転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第232話 辺境男爵、終戦交渉の席に臨席す (3)

大地を揺るがす轟音、混乱し、思考が追い付かない人々。

 

‟パンッ、パンッ、パンッ”

そんな中ただ一人、冷静に思考し行動する者がいた。

 

「はい、皆さん、お静まり下さい。ここは今回のグロリア辺境伯家とランドール侯爵家の()()()()()の終結を話し合う場、互いに手を取り合い今後のオーランド王国北西部地域の未来について考えなければならない場です。

何やら余計な騒動もあったようですが、目的を見失ってはいけません。

幸い王家からも事の推移を見守って下さるご使者殿が来られているご様子、ここは我々北西部貴族の矜持を示そうではありませんか」

 

声を上げた者、グロリア辺境伯家寄り子アルバート男爵家当主ドレイク・アルバートは、柔らかな笑みを浮かべながら皆の注意を集める。

 

「王家よりのご使者殿に申し上げます。此度は一介の地方領主の小競り合いにわざわざ足をお運びいただき、誠に申し訳ない気持ちと共に地方と言えど御心を砕いて下さる王家に対し感謝申し上げます。

さて、これから私が述べますのは男爵風情の独り言、何卒お聞き流しくださいます様お願い申し上げます。

 

此度の小競り合いの経緯に関しましては、先程までそちらにおられましたお客様により語られましたので割愛させて頂きます。

お客様も申し上げておりましたが事の真相は闇の中、一介の男爵風情が知る所ではありませんので。

それとお客様の存在についてもこの際棚に上げてしまいましょう。あれは我々地面に這いつくばり懸命に生を営む者がどうにか出来る様なモノではない、それこそ天に唾を吐いて嵐よ消え去れと叫ぶ様なもの。まぁ私の配下二人はその愚行を犯してそこに転がっていますが。

どうにもならない事を一々悩んでいても仕方がありません。

幸いお客様は人々が右往左往する様を見る事が好きなだけであって、こちらに何かしようとは思っておられないご様子。‟ドラゴンの鱗に手を出すな”とも申します、‟愚者の夢”、ドラゴンステーキは望むものではないですからね。

問題はお客様が語られていた大量の爆薬の入手先、バルカン帝国の動向です」

 

ドレイク・アルバート男爵はそこで言葉を切り、周囲の人々を見回す。

この場に臨席するグロリア辺境伯、ランドール侯爵は勿論、多くの寄り子貴族たちもアルバート男爵が始めた演説に‟この男は一体何を言っているんだ?”と言った顔になる。

 

「あぁ、皆さんお分かりになっていない様ですのでもう少し砕いた言い方をさせていただきます。

皆さんも爆薬による爆発の威力は肌で感じられた事と思います。

その威力、その衝撃。それこそ王宮に勤める宮廷魔導士の上級魔法に匹敵するかのような、物語に謳われるドラゴンブレスもかくやと言った破壊力でありました。

我々グロリア辺境伯家の軍勢は、途中崩壊した渓谷を目にしています。

私はあの光景を見た時思いました、何をどうすればこのような事態を引き起こせるのかと。その答えはスターリンを前にした草原で見せていただきましたが。

あの様な破壊の前ではどれ程の修練を積んだ騎士団であろうとも無意味、此度の小競り合いは本当に紙一重であったのです。

 

ではそれ程の兵器をどうしてランドール侯爵家は手に入れる事が出来たのか。

帝国の商人が売り込んで来た?馬鹿を言ってはいけません、あれは国家戦略級の兵器、その取引を帝国上層部が知らない筈もない。

無論ランドール侯爵閣下も帝国に思惑がある事くらい承知であったはず、それを飲み込んだ上で帝国と手を結んだ。

表面上は帝国商人から武器を買った、ただそれだけですから何の問題も無い。

他国から刀剣類を購入する事など良くある話、たとえそれが爆薬であろうとも何とでも言い訳出来る、そう言う算段であったのでしょう。

 

では帝国の思惑とは何か。

ここで思い出していただきたいのがランドール侯爵閣下がグロリア辺境伯領に対し何を行ったのかと言う事です。

グロリア辺境伯領北西部の治安を乱し領内の力を落として行く、グロリア辺境伯家内部に多くの間者を入り込ませ調略を行う。

これは一見ランドール侯爵閣下がグロリア辺境伯家の力を削ぎ落し自家の優位性を高める為の策略の様に映ります。

確かにオーランド王国内だけで見ればそうなのでしょう。

ですがこれをより大きく、国と国との関係で見るとどうでしょう。グロリア辺境伯領の立地、帝国の思惑、何かが見えて来ませんか?」

 

