転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第24話 転生勇者、魔法について教わる

季節は冬、村の樹木はその葉を散らし、草原は見渡す限り枯れ草色。村の大人は家の修復や道具の手入れ、普段の忙しさに後回しになっていた仕事に精を出す。

それも終わった男衆は健康広場に集まって何やら身体を動かして遊んでいる様だが、名目上は“健康促進運動”の一環、大手を振って楽しげに笑いあっている。

 

村の女衆も似た様なもので、其々の家に集まっては便利な生活魔法の使い方を話し合っている。

 

「それにしても洗濯物の脱水乾燥は盲点だったわ、ケビン曰く全体をふんわりさせたい時は気持ち少なめの<ウォーター>を意識して脱水状態にしてから天日で干すか、大きめの魔力ボールを作ってその中に洗濯物を入れてから中に風属性の<ウィンド>と火属性の<ヒート>を混ぜ合わせた複合生活魔法を使うといいって言ってたわよ」

 

「なるほどね~、確かにケビン君が教えてくれた乾燥法は画期的だったけど、洗濯物の状態によっては一部にごわつきが出ちゃうのが気になっていたのよね。あえて脱水状態にして<ヒート>と<ウインド>でふんわりさせるのか~、お天気の日に脱水だけしてお日様に干すのはいいかも、今度やってみようかしら」

 

「洗濯って言えばこの前教えてくれた<ヒート>を使った洗濯の仕方、あれ便利ね。盥の水全体に魔力を浸透させる意識で覆った後に<ヒート>を掛けるだけでぬるま湯になるなんて思わなかったわ。しかも<ヒート>を維持してれば冷めないし、今の時期凄い助かるわよ。毎年指先のひび割れが大変だったんだから」

 

「そうそう、ひび割れって言ったらケビン君の新作軟膏使った?前みたいな動物の臭いがしないからすごく使い心地がいいの。

なんでも行商人に頼んで植物油を購入したんですって。あれなら肌荒れにも使えるんじゃないかしら」

 

「あら、あなた達水仕事の時に手先に魔力纏ってないの?ケビンは“魔力手袋”って呼んでたけど、手荒れどころか保湿までしてくれるから私の手なんかホラ、艶々でしょ?」

 

「「「ちょっとメアリー、そんなの聞いてないんだけど!?そこん所詳しく教えなさいよ!」」」

女性の会話は右へ左へ行ったり来たり、女衆は今日も元気である。

 

 

「ケビンお兄ちゃん、大福が強過ぎです。お力をお貸しください」

連日の魔力合戦に連敗中のチビッ子軍団、リーダージェイクは一つの決断を下した、“ケビンお兄ちゃんに縋ろう”と。

“もうアイツ強すぎる、繊細な魔力制御、瞬時に障壁の魔力を変化させる柔軟性、あれでいてまだ手加減してるって言うんだからどんだけなんだよ!”と。常に前線で敵の注意を引き続けるジェイクはこの冬の寒さにも負けず日々ずぶ濡れ泥まみれで頑張った。頑張ったんですけどね~、ついにお母さんが切れちゃって。

 

「ジェイク、頑張ってるのは分かるけど、いい加減にしなさい。風邪を引きでもしたらどうするの?毎日の洗濯は?ケビン君が魔力を使った洗濯の仕方を教えてくれたからいいけど、お母さん、このままじゃ洗濯おばさんになっちゃうのよ?」

その凍てつく大地よりもさらに冷たい声音、お父さんは直立不動だし、お母さんは笑顔なのに目が笑ってないって言うね。この年になってお漏らししそうになるなんて思いもしませんでしたです、はい。

 

そこでジミー君、エミリーと三人揃ってケビンお兄ちゃんに教えを乞いに来た僕たちに、ケビンお兄ちゃんは笑いながら“それは災難だったね”と話をしてくれました。

因みに今日は畑ではなくエミリーの家です。ケビンお兄ちゃんは午前中の調薬の仕事が終わったところ。流石にお仕事を邪魔する訳にはいかないからね、終わったところにお邪魔しました。

それまで外で待ってたのかって?そんな訳無いじゃないですか、今日も奴に挑戦してきましたとも。無論ぼろ負け、泥だらけのズタボロでございます。

 

「う~ん、何から話そうか。でもその前にジェイク君はその服を脱いでね、それこそ風邪を引いちゃうし部屋が汚れるから」

そう言われ下着姿になった俺に<ヒートウィンド>と言って熱風を掛けてくれるケビンお兄ちゃん。これ。温かくて気持ちいい。

すると今度は一メートルくらいの魔力球を作りその中に汚れ物をポイ。<ホットウォーター>と言って中にお湯を入れ<シェイク>と唱えると魔力球の中の汚れた服がグルグル旋回し始めました。その様子はまるでドラム式洗濯機、もう何が何だか分かりません。

待つこと数分、中の汚れた水を扉から外にポイ、再び<ホットウォーター>と<シェイク>を繰り返す事二回。<ウォーター>の呪文で軽く脱水し、<ヒートウィンド>の呪文でいい感じに乾燥させてくれました。

 

「はい、ジェイク君、これで今日は怒られないね」

そう言って渡してくれた洗い立ての服はもう新品同様の美しさ、ポカポカしていてとっても気持ち良くって、このまま寝てもいいかな?

