転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第205話 転生勇者、魔力の修業をする

「ゴフッ、ゴホッ、フゥ~。ありがとうケビンお兄ちゃん、一瞬お花畑が見えて凄い美形の背中に翼を付けた人たちが見えたよ。

なんか行列の整理と案内みたいな事をしてたんだけど、あれって一体何だったんだろう?」

 

フゥ~、ビックリした。目の前に行き成りメイドさんが現れた時も驚いたけど、エミリーの動きが早過ぎて捕らえられなかったよ。本当にエミリーも強くなったよな、去年モルガン商会の護衛で村に来た銀級冒険者のベティーさんに手合わせして貰った時も投げ技を使ってたりしたけど、グルゴさんのアドバイスでジミーのお父さんのヘンリーさんから時々体術を習ってるって言ってたんだよな。

ただでさえパワー強化スキル持ちのエミリーが身体運用技術を身に付けたら無敵だっての、俺も頑張らないと。

干し肉の勇者ケビンお兄ちゃん、剣の達人ジミー、オーガの拳エミリー・・・俺ってもしかしなくてもマルセル村最弱?俺TUEEEEとか勘違いしてすぐにやられちゃう踏み台転生者って奴?

えっともしかしてこの世界って“ソード オブ ファンタジー”の二次作品かなんかの世界だったりする?

やばい、あり得る、前世でもそんな感じのラノベっていっぱいあったじゃん!!勘違い転生者が“ここはゲームの世界、俺様が主人公だ~!!”とか言って現地主人公にボコられる奴、俗に言う当て馬転生者、俺の微妙な強さってまさにそれじゃね?

だっておそらくヒロイン役のエミリーにワンパンよ?ケビンお兄ちゃんがいなかったら瀕死よ?

 

俺はじっと目を閉じて考える。六歳の時、前世の記憶が戻った俺はこの世界が前世で遊んだゲーム“ソード オブ ファンタジー”の世界で、俺はラノベなんかで読んだゲーム異世界に転生した転生主人公だと喜んだ。

だがそんなものは勘違いだと、ここは現実世界で俺はただの村の子供だと言う事をデカスライム“大福”が教えてくれた。

そして村での仲間たちとの修行の日々、俺は徐々に強くなって行く事を実感した、宿敵であるスライムにはいまだに勝てないどころかボロボロにされているけど、それでもホーンラビットやグラスウルフ、オークなら余裕で倒せるくらいにはなった。

オークが余裕で倒せるのに全く敵わないスライム?・・・考えない事にしよう。大福を鑑定でもした日には立ち直れない気がするし。あれはただのデカスライム、黒光りしていて水魔法を自在に操って水で多頭ヒドラを作り出しちゃうけどただのデカスライム。

“大福だから仕方がない”

ペットは飼い主に似るって言うけど、ケビンお兄ちゃんの所の魔物たちって皆似たり寄ったりだよね。あまり深く考えない様にしよう、それが生き残る為のコツだってトーマスお父さんも言ってたし。

 

異世界転生、第二の人生、着実に力を付ける自分たち。夢は世界を股に掛ける冒険者、この世界を知りその光景をこの目で見る事。

ジミーが、エミリーが共に旅立つ事に賛同してくれた。力を付けて、どんな困難にも立ち向かえる様に、そう思っていた。

 

違和感を(いだ)いたのは初めての遠出、ボビー師匠に言われて向かったミルガルの街への護衛任務訓練。その時初めてここマルセル村周辺の地理について教わった。

ここマルセル村はグロリア辺境伯領北西部にある辺境の村である事、近隣の街がエルセル、次にある街道沿いの中継都市がミルガル、領都がグルセリア。

そしてこの国の名前がオーランド王国で王都の名前がバルセン。

自身がゲーム主人公赤髪のジェイクであると思い込んでいた時、当たり前だと思い込んでいたゲーム知識の地名や国名。

ここは現実であり前世とは違う別の世界であると思っていてもどこか拭いきれず、ゲームに似た異世界だと折り合いを付けたうえで他に転生者がいたら嫌だなくらいに考えていた自分。

ゴブリンさんたちの呼び名を付けるときに発覚した剣の勇者様の転生者疑惑。

そして無視できない地名の一致。

 

ゲームや転生とは全く関係ないジミーやエミリー、そしてケビンお兄ちゃんに敵わない自分。そこから導きだされるある可能性。

 

「ケビンお兄ちゃん、俺に修行を付けてくれませんか?俺、長生きしたいんです!!」

 

踏み台転生者は雑魚である。主人公様の前にライバル的立ち位置で立ち塞がり、最終的にボロカスにされる悲惨な存在。

攻撃力は初めこそ強いものの主人公補正によってインフレを起こした主人公様に敵うべくもない。それに只管に強さを求めるのは俺のスタイルじゃない。

俺は長生きがしたいんだ!

世界を見て回る、様々な冒険を繰り広げる、これは人生を楽しむためのもの。折角の転生、楽しまなくてどうする?

