転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第211話 領都行商人、マルセル村を訪れる。厄介事を添えて

“カランカラン、カランカラン、カランカラン”

暖かな日差し降り注ぐマルセル村に高らかに鳴り響く鐘の音。

今年も彼らはやって来た、多くの商品と笑顔を届けに。

畑仕事も一段落し、早くも葉物野菜の収穫を迎えようとしていた村人たちはその手を休め、急ぎ家に立ち返るや木札を持って村長宅前に続々と集まって行く。

マルセル村に喜びを齎す者、モルガン商会行商人ギース氏に会う為に。

 

「やぁギース、今年はいつもより遅かったじゃないか。と言うかやたら大所帯なんだが、何かあったのか?」

 

マルセル村村長代理ドレイク・ブラウンは、今年も遥々(はるばる)領都から足を運んでくれた親友を出迎える為急ぎ玄関先に向かい、その場で動きを止め顔を引き攣らせる。

モルガン商会の幌馬車は分かる、その両脇を固める銀級冒険者パーティー“草原の風”の二人にはよくぞ無事に送り届けてくれたと感謝の言葉を送りたい。

だがその後ろ、騎乗した騎士に守られた立派な馬車は一体。

 

“ガチャッ”

馬車の扉が開かれ中からとある人物が降り立った。

 

「ストール監察官様、一体どうなさったのですか!?酷くお疲れのご様子ですが。」

そこにはここマルセル村を含めた周辺五箇村の総合監察役ストール・ポイゾン監察官の姿、そして。

 

「あなた様は、これはこれはこのような辺境の地においで下さりありがとうございます。しかし一体なぜ・・・」

 

「あぁドレイク、その事も含めて話がある。少々込み入った問題でな、ここではなんだ、中で話そう」

 

ストール監察官に促され家の中へと戻るドレイク村長代理は、一体どんな話を聞かされるのかと戦々恐々としつつ、胃薬のストックの心配をするのであった。

 

―――――――――

 

“カランカラン、カランカラン、カランカラン”

モルガン商会行商人の訪れを知らせる鐘の音は、静かな辺境の村全体に鳴り響く。

それは村外れのボビー師匠の訓練場にまでも届くものであった。

 

「今夜のおかずは何だろな~♪」

「「「今夜のおかずは何だろな~」」」

““ギャウギャウギャウ””

“フゴフゴフゴ”

 

「ホーンラビットの包み焼き~♪」

「「「ホーンラビットの包み焼き~」」」

““ギャウギャウギャウ””

“フゴフゴフゴ”

 

ザッザッザッザッと足音を鳴らし号令に従って訓練場の外周を走る訓練生。その額には玉のような汗を搔き、息を荒くしながらもなんとか教官に食らい付いて行く。

そんな彼らの元に届く鐘の音に一番早く気が付いたのは、指導教官であるケビンであった。

 

「全員足を止めろ。息を整えて俺の話を聞くんだ。

喜べ、今年もモルガン商会の行商人様が我がマルセル村に領都の商品をお届けに来て下さった。諸君も知っての通り街道の旅は危険に溢れている、そんな危険を冒し我々に希望を届ける為にお越し下さった行商人様方を蔑ろに出来るだろうか。

いや、出来ようはずもない。そう言う訳だ。

皆が己を高めたい気持ちは十分理解しているが、本日の訓練はここで終了とする。

各自家に戻り着替えた後村長宅前に集まる様に。

剣士とローブ、それにブー太郎、お前たちもちゃんと着替えろよ、ベネットお婆さんが作ってくれた服があるんだからな。

それじゃ解散。ブー太郎、行くぞ!」

 

ブー太郎を伴いその場を去る悪魔の後ろ姿に訓練生たちは思った、“行商人様、ありがとう”と。

 

「ほれ、皆も早よ家に帰って着替えんと欲しいものが売り切れてしまうぞい。ケビンの奴は授けの儀が終わったからか収納の事を隠さん様になったからの、木札が余って仕方がないとか言っておったからここぞとばかりに買いまくるであろうの。

剣士とローブも着替えて来るんじゃ。ジミーよ、後でこ奴らの服を洗濯してやってくれんかの。ドラム式洗濯術であったか、どうもわしはあの手の魔法が苦手での」

 

「分かりました。剣士さん、ローブさん、着替えたら今着てる服を持って来てくれる?すぐに洗っちゃうから。僕は今着てる奴でいいかな?サッと洗って乾かしちゃえば」

 

「あ、ジミー、俺のも一緒に洗ってくれる?そうしたら家に帰らなくても済むし」

 

「ジェイク君、私は帰らないといけないんだけど?送ってはくれないのかな?

優しいジェイク君なら送ってくれるよね」(ニッコリ)

 

「は、はい、送らせて頂きます。悪いジミー、俺は家で着替えてから行くよ、後でまた」

 

「あぁ、村長宅でね」

 

ジミーはエミリーと共に走り去って行く親友に“強く生きろよ”とエールを送りつつ、汗でべたべたになった服を脱ぐと生活魔法を使いその場で洗濯を始める。

 

「・・・ん?剣士さんにローブさん、そんな所で固まってどうしたの?

