転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第209話 転生勇者、村人転生者の修行を受ける (2)

「「「グゥォ~~~~~~~」」」

地獄の底で悶え苦しむ様な呻き、ふらつく身体を必死に支え、一歩また一歩。

 

「ほ~ら頑張れ~、下手にじっとしてる方が苦しいぞ~。

要は慣れだからな、徐々に身体をその状態に慣らしていく、それが本来の姿であり当り前だと思い出させる。

これはその為に乗り越えなければならない試練だと思えよ~。

因みにケイトはこの状態で二年以上暮らしていたみたいだぞ、しかも食べ物なんかほとんど無い様な極限の状態、そりゃ心も死ぬっての。本当によく生き残ったよな、魔力過多症になるのも納得だわ。

と言う訳でこれくらいの事じゃ人は死にません、“死ぬ~”とか言ってたけど死なないから、そんな恨めしそうな顔でこっちを見ない。

そんな暇があったら身体を動かす、訓練場を歩け歩け歩け~♪」

 

目の前にはこの地獄を作り出した張本人、村のお兄ちゃん干し肉の勇者ケビンがいい笑顔で皆の指導?を行っているのでした。

 

「皆さんに行ってもらう訓練、それは魔力枯渇対策訓練になります」

 

ケビンお兄ちゃんが口にした言葉に固まる一同、それはこの冬にケビンお兄ちゃんとケイトさんが行っていた基礎体力を鍛える為の訓練方法。

 

「え~、説明します。

全ての人は魔力を持っている。これはジミー達には話したことがあったと思うんだけど、この世界には魔力と言うものが存在します。魔物とはこの魔力と言うものに順応しそれを自身の生命維持に取り込んだ生き物、そう考えてもらって結構です。

ここでは説明の為にこの未知なる力の元を“魔素”と表現します。

魔物とはこの魔素を身体に取り込みそれを力とする生き物、多くの魔物がその力に惹かれより多くの魔力を求め魔素の多い土地に移動する。

魔の森と呼ばれる場所に多くの魔物が集まったり、大森林のような強力な魔物が跋扈する土地があるのは、すべてこの魔素による問題です。強い魔物はより多くの魔力を求め魔素が豊富な場所へ移動する。

大森林には浅層・中層・深層の階層分けがありますが、これは魔素の濃度によりはっきりと区分けされます。その違いは実際の現場に訪れたボビー師匠などは肌で感じ取った事と思います。

 

魔物がなぜ人を襲うのか?これも単純に魔力と言うもので説明できます。すべての人はこの世界に漂う魔素を吸収し身体の維持に役立てる生き物です。そうした意味では人もまた魔物と言えるのかもしれませんが、ここではその議論は割愛します。

何が言いたいかと言えば、この世界の生き物は大なり小なり魔力の恩恵を受け生活していると言う事です。

 

では本当にすべての生き物が魔力の恩恵を受けているのか、魔力に依存しているのかと言われればそれは分からないとしか言えません。これは魔力が、魔素がどこからやって来たのかと言った話になりますが、土地に魔素濃度の濃い薄いがある様に、生き物にも魔力を多く内包した生き物とあまり多くの魔力を持たない生き物とがあるからです。

植物にも魔力をあまり含まないものが多く存在し、動物と呼ばれるものは魔物と明確に区分される。馬などにおいては魔力をあまり持たない者を馬、魔力を多く持つ魔物との混血種を魔馬と呼んだりします。実際には馬ほどの大型なものや森の小動物も魔力を持っていたりするのですが、魔力の影響の少ないものは動物と分類したものと思われます。

村の周辺で見る昆虫類なんかも魔力はあまり必要としてない様です。魔力を欲する昆虫はフォレストビーやキラービー、ジャイアントセンチピードやジャイアントスパイダー、キャタピラーなどでしょうか。

 

ここで俺はある疑問に辿り着きました。この身体に宿る魔力を失ってしまったら人はどうなるのか?それは人にとって最大の弱点になるのではないか?

