転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第21話 転生勇者、村長を見送る

マルセル村の中心部、村長の家の前にあるちょっとした広場には、この村に住む多くの人間が集まっていた。急遽決まったこの集会には村の活動の中心となる男衆ばかりではなく、村を支える女性達、村の子供たちと、病気や加齢で家から出ることすら困難な者を除き全ての住民が招集されていた。

 

「マルセル村の皆よ、冬の準備で忙しいところ集まってくれたこと感謝する。本日皆に集まって貰ったのは他でもない、皆の生活にも直接関わるであろう重大な決定を伝える為である」

村長はそこで一度言葉を区切り、この場にいる皆の顔を見回した後、言葉をつづけた。

 

(わたくし)、ドレイク・マルセルは本日を持って村長を引退し、その地位を妻であるシンディー・マルセルに返上する」

村長の、いや、元村長 の宣言は、マルセル村の住民を驚愕させた。それは古くからこの村に暮らしてきた老人ほど顕著なものであった。元村長ドレイク・マルセルの働きはそれほどまでに大きなものであったのだ。

現在この村で暮らす者たちに冬の食糧難に怯える者はいない。病気や怪我を恐れ日々の不安に苛まれながらただ命を繋いでいると言う様な者もいない。

一瞬の静寂、村人達は知っていた、今こうして何気なく牧歌的な村の生活をおくれているのは、皆元村長ドレイク・マルセルのお陰であると言うことを。

 

「皆も承知のように我が息子マイケル・マルセルは成人を過ぎ今や立派な後継者である。彼は私にこう告げた、我が先祖は魔物跋扈するこの地を切り開き現在のマルセル村を築いた英雄であると、自分はそのマルセル家の血を引く誇り高き戦士であると。その時私は思った、私の役目は終わったのだと、目の前にいる偉大なる男に預かっていたマルセル家村長の椅子を返上する時が来たのだと。

だが息子マイケルは、いや、次期村長であり偉大なるマルセル家の血を引き継ぎし男、マイケル・マルセルは、そのような只譲られるような村長の座に価値などないと一蹴した。辺境の魔の森に囲まれたここマルセル村の村長として、皆を率い戦えなくて何が村長であるのかと。

 

この村はここ数年は確かに平和であったのであろう、実質的な脅威と言えばマッドボアやホーンラビット。だがそれはこの村の抱える本質的脅威などではない、隣接する森の更に奥、老木を越えた先に広がる大森林にはキラービーやブラックウルフの群れがはびこり、それらを餌とする更なる魔獣が跋扈すると聞く。

これは我が村の誇る英雄、グロリア辺境伯領にて最も白金級に近いと謳われる金級冒険者、シンディー・マルセルが実際その地に赴いて確かめた事実である。

 

だがマルセル村の者達よ、安心するがいい。マルセル家の偉大なる血を受け継ぎし英雄の子孫マイケル・マルセルがその様な危険を看過するだろうか、村人の安寧を一番とするこの偉大なる男はそれを皆に証明しようと立ち上がった。

次期村長、マイケル・マルセルは村長就任に当たり二つの条件を掲げた。一つは己が力を示す事。力の証明として最低でも銀級冒険者として皆の指揮を執り最前線で戦える事を証明してみせると力強く宣言した。もう一つは村を支え家を守る為、妻を娶る事。妻と共にマルセル家の次代を継し宝を育てる事。

私はこの偉大な男を英雄シンディー・マルセルに託し、彼女がこの二つの条件を確認し次第(つつが)なく権限の委譲が出来る様、マルセル家の正当なる血筋の彼女に村長権限を返上する事としたのだ。

 

だが偉大なるマイケル・マルセルが凱旋の時を迎えるまでは誰かがこの村を守らねばならない。私は現村長シンディー・マルセルに選任頂く形で、村長代理としての役目を果たそうと思う。また、マルセル家の血を引かぬ者がいつまでも偉い顔をするのは次期村長であるマイケル・マルセルにとって害悪でしかなくそれは私の望むところではない。そこで私ドレイク・マルセルは妻シンディー・マルセルと離縁し、ただの村人ドレイク・ブラウンとしてマルセル村に尽くそうと思う。

 

ではシンディー村長、マイケル・マルセル殿。マルセル村の者に、お言葉をお願いいたします」

 

前村長ドレイク・ブラウンの演説はこうして終わった。

この後、マルセル親子のよく分からない宣言が続くのだが、村の者はそれをただ茫然と聞き流すのであった。

 

「では皆の者、この俺マイケル・マルセルの活躍を行商人経由で聞きながら、マルセル村村長として帰還する時を楽しみに待つといい」

そう言い自称次期村長マイケル・マルセルはその重い身体を揺らし前村長が手配した馬車に乗り込んで行った。

 