でも俺は死にたい訳じゃない、人々から尊敬されチヤホヤされたい訳じゃない。

女の子からはちやほやされたいけどそれ以上に死にたくない。(ガクブル)

俺の欲しいもの、それは死なない強さ、ケビンお兄ちゃんの様なタフネスさ!

俺は将来訪れるであろう踏み台転生者としての悲惨な運命にも耐えられる様に、何よりエミリーと共にいる自身が生き残れる様に!

“男はな、女には逆らえない生き物なのさ”

どこか遠くを見詰めながらそう語ってくれたヘンリー師匠。

ヘンリー師匠、俺、生き残って見せます!

 

俺は全ての希望をケビンお兄ちゃんに託し、深々と頭を下げるのであった。

 

――――――――――

 

「ゴフッ、ゴホッ、フゥ~。ありがとうケビンお兄ちゃん、一瞬お花畑が見えて凄い美形の背中に翼を付けた人たちが見えたよ。

なんか行列の整理と案内みたいな事をしてたんだけど、あれって一体何だったんだろう?」

 

急ぎポーションを飲ませて回復させたジェイク君が何か恐ろしい事を仰っておりました。お花畑に背中に羽の生えた美形ってあなた様方の事じゃないですか~、嫌だ、この子ったら臨死体験なさっちゃったじゃないですか~。

そっか~、あなた様方って行列の整理もしてるのか~。俺が送った方々は大人しく言う事を聞いたんだろうか、生意気な事言ってると消し炭にされちゃうぞ、ウイングモードの貴方様方って洒落にならないからな?

前に本部長様が“ドラゴン素材を無理に求めるとドラゴンと天界の抗争になりかねない”とか言ってたけど、あちらの方々ってあの最強生物とタメ張れるんですよね。

もうそれだけで異次元よ?雲上人とはよく言ったものです。

 

そんでもって無事生還なさったジェイク君、何やら真剣な顔をして悩んでいたかと思ったらいきなり頭を下げて俺に頼みごとをしてまいりまして。

 

「ケビンお兄ちゃん、俺に修行を付けてくれませんか?俺、長生きしたいんです!!」

 

・・・そっか~、ジェイク君もついに自覚しちゃったか~。ジェイク君の隣でジミーがウンウン頷いてるもんな~、女性は怖いよな~。

我が家のオーガ様も母メアリーが怒り出したら直立不動よ?領都の門兵様もかくやって程の見事な姿勢よ?

ジェイク君の家のトーマスさんもマルコお爺さんも皆奥さんには逆らえないのよ?

ドレイク村長代理はその辺上手いからミランダ師匠を怒らすなんて真似はしないけどね、それとグルゴさんのところは・・・強く生きてとしか言えない。今度キラービーの蒸留酒漬けでも作ってあげよう。

 

あったんですよ、異世界転生者の定番蒸留酒。領都でハロルド執事長に捕まった時、馬車での移動中に色々お話をいたしましてね?その時に村の大人たちが自分たちが飲む為のエールを作ってるけどそれって大丈夫なのかって聞いてみたんですよ。

そうしたら各村で自家消費する分についてはお目こぼしされているけど、販売とかになったら領都の商業ギルドで登録しなければならないって教えて下さいました。他の領地に売りに出す場合は王都の酒業組合の加盟と許可が必要らしいんですけど、領内だけであれば領主の裁量に任されており、グロリア辺境伯領においては商業ギルドでの登録だけでいいそうです。

その話の中でお酒の種類の事についても色々と。エールや苦みの付いたエール、ワインなんかがある中で蒸留酒もございました。話ではドワーフを中心に高い人気があるとか、“私にはキツすぎてあまり好きではないんですがね”と言って笑っておられました。お値段はまちまち、それでもエールに比べると随分お高いとの事でした。

 

・・・作っちゃう?やり方は基本理科の実験の水の蒸留と一緒だし、道具も作れない事も無いし。田舎鍛冶が火を噴いちゃうよ?

・・・駄目だ、マルコお爺さんたち吞兵衛たちがおかしくなるのが目に見えてる。

フォレストビーに蜂の巣の欠片を分けて貰って持って行ってあげよう。

 

「あ、うん。ジェイク君の気持ちはよく分かったから、それは追々って事で。今日は魔力操作の応用の“魔力隠し”についてだから」

 

俺は真剣な瞳でこちらを見るジェイク君を宥め・・・ジミーも習いたいの?了解。生き残り対策は重要だもんね、分かります。

オッホン、ジェイク君を宥め、魔力隠しについて話を始めるのでした。

 

 

「まず森の中で魔物に襲われない様にする技術、気配の隠し方や無音行動についてだね。これは俺が小さい頃から常に鍛え続けてきた技術、畑仕事をしている時や家にいる時でさえ行って来た修行の成果だね。

俺の場合魔力隠しを覚える前の段階でホーンラビットの群れを横断していたくらいだから。ヘンリーお父さんやボビー師匠に暗殺者呼ばわりされる位には頑張りました」

 

ん?なんか皆さんドン引きなさってるんですけど?えっとホーンラビット迄なら身体技術でもなんとか行けるのよ?これ実証済みです。

 

