転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

22 / 861
第22話 転生勇者、朝の体操を行う

辺境の村の朝は早い。それは季節が移り変わり冬になったからといって変わる事は無い。女性はまだ薄暗い内に起き出し窯に火を(とも)す。

男性はそんな女性の為に裏の納屋から薪を運び、脇の井戸に水を汲みに行く。台所の水瓶には常に水を汲んであるとは言え、料理に後片付け、水の使用量はそれなりにあるのだから。

 

「マリア、今朝はかなり冷え込んでいる、ちゃんと着込んでおいた方がいい」

トーマスは外の冷え込みに吐く息を白くしながら、妻マリアに向かいそう告げる。

 

「そうね、私もつい大目に魔力を使ってるみたい。少し着込んでその分魔力を節約するわ。そう言えばジェイクはもう起きたのかしら?今朝はエミリーちゃんと一緒に健康広場に体操をしに行くって言ってたんだけど」

首を傾げる妻の仕草に“やっぱりこいつは可愛いな”とニヤケながら、“俺が見て来よう”と子供部屋に向かうトーマス。いつまでも仲の良い夫婦である。

 

「いけない、寝過ごしちゃった。お父さんありがとう、お母さんちょっと出掛けてきま~す」

朝焼けの光が強まる冬の外に急いで飛び出すジェイク。身を刺す様なその寒さに急いで身体を魔力で覆う。

“やっぱこれって便利だわ~”

 

ケビンお兄ちゃんが言っていた“田舎暮らしの必須技能魔力纏い”、初めは何を言っているんだろうと思っていたけど、これほど使い勝手の良いものだとは思わなかった。ただ全体に纏うだけでも断熱効果保温効果は抜群、寒ければそこに生活魔法の<ヒート>を掛ければいい。この<ヒート>、料理を冷めにくくすると言った程度の火属性の生活魔法、それがこんなにありがたい物だったなんて誰が思うだろうか。

 

コップ一杯の水を出すだけの生活魔法<ウォーター>、洗い終わった洗濯物全体を魔力で覆ってから水を取り出すイメージで<ウォーター>と唱えればあら不思議、一瞬にして脱水乾燥が出来てしまうって言うね。本当に何でも発想応用次第、生活魔法様々である。

 

でも本当に凄いのはそれを思い付いちゃうケビンお兄ちゃんだよな~。自分の事を“僕なんて本当に弱いからみんなで守ってね”とか言うケビンお兄ちゃんだけど、戦いになって勝てるかって聞かれたら勝てるビジョンが思い浮かばない。

先ず戦いにならない様に立ち回るケビンおにいちゃん、戦いの場においてもすぐに逃げ出すケビンお兄ちゃん、煙玉や各種ポーションを使用してこちらを翻弄するケビンお兄ちゃん、周囲を罠だらけにするケビンお兄ちゃん、何とか辿り着いた先で魔力纏いで無双するケビンお兄ちゃん。

ケビンお兄ちゃん大福たちと遊んでいるだけあって凄く体力有るし、各種怪我にもポーションと魔力纏いで対抗して来るし、気配消されちゃったらまず見つからない上に正面からなんて絶対切り込んでこないもんな~。

これだけ頑張ってるのに、剣技なら絶対こっちが上なのにそれでも勝てないって一体何者なの?本人曰くただの村人ですってそんな村人いないから、そんな村人ばっかりだったら怖いから。

って思ってたんですよ、ついこないだまでは。

 

「ジェイク君おはよう。もうみんな集まってるよ」

日が上り始めた朝の広場。村の丁度中心に村長代理の指示の下ケビンお兄ちゃんが新たに作った集会場所、通称“健康広場”。

 

「みなさんおはようございます。今朝は寒いですね、皆さんちゃんと魔力を纏って防寒していますか?寒いからと言って魔力を分厚くし過ぎるとすぐ魔力が枯渇してふらふらになっちゃいますから気を付けてくださいね。

