出来ぬほどの漢、その身体、貰い受けようぞ。

貴様にはあの漢に近付く為の人形となって貰おうか。

待っておれ、我の新しき肉体よ!!”

 

「へ~、誰が誰の肉体を奪うって?」

 

“ブオッ”

突如目の前の青年から溢れ出す濃厚な闇属性魔力、そのあまりの濃密さに、驚きのあまり言葉を失うナニカ。

 

「お前がどこの誰で何者かなんてのはどうでもいいんだけどさ、俺の身内が目を付けられて黙っていられる程お人好しでもないんだよね」

 

“ズワッ”

青年から溢れ出した濃密な闇属性魔力がナニカの身体を包み込む。何かは必死にもがき苦しむも、青年の魔力から逃れる事は叶わない。

 

“何故だ、何故実体のない我を捉える事が出来るのだ!我こそが最強、我こそが絶対、永遠の生を手に入れた不死たる我が!!”

 

「知ってる?魔力ってのはね、同質の魔力であれば弾いたり掴んだりする事が出来るんだよ。お前のそれは闇属性魔力、呪いって言っても所詮闇属性魔力を基本とした魔力現象だからね。

そんなお前は自身より濃い俺の闇属性魔力からは逃れる事は出来ない。

それと永遠の生だっけ?肉体を失い魔力生命体になったお前から魔力を抜いたら何が残るのか、興味深いよね。

でもお前の魔力なんて吸いたくないし、大切な黒鴉に吸わせたくもない。

という訳で魔力の腕輪さん、コイツの闇属性魔力をとっとと吸い込んで処分場送りにしちゃってください」

 

“ズズズズズズッ”

掲げられた左手、その手に嵌められた腕輪に向かい濃厚な闇属性魔力が集まって行く。

 

“グォ~~~、我の身体が、我の魔力が、我が呪いが!!吸われて行く、吸われて行く、やめろ、やめろ~~~!!”

 

「はい終了~。で、おや、何か残ってるね」

 

霧のように晴れる濃厚な闇属性魔力、そして中空に浮かぶ半透明の人影の様なナニカ。

 

“我の魔力が・・・、我が野望が・・・”

 

「なんだ爺さん、まだ生にしがみついているのか?とっとと天に召されて生まれ変わった方がいいぞ?

魂は流転する、こんな所でグダグダ言ってないで次の人生に全力で挑む事をお勧めするよ。てな訳で逝ってらっしゃい。<浄炎>」

 

“我は・・・、我は・・・”

 

白炎に包まれるナニカ、それは半透明の何かを燃やし尽くし天へと送る救済の炎。

“・・・・・”

全てを燃やし尽くされたナニカは、跡を残すことなく、その存在を失うのでした。

 

――――――――――――

 

「でね、こんなものが残ってしまいまして」

 

広がる影、その中から姿を現すメイド服に身を包んだ女性。

 

「御呼びでしょうか、魔王様」

褐色の肌、尖った耳、エルフ族に似たその特徴。

 

「ダークエルフですか・・・」

「流石にグロリア辺境伯様に引き渡す訳にもいかないので、別の方のご遺体を見せて死んだ事にしておきました。ほとぼりが冷めたらどこにでも行っていいとは言ってるんだけど、なんか俺に仕えるとか言い出しちゃって。

それで話を聞いたら剣の勇者様に討たれたオークの魔王に仕えていた女性の一人だったらしくって、魔王様に庇われて逃げ出した後呪術師の罠に嵌り囚われて依り代にされてたらしいんですよ。

それで何故か俺の事を魔王様って言うんですよね、マジ勘弁して欲しいんですけど」

 

慇懃に礼をする迫害されし種族、魔王の元配下、厄介事の頂点。

“俺って前世でそんなに悪いことしたっけかな~”

 

“ズズズズズズッ”

湯吞の冷めたお茶を口に含み、虚空を見詰め黄昏るケビンなのでありました。

 




本日一話目です。
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