転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第235話 闇属性魔導士、領都の学園に通う

朝の光が窓辺から差し込む。部屋の外からはガタゴトと人々の生活音が聞こえる。

今日もまた新しい一日が始まる。

新しい一日が始まるのだが、私はキャタピラー。この微睡とお布団様の誘惑から逃れる事は出来ない。

大好きな男の子が言った、“寝具とは神具、それは至高の存在である”と。

大好きな男の子が言った、“おいらはキャタピラーにジョブチェンジしたでござる”と。

その言葉の意味が今なら理解出来る。ここは楽園、この微睡こそ至福。

私は闇属性魔法特化型魔導士からキャタピラーに進化した女。

出来れば彼と共にこの微睡に包まれたい。

 

“コンコンコン”

「“お~い、ケイト~、起きろ~。いつまで寝てるんだ~、授業に遅れるぞ~!”」

 

部屋の扉が打ち鳴らされ、幸せの時間が壊される。あぁ、何故私はこんな場所にいなければならないのか。

分かっている、それは長きに渡る逃亡生活を終えマルセル村の住民となった自身を守る為、家族と、そして何より大好きな彼と共に過ごす為。

 

・・・でもなんでケビンがここにいないのよ!ケビンって私よりずっと魔法の扱い上手じゃない、魔力に対する理解なんて私の遥か先じゃない!

ズルい、絶対何かやったに決まってる!

今からでも遅くない、ケビンは私と一緒に学園に通うべき!

 

「“早くしないと朝食食べ損ねるわよ。確りとご飯を食べないと胸の成長が・・・”」

“ガバッ”

 

「ん、今行く」

急ぎ布団から飛び起き、朝の支度をする。

規則正しい食事は生活の基本。身体を作り成長を促すのは日々の食事である、これは彼が私に教えてくれた事。

マルセル村での生活で私の身体はみるみる成長した。これまで取る事の出来なかった栄養素を身体が必死に搔き集めているからだと言うのは彼の言葉。

胸の成長はその中で最も重要な事項。

“成長期の睡眠不足と栄養不足は貧乳を作る可能性がある。これは個人差があるから何とも言えないんだけど”

その呪いのような言葉は私の魂に規則正しい食生活の大切さを刻み付けた。

そう、私がキャタピラーに進化したのも全ては自身の成長の為、私は悪くない!

 

“ガチャッ”

私は部屋の扉を開け、そこにいるであろう友人に声を掛ける。

 

「ベティー、おはよう。すぐに行こう、ご飯が待ってる」

「ケイトおはようってなんで私を置いて行こうとするのよ!そこは一緒に行きましょうとか起こしてくれてありがとうとか言う場面じゃないの?

めっちゃ自由だな、おい」

 

後ろで何かを叫ぶベティー、でもそんな事に構っている暇はない。学園生の健康的な食生活を支えるために考案され日々研鑽される寮の食事は、私の身体的成長に欠かせない“必須栄養素”を豊富に含んでいるらしいからだ。

詳しい事はよく分からないけど寮母さん曰く、「ここの食事を摂っていればあたしと同等の胸は保証するよ」との事。

寮母さんの包容力の塊と同等、その言葉を聞いた時寮生の皆が思わず生唾を飲んだことは言うまでもない。

 

「って言うかケイトって胸の事になると本当に真剣よね。でもそれだったらある程度身体も動かしておかないとまずいんじゃない?

幾ら胸が大きくたって垂れちゃったらね~。胸を支える為の大胸筋の発達は美しい形を保つために必要ってお母様も「その話詳しく」・・・う、うん。

取り敢えず朝食にしましょう。話はそれからって事で」

 

ベティーは本当に素晴らしい友人だ。私の知らない事を色々と教えてくれる。

私は素晴らしい友人との出会いに感謝しつつ、美味しい朝食に舌鼓を打つのでした。

 

―――――――――

 

「貴様か、大した実力もないのにグロリア辺境伯様に取り入って目を掛けられていると言う生徒は」

 

学園での生活は面白くもあり退屈でもある。ここグロリア辺境伯領の歴史やオーランド王国の歴史など、それ程興味の持てない事柄から魔物や魔獣の生態など、気になる内容のものまで。

マルセル村にはたくさんの魔物がいてケビンの実験農場で飼育されていた。でもあれは飼育されてるって言うのかな?実質的に畑を管理していたのはビッグワームの緑と黄色だった様な。

他にも水辺の主スライムの大福は村の子供たちの遊び相手だったし、紬たちキャタピラーは村の繊維生産の主力だったし。

ホーンラビットの団子の役目は何だったんだろう?今考えるとよく分からない。

村にいた頃はただお世話するのが楽しかっただけだったからな~。

そんな魔物に囲まれた生活をしていたからか、魔物学の授業は私の一番のお気に入りだ。

 

「おい、貴様、話を聞いているのか!」

 

何か声を掛けて来る男子生徒。一、二、三。六人の集団、一体何の用なんだろう?

