転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第230話 辺境男爵、終戦交渉の席に臨席す

ランドール侯爵領領都スターリンにおけるランドール侯爵家及びその寄り子の軍勢とグロリア辺境伯家及びその寄り子の軍勢との武力衝突は、グロリア辺境伯側の有り得ない速度での侵攻により、グロリア辺境伯家の勝利で幕を閉じる事となった。

それは圧倒的な力の差であった。

ランドール侯爵側が弱いなどと言う事は決してなく、参集した騎士たちは皆精強な者達であった。だがグロリア辺境伯家の者たちを止める事は叶わなかった。

それは例えるのなら魔の森の脅威と言われるブラックウルフであろうともドラゴンの突撃は止められない、それ程の存在の違いを見せ付けるような、戦とも呼べない様な戦いであった。

この戦における負傷者はあれど双方の死者はゼロであり、これは地方領主同士の小競り合いと言えどもあり得ない事であった。

 

グロリア辺境伯は領都グルセリアを出立する前に、家族の者に告げていた。

“これから始まるのは戦でも何でもない、ただの力の誇示。

ここグロリア辺境伯領を嘗め切った王都の愚か者どもに一泡吹かせる為だけの大芝居”

その言葉は正に体現された。

武威は示された、グロリア辺境伯家の誇りは守られた。

ランドール侯爵領領都スターリン、ランドール侯爵家居城来賓の間においてテーブルを挟むはランドール侯爵家当主ガレリア・ランドールとグロリア辺境伯家当主マケドニアル・フォン・グロリア。

ランドール侯爵の背後にはその側近たちが武装解除された状態で立ち並び、グロリア辺境伯の背後には寄り子である各家の当主、そして鬼神と剣聖が立ち並ぶ。

そこには敗者と勝者の明確なる違いが表されているのであった。

 

――――――――――

 

激しい爆発音とそれに伴う大地の揺れは、尖塔に隔離された者の元にも届くものであった。

 

「一体何が起きているのか!?誰か、誰かいないか!

父上には私から話す、誰か、私をここから出すんだ!!」

 

だが聞こえて来るのは人々の騒めきと城内の混乱。次第にそれは大きくなり、激しい破壊音と共に雪崩れ込む騎馬の音へと変わる。

ここに来てローランドも事態を察する、ここスターリンの城が何者かによって攻め込まれていると言う事を。

 

“ブオッ”

身を襲う強大な気配、これは覇気。囚われの自分でも感じるこれは、圧倒的な勝者の出現。

 

「誰か、私をここから、誰か!」

幽閉された尖塔の中に虚しく響く叫び。ランドール侯爵家の血を引く者として、ランドール侯爵家の危機に駆け付けられないもどかしさ。

自身の無力さがその身を裂く。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

人の気配の途絶えた尖塔内に響く足音、近付いて来る誰か。

これは味方か、それとも敵か!?

背中を伝う冷たい汗。

 

“ガチャッ、キ~~ッ”

開かれた扉、そこに佇むは何時か出会った小柄な人物とメイド。

 

「こないだ振りですね。どうですか?あれから色々と思う所はありましたか?」

彼は外の様子など気にする素振りも見せず、久々に会う者に挨拶でもするかの様に話し掛ける。

 

「・・・外の騒動、これはあなたが」

ローランドは緊張の面持ちを崩さず問い掛ける。

 

「うん、ちゃんと物事を観察し考える事が出来る様になったみたいですね。これで考え無しに“一体何が起きてるんだ!?”なんて聞いて来るようだったら見捨てて帰る所でしたよ。

今外はグロリア辺境伯家の軍勢が大挙してますから、下手に出歩くよりこの場に留まっていた方が安全ですしね。

いやなに、そろそろ今度の祭りも終わりそうなんでお誘いにね。

ローランドさんも一体何が起きているのか気になるでしょう?

お父上のガレリア・ランドール侯爵様をはじめとしたランドール侯爵家の主要な方々とグロリア辺境伯様をはじめとした寄り子の方々が一堂に会する機会なんてめったにないですから、ご一緒しませんかと言うお誘いです。

どうします?こちらに残るのもローランドさんの自由ですよ?」

 

フードを目深に被り一切の正体が分からない人物からの誘い、だがこのまま何も知らず悲劇の主人公を演じるなど耐えられない、私は真実が知りたい。

 

「お誘いありがとうございます。御迷惑でなければご一緒させて頂きます」

 

