転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第208話 転生勇者、村人転生者の修行を受ける

この世界は厳しい。

一度(ひとたび)家を出れば多くの魔物が跋扈し、たとえ魔物がいなくとも盗賊や暗殺者と言った人の悪意が襲い来る。

それが村の子供が(いだ)く妄想などではない事は、冬場に襲ってきた多くの盗賊が、貴族御令嬢を狙った暗殺者ギルドの襲撃が、旅先で遭遇したグラスウルフやオーク、思い出すだけでも身体の震えが止まらない闇の塊のような化け物が教えてくれた。

この世は未知と恐怖に満ちている。そんな世界に飛び出すと言う夢の為に、これまで多くの修行を重ねて来た。

自分は、自分達は強くなった、そう思っていた。だがそれでは全然足りないということを最も身近な脅威(エミリーの(こぶし))が教えてくれた。

 

女性とは未知と神秘の塊である。女性の崇高な考えは、所詮矮小な自分では分からない。

親友のジミーは言った、“諦めろ”と。尊敬するヘンリー師匠は言った、“本気になった女性ほど強いものはない”と。

俺は弱い、粋がっても強ぶっても逃れられない事は分かっている。であるのならせめて・・・

 

「ケビンお兄ちゃん、俺に修行を付けてくれませんか?俺、長生きしたいんです!!」

死因が撲殺なんて勘弁してください。

 

――――――――――

 

既に俺よりも背が大きくなってしまった為にちびっ子軍団とも呼べず、子供たちと呼ぶには大人と大差ない程の背丈のジミーがいるため新しい呼び名を考えないといけない英雄予備軍たちに、以前約束していた魔力の使い方を教える為にボビー師匠の訓練場に行ったんですが、なんか話の流れでジェイク君に修行を付けて欲しいと懇願されてしまった。

 

分かるよ、だってエミリーちゃんのワンパンで死地を彷徨っちゃったんだもんね、あちらの方々のお仕事現場を見学して帰って来たんだもんね。

せめて腹を押さえるくらいで済むようにしたいって言うのは男のと言うよりも生き物としての当然の思い、誰だって長生きしたいよね。

ジミーもそんな親友の姿に真面目な顔で“僕もお願いだよケビンお兄ちゃん”って乗っかって来たし。ジミーは母メアリーとオーガの関係や俺が母メアリーにぼろ雑巾にされたところを見てるもんな~、そりゃ切実だよな~。

その後ズタボロに顔を腫らせた状態にも関わらず普通にご飯を食べてる俺を見て、驚愕の目を向けてたけど。

だって仕方がないやん、家庭の味に飢えていたんだもん。

一月半のソロキャンプ、結構満喫してたと言えばしてたんだけどね、それでもおふくろの味は恋しいのよ?母メアリーが怒りの感情のまま部屋に籠っている隙にさっさと済ませちゃわないと、食事抜きを言い渡されちゃうのよ?いつかの角無しホーンラビットの香草焼きを抜かれたときの悲しみは、未だに忘れてないのよ?

 

まぁそんなタフネスさを見せられちゃったらその秘密を知りたい、自分もそうありたいと思うのは当然、だって女性って怖いんだもん。(切実)

でもそんな女性に惹かれ逃げられない宿命にあるのも事実、男って悲しい生き物だよね。

 

でもその力を効率的に身に付けるにはまず魔力を理解し、魔力をコントロール出来るようになるのが先決。

 

「あ、うん。ジェイク君の気持ちはよく分かったから、それは追々って事で。今日は魔力操作の応用の“魔力隠し”についてだから」

 

俺は自身の経験とケイトに行った魔力制御の指導を通じ編み出した“魔力学習メソッド”を、彼らに施すのでした。

 

 

で、最初の魔力隠しの講義をしてから一週間(この世界の一週間は六日です)、皆さんだいぶ魔力隠しには慣れたご様子でいい感じに身体の中に魔力を収められております。

でもあの時は参ったよな~。ジェイク君がぶち上げたファイヤーボールに村の大人たちが何事かって駆けつけて最終的に俺が正座させられるって言うね。

この世界に正座っておかしいと思うでしょ?おかしな文化の影にあの方あり、剣の勇者様がお伝えになった自身の反省を示す最上級の姿勢なんですね、これが。

前にラッセル村でジニー師匠からスライムに関する手記を頂いてテンションのあがりまくった俺が、“領都に行く明確な目的が出来た”ってはしゃいでいたらケイトの逆鱗に触れて執行された奴ですね。