 

「はじめまして、マルセル村のケイトです。マルセル村はビッグワーム干し肉の名産地、マルセル村のビッグワーム干し肉をよろしくお願いします」

 

私はそう言い腰のマジックポーチから六人分のビッグワーム干し肉(ノーマルタイプ)を取り出しそれぞれに手渡す。

 

「あ、うん、どうもありがとう。じゃないから、何干し肉配ってんの、馬鹿なの?

こちらはヘルマン子爵家のご子息様であらせられるバーナード様だぞ!?

謙りご質問にお答えしないか!」

 

何か興奮して言葉を捲し立てる男子生徒。

・・・凄いな~、ベティーもそうだけどよくあんなに次から次へと言葉が出て来るもんだ。私には無理。

頭の中では色々考えられてもいざ口にしろって言われるとちょっと。お父さんや師匠の前なら話せるんだけど。

その点ケビンは全部察してくれるから楽、あれだけの洞察力があって何故私の思いに応えてくれないの?

絶対ワザとすかしてるよね?意地悪しちゃってるのかな?セシルお婆さんが言っていた“男の子は好きな女の子にはつい意地悪をしたくなる”って奴なのかな?もっと素直になってくれてもいいんだぞ?

 

“スッ”

私は再びマジックポーチからビッグワーム干し肉を取り出しよくしゃべる男子生徒に渡す。

 

「あっ、なんかごめん、って違うの、催促してたんじゃないの、もっと寄越せって意味じゃないんだよ!」

 

男子生徒が何か言い訳を始めたので私は首を横に振りそうではないと伝える。

 

「違う、最初のは基本の岩塩で漬けた干し肉。こっちはハーブブレンド、味の違いをお楽しみください。ご注文はモルガン商会で承っております」

「そう言えば畑のお肉って名称で売り出してたよな、どうもわざわざありがとうってちが~~~う!

お前がグロリア辺境伯様から目を掛けられているケイトって奴であってるかって話だよ、“はい”か“いいえ”で応えろ!」

 

わ~、これがケビンが言っていたノリツッコミって奴か~。流石領都の学園、様々な人材が揃ってる。ケビンだったら涙を流して喜ぶんだろうな~。

前に“俺もケイトもボケだからな~。ツッコミ役が欲しい”って言ってたもんな~。

この人マルセル村に来てくれないかな~。

 

「はい」

私は男子生徒の健闘を称えて素直に返事をするのでした。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、バーナード様、コイツが例のケイトで間違いないそうです」

「お、おう、そうか、ご苦労。それでケイトとやら、貴様どうやってグロリア辺境伯様に取り入ったと言うんだ。あの御方が貴様の様な脆弱な者を気に掛けると言う事がどうしても信じられん。何か卑怯な手を使ったのではあるまいな!?」

 

何か偉そうな男子生徒が話を繋ぐ。私は予めケビンに言われていた様に彼らの持つ干し肉を指差し言葉を返す。

 

「マルセル村はビッグワーム干し肉と新鮮な野菜で農業重要地区入りを果たした注目されている村。私が目を掛けられてるんじゃなくて、マルセル村が目を掛けられている。

私はグロリア辺境伯様がいかにマルセル村を重要視しているのかと言う象徴、私の実力は関係ない。

先ずはビッグワーム干し肉とマルセル村の野菜を食べて、ビッグワーム農法の話を聞くべき。文句はそれから」

 

私の言葉に固まる男子生徒達。

・・・えっと、何がどうなったの?ちょっと状況が分からないんだけど?

 

「はいはいそこまで。ケイト、そのビックリしたグラスウルフみたいな目は止めようか。

あなた達もなにこんな幼気な女の子を大勢で取り囲んじゃってるの。仮にもグロリア辺境伯家の寄り子でしょう、恥ずかしくないの?」

「「「なんだお前は、余計な口出しをするな!」」」

何かベティーが格好いい登場を決めてるみたいだけど、あなたさっきから廊下の角でこっちの事を見てたよね?実は楽しんでたりした?

 

「むっ、貴様はベティー・スワイプ。チッ、行くぞ」

「えっ、いいんですか!?この生意気な女は・・・」

 

「そいつはグロリア辺境伯家の護衛騎士の娘だ。父親にそいつの警護でも言い渡されてるんだろう。

そこの女の正体も割れた、何の事はない、政治の話だ。実力者でなければ用はない、行くぞ」

「待ってくださいよ、バーナード様~」

偉そうな人とそのゆかいな仲間たちは去って行った。これがケビンが言っていたお約束、凄いぞお約束。でもこんな事って本当にあるんだ、流石お約束!