魔力を失うとどうなるのか、答えは簡単、気絶します。所謂魔力枯渇状態と言うものです。

人は日々の暮らしの中で魔力によって支えられ生活している、その支えを失ってしまえば思考する事も立つ事すら出来ない、したがって意識を失う。

これはお腹がすくと言った事と同意義で生理現象の一つ、逃れられない現象です。

では魔力の一切ない土地に送られたら、新たに魔力が供給されないような状況に陥ったら、身体の魔力を全て吸い取られてしまったら。

このような明確な弱点を残しておいて平穏に暮らせるわけがない。

一年半前の俺はこの難題に挑むために魔力枯渇状態を意図的に起こし、身体を慣れさせていこうと考えた。でも生活魔法しか使えない俺には魔力枯渇を起こすこと自体が難題だった。

求めた末に作り出したものが魔力過多症薬であり、それがケイトの魔力過多症治療に役に立ったのは思わぬ幸運でしたが。

 

この魔力枯渇訓練は思わぬ副産物を生んだ、それは全ての魔力を失う事で魔力と言うものの理解が深まった事、繰り返される魔力枯渇によって魔力に対する耐性が付いたことです。

広範囲の魔力探知が可能になったのも、この魔力枯渇訓練の賜物ですね。

 

そして繰り返される訓練の果て、積み重なった技術は授けの儀においてあるスキルの発現を呼んだ。

それが<魔力支配>です。

ケイトは授けの儀を受けた段階ではこのスキルに目覚めていませんでしたが、今では持っていると思いますよ。

これはおそらく複合スキルと呼ばれるものの一つだと思われます。詳しい事は研究者ではないので分かりませんが。

 

で、この魔力支配を覚えるとこんな事も出来る様になっちゃいます」

 

ケビンお兄ちゃんはそう言うと自身の周りに<ファイヤーボール>・<ウォーターボール>・<アースボール>・<ウィンドボール>・<ライトボール>・<ダークボール>を浮かべ、クルクルと周囲を回転させ始めました。

 

「これはこれまでの様に詠唱により何者かの許可を貰い魔法を発現しているのではなく、魔力の構成を理解し魔物の様に自身の力で疑似的に全属性を行うやり方です。

故に・・・」

 

ケビンお兄ちゃんが右手を天に向けると、ボール魔法は形を鳥の様に変え空高く飛び立ち上空で光の粒子に変わり消えていきました。

 

「さぁ皆さん、頑張って高みを目指してくださいね」

 

そう言いニコリと微笑むケビンお兄ちゃんに頭を垂れる一同。

そこが地獄への入り口だなどと思いもしないで。

 

悪魔は言葉巧みに人を地獄へと引きずり込む。

今なら分かる、ケビンお兄ちゃんはただの優しい村のお兄ちゃんなんかじゃない、食欲に取り憑かれ結果村の皆を幸せに導いた究極の勇者病<仮性>重症患者、干し肉の勇者様と言うだけでもない。

その本質はもっと恐ろしい何か。

それはきっと勇者物語で語られる“魔王”そのものなのかもしれないと。

ジェイクは痛む頭と重く苦しい身体を奮い立たせ、一歩、また一歩と足を進める。

今もまた一人一人の状態を冷徹に観察し、ぎりぎりの状態まで魔力を抜き取る悪魔を横目にしながら。

 

――――――――――

 

「「「グゥォ~~~~~~~」」」

呻き声を上げながらゾンビの様に訓練場を彷徨い歩く訓練生一同(ボビー師匠・ブー太郎を含む)、中々壮絶な光景です事、良きかな良きかな。

力を手に入れる事は一朝一夕にはいかない、それなりの努力が必要、これは何に付けても一緒ですからね。

ジミーとジェイク君が求める力ってのはおそらく“覇気”が最も相応しいんだろうけど、あれって身に付けるのに時間が掛かるからな~。訓練方法としては四六時中覇気を浴びまくってれば勝手に覚えるんだけど、これが中々きつくって。

肝を冷やすとか気に当てられるって言葉があるけど、マジ勘弁って感じなんですよね。

って言うか俺に無理やり覇気を覚えさせたボビー師匠、絶対に許さん!!

