転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第236話 闇属性魔導士、領都の学園に通う (2)

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、ダークボール”」

“ビュ~~~~~、バンッ”

 

グロリア辺境伯領領都グルセリア、その領都にある学園と呼ばれる学び舎には、グロリア辺境伯領ばかりでなく周辺の各領地から多くの若者が集い、己の技量を高めようと研鑽の日々を送っている。

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、ダークボール”」

“ビュ~~~~~、バンッ”

 

基本的に学園では身分の違いにより声を掛けてはならないと言った事はなく、明確な身分差は存在するものの互いに節度を持って交流を持つことが求められている。

それは学園と言う物の設立目的が貴族による有能な職業を持つ平民のスカウトの場であり、身分の差により採用の機会を逃してはならないとの思いから生まれたものである。

これは職業があくまで女神様の慈悲により人々に与えられたモノであって、貴族の好き勝手を許さないと言う女神様のご意思によるところが大きい。

過去においてこれを軽視し多くの国が天界の使者たちにより滅ぼされた事は、為政者たちの教育において必ず教え込まれる事である。

この世界において神とは身近であり、福音とも厄災とも呼べる存在なのだ。

 

職業とはあくまで女神様がこの世界の人々が生き残れるようにお与えになられた慈悲、その職業を以って戦乱の道具にしようとしたり迫害の対象とする事は女神様の意志に反する。

これはこの世界の人々に示された明確なルールなのだ。

故に平民とは言え強引な勧誘は各国で固く禁止されており、軍事国家で知られるバルカン帝国ですら公には権力を盾にした強制は行っていない。

 

「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の小虫を指先で潰したまえ、ダークボール”」

“ビュ~~~~~、バンッ”

「オーク像の右膝、命中。次、手前足元」

 

学園の魔法訓練場、そこには魔道具による魔法防御結界が施されており、生徒が行う魔法訓練により訓練場が崩壊しない様に、魔法により周辺に被害を及ぼさない様にと言った工夫がなされている。

生徒達は授業終了後こうした施設を利用し、自身の技量を高める為の訓練に勤しむのだ。

 

「ほう、頑張ってるじゃないか。君はケイトちゃんだったね、流石グロリア辺境伯様から目を掛けられているだけはある。少々目標物に対しボール魔法がばらけているきらいはあるが、筋は良いと思うぞ」

 

ケイトは声の掛けられた方を振り向き、ぺこりと頭を下げる。

それは魔法戦闘の指導教官であり魔法部の顧問でもあるソルド・ベッカムであった。

 

「あぁ、練習中に声を掛けて悪かったね。熱心に魔法訓練に取り組む新入生がいると聞いてね、良かったら魔法部に入らないかと誘いに来たんだよ。

我が魔法部は伝統ある部活でね、先輩方にはここグロリア辺境伯領ばかりでなく周辺各領に魔法師として仕官している者が大勢いるんだ。

ケイトちゃんはグロリア辺境伯様のお眼鏡に適っているみたいだけど、今の実力だと些か不安なんじゃないかな?

どうだろう、多くの先輩方と共に学ぶことは、ケイトちゃんにとっても良い経験になると思うんだが」

 

それは未だ学園に慣れない新入生に対し、教師として、魔法を使う先達としての優しいお誘い。

だがケイトは思う、“この人何を言ってるの?”と。

ケイトの行っていた訓練、それは遠く離れた目標物に対しその攻撃の目的に合わせピンポイントで魔法を当てると言う大変高度なもの。それを理解出来ず魔法が()らけていると言う発言をしている時点で、ケイトからしたら何も見えていないとなってしまう。

その様な者が顧問を務める部活から一体何を学べと言うのか?ケイトはベッカム教官に対し「大変申し訳ないのですが・・・」と辞退を告げる言葉を返す。

 

「ハハハ、そうか、それは残念。まぁ興味が湧いたら一度部活の方に顔を出してみてくれ。先輩たちもとてもいい生徒ばかりだから気軽に相談しに来て欲しい」

ベッカム教官はそれだけを告げるとその場を離れて行った。

ケイトは一体何だったのだろうと首を傾げた後、まぁいいかと訓練を再開するのだった。

 

――――――――

 

「先生、どうでしたか?」

魔法部の部室、そこでは部長副部長を含めた数名の幹部部員と顧問であるソルド・ベッカムがテーブルを囲み、何やら相談事をしている様であった。

 