重要なのは量よりも質、上手く調整すれば少ない魔力でも一日持たせる事が出来ます。転んでもケガをしにくくなります。いい事ずくめですよね。

慣れてきたらなるべく薄く、それこそ全身を膜で覆っているくらいの気持ちで纏ってください。丸一日纏っていても全く苦にならないくらいになれば、虫刺され防止にも植物かぶれの予防にもなりますよ。

重い物を持つときの補助や身体を鍛えるときの重りの代わりまで、使い方は発想次第。皆さんも自由な発想で使いこなしてくださいね。

では朝の体操です、まずは大きく背伸びの運動から、一、二、三、四、二、二、三、四」

 

ケビンお兄ちゃんの掛け声に合わせて村人みんなで朝の体操。その時身体に纏った魔力を意識しつつ全体を自由に動かせるようにイメージします。ケビンお兄ちゃんはよく“想像してみてください”って言うけど、本当にイメージの力が大事なんだと分からさせられます。

体操の後は二人組で手と手を合わせて魔力の流し合いをしたり、魔力ボールのキャッチボールをしたり。最近は朝の体操の時間以外にも大人の人が魔力を使って遊んでいる姿をよく見る様になりました。

以前は“僕なんてただの村人”って言うケビンお兄ちゃんに“そんな村人いないから”って突っ込みを入れてたけど、マルセル村ってケビンお兄ちゃんみたいな村人だらけになって来ている様な。

 

“俺は最強の勇者になります”ってボビー師匠に宣言した俺、世の中舐め過ぎてました。昔の自分の言動を振り返り、“これが黒歴史!?ヤバいぐらいに恥ずかしい”と思える様になったジェイク少年八歳なのでありました。

 

 

――――――――――――――――

 

村長代理ドレイク・ブラウンの指示の下、村人全員の兵士化、もとい“村の健康促進運動”を開始した俺氏。やる事はいたって簡単、みんなで集まって楽しい体操をしましょうねって奴です。

ほら、よく公民館や街の集会場みたいな所でお年寄りが集まって体操教室なり脳トレリクリエーションなりやってるじゃないですか、要はそれ。村人全員を集めるのも大変なんで男衆の集まり、女衆の集まりをそれぞれ開催しましてね。

男衆には農作業や森での狩りの際に魔力纏いがいかに便利かを説明実践して見せ、女衆には魔力纏いによる美容効果や健康効果を中心に、家事生活全般での便利な生活魔法の使い方を実演。身体の不自由なお年寄りや病気持ちのご家庭には俺が直接指導にお伺いし、魔力纏いを使う事で少しでも快適に生活出来る様サポートしてまいりました。

やってる事は完全に生活指導員、これって十一歳のお子様の仕事じゃないよな~。

 

でもこの世界、十二歳で“授けの儀”を行って十五歳の”旅立ちの儀”で成人と認められるってスタイルだから、十一才なら立派な労働者枠なのかね~。俺っち既にいっぱしの生産者として農産物出荷してますし。今更お子様って言っても通用しないのも致し方なし、自業自得でした、はい。

因みに普通の子供たちが働き始めるのは十二歳~十四歳くらいから。“授けの儀”で得た各種職業に合わせて丁稚や見習いに就いたりします。

“旅立ちの儀”ってのはその職業に就いた事で成長し進化したスキル等の確認ですね(大人の事情)、各ギルド正会員として登録できるのも“旅立ちの儀”の後になります。それまでは仮登録期間・見習い期間となり、依頼ボートの依頼は受けれず各ギルド指定の見習い用の依頼を受ける事になります。

 

よくラノベではギルドに登録したての若者が特例で高ランク冒険者になったりしますが、この世界ではそんな特例はありません。確り仕事で判断されます。

正会員登録は一律十五歳から、しかも旅立ちの儀で渡される鑑定書を持参の上申し込みを行うシステムになっております。これは授けの儀の後に仮登録を済ませた者でも変わりません。それだけ教会が出す鑑定に信用を置いている証拠ですね。その教会は国とズブズブなんですが。(村長代理情報)