 

で、この覇気を覚えるとどうなるかって言うと、在りし日の記憶にある内気功みたいなものが使える状態になります。

高位冒険者・高名な剣士なんかが覇気を使える様になってるのは、それだけ極限の状態に身を置いて命を削って戦ってる証拠、魔力枯渇寸前の命懸けの戦闘の中くらいじゃないとこんな力は身に付きません。

まず普通だと魔力が身体を補助しているので気を意識する様な状態にならない、この世界でそんな状況って格上とのギリギリの戦闘以外にあり得ない。

ジミー達は大福にガチンコで挑んでるけど、大福は軽くあしらってるだけだしね、真剣ではあるけど命の削り合いとは違うから。

 

そんな命懸けの戦闘の中で覚醒した気の感覚は、自身の身を守る盾となり鎧となり身体の動きをより活性化させる助けとなる。

守護者シンディー・マルセルが二十代半ばの息子がいるとは思えないほどの若さと美貌、そして色気を放っているのはすべてこの覇気の恩恵、それだけ多くの修羅場を潜り抜けて来たという証拠。

自ら望んで地獄に飛び込む、やっぱり勇者病<真性>は頭のねじがダース単位で飛んでるわ、関わり合いになりたくないでござる。

 

で、(わたくし)考えました。そんな危険な状況に身を置かなくったって魔力を無くせばよくね?と。

だって魔力が邪魔をするから気が感じ取れないってんなら、魔力が邪魔をしない状況、魔力枯渇を起こせば問題ナッシング?

普段の魔力枯渇筋トレに合わせて呼吸法を取り入れた気の訓練をですね、行ったって訳であります。

この覇気、先ほども守護者シンディー・マルセルの事について述べたように心身の成長と活性化を助ける作用がありまして、魔力が補助する力だとすると覇気は成長を促す力、精強な身体を作る力とでも言いますか。

骨格も内臓も筋肉も丈夫になるんですね~。

でも何故か背の伸びが悪い・・・ガッデム!!せめて母メアリーよりかは大きくして、お願い!!

 

と言う訳でジミーとジェイク君、エミリーちゃんにはまず魔力枯渇でも乱取りが出来るくらいになっていただかないとお話にならないって訳です。

 

で、現在行ってるのが魔力枯渇に身体を慣らす訓練、一々魔力枯渇症薬の服用なんていたしません。大福先生と長期雇用契約をしたことで手に入れた触腕繊細操作と魔力吸収の複合技、<吸魔の触腕>。

訓練生全員の身体に基礎魔力の見えない触腕を伸ばして魔力を徐々に吸収、それぞれの状態を見ながら調整させてもらっております。

 

初日から唸る唸る、地面に両手を突いて這いつくばる一同。

慣れるまではね~、結構きついんだけどね~。

 

「なんか助けて~とか言ってますけど、止めた方がいいですよ?

これは最近知ったんですけど、魔力枯渇と急速な回復を繰り返すのって目茶苦茶辛いらしいですから。なんでらしいって言葉を使うかって言うと俺とケイトって魔力枯渇に慣れ過ぎて全く平気になっちゃってたんで、急速回復をしても回復したなって感覚しかなかったんですよね。

でも気になるんなら試してみます?この光属性マシマシ蜂蜜ウォーターを飲めば魔力なんて一発回復しますから~♪」

 

そう言いカバンから小瓶を取り出す俺氏。堪らず手を伸ばすブー太郎先生。

流石ブー太郎、こういうお約束事ははずしませんな~。

小瓶を一気に煽り急激に魔力が回復し笑顔になるブー太郎。でもお忘れじゃないですか?魔力枯渇の原因は、この俺なんですよ?

 

“ブヒ~ッ、フゴブヒ~~~!!”

哀れブー太郎、本日二度目の魔力枯渇。(寸止め)

そんなブー太郎の様子に顔色をさらに悪化させる一同。

こうして訓練生たちの特訓の日々は彼らが魔力枯渇を克服するまで続くのでした。(合掌)

 




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