あの時は辛かったな~。ガタガタ揺れる荷馬車の荷台、激しい振動が常に襲い来る中、魔力纏い禁止の刑の執行。この世界の人は椅子生活が基本なの、正座なんて慣れてないの、しかもケイトが魔力視で監視してるからずるも出来ないの。

でも今回はケイトもいないんでずるし放題とか思ったらジミーとジェイク君、エミリーちゃんも魔力視をマスターしておられました。

 

そう言えば前に目に魔力を集めると魔力の動きが観察できる的な話をしたことがあったな~。そっか~、それだけで魔力視が出来るようになっちゃうのか~。

クッ、これが才能の格差って奴かよ。

他にも村の女衆の皆様が魔力視をマスターしておられました。

ミランダさんやベネットお婆さんは仕事に活かされてるんですか。ご主人がおられる方々は旦那様の噓を見抜くのに使ってると、魔力の揺らぎで嘘はバレバレだと。

ハハハハ、ですよね~、嘘や隠し事はいけませんよね~。(冷や汗)

便利なものが必ずしも生活を豊かにするとは限らない、ケビン、学習しました。

 

まぁ魔力隠しも魔力視も、基本魔力操作の一形態に過ぎないんで、その辺はこの一週間でよくよく練習してもらったって訳です。

 

ドレイク村長代理をはじめとしたマルセル村の皆様方にはクマ子やクマ吉、グラスウルフ軍団やブー太郎の事で随分と驚かれましたが、ジェイク君のファイヤーボールの一件は上手い事誤魔化す事が出来ました。

要らぬ諍いの種はばら撒かないに限りますからね。ドレイク村長代理が説明を求むって目でこっちを見ていたんで笑顔で返したら引き攣った顔をされたのは何故なんでしょうか?解せん。

 

 

「ハイ皆さん注目~。え~、皆さんが確り魔力操作を練習して来てくれたことは、その身体の魔力を見れば分かります。皆さんちゃんと体の中に魔力を仕舞い込めていますね、大変すばらしい。

目に魔力を込めれば分かりますが、普段人は自身の魔力を外に垂れ流しにしています。これは無意識に漏れる余剰魔力と呼ばれるもので、教会の者などはこの余剰魔力を基準としてその人物の魔力量を推し量っています。

俺とケイトが領都の教会に行って授けの儀とそれに伴う鑑定を受けた事は皆さん知っていると思いますが、その際に何の騒ぎもなく無事にすり抜けたのはこの魔力の制御を徹底して訓練したからですね。

ちょっとその実例についてお見せします、皆さん目に魔力を纏ってみてください。」

 

俺がそう言うとボビー師匠の訓練場にいる一同が目に魔力を纏う。

うん、とってもスムーズ。ゴブリンズが若干手間取ってますが、その辺は慣れです、頑張ってください。

因みに今回は魔物軍団はおりません。ただブー太郎だけは強制参加、お前は森のお店屋さんの代表なんだからしっかり学べ、“ゴロゴロしたいっす~”って言っても駄目だ、俺だってそうしたいのを我慢してるんだから抜け駆けは許さん!!(嫉妬)

 

「はい、皆さんちゃんと魔力視が出来てますね。えっと見てもらえると分かると思いますが、俺の身体の周りに薄っすら魔力の膜が見えると思います、ふらふら揺らいでる奴ですね、これが一般的な授けの儀を迎えたくらいの街の子供の魔力状態となります。結構希薄ですよね、でもどこの街でもこれくらいが平均的な状態なんです、違和感なく街に紛れ込もうと思ったらこれくらいじゃないと逆に目立ちます。

 

続いてこちら、これは街の大人たちの魔力量、その職業や熟練度などで結構まちまちなんですが、このくらいの量を基準にしておけばまず問題ありません。

これが冒険者とかになるともう少し多めにした方がいいですね、この程度の量だと周りから嘗められて難癖を付けられます。でも多過ぎると今度は“お前たち強そうだな、模擬戦で腕を見てやる”とかいう脳筋な方々が群がってくるので注意が必要です。周りの冒険者より気持ち多めと言ったくらいが無難でしょうか。