ランドール侯爵家三男ローランド・ランドールは自身の道を踏み出す。

それは何も知らず理想に目を奪われ現実を見て来なかったこれまでの自分との決別。どう考えどう生きるのか、貴族家の者として、一人の男として。

犯してしまった過ちを取り返す事は出来ない。それが例え自分の意志ではないとしてもやってしまった事、傷付けてしまった人の心は元に戻らない。

多くのものを失い、多くの人を傷付けた。そこに思惑があったと言うのなら、貴族として、ランドール侯爵家三男として。

 

「では行きましょうか。外は多少騒がしくなっています、僕たちから離れないでくださいね?」

 

ローランドは立ち上がり自身の足で歩きだす。その一歩一歩に決意を込めて。

 

 

“ズォッ”

そのナニカは突然城の中庭に現れた。そこは幽閉の塔と呼ばれる尖塔の前であった。

そのナニカはゆっくりと城内に向かい歩きだす。城内に仕える者が、ランドール侯爵家の騎士たちが、城を占拠したグロリア辺境伯家の精鋭が。

全ての者達がその身を震わせ、怯え、その場にうずくまる。

 

「う~ん、この辺は少し危ないんですよね。皆さんには建物の中に移動して貰いますね」

ナニカが呟く、途端城外にいた者達の身が黒い影に包まれる。

 

「城の大ホール、お貴族様が集まって舞踏会でも開いているんでしょうか?

僕はそう言った風習には疎いんですよ、剣術に魔法にマナー教室にダンスの練習、他にも学ばなければならない事が盛りだくさん、お貴族様は大変だ。

人間って本当に面白いですよね。

ローランドさんはそうは思いませんか?」

 

周囲に存在していた人々の消失、その事態に混乱するローランド。ナニカはそんな彼を安心させるかの様に、“あぁ、彼らは皆大ホールに送っておきましたよ”と事もなげに告げるのでした。

 

―――――――――――――

 

「ご報告申し上げます。索敵に敵性反応ありません。廃教会周辺部に人が近寄った痕跡は見られませんでした」

スターリンの西、郊外の森にひっそり佇む廃教会の建物。そんな普段訪れる者もいないような場所に集う多くの者たち。

 

「であれば保管庫が荒らされたのは相当前と言う事か。いくら機密とは言え年に一度の点検では気が付かんのも致し方が無いという事か。

まぁよい、呪術師の用意は出来ているか?」

 

「はい、何時でも行けます」

「よし、では一基から二十基まで一斉に起爆、城にいる連中を閉じ込める。一人たりとも逃がすなよ!」

男の号令、それはこの戦乱がまだ終わりを迎えてはいないと言う事を告げるものであった。

 

「起爆符、発動します!」

呪術師が呪符に魔力を込める。次の瞬間

“ドドドドドドドドドドドドドドド”

 

遠くスターリンの中心部から聞こえる爆発音、城から立ち昇る炎の柱と白煙、それはこの策謀の成功を予感させるに十分な成果であった。

 

「燃えてますな~。あれではさしものグロリア辺境伯とは言えどうしようもないでしょう。

オーランド王国北西部の実権は完全にランドール侯爵家のものと言う事ですかね」

「ふん、時代の変革に犠牲は付き物、父上には墓前で報告するとしよう。

父上の弔いは、オーランド王国北西部の完全支配によってなされるとな」

 

ランドール侯爵家次男グラム・ランドールは、これから始まるであろうランドール侯爵家の新たなる時代に心踊らせる。

隣領ジョルジュ伯爵家、セザール伯爵家は既に支配下にある。グロリア辺境伯家はこの戦いをもってランドール侯爵家の支配下に置かれる事となるだろう。その支配体制は王家との話し合いも必要だが、既に兄上が具体的な話を進めている。

此度の戦は初めから勝利が確定していた戦いであったのだから。

 

「父上、グロリア辺境伯家を甘く見た父上が悪いのですよ?

精々ランドール侯爵家の為に囮としてグロリア辺境伯家の連中を惹き付けておいてください。

最終爆破を行う、全起爆符の発動準備」

「了解!!」

 

スッと上げられた手。この手が降ろされた時、ランドール侯爵家の新たな歴史が始まる。

隣にはニヤニヤ笑う帝国の商人、今は精々笑うがいい。

本当に利用されているのは誰なのか、最後に笑うのは誰なのか。

グラム・ランドールは獰猛に口を歪め、その手を振り下ろすのであった。

 

―――――――――――

 

“ズオッ”

突如として全身を襲う悪寒、それは強大なナニカの存在を告げる警鐘。

 

ランドール侯爵家居城来賓の間において対峙する両陣営の間に緊張が走る。それは鬼神“笑うオーガ”や“下町の剣聖”が発する覇気とも違う、唯々そこにいる存在から発せられるナニカ。

 

「ガレリアよ、これがランドール侯爵家の自信の秘密であるか?

