転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第228話 辺境男爵、スターリンを目指す

「一体何がどうなっている!?各都市からの詳しい状況報告はまだか!」

 

ランドール侯爵領領都スターリン、その頭脳であり心臓部でもあるランドール侯爵家の居城では、各寄り子の当主並びにランドール侯爵家の上層部が諜報の者から次々と入る情報に頭を抱えていた。

 

最初の混乱はセザール伯爵領との領境にある地方都市バレリアから齎された報告からであった。

 

「バレリアが落ちた!?それはどういうことだ!」

「ハッ、先程バレリアから入りました情報によりますと、セザール伯爵領へと続く渓谷の街道よりグロリア辺境伯家の騎兵団と思われる一団が出現、バレリアの西門を破壊、北門を打ち壊してスターリンを目指し通過していったとの由にございます」

 

「な、あの渓谷は第一設置部隊の炸薬爆破により完全に崩壊しているのではなかったのか!?復興は不可能との結論が出ていたはずだが」

「その点に関しての詳細は不明、報告では森から延びる街道に突如現れたとしか」

 

「して、グロリア辺境伯軍の規模とバレリアの被害状況は」

「ハッ、騎兵の数はほぼ五百騎程、歩兵はおりません。バレリアの被害は西門の消失、北門の破壊との事であります」

 

「西門の消失?それは一体どういう事だ。それと人的被害の報告が抜けているが」

「ハッ、バレリアからの報告ではその様に、詳細は不明であります。それと人的被害ですが・・・」

 

「どうした、相当数の領民が巻き込まれたとかではあるまいな。いや、先程西門が消失とか言ったな、まさかグロリア辺境伯が爆薬による爆破を、それならば消失もありうる。

くそ、そうであるのならば各編成の練り直しを」

「ございません」

 

「「「はっ!?」」」

「ですから、人的被害は一切なかったのです。気を失ったものは多数見られた様ですが、戦闘すら行われずバレリアは敗北したのです」

 

「それは一体どう言う事だ。バレリアは領兵、冒険者が一丸となってスタンピード被害を抑え込んだ勇猛な街、そんな戦士たちが一度の交戦もなく敗北だと!?」

「報告では“鬼神が現れた”と。“笑うオーガ”、“下町の剣聖”、我々は怒らせてはいけないものを怒らせてしまったと」

 

「“笑うオーガ”、聞いたことがある。確か単身スタンピードを壊滅させた英雄だったか。それと“下町の剣聖”、すでに引退した元白金級冒険者だったか。

だが、だからと言って一度の戦闘も無しに・・・」

 

“バタンッ”

大会議室の扉が開かれ、飛び込むように現れる情報官。

 

「ご報告申し上げます、つい今しがたグロリア辺境伯軍がサドルの街を通過したとの報告が入りました」

「「「はぁ~!?速過ぎるだろう!?」」」

 

ランドール侯爵領全土に張り巡らされた情報網、時を置かずして飛び込んでくる数々の状況の変化、だがそれをもってしても予測不可能なグロリア辺境伯軍の進軍速度。

まるで早馬のごとき速さで変化する状況に混乱の極みに陥るランドール侯爵家の面々。

 

「者ども落ち着け!!仕掛けは分からんがグロリア辺境伯軍が少なくとも明日にはここスターリンに到着するであろうことは確か、我らが成す事は殲滅の為の歓迎よ。

既に仕掛けは終わっている、グロリア辺境伯軍は貴族の矜持を示す為馬鹿正直に街道を北上している事は諜報の者からの報告で明らか。であるのならば我らがすべきことは決まっておろう。

皆の者も明日に備えよ、戦いの時である!!」

「「「応ーーー!!」」」

 

迫るグロリア辺境伯軍、迎え撃つランドール侯爵家とその寄り子貴族家。

決着の時は刻一刻と迫っているのであった。

 

―――――――――

 

「明日はいよいよスターリンポコね。これでようやく今回のお仕事も終了ポコ、早く森に帰ってゴロゴロしたいポコ、ちょっと力を使い過ぎたポコ」

グロリア辺境伯率いる領軍は、ランドール侯爵領バレリアから街道を北上、領都スターリンの目の前にまで迫っていた。

 

「ラクーン氏には本当にお世話になっています。ラクーン氏がいなかったらもっと時間が掛かっていただろうし、犠牲者が出ていたかもしれない。

ですが力を使い過ぎたとはどういう意味でしょうか?ラクーン氏がお疲れの様には見えませんが?」

グロリア辺境伯の寄り子衆に新たに加わったアルバート男爵は、今回の侵攻において多大な功績をあげているポンポコ建設のラクーン氏に詳しい話(設定)を聞くのだった。

 