「では、ドレイク村長代理、後の事は任せましたよ」

「はい、シンディー村長。マルセル村の事、住民の事、全てお任せを。必ずや魔獣にも負けない強い村にして見せます。そしてマイケル・マルセル殿が村長として御帰還された際に失望なされぬ様、努めてまいります」

村長代理ドレイク・ブラウンは現村長シンディー・マルセルに慇懃に頭を下げその出立を見送る。

 

“パシンッ、カッコカッコカッコカッコ”

馬車は馬の蹄鉄を響かせ、マルセル村を去って行った。村人たちはその後ろ姿をいつまでも見送るのであった。

 

 

「行ってしまいましたな」

ドレイク村長代理の隣に立つボビー老人がそう呟く。

「あぁ、行ってしまったな」

ドレイク村長代理はそう呟くと後ろを振り返り村の者に告げた。

 

「これからマルセル村は変わる、いや、変わらねばならない。今日はその節目の日、材料は私が出そう、酒も振る舞おう。女衆は料理を頼む、男衆は女衆を手伝ってやってくれ。ここに来れなかった者にも料理を届けてやってほしい。それと病気の者や身体の弱い者には村のポーションを提供しよう。さぁ、みんな祝宴だ」

 

「「「応~~!!」」」

 

一つの時代が終わり、新しい時代が始まる。栄枯盛衰、権力は時の流れと共に移行する。少年ジェイクは、人は辺境の村と言う政治とは無縁の地であっても権力からは逃れられないのだと、ここはゲームではない、泥臭い人間が織りなす現実なのだと改めて感じるのであった。

 

 

―――――――――――――――

 

「「「乾杯~!!」」」

本日何度目になるのか分からない乾杯。村の男たちにとって名目などなんだっていい、ただ美味い酒が飲めること、それだけで幸せなのだから。

日は落ち、女達はある程度の片付けを終えた後それぞれの家に帰って行った。子供たちは親に咎められる事もなく思い切り美味しい料理を食べ、満足気に眠りについたところをそれぞれの母親に背負われて帰路に着いた。そして男達は、まだ飲み足りないとばかりに酒を酌み交わすのだった。

 

で、何で俺氏がここに残らんといかんのでしょうか。(わたくし)、母親と一緒に帰ろうとしたんですけどね、村長代理と自称剣の師匠に捕まりましてね。お説教と言うか愚痴と言うか、まぁ、さっきからうだうだと。あの~、分かってお出ででしょうか?ケビン君十一歳の男の子よ?まだまだお子様よ?授けの儀まで一年あるのよ?

 

因みにこの授けの儀、年に四回春夏秋冬にございます。十二歳になればそのどれに出ても良く、春生まれでも家庭の事情で冬の儀式に出ると言うお子様もおられます。農家は春夏秋は忙しいので冬が多く、雪の多い地方の子供は夏に出ると言った感じですね。町場の子は混雑を避け春や秋に出る子供が多いそうです。

この辺はそこまで降雪も多くないので冬一択。大森林の先の山岳地帯まで行くと標高の関係か雪も多く積もりますが、この辺は空っ風。雪雲は山にぶつかって降り切っちゃうみたいです。

 

柿があれば美味しい干し柿が食べれたのに。凍み豆腐って手があるじゃないか?にがりが手に入らないんだよ、海なんて見た事も聞いた事もないんだよ。

この塩ってどこからやって来るの~って子どもらしく行商人に聞いたら全部岩塩だったよ。色の違いは品質の違いだとさ。

海自体はあるらしいんだけどね、この辺は内陸部らしいからな~。聞いた話では見渡す限り水だったってご主人様が教えて下さりましたとさ、どうやら行商人も見た事が無いらしい。それこそ冒険者にでもなって旅をすれば見る事が出来るよと言って笑っていたけど、それこそご勘弁でござる。いつかジミーからの土産話ででも聞かせてもらおう。

 

「聞いてるのかケビン、お前は剣の何たるかが分かっておらんのだ。お前の剣の使い方のそれはそれこそ棍棒か鉈ではないか、そんな事ではこの先強敵に出会った際生き残れんぞ。

強敵は何も魔獣ばかりとは限らんのだからな。大体そんな事では立派な冒険者になれんぞ!」

 

うわ~、ボビー爺さん完全に出来上がっちゃってるし、大体俺冒険者に何かならないし、生涯村人だし。

棍棒いいじゃん棍棒、あ、俺の言ってる棍棒は太い奴じゃなくて槍の穂先がない奴ね。棍とか杖とか呼ばれる部類の比較的取り回しのしやすい奴ね。流石にオークの棍棒みたいなごっついのを持って蛮族プレーなんぞに走る気はございませんから。棍棒って定義が広すぎるから分りづらいよね。