何と言う事を。お主らはこれ程の存在を自由に操れるとでも思っておったのか?

この様な・・・オーランド王国北西部どころか、オーランド王国そのものが滅びるぞ」

 

人はドラゴンを操る事など出来ない。過去において幾つの国がその愚行を犯し滅びて行った事か。

強大なる存在は決して人の如き矮小なものに操れるものではない。言わばスライムとドラゴン、隔絶した力の差は、最早比べる事も馬鹿馬鹿しい。

 

「いや、我はこの様なモノは知らない。この様な力が我が手の内にあったのなら策を弄して貴様らを迎え撃つ様な真似など端からしてはおらん。

この様な、一体なにが・・・」

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

その靴の音はまるで無人の廊下を歩くが如く城内に響き渡って行く。

 

“コツンッ、コツンッ、ガチャッ、キ~~ッ”

開かれた扉、人々の視線が一斉にその先に佇む者に注がれる。

 

「これはこれはみなさんお揃いで。グロリア辺境伯軍対ランドール侯爵軍の戦い、中々楽しませて頂きました。

特にスターリン南門前の攻防は良かった。天をも焦がす勢いで吹き上がる大量の爆薬による爆破、これはロマンですね。本当にこの祭りを見に来てよかった。

これ程の興奮を覚えたのは何時振りでしょうか。

これはランドール侯爵様の仕込みですか?いや~、侯爵様は分かってらっしゃる、爆発はロマンですよね。

 

それとグロリア辺境伯様、あの魔獣は何ですか?空を走ってましたけど?

僕、あんな生き物初めて見ましたよ。

それとそこの大きい方、城門を吹き飛ばしたあれって魔法じゃないですよね?所謂武技と呼ばれる類のものですか?

それになんですかその剣は、人の身で扱う事の出来る大きさじゃないでしょう、出来ても一本が精々、それを双剣で扱うって、あなたは本当に人間ですか?ミノタウロスの血でも引いてます?

しかも何ですかあの覇気は、城全体どころかこの広いスターリンの半分はすっぽり収まってましたよ?

領民の皆さん身を震わせて縮こまっていましたよ?

本当に皆さん最高です、次の公演が待ち遠しい」

 

ナニカは陽気に此度の戦の総評を述べる。だがそれは戦士達を称えると言ったものではなかった。それは娯楽、それは愉悦、観劇の帰りに観客が述べる感想の如く唯々(ただただ)楽しかったと、そこに命のやり取りが存在したなど一切考えない上位存在の言葉。

 

ガレリア・ランドール侯爵の脳裏にある言葉が蘇る。それはセザール伯爵家に忍ばせていた配下の者からの報告。

“我々は触れてはいけないものの関心を引いてしまった。この戦いはかの者の余興になってしまった。これ以上かの者の興味を引いてはいけない”

あの言葉が一体何を示していたのか、あの報告をもっと真剣に捉えていれば。

我々の戦いもランドール侯爵家の野望も王家の目論見も、この者にとってはすべて余興、人々の死も苦しみもただの鑑賞物にすぎない。

 

“ガバッ、ガキンッ、カキンッ”

突如打ち鳴らされる剣戟音、それは愉悦に口元を歪めた鬼神と剣聖が奏でるメロディー。

“笑うオーガ”は楽し気に笑う、「なんでもいい、俺を楽しませろ!」と。

“下町の剣聖”は愉悦に身を震わせる、「楽しいの~、楽しくて仕方が無いの~」と。

 

“ゴウッ”

二匹の鬼から発せられる強烈な覇気が来賓の間にいる者たちを飲み込んで行く。その力の奔流に耐えられず、次々と意識を失う男達。

 

「あぁ、お二人は修羅の国の住人でしたか。本当に戦闘狂は堪え性がない。

でも」

“ドドッ”

“フッ、ドサドサッ”

 

「ちょっと静かにしていてくださいね?」

来賓の間に渦巻いていた覇気が霧散する。倒れ伏す二匹の鬼、何が起きたのか全く分からない状況、ふたりは死んだのか?

 

「あっ、別に死んでないですからね?この手の人って手加減し過ぎるとすぐに起き上がって来そうなんで力の加減が難しいんですよね。

シャドームーン、悪いけどあの二人にポーションを飲ませておいてくれる?死ななければそれでいいから。下手にハイポーションなんか飲ませたら飛び掛かって来そうだから止めてね?」

 

ランドール侯爵家とグロリア辺境伯家との争いを実質二人で治めた男達が地に沈んだ。

この場の人々は、この世には決して触れてはいけない存在がいると言う事を魂に刻むのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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