“授けの儀”を受けてから“旅立ちの儀”まではチュートリアルみたいなもの、この時期は身体と心が大きく成長する代わりにとっても不安定、安心して仕事なんて任せられないからね。

冒険者になって仮登録をしても鉄級<見習い>、優秀でも銅級<見習い>(昇級試験免除扱い)まで。これは他のギルドでも同じ感じらしいです。自身の責任において全てを行う様になるのは十五歳からなんだって、それなりにしっかりした社会システムだ事。

 

よくラノベでは転移した異世界人が冒険者登録して大活躍って話があるけど、この世界と言うかこの国ではそれは難しいかな?

冒険者登録をするにしても教会の鑑定証明書が必要だし、教会で儀式を受けるには各自治体の申請書が必要って言うね。どこの馬の骨ともわからない人間はまず役所で住民登録をし、“不審者です”と言う烙印を押されてから教会に行き鑑定(重箱の隅をつつくくらい厳重に)を行い、晴れて各ギルドの登録に行くって言うね。

この国に一体何があったし、絶対過去に転移者なりなんなりがいただろう。他国のスパイを警戒するのは良い事だけど、そう言った連中はちゃんと偽の身分証持参で来るからな~、明らかに不審者って頭の悪いゴロツキか転移者(ヤバめ)しか考えられないんだよね。

 

剣と魔法の世界、スキルや魔法適性在り、そりゃ“結構なものをお持ちですね”状態だったらハッチャケちゃうわな。ただでさえ“勇者病”(真性)みたいなヤバい奴らがゴロゴロいるんだから。

<極み>の方がヤバい?そんな奴らがゴロゴロいる訳無いじゃないですか、嫌だな~、脅さないでくださいよ~。(ガクブル)

 

まぁ、そんな感じなんで頑張って“村の健康促進運動”に邁進したんですがね。

 

“バゴンッドカンッ”

「ヘンリー、お前少しは手加減ってモノを覚えろ、いくら魔力を纏っていても結構痛いんだぞ!」

「ハハハ、トーマス、お前ちょっとサボり過ぎだったんじゃないか?少しボビーさんの所で指導してもらった方がいいぞ」

 

“ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ”

「ドレイク村長代理、少し張り切り過ぎではないかの。行き成り無理をすると身体を痛めるとケビンの坊主も言っておったであろうが」

「ハハハ、申し訳ありませんボビー師匠。久々に身体を動かすのが楽しくってですね、つい。膝や肘、肩や腰と部分的に魔力を纏うだけでこれほど楽に滑らかに木刀が振るえる様になるんですね、本当に感動ものですよ。身体全体に魔力を巡らせているお陰か身体も調子がいいんですよ。

最近ではズボンが緩くなってきたくらいですから、春先には別人のようになっているかもしれませんね。行商に来たモルガン商会のギースがどんな顔をするのか今から楽しみでなりませんよ。アイツ私と同じような体型ですから」

“ハハハハ”とあちこちから聞こえる笑い声、なんか男衆が張り切っておられます。

って言うか親父殿とトーマスおじさんって元冒険者だったんかい、そんな話一回も聞いた事が無かったんですけど?若気の至り?まぁその気持ちは分からなくもないんですけどね。父親が農機具の手入れを寡黙に行ってるのって単に真面目な農夫ってのが理由じゃなくてもしかして浸ってたとか?お父様って元真性?斧に名前とか付けちゃったりしてない?

 

父親の中に未だ燻る(疑い)であろう少年の心<真性>に若干の恐怖を覚えつつ、“再発しませんように”と祈るケビン少年(発症中の<仮性>)なのでありました。




本日二話目です。
今日もお仕事頑張ってください。
by@aozora
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。