「簡単な話ポコ。大きな力にはそれなりに代償がいるポコ。おいらの力の源はこのレッサーラクーンの呪いポコ。

魔剣グラトニュートも、街道の整備も呪いの力を転用することであれだけの事が行えるポコ。力を使えば使うだけより呪いは強力になるポコ、その分おいらはレッサーラクーンの姿に近づいて行くポコ」

そう言い袖を捲るラクーン、そこには魔獣の様な体毛の生えた腕があるのであった。

 

「おいらが時々森に籠るのは呪いを中和するためポコ、これ以上状態が進むと呪いが身体から溢れ出してしまうポコ。そうなると周りの人間もみんなおいらみたいになっちゃうポコよ。これはおいらの父ちゃんによくよく言い聞かされていたことポコ」

その言葉に目を大きく見開くドレイク・アルバート。(演技)

ラクーンはカップのスープを飲みながら、“この先何もないといいポコね~”と呟くのであった。

 

「変容の呪い、あの者もまた命を賭ける戦士であったのだな」

マケドニアル・フォン・グロリアは、配下の者の報告を聞き呟きを漏らす。

辺境マルセル村をまとめるドレイク・アルバート男爵。此度の戦は全て彼の村、マルセル村の隔絶した戦力を当てにして組み立てられた言わばこけおどしの様なものであった。

村の青年ケビンが考えた“笑うオーガ”と“下町の剣聖”が全力で脅しを掛ければいいと言った子供のいたずらの様な戦略。

いかにも単純明快でありあれこれ考えるのもばかばかしくなるほどの力技。

少なくとも第二騎士団副団長鉄壁のアマリアをしてグロリア辺境伯家の全兵力をもってしてもあの二人には勝てないと言わしめた戦力が加わることは、我がグロリア辺境伯家の利益以外の何物でもなかった。

 

だが実際に目にしたその武勇は自身の想定を遥かに超えるものであった。ケビン青年の言葉が若さゆえの妄言などではなく単なる事実であることを見せつけられた。

この侵攻に参加したすべての家の者は魂に刻んだことだろう、この戦はたった二人の人物によって行われているのだと。

 

そしてもう一人の立役者、ポンポコ建設の従業員と名乗る者、ラクーン。

崩壊した渓谷をわずか一晩で整備し、立ちはだかる街門を次々と消し去るその力、彼の協力なくして無傷での侵攻がありえたであろうか。

あの者が欲しい、これは為政者として、領の発展を願う者としての当然の思い。

だがその力の源でありその代償が呪いの進行であったとは。

ラクーンはその身を削り、我らグロリア辺境伯軍のために尽くしてくれていた。

その献身にどう報いたらいいのだろう。

 

グロリア辺境伯はテーブルに置かれた地図を睨み、眉間に皺を寄せる。

自分たちが成すべきこと、それはこの争いを勝利で終わらせること。

待ち受けているであろう脅威に対し、あらゆる手段を用いて打ち勝つこと。

マケドニアル・フォン・グロリアは起こりうる可能性に思いを巡らし、勝利を掴むため作戦を練り続けるのであった。

 

 

決戦の朝がやってくる。

戦士たちは自分たちの装備を点検し、戦いに備える。

 

「アルバート男爵様、ちょっといいポコ?」

出立前の軍議に向かおうとしたドレイク・アルバートに声を掛けたのはラクーン顔の青年ラクーンであった。

 

「アルバート男爵様にお願いがあったポコ。もしおいらに何かがあったらロシナンテをケビン君の元に返してほしいポコ。ロシナンテにはとても世話になったポコ、おいらが礼を言っていたと伝えてほしいポコ」

これから戦いに赴こうという者としては褒められたものではない不吉な言葉。

ドレイク・アルバートはそんな言葉を伝えてきたラクーンに訝しみの視線を送る。

 

「う~ん、何と言ったらいいのか、すごく嫌な予感がするポコ。ランドール侯爵様はグロリア辺境伯様のところに多くの間者を忍び込ませて長い時間を掛けて領内を弱体化させたほどの策士ポコ。そんな人物が何の策もなくグロリア辺境伯様を迎え撃つなんて考えられないポコ、きっとおいらたちには考えも及ばないような罠があるポコ。

だから念のためにお願いしたんだポコ」

ラクーンはそう言うとペコリと頭を下げ先鋒を務めるアルバート男爵家騎兵団の元へと走って行く。

アルバート男爵はそんなラクーンの後姿を、ただじっと見詰めるのであった。

 