「う~ん、警戒をされていると言った雰囲気はなかったな。あれは一体何を言っているのか分からないと言った表情だった。

まぁ調べた限り辺境の片田舎の小娘だ、情報では彼女の住んでいるマルセル村とやらが農業重要地区入りを果たしそのおまけでグロリア辺境伯の庇護を受けたらしい。

魔法の腕は大した事はないが、やはりグロリア辺境伯陣営に疑われずに潜り込めると言うのは大きいな。

君たちも彼女の事は気に掛けてやってくれ、上手い事取り込めれば良し、そうでなくとも我々の計画に然程影響はないがな」

 

ソルドはそう言うと部員たちの顔を見やり獰猛な笑みを浮かべる。

 

「なに、ここオーランド王国北西部地域は大きく変わる。それが我らが盟主ランドール侯爵閣下の旗の下なされる事は皆が知っての通りだ。

既に多くの同志が各貴族家の中枢に入り込んでいる、事はなったも同然。

君たちは幸運だ、こうして時代を動かす者の側に立つ事が出来たのだから。

期待してもらって構わない、既に事態は動き始めている。

我々は座して待つ、それだけで良いのだから」

 

「いや、それは困る。君たちを放置する事は我がグロリア辺境伯家にとって害悪でしかないからな」

“バタンッ”

突如開かれた扉、雪崩れ込む騎士団の者たち。

 

「本当に君たちは勤勉で優秀だ。まさか領都学園の内部にまで入り込んでいるとは思ってもみなかった。

あぁ、すっかり篭絡されていた副学園長は既に拘束済みだ。君が秘密の漏洩を畏れて調略相手を絞ってくれていて助かったよ。お陰でこっちも仕事がし易くなる。

部員たちも主な同調者は部活幹部だけ、下手な情報の拡散による身バレを恐れたといったところかな?これではこちらが掴めなかった筈だ、本当に素晴らしい」

 

その騎士は腕組みをしながらウンウン頷く。

 

「これはこれは騎士様方、突然何の御用ですか?私達は魔法部の新入生歓迎会の相談をしていただけですが?」

そう言いとぼけて見せるソルド、だがその目は周囲の情報を集め逃げ出す隙を窺う。

 

「ん?そうであったかな?これは私の勘違い?それは大変申し訳ない。

皆撤収だ、どうもこの部屋ではなかったらしい。

いや、本当にすまなかったね。これは私からのお詫びだ、受け取って欲しい」

“ブワッ”

部室内に広がる白煙、立ち込める刺激臭。

 

「これはホーンラビット対策で開発された睡眠香と言う物らしい。

広がる煙で魔物を眠らせると言った品なんだが、それだと悪用されてしまうだろう?

だから人々に‟睡眠香が使われている”と知らせるために強烈な臭いが仕込まれている。

大丈夫、すぐに眠ってしまう事はない、臭いに気が付いて逃げれば問題ないそうだ。

まぁ何でも体験すると言う事は大事だ、私も体験させられてね、心底開発者を恨んだものだよ。頑張れ、御同輩。

詳しい取り調べは目が覚めてからにしよう、今はゆっくり休んで欲しい、革命家気取りの馬鹿どもが」

 

「「「グオ~、目が~、鼻が~、ウェ~~~、ゲロゲロゲロ」」」

部室と言う密閉空間、情報の漏洩を防ぐため窓の無い仕切られた部屋。それを人は袋のネズミと言う。

 

‟バタンッ、トントントントン”

扉が閉じられ木板の打ち付けられた部屋の中からは、悶え苦しむ呻き声だけが聞こえる。

騎士団員たちはその声に自身の記憶が蘇り身を震わせる。

騎士団員を率いて現場入りした護衛騎士ポール・スワイプはこの状況に戦慄しつつ、娘がマルセル村から来た闇属性魔導士との仲を順調に深めてくれることを心から願う。

 

‟これ、下手したら睡眠香だけでもうちの騎士団全滅しないか?確か新開発の臭い玉と言う物があると言う話だったか、マジで勘弁して欲しいんだが。

ベティー、ケイトちゃんの事、本気で頼む。マルセル村を、ケビン君を敵に回してはいけない!!”