棒はいいよ棒は、あのブンブン振り回す感じが堪らないよね、ヨシ原に行った日にはテンション上げ上げだったもんな~。

それに鉈も便利なんだからね、細い枝なんかスパンスパン行けるんだよ?“魔力纏い”をした日には斬鉄剣もかくやってくらいにスパンスパン。やっぱ農家は”魔力纏い”でしょう。

 

「ハハハ、ボビー師匠もそれくらいにしてあげてください。ケビン君が困ってるじゃないですか」

村長代理言葉砕けすぎ。代理だからもういいよねって言わんばかりの砕けっぷり。元々こんな感じだった?立場に合わせて話し方を替えるのは商人の基本?この時代にTPOを弁える村長代理、流石です。

 

「で、今日の茶番は一体何なんすか。上手い事マルセル一族を持ち上げて村の外にぽいって、別に村長この村乗っ取るつもりじゃなかったでしょうに、村長に一体何があったんですか」

 

「やっぱりケビン君は凄いね、いつもは子供を装ってるのかい?そっちが素のケビン君って事なのかな?」

 

「どっちも俺っすよ。ただ今はこの方が話が早いと思っただけです。それで上手い事馬鹿息子を追い出したみたいですけどいずれ帰って来ちゃいますよ?それも変に実力を付けて。

多分ですけどゴロツキみたいなうだつの上がらない連中を引き連れてやって来るんじゃないんですかね。お山の大将気取りで俺たちが村を守ってやろう的な事を言いながらやりたい放題、どっちが魔物か分からないって奴ですね」

 

「やっぱり君もそう思う?私もまず間違いなくそうなると読んでいるよ。シンディーはあの子に甘いから。それでも冒険には妥協はしないからしっかり鍛えてくれるとは思うんだけどね。

それでしっかり者の女性に尻に敷かれてくれればいいんだけど、対策は打っておくに越した事が無いと思うんだよね」

そう言いニコニコ笑う村長代理、この人一体何するつもりなんだろう。

 

「村の運営については監察官殿が上手い事出世して下さってね、この周辺地区の五箇村の総合監察役に就任なさって下さったんだよ。要は代官みたいなものだね。そこでこの五箇村全てにビッグワーム農法を広めようと思っている。

今この村がこれだけ豊かになったのも君が教えてくれたこの農法のお陰だからね。それを大々的に実施してこの地区全体をグロリア辺境伯領の農業重要地区に指定して貰おうと言うのが我々の目論みなんだ。これはすでにほかの四箇村の村長とも話し合いの末決定している。

そしてこの農業重要地区に指定されると各村に辺境伯領からの直接監察と領兵の派遣が行われる様になり村の運営が辺境伯様の直轄扱いになる。村が完全に領主様の手に渡るって事だね。

無論利点もある、まず税が安くなる。これまでの三分の二程になる、これは大きい。次に街道が整備され物の流通が増え、人口も増える。そして何と言っても新規事業や農業事業に対し予算を貰える。何か事業を起こすにしても領主様が後ろ盾になってくれるからね。

 

私はね、ホーンラビット牧場を大々的に行いたいと思っているんだよ。この試みが成功すればこのグロリア辺境伯領での冬の餓死者は激減する。少なくともビッグワーム農法が広まるだけでも農家は生き残れる。

今は忌避感が強く冒険者や一部の町民くらいしか食べられていないビッグワームも、農法の広がりによってその価値が見直されると思うんだ。流石に金持ちや貴族が食べる様になるとは思わないけど、気にする人間にはホーンラビットを食べてもらえばいい。

 

私はね、久しく忘れていた情熱が蘇った気分なんだよ。ただそうなると問題はマイケルの事なんだ。いくら領兵が来てくれるとは言え今よりも更に調子に乗ってるであろうあの子がそれくらいで諦めるとも思えない」

 

言葉を区切り俺の顔を覗き込む村長代理。いや、ただ愚痴を言いたくて俺を残したとは思わなかったっすけど、一体俺に何をさせる気っすか。

 

「ケビン君には村の人間の健康増進に協力してもらいたいんだよ。“田舎暮らしの必須技能魔力纏い”だったっけかな?ボビー師匠に聞いたよ、怪我の予防や身体能力強化にも使えるそうじゃないか。ぜひ皆にも教えてやってくれないかい?」

そう言い笑うドレイク村長代理、目茶苦茶悪い顔してるんですけど、相当ストレス溜まってたんじゃないでしょうか。

 

村を守る為と言いながら嫌がらせを仕掛けまくるドレイク村長代理、そんな彼の言葉に“でもそれも面白そう”と協力を快諾する、悪戯好きのお子様ケビン少年なのでした。




本日一話目です。
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