「出立!!」

第一騎士団騎士団長より掛けられた号令に、グロリア辺境伯家の軍勢が一斉に動き出す。

ここから先はこれまでの様な訳にはいかない。待ち構えるはランドール侯爵家の精鋭、いくら鬼神“笑うオーガ”や“下町の剣聖”がいるとはいえただで済むはずがない。

背筋をゾクゾクとした震えが走る。これは怯えか、それとも武者震いか。

馬足はゆっくりと、だが着実に戦場へと近付いて行く。

そして遠くに敵の騎兵たちの姿が見えて来た、その時であった。

 

「待つポコ!!全員この場で止まるポコ!!」

先頭を行くアルバート男爵家騎兵団の騎兵に掴まる様に馬に跨っていたレッサーラクーンのような姿の青年が、突如大きな声を上げ全体の進軍を停止させた。

 

「やっぱりポコ、罠だポコ。この草原全体に罠が仕掛けられているポコ。こんなところを進んだら一騎残らず全滅ポコ!」

青年は馬の背から飛び降りると一人草原に向かい走っていく。

 

「今からおいらが罠を解除するポコ、誰も前に出たらだめポコ!!」

青年はそう叫ぶと何やら詠唱を始めるのだった。

 

「ポンポコポンポコポンポコリン、お山のラクーンはポンポコリン。

ポンポコポンポコポンポコリン、尻尾を振り振りポンポコリン!」

“ブワッ”

ラクーンの腰元から溢れる強大な闇属性魔力、それは集まり纏まり、八本の巨大な尻尾を作り出す。

 

「ポンポコポンポコポンポコリン、お山のラクーンはポンポコリン。

ポンポコポンポコポンポコリン、道を作るよポンポコリン!」

“ズオ~~~!!”

その巨大な尻尾が天に向かい高く伸びあがったかと思った次の瞬間、

“ドゴーン”

目の前の草原に向かい強く叩き付けられた。そのあまりの迫力にグロリア辺境伯軍ばかりでなくランドール侯爵家の軍勢も目を見開いた。

だが本当の変化はこれからだった。

 

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドゴーーーーーーーーン”

爆ぜる草原、立ち上る無数の火柱。それは目の前の草原をすべて焼き尽くし、地獄の業火で覆い尽くす。

 

「ポンポコポンポコポンポコリン、道を作るよポンポコリン。

ポンポコポンポコポンポコリン、道を作るよポンポコリン!」

 

歌い上げられるラクーンの詠唱、ラクーンから延びる尻尾が、闇属性魔力の塊が、爆砕の草原の中に一筋の道を作り上げる。

 

「ポンポコポンポコポンポコリン、進めや進め、ポンポコリン。

ポンポコポンポコポンポコリン、全てを蹴散らせポンポコリン!!」

 

ラクーンの尻尾はそのまま正面に聳える行く手を阻む街門へと向かい伸びていく、そして。

「<破砕>」

“ドガゴガグシャ”

 

黒き尻尾に覆われた街門が音を立てて崩れ去り、スターリンの心臓部、ランドール侯爵家居城までの道が開かれるのであった。

 

“バタッ”

その場で両手を突き、四つん這いになるラクーン。

アルバート男爵が慌てて近寄ろうとするも、「来ては駄目ポコ!!」それはラクーンの言葉によって止められてしまう。

 

そしてラクーンが振り返る、口元が前に飛び出し顔全体に体毛の生えたそれはまさにレッサーラクーンそのもの、人々はみなその姿に言葉を失う。

 

「力を使い過ぎたポコ。身体から呪いが溢れているポコよ」

そう言うラクーンの身体からは黒い靄の様なものが立ち上り、ゆらゆらと揺らめいている。

 

「ドレイク村長、いつか食べさせてもらったビッグワーム肉のスープ、本当においしかったポコ。人のやさしさに触れたのは久々だったポコ。

ずっと村長の役に立ちたいと思っていたポコ。

いつになるのかは分からないポコが、呪いの力が収まったら絶対にマルセル村に会いに行くポコ。それまで元気でいてほしいポコ。

グロリア辺境伯様、ご武運を祈っているポコ」

“ブオッ”

 

ラクーンの身体から溢れた闇が、巨大な八本の尻尾を持ったレッサーラクーンを形作る。

それは闇、それは呪い、濃厚な闇属性魔力の塊が天に向け咆哮を上げる。

 

“ケイーーーーーーーン”

“バッ”

黒き闇は天に向かい走り出すと、南の空へと飛び去っていくのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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