 

グロリア辺境伯領内部に巣食う内患は、こうして人知れず取り除かれて行った。

後にこのグロリア辺境伯領全体を襲った大粛清は‟春の嵐”と呼ばれる様になるのだが、領民たちはまだその事を知らずにいるのだった。

 

―――――――――――

 

ケイトが領都の学園に入学して一月が経とうとしていた。

寮生活にも慣れ、学園の授業もそれなりに熟し、日々の不満やストレスは従魔厩舎にいるブラッキーに癒して貰うと言う毎日を送っていた、そんなある日の事だった。

 

「ケイト、大変よ。グロリア辺境伯様が挙兵なさったわ!」

その知らせは突然齎された。ランドール侯爵家の数々の謀略、王家との決別、グロリア辺境伯領が自治領として半ば独立した事、グロリア辺境伯軍がランドール侯爵領に攻め入ると言う事。

 

この知らせは瞬く間に学園中に広がり、生徒たちは大混乱に陥る事となる。

貴族家の子弟は自身の家の無事を、平民はグロリア辺境伯領が戦渦に巻き込まれないかと言った心配を。

 

「それでねケイト、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、マルセル村の村長代理だったドレイク・ブラウン様がご婦人のご実家の爵位をお継ぎになってドレイク・アルバート男爵になられたの。

更にアルバート男爵様がこれまで行ってきた様々な農業改革が評価されて、マルセル村を含む周辺一帯の土地がアルバート男爵家の所領地として認められたの。

そしてアルバート男爵様は今回の挙兵に寄り子として参加なされる事になったのよ」

 

ケイトにとって全くの他人事であった戦乱の嵐は、突如身近な事態へと変貌する。

 

「父の話だとマルセル村からは元金級冒険者の‟笑うオーガ”ヘンリーと元白金級冒険者‟下町の剣聖”ボビーが従軍するんですって。

ケイトはこの二人の事知ってる?」

ベティーの口から語られる身近な人物の名前、ケイトはコクリと頷き口を開く。

 

「ボビー師匠は村の剣術指南の先生、私の剣の師匠。

ヘンリーさんは大事な彼のお父さん」

そう言い向ける視線の先には左手に巻かれた“絆の腕輪”。

 

「あぁ、マルセル村にいる彼氏、ケビン君だっけ?入学式の時に来ていた子でしょ?チラッとだけ見たけど、普通の子?

まぁ共に村で過ごして来たケイトは外見よりももっと大事な内面に惹かれてるのかな?

そう言った女心ってまだよく分からないのよね。

話は戻るけど四日後に出立らしいの、ケイトも一緒にその隊列を見に「行く!」、そう。

その誘いだったの、じゃあ詳しい事が分かったらまた知らせに来るわね」

 

戦争、従軍、もしかしたらケビンが。

ケイトの胸を締め付ける思い、ケビンにもしもの事があったら私は。

これから数日、ケイトは悶々とした思いを抱えたまま日々を過ごす事になるのでした。

 

――――――――――

 

「「「応ーーーー!!」」」

 

城から響く騎士たちの叫び、騎馬に跨った武装した騎士たちが、グルセリアの大通りをゆっくりと進軍して行く。

 

‟ケビン、ケビン、ケビン、ケビン”

ケイトは組んだ手を胸に当て、祈るような思いで愛しの彼の姿を探す。

 

「あっ、もしかしたらあそこじゃない?」

 

それは異様な一団であった。グロリア辺境伯家の寄り子の貴族たちに引き連れられた私兵騎士団、その最後尾に付き従う様に進む巨馬に跨った巨漢の偉丈夫。

その醸し出す気配は正に覇王、その者がこの集団の頭と言われてもだれも疑いはしないだろう。そしてその周りに集うは皆この漢に引けを取らない気配の持ち主たち。

 

「「「・・・・・・」」」

グルセリアの住民は思う、この戦、ただでは済まないと。

 

「・・・これがマルセル村、お父さんが言っていた事って」

「あっ、お父さん」

彼の姿、ケビンの姿はそこにはなかった。その代わりその場にあったのは大好きな父の姿であった。

 

‟ケビンは・・・うん、多分上手い事言って逃げたんだね。って言うかお義父様にボビー師匠、過剰戦力じゃないの?この戦争、すぐに終わりそうね、心配して損しちゃった。

お父さん、怪我しないで帰って来てね”

 

ケイトの心配は杞憂に終わった。彼女は折角街に来たんだから何か美味しいものでも食べて帰ろうかなと隣の友人に目を向ける。

 

「あれがマルセル村・・・あんなの、誰も勝てないじゃない」

隣ではアルバート男爵家騎兵隊の面々を目にし額から冷や汗を流すベティーの姿。

‟お~い、ベティー、マルセル村の最強はあんなもんじゃないぞ~。

大福や緑と黄色、それにケビンはもっと強いんだからね~”

 

知らない事が幸せな事もある、マルセル村の話はあまり詳しく伝えない事にしよう。

親友の過剰な反応に、情報の取捨選択の大切さを学んだケイトなのでありました。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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