早く着替えないと風邪を引いちゃうよ?」

 

““グギッ、グゴグゴグギャ////””

慌てて家へと戻って行く二人に、“どうしたんだろう?”と首を捻るジミーなのでありました。

 

――――――――――――

 

「ふむ、ここが旦那様の生まれ育ったマルセル村か。辺境の寒村と聞いていたからどんな所かと思えば、長閑でいい所じゃないか」

 

村長宅前ではモルガン商会の行商人ギースが幌馬車から台を下ろし、その上に領都から持ち込んだ商品を次々と並べて行く。

衣類を始め紙やインクと言った生活雑貨や小物類、ナイフや包丁、はさみと言った金属類、子供や大人も楽しめそうな書籍なども数点用意している。

そう言った諸々を護衛の冒険者と共に広げて行く光景を、集まって来た村人たちがワクワクと言った表情で眺めている。

それは牧歌的などこの村にでもありそうな日常の一コマ。

だがここはオーランド王国の最果てと呼ばれた辺境、貴族令嬢の幽閉地として恐れられて来たマルセル村。

アマリアは長い騎士生活の中で多くの寒村を見てきた。飢えに苦しみ、痩せ細り、粗末な家屋に住み暮らす多くの村人の姿をつぶさにその目に焼き付けて来た。

だからこそ分かる、この辺境の地マルセル村をここまでの村に育て上げた村長代理ドレイク・ブラウンと言う人物がどれ程の偉業を成し遂げたのかと言う事が。

辺境の地を農業重要地区入りさせたことが、どれ程の奇跡であったのかという事が。

 

「あの、騎士様、もしかしてマイケル様ではありませんか?いや、マイケル様だ!

みんな~、マイケル様だ、マイケル様が騎士として凱旋して下さったぞ~!!」

 

「えっ、嘘じゃろ、あのマイケル様がすっかり立派になられて。おい婆さん、マイケル様だ、マイケル様(太目)がマイケル様(イケメン)になられて戻って来られたぞ!」

 

「爺さん、何言ってるのか全く分からないよ。マイケル様がどうしたって・・・本当だ、若い頃のシンディー様の面影、マイケル様(不細工)がマイケル様(色男)になっちゃったよ。何をどうしたらこんな事に」

 

村長宅前に集まった村人たちが口々にマイケルの凱旋を祝福する。その様子にアマリアは顔をほころばせる。

 

「旦那様、随分と慕われてるじゃないか。流石は私の旦那様だ、益々惚れ直したよ?」

 

「いや、俺は、その」

 

「え~~~!!マイケル様ご結婚なさったんですか!?

おめでとうございます!!

みんな~、マイケル様がご結婚なさっておられたぞ!!これは御祝福して差し上げなければならないんじゃないか?」

「お~~、それはいい。それじゃ明日はマイケル様の騎士爵叙爵とご結婚を祝してお祝いだ!!

ジェラルド、ドレイク村長代理はどうした?」

 

多くの村人から掛けられる祝福の声。アマリアは戸惑うマイケルの背中をバンバン叩きながら、「これは幸せにならないといけないな、旦那様❤今夜も期待しているよ」とマイケルの耳元で囁くのでした。

 

―――――――――――

 

「あぁ、ドレイク村長代理は領都からのお客様と重要なお話があるみたいで執務室の方に。

そうだ、ケビン君の事を探していましたよ?何でも執務室の方に来て欲しいとの事でした」

 

「えっ、俺ですか?」

 

買い物の精算受付をしているジェラルドから掛けられた思いがけない言葉。

ケビンは思う、“領都からのお客様が来ている所にお呼び出し、これって絶対厄介事じゃん”と。

 

折角マイケルと言うおもちゃを発見し村の皆して弄っていたと言うのに、とんだ落とし穴が。

そりゃそうか、領都の騎士様が顔見せだけの為にわざわざ辺境迄来る事なんてないか。マイケル君の凱旋はおまけだったのね。

でもマイケル君のお嫁さん、ガタイがいいよな~、まさに女戦士、アマゾネスって感じ。グロリア辺境伯様が騎士団の中から選りすぐりの女性騎士をあてがってくれるって言ってたけど、これ以上ないくらいの人選じゃね?

あの嫁さんの尻に敷かれてればマイケル君もやたらな悪さは出来ないでしょう、良きかな良きかな。

 

「アナさん、なんかドレイク村長代理の呼び出しみたいなんでちょっと行って来ます。ブー太郎、欲しいものがあったらアナさんに言って買って貰えよ?