「でね、この森での狩りの時に行う行動、気配を薄くしたりって事なんだけど、無意識のうちに身体から溢れ出ている魔力を抑え込んでるんだよ。

魔物って言う生き物は魔力豊富な食べ物が大好きで、魔力に惹かれる傾向があるんだ。その分魔力には敏感でね、種族や個体にもよるけど遠方からでも魔力を嗅ぎつけてやって来る。

ジミー、ジェイク君、エミリーちゃん、ボビー師匠は見たはずだよ?オークの森の先の草原で野営をしていた時に出会ったあの化け物を。あの化け物は俺の魔力感知範囲を大きく上回る場所から三人の魔力を感じ取ってやって来たんだよ。

まぁあれは例外としても魔物が魔力に惹かれるって事は分かってくれたと思う。

 

前にも言ったかもしれないけど、俺って魔力枯渇に対する訓練をしていたんだよね。

これはその訓練の中で偶然発見したんだけど、魔物は魔力を発していないものを認識する能力に欠けるんだよ。正確には気に留めなくなる。

こちらがさらに気配を消したりしていたら尚更なんだけど、そこまでしなくとも魔力さえ感知させなければほとんど反応しないんだ。

 

俺が魔の森どころか大森林を歩き回れるのはそれが理由、因みにボビー師匠が愛用しているあの木剣、相当ヤバい場所の木の枝から作製しております。

王都のオークションに出したら金貨どころか白金貨の値が付きます。ですんで絶対村から持ち出さないでくださいね、商人は敏感ですから」

 

俺がそう言うと一斉にボビー師匠の持つ木剣に目を向ける一同。

おーい、話は終わってないぞ~!!

 

「オホン、それについては後程で、魔力隠しの話が終わらないんで。

それで魔力隠しですが、やり方は簡単、自分の魔力を体の内側に引っ込めるだけですね。

一般の魔術師や剣士にやれって言っても直ぐに出来る技じゃないんですけどね、マルセル村の皆さんは皆魔力纏いと言った魔力操作が出来ますから。

授けの儀を迎えたら多分<魔力操作>ってスキルに目覚めるはずですよ?これはケイトで実証済みです。

こっちの月影も以前から魔力操作が出来ていたみたいなんで教えたら簡単に魔力隠しが出来る様になりました。無音行動や気配を消す事は前から出来ていたらしいんで、さっきみたいに相手に気が付かせずに目の前に立つ事も出来る様になったって訳です。

コツは身体の外に溢れてる魔力を引っ込めるって感じですよ~。

お、ジミー、コツを掴むのが早いですね~。ボビー師匠は流石です、確り魔力を鎮める事が出来てますよ。

剣士さんとローブさんは焦らなくてもいいからね、ゆっくり頑張って。

ブー太郎、はや。お前ってそう言う隠れる技術は優秀なのね。良狼たちはもう少しって感じかな。

クマ子とクマ吉はまだ魔力操作に慣れてないから焦らなくていいぞ、これは完全に慣れだから。ブー太郎と良狼は二人に手本を見せてあげて。

ジェイク君とエミリーちゃんも何とか出来たみたいだね。

あとはこれを繰り返し練習してものにしていくだけ、何事も反復練習だから」

 

俺の言葉をよそに、互いに魔力隠しをして驚き合ってる面々。良きかな良きかな。

 

「あの、ケビンお兄ちゃん、ちょっといいかな?」

 

俺がそんな彼らの様子を満足気に眺めていると、魔力隠しをし合いながら喜んでいたジェイク君がふと声を掛けて来ました。

 

「さっきケビンお兄ちゃんが言っていた、ボビー師匠の木刀が王都のオークションで白金貨の値段が付くって言った話って、一体どう言う事?」

 

ジェイク君の言葉に先ほど迄はしゃいでいたこの場の者の視線が俺に向かい集中する。

う~ん余計な事を言ったかな。でも注意して貰わないと危ないからな~。

俺は愛用の謎カバンから領都のモルガン商会で取り出した魔法の杖(魔境の枝製の長杖)を取り出しジェイク君に渡しました。

 

「これはボビー師匠の木剣と同じ材質の木の枝から削った魔法の杖。俺は魔法の杖職人じゃないから魔力増幅の魔方陣も刻んでない形だけを真似た物だけどね。

モルガン商会のギースさん曰くちゃんと魔法の杖になってるそうだよ。

それを持って空に向かってファイヤーボールを撃ってみて貰っていいかい?」

 

俺の言葉に魔法の杖を掲げ、空に向かい叫ぶジェイク君。

 

「<ファイヤーボール>」

“ゴゥゥゥゥゥゥゥゥドッゴーーーーーーーンッ”

 

空より打ち付ける熱風。突如目の前に現れた直径二メートルほどの巨大な火球、それは轟音と共に天へと飛び去り上空で大爆発を引き起こすのでした。

 

「「「「・・・・・・・・」」」」

 

無言になる一同。

俺は天に向け長杖を掲げた姿勢で固まるジェイク君の手から危険物を回収すると、「ね、危ないでしょ?だから気を付けてくださいね?」と注意を促すのでした。




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