 

「ケイト大丈夫だった?ごめんね私が付いていなかったばっかりに」

「ん、大丈夫。でもベティーが廊下の影からこっちを見ていたのは知っている。だから当面ピリ辛味の配給は中止と言う事で」

 

「えっ、あの、それだけは。本当ごめんて、ちょっとしたいたずら心だったんだって~。無言で置いて行かないで、ケイト様~!!」

私は背後で何やら喚くベティーを余所に、一人教室に戻るのでした。

 

―――――――――

 

「今日からの授業は魔法の実践訓練になります。魔法適性の無い戦闘職の生徒は魔法を使う魔物との戦闘や、魔法使い・魔導士と言った魔法職との戦闘を想定した授業を行って貰います。また攻撃魔法の無い回復系魔法職の方は戦闘の際の回避行動についてと回復魔法の訓練ですね。

ではそれぞれ担当の講師に従って移動してください」

 

魔法の授業と言っても様々である。それぞれの適性に応じてその授業内容も異なって来る。魔法適性の無い商人の子供に攻撃魔法を教えても仕方がない、そうした子供には魔法攻撃に対する回避か、対魔法戦の戦闘技術を教えた方が余程役に立つ。

因みにベティーは対魔法戦闘訓練、彼女の魔法適性は風らしいのだが、下手に風魔法を訓練するより風魔法の適性を生かした戦闘技術を学んだ方がいいと判断したらしい。

 

「次、ケイト」

私もどちらかと言えばそっちに進みたかったんだけどな~。魔法の手加減って面倒なんだよな~。講師の先生にお願いしたら“闇属性の特化型魔導士が何を言ってるんですか?真面目に授業を受けてください”って却下を喰らっちゃいました。(ぐすん)

でもまぁケビンが一緒に訓練してくれたんでやりますけどね。

 

(小声で)

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、ダークボール”」

“ビュ~~~~~、バンッ”

私の撃ったダークボールは訓練場の的の右端ギリギリに命中。

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、ダークボール”」

“ビュ~~~~~、バンッ”

今度は的を支えるポールの大体真ん中あたり。

 

「はい結構、ケイトはもう少し的に集中する様に。方向は合ってるぞ、この調子で頑張れよ」

“ペコリ”

 

「次、アレン」

「は、はい」

 

ん?この人どこかで見た事がある様な・・・あっ、入学式の時学園の門のところでお貴族様に絡まれてた男の子だ。同じクラスだったんだ、全く気が付かなかった。

まぁ仕方がないよね、男子生徒ってみんな同じに見えるし。違うのは髪の色?

お貴族様は金色や銀色や赤髪と言った派手な色が多いよな~。平民の子は茶色とか地味な髪色が多いかな?

ベティーはそんなに派手じゃなくってどっちかと言えば地味目な金髪。うん、目に優しい。

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ファイヤーボール”」

“ビューー、ドーーーーン”

「「「えぇ~~~~~!!」」」

 

目の前に立ち上がる炎の塊。的が立っていた場所には黒い焦げ跡と炭になったポールの残骸。

 

「えっ、俺、え~~~!?」

自分が放った魔法の威力に狼狽える男子生徒。

なんか魔法の詠唱をしている最中にあの子の周りに変な魔力の塊みたいなのが寄ってたんだけど?あれって一体何?

 

「あ、アレン?お前、もしかしたら何か新しいスキルに目覚めたりしてないか?普通ファイアーボールであの威力は出せないぞ?」

「えっと、あっ、はい。俺、魔法を使ったのって今日が初めてでよく分からないんです」

未だ動揺し答えに困る男子生徒。

 

「まぁいい、威力方向性共に問題はない。いずれ学園の方から詳細人物鑑定を受ける様に話が出るかもしれないが、その時は頼むぞ。

次、マルス」

「は、はい」

 

うわ~、あの男子生徒凄くやりづらそう。目の前であんなの見せられたらね~。

えっとマルス君だっけ、頑張れ。

 

初めての魔法の実践訓練、そして初めて使う魔法で思わぬ才能を発揮する男子生徒。

ケビンがこの場にいたらこう叫んだだろう、“主人公様じゃ~!主人公様がご降臨なされたぞ~!!やはり入学式の騒動はイベントだったんじゃ~!!”と。

お約束とは避けられぬからこそお約束なのである。

なお、この報告をブラッキー経由で聞いたケビンが叫び声を上げ悔しがった事は言うまでもない。

 




本日一話目です。
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