アナさん、ブー太郎の事よろしくお願いします」

 

“フゴフゴブヒ”

 

俺は行きたくないと言う気持ちを押し殺しつつ、村長宅の扉を開けるのでした。

 

“コンコンコン”

「失礼します、ケビンです。ドレイク村長代理がお呼びとの事で参りました」

 

“あぁ、入って来てくれ”

 

扉の向こうから聞こえる返事にドアノブを捻る。

部屋の中にいた人物は三人、ドレイク村長代理に周辺五箇村の総合監察役のストール監察官、それと・・・。

 

「これはケビン君、お久し振りです。パトリシアお嬢様の一件では大変お世話になりました」

椅子から立ち上がりニッコリと微笑まれるその御方は、グロリア辺境伯様の所の筆頭執事様であらせられるハロルド様でございました。

 

 

“コトンッ”

 

テーブルに差し出されたお茶からほのかな緑の香りが広がる、これは偽癒し草の煮出し茶か?

お茶出しを終えたザルバさんはどうぞごゆっくりと言わんばかりに一礼をすると、扉を開けてその場を後にする。

 

「さて、色々と面倒な事になっていてね。すまないとは思うんだがケビン君の意見が聞きたくて来て貰ったんだ。

まぁそんなに嫌そうな顔をしないで聞いて欲しい。

先ずマルセル村を含む周辺五箇村の農業重要地区入りの話は無事認可が下りたよ。それに伴い村長シンディー・マルセル様の騎士爵への叙爵、並びにマイケル・マルセル様への爵位移譲はつつがなく執り行われた。

外にマイケルが来ていた様だね、私は直接顔を合わせていないがその話はこちらのお二人から聞き及んでいるよ。何でもマイケルの奥さんは第二騎士団の副団長様らしい、しっかり者の姉さん女房、マイケルにはピッタリだと胸を撫で下ろしたよ。

まあその件は無事に済んでよかったと言った所なんだが、問題は例のパトリシアお嬢様襲撃の話でね」

 

ドレイク村長代理はそこまで話すと一旦言葉を区切る。すると今度はハロルド執事長様が口を開かれた。

 

「ここからは私が話しましょう。先ほども言いましたがパトリシアお嬢様の一件ではケビン君には大変お世話になりました。メイド長カミラもケビン君にはとても感謝していましたよ。

カミラからは“お陰で無事に証人を領都に連れ帰る事が出来ました”との言葉を届けて欲しいと頼まれておりました、確かにお伝えしましたよ?」

 

そう言いニッコリと微笑むハロルド執事長様に、俺も微笑みで応える。

うん、化かし合いの始まりですね、受けて立つ!

そんな俺の様子を見て引き攣り顔になるドレイク村長代理、何やらブツブツ呪文を唱えていらっしゃいます。解せん。

 

「オホンッ、ハハハ、これがケビン君ですか、いやはや凄まじいですね。事前に知っていなければ私でもどうなっていた事か、本当に末恐ろしい。

では本題に戻ります。

領都での詳しい取り調べの結果、ケビン君からいただいた暗殺者ギルド頭目の報告書及びメイド長カミラ宛の書状の示す通り、多くの間者がグロリア辺境伯家の中枢にまで入り込んでいる事が分かりました。

また彼らに唆されて悪事に加担する者も複数名見られましてね、グロリア辺境伯閣下はこの事態を重く受け止め領内人事の一斉粛清を執り行いました」

 

「うむ、その結果グロリア辺境伯領は未曾有の人材不足に陥ってな。本来私は今回の農業重要地区の監督官に就任するはずであったのが近隣エルセルの監督官に変更となってしまった。何でも私をエルセルの監督官にしたくないばかりに馬鹿をやった連中がいたらしい、そいつらの失脚で結局私にその席が転がり込む、全く呆れてものも言えない」

 

そう言い額に手をやるストール監察官様。確か辺境でのんびりするぞ~とか仰ってたんだよな~。そっか~、微妙に都会になっちゃったのか~、・・・ドンマイ!

 

「うん、話がここで終われば多少の人事の不安だけで済んでよかったんだけどね、それがどうにも怪しい事になっているみたいでね」

 

「グロリア辺境伯閣下は今回の事態に大変心を痛められると共に直ぐに抗議の声を上げられ、問題の根源であるランドール侯爵並びに王家に使者を送りました。

ですがランドール侯爵はこの一件を事実無根と突っぱね、王家に至っては地方の事は地方でどうにかせよと無視を決め込みました。

これにグロリア辺境伯様の怒りも限界を越えまして。ならば自分の事は自分で行うものとする、以降我が領は自治領とさせていただくと仰られまして」

 

「えっと、それって実質的な独立って事ですよね。所属はするけど補助を受けない代わりに支配も受けないみたいな」

 

「ハハハ、そうですね。その上貴族は嘗められたらお仕舞と言ってランドール侯爵領に攻め込む準備をなさっておいででして・・・」

 

静まり返った室内、重い沈黙。扉の向こう側からはマイケル・マルセル騎士爵とその奥さんを囃し立てる楽しそうな声が聞こえて来る。

マルセル村で起きた貴人襲撃事件に端を発する一連の騒動の行き着いた先、それは自領の独立騒ぎ。村長代理ドレイク・ブラウンは胃を押さえ、ストール監察官様はどこか虚空を見詰め、ハロルド執事長様は獰猛な笑みを浮かべる。

 

村人ケビンは思う、“帰っていいですか?”と。




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