周囲の貴族たちの顔を見やるアルバート男爵。貴族たちは彼が一体何を言いたいのかに気が付き顔を青くする。

 

「お分かりいただけた様ですね。帝国は過去二度に渡りヨークシャー森林国に攻め入り返り討ちに合っている。

それは彼の国の持つ精霊魔法と言う技術、ヨークシャー森林国は森に生き森を守る事を国是としていますから、オーランド王国としてもこれほどありがたい隣国はない。

オーランド王国にとってヨークシャー森林国とは帝国に対する盾であり良き隣人であった訳です。

グロリア辺境伯閣下はその事をよく理解しておられた、ヨークシャー森林国との外交を重視し、ご息女を嫁がせている事からもそれは明らか。

帝国にとってその様な存在は邪魔以外の何物でもないんですよ。

 

そんなグロリア辺境伯領が力を落とし尚且つランドール侯爵家の手に落ちる事は、バルカン帝国にとっての利益以外の何物でもない。すでにこの国は帝国の謀略の舞台になっていたと言う事です。

 

先ほどお客様も仰っていましたが起爆符による爆薬の遠隔爆破、これはこれまでの戦争を一変する可能性のある兵器。使いようによってはオーランド王国北西部どころか王国の半分を簡単に支配出来てしまう。

そしてそれはバルカン帝国に与する新国家の誕生を意味する。

いや、もしかしたらバルカン帝国の新しい高位貴族家の誕生かも知れません。国を維持すると言う事は大変ですから。

事態の進行次第ではオーランド王国の西側全体からヨークシャー森林国に掛けては全てバルカン帝国の版図に塗り替えられてしまうかもしれない、お客様はその可能性を示唆しておられたのです」

 

静まり返る来賓の間、終結したばかりの戦はこれから始まろうとしている動乱の序章に過ぎなかったのだ。

 

「ですがこれは可能性の話、おそらく先程の爆発でその未来は大きく変わった。

確認のため再度申し上げます、この場はグロリア辺境伯家とランドール侯爵家の()()()()()の終結を話し合う場、その為にわざわざ王家からご使者殿が御見えになられた。

 

これは想像の話になりますが、王家としてはランドール侯爵家が勝てば良し、肥大化したグロリア辺境伯家の力を削ぎオーランド王国北西部地域をランドール侯爵家に任せようと考えられていたのではありませんか?

帝国の思惑やヨークシャー森林国の事など考えもしないで。例えヨークシャー森林国から援軍要請があったとしてもそれに応える事などしなかったかもしれません。

現在の王家は彼の国の重要性を軽視し、下に見ているのではないでしょうか?

でなければグロリア辺境伯家の力を削ぐなどと言う愚策に手を貸す道理がありませんから。

ランドール侯爵家が力を付け過ぎても潰せばいい、侯爵家とは臣下、辺境伯家とは扱いが違います。理由など幾らでもつける事が出来ますから。

 

ですがそれは現実が見えていない選択です。先程から述べていますがランドール侯爵家はバルカン帝国の先兵になりうる存在であった。大量の爆薬の脅威に晒されるのは王家となる所だったのです。

 

そしてグロリア辺境伯家が勝った場合はオーランド王国北西部の治安を回復し国の安寧に貢献したとして褒め称え、褒美でも取らせますか?

ランドール侯爵家は国内をいたずらに乱したとして、その責任を取る形で領地没収。爵位降格でしょうか。

王家はなにも傷まずすべては丸く収まる。

 

ですがこれも悪手です。

グロリア辺境伯家はすでに王家に決別を宣言しています。自治領になるとはそうした事、国を割らない為に残ったのはグロリア辺境伯閣下の恩情です。

それを今更褒美で誤魔化す、王家は何処までグロリア辺境伯家を愚弄すれば気が済むのでしょう。

そしてランドール侯爵家に対する処分、これはランドール侯爵家に離反を促す事にほかなりません。

今ここでランドール侯爵家がグロリア辺境伯家に下り自治領における一領主となると宣言すれば、ランドール侯爵家に連なる各領主もそれに従う事でしょう。

実質的にオーランド王国北西部はグロリア公国となってしまう。

安易な舵取りは出来ないと言う事がお分かりいただけましたでしょうか?」

 

アルバート男爵の言葉に絶句する一同。目まぐるしく変わる状況に全くついて行けない。

アルバート男爵はメイド服を着た王家の間者をじっと見詰める。

間者はそんな男爵の態度に大きくため息を吐いた。

間者とは耳目である、手に入れた情報を私情を挟まず正確に主に届ける。そこに自身の考えは一切挟んではいけない、その情報を分析し決断するのは主の役目だからだ。

 