 

それでこれが城に勤める騎士とかになるとこれくらいですかね。騎士の方々は魔法が専門ではないにしてもかなり訓練に力を入れられている方が多いのと、戦闘スキル、武技と呼ばれるスキルを発動するのにも魔力が使われているのが原因ですね。

例えば<縮地>や<瞬歩>と言ったものや、<連撃><重撃>と言った手数や威力を増すスキルもそうですね。ただの横なぎなのにやたら威力のある<スラッシュ>や盾を使った<シールドバッシュ>などはどう考えても動きと威力が見合わない。

これも魔力による効果と考えれば納得できると思います。

 

魔法使いの訓練の話で魔法は使い続ける事で威力も増すし、魔力量も増すと言うものがあります。彼らは魔力枯渇を起こすまで訓練を行う事で練度を増していっているとか、頭が下がりますよね。

 

話は横にそれましたがこの様に魔力制御を繊細に行える様になるとその状況に合わせ自身の魔力量を相手に錯覚させる事が出来る様になります。

これはおいおい訓練していきましょう。

・・・えっと大丈夫ですか?まだ話は序章なんですが」

 

なんだか皆さんの様子がおかしいので俺は話を止める。えっと本当に大丈夫?これくらいは訓練すれば誰でも出来るのよ?

実際ケイトや俺はこの魔力制御訓練のお陰で王都の学園行き回避に成功した訳ですし、モブを目指す人間には必須技術なのよ?

 

なんかざわざわと“ケビンお兄ちゃんだから仕方がない”って声が聞こえてきますが、復活なさったんならそれでいいです。

 

「続けますね?先ほどまでの話は人は余剰魔力を溢れさせている、魔力制御の練度が甘いと余剰魔力が漏れるってところまでです。

ジミーにジェイク君、エミリーちゃんは見事な魔力制御をしてるんで魔力の揺らぎはほとんど見られません、こんな感じですね?」

 

俺はそう言うと自身に纏っている魔力の揺らぎを完全に止める。

 

「これは魔力が漏れているのではなく(とど)めている、纏っている状態となります。三人は既に無意識レベルで魔力纏いが出来る状態にあるって訳です。

ただそれだと見る人が見れば実力がバレちゃうのであえて揺らぎを作っていたのがさっきまでの俺です。そんな小技は普通は必要ないんで気にしなくてもいいですが、そう言う事をする者がいると言う事くらいは知っておいた方がいいですよ?

魔力の量は敵の実力を測る基準になったりするんで、それが絶対ではないと言う事を知っておく事はとても重要です。

 

それでですね、こうした技術をそれぞれ磨いていくのが普通の訓練なんですが、その最も手っ取り早い方法って言うのがありましてね。

魔力の制御、魔力の感知、魔力量の増強、その全てを一度に行える訓練。

皆さん、受けてみる気がありますか?」

 

“ゴクリッ”

誰かの生唾を飲む音が聞こえる。

 

「そう、これから行われる訓練、その効果は絶大。

ジミー、ジェイク君、エミリーちゃん、剣士さん、ローブさん。

力が欲しいか、ならばくれてやる。ただしその道程は並大抵じゃないぞ?

掴み取れ、全てを掛けてでも叶えたい夢があるのなら!!」

 

そう言い高らかに笑う俺に、キラキラした目を向けるジェイク君とエミリーちゃん、それとゴブリンズ。

だからジミーはその冷めた目は止めてください。“後でお母さんに報告しておくね”って言うの止めて?

ボビー師匠、獰猛に口を歪めて“この力で大福に”って呟くの超怖いんですけど。でも大福戦は新たな力を手に入れてもそこがスタートラインよ?

それとブー太郎、お前は強制参加だ!

今逃げ出そうとしただろう、絶対逃がさん!!

 

ここはオーランド王国の最果て、マルセル村。

そこで行われようとしている干し肉の勇者による魔力訓練。

それは新たなる歴史の一ページの序章であったのやもしれない。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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