「アルバート男爵様に申し上げます。男爵様の推察、誠にお見事でございます。先を見る目、戦況の分析、一地方の男爵のものとは到底思えない程に。

このお話はそのまま上の者に伝えさせていただきます。上の者がそれをどう判断なされるのかは分かりませんが。

その上でアルバート男爵様が仰る‟地方貴族の小競り合いの終結”が無事行われる事をお祈り申し上げます。

私共は上の者に報告に参らねばなりませんのでこの場は失礼させて頂きとうございます」

 

「そうですか、それはご苦労様でございます。なにぶん混乱しているためお見送りも出来ませんが、無事にお帰りになられる事をお祈り申し上げます」

 

一礼をし来賓の間を下がるメイド、その後ろ姿に深々と礼をするアルバート男爵。

 

「グロリア辺境伯閣下、ランドール侯爵閣下に申し上げます。先ずは余計な口出しをし、会談の場を乱した事をお詫びいたします。また配下の者が勝手な行動を起こし、皆様方を危険に晒した事を深くお詫びいたします」

 

そう言い深々と頭を下げ謝罪の意を示すアルバート男爵に、グロリア辺境伯が言葉を返す。

 

「う、うむ、アルバート男爵の謝罪、マケドニアル・フォン・グロリアが確かに受け取った。以降この件に関して謝意を向ける必要はないと宣言しよう。

それとアルバート男爵の機転に感謝する、その方のお陰でここオーランド王国北西部地域は救われた。

少なくともこの件を理由に王家が余計な口を出す事は防ぐ事が出来たであろう。

王家はともかく宰相は馬鹿ではないからな。

そう言う訳だ、ガレリア・ランドールよ。貴殿もこの件に関しては矛を収めて貰いたい」

「あ、いや、我もアルバート男爵殿には感謝しかない。その深謀、そして大局的な視点、オーランド王国と言う枠組みで考えるのならばアルバート男爵殿の話の落とし所はこれ以上ない程のもの。

地方領主同士の小競り合いでは王家も口を出せんからな」

ランドール侯爵は腕組みをし唸りを上げる。

 

「であるな。王家も“地方の事は地方でどうにかせよ”と言った手前これ以上の横槍を入れる事は出来まい。

アルバート男爵、大儀であった」

「ハハッ、有り難きお言葉。ドレイク・アルバート、生涯の誉れといたします。

ですが私は新参、此度の小競り合いは多くの寄り子の方々あってのもの、そのお言葉は古くよりグロリア辺境伯家に尽くして下さった方々にお掛けいただきたく存じます。

それと大変申し訳ないのですが、このドレイク、色々と限界でございまして、情けない話今にも倒れそうでして。

失礼かと存じますが配下共々下がらせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「「「ブフッ」」」

誰からともなく起きる笑い。

つい先ほどまで王家の間者相手に堂々と交渉を行っていた者とは思えない気の抜けた発言に、この場の一同の肩から力が抜ける。

 

「クククククッ、相分かった、そうであったな、ドレイク・アルバート男爵は新参も新参、あの様な大戦(おおいくさ)の後の緊張した交渉劇、さぞや疲れたであろう。おっとすまぬ、小競り合いであったな。

では配下共々下がって休むが良い」

「ハハッ、有り難き幸せ。

ヘンリー、ボビー、いつまで寝てるんです。とうに目は覚めているのでしょう?

下がらせて頂きますよ?」

 

‟ガバッ”

起き上がりグロリア辺境伯に対し礼をする鬼神と剣聖、彼らは自分たちの仕事は終わったとばかりに来賓の間を後にするのでした。

 

「グロリア辺境伯殿、貴殿の寄り子は凄まじいですな。流石は‟王国の盾”、我がランドール侯爵家はその意味を何も理解出来ていなかった様です」

「イヤイヤ、ランドール侯爵殿、貴家の深謀、さしもの我がグロリア辺境伯家も危うかったですぞ。

それとこれは交渉と言うよりもお願いなのだが、セザール伯爵家との間にある渓谷の街道、あそこの名称を‟ラクーン街道”として貰いたいのだがよろしいだろうか?」

 

「そうである、その事について聞きたかったのだ。あの渓谷は完全に崩壊していたはず、それをどうやって越える事が出来たのであろうか?」

「うむ、話せば長くなるのだがな・・・」

 

グロリア辺境伯から語られる呪われた青年ラクーンの物語、一杯のスープにまつわるアルバート男爵と青年ラクーンの心の交流とその恩義の為に命を懸けたラクーンの献身。

その物語は後に「ポンポコ山のラクーン」として、ランドール侯爵領とグロリア辺境伯自治領に長く語り継がれる事になるのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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