 

「ジェイク君、お兄ちゃんに話を聞きに来たんじゃなかったの?」

ジミー君の冷静なツッコミにハッと我に返った俺は、再びケビンお兄ちゃんに相談を持ち掛けました。

 

「そうだね、流石にこの季節に水属性は厳しいよね、その辺は大福によく言っておくよ。

それと戦力強化だよね、特に魔法関連の。まぁいい機会だからみんなに魔法についての僕なりの考えを教えてあげるね。

あ、ミランダさん、ハーブティーですか、ありがとうございます。みんなもあっちでお茶でも飲みながら話そうか」

そう言い俺たちをテーブルに促すケビンお兄ちゃん。俺たちはテーブルで温かいハーブティーと美味しいクッキーに舌鼓を打ちつつ、ケビンお兄ちゃんの考える“魔法”について教わるのでした。

 

―――――――――――――――

 

ミランダさんの所での調薬の仕事を終え家に帰ろうと準備をっしていたところ、ジェイク君が青だぬきの所の眼鏡少年のごとく、「ケビンお兄ちゃん、大福が強過ぎです。お力をお貸しください」と、縋るような眼差しで助けを求めてまいりました。

 

ミランダさんの所の修行は終わったんじゃないのか?一応ミランダ調薬塾は卒業したんですけどね、村の外に出す薬の需要が多くなりまして。やっぱり冬場は何かと病気が流行りますからね~、村長代理のご指名により(わたくし)、完全な労働者枠に認定されてしまいました。

 

報酬が魔法関連書物なんだもん、男の子だったら欲しいじゃないですか、魔法の本。この時代の書物はそこそこ高いのよ?なぜか活版印刷があるらしくそれなりに書籍の流通はあるらしいんですけどね、肝心の物流網が。

蒸気機関は無いのよ蒸気機関は。産業革命はまだ遥か先なんですよ、少なくともこの国では。世界の事は分かりません、陸の孤島の情報量を嘗めるなよ、唯一の最新情報源は行商人様なんだからな。

 

そんな訳で今日もせっせと調薬に励んでおりました。

午後からはラビット牧場建設、毎日忙しく働くケビン君なのであります。馬鹿息子の遺産がこんな所で役に立つとは本人は気付きもしなかっただろうね。

 

で、大福が手強いから困ってるって話しなんだけど、ジェイク君汚過(きたなす)ぎ、泥だらけじゃん。俺は急いで彼の服を剝ぎ取り魔法で洗濯。

ラノベだったら<クリーン>の一言で済んじゃうんだけどね、この<クリーン>、光魔法の初級魔法だったりします。生活魔法じゃないんですね、残念。

いつものように生活魔法でどうにかしないのか?難しいんだよ!この<クリーン>の魔法、身体の汚れはもちろん、服の汚れ、部屋の埃から床の染みまでかなり広範囲にピカピカにしてしまうらしいんですけどね、意味が分からない。

その埃は何処に消えたとか汚れの範疇は何処までなのとかサッパリ。まさに魔法的解釈、使用者のイメージ依存なんだろうな~。

その点俺がやってるのってかなり物理的な魔法の解釈だから、不思議パワーはよく分からない。ここが適性持ちとの大きな差、ファンタジーの壁は厚いです。

 

疑似的な<クリーン>は出来るのよ?水属性を使って衣類の隙間から汚れを浮かせて分離して取り除くやり方で。でもこれかなり集中力がいる上に魔力量も使うから凄く面倒。

だったら普通に洗濯した方が楽じゃね?ってんで考えたのがドラム式洗濯術。仕上がりもふんわりと、満足な出来でございます。

 

ってジェイク君、気持ちよさそうにしてるけど寝ちゃダメだからね、君何しに来たの?ジミーに怒られるよ。

ミランダさんがニコニコしながらお茶の用意をし始めたのでみんなでテーブルに移動、ゆっくり魔法についての俺の考えを聞いて貰う事にしました。

 

「みんなはすでに魔力纏いは習得して割りと自由に使えるようになってると思うけど、そもそもの話魔法って一体何なんだろうね?」

俺の話し出しにキョトンとする三人。ミランダさんですらキョトンとしてる始末。魔法は魔法、すでにそこにそう言う便利なものがある以上それ以上は考えない、これが普通。適性がある人は使えるしそうでなければ使えない。この適性も色々あるんだけどね。

 

「僕は小さい頃に魔法が使いたくて属性魔法の初級呪文“ボール”を全ての属性で試したんだ。まったく発動しなくて随分落ち込んだよ。その後お母さんから授けの儀で職業を授からないと魔法は使えないって言われて更に落ち込んだんだけどね。

でも諦めきれなかった僕が目を付けたのが生活魔法、お母さんにお願いしてウォーターの呪文を初めて使えた時は感動したよ。それからは色んな生活呪文を覚えて暮らしに応用して行って。

更に生活呪文にも属性がある事が分かって、それならすべての属性は使えるんじゃないかって事に気が付いて。みんなが今使ってる“ボール魔法(偽)”はそうして生まれたものだね。魔法と違ってあくまで生活魔法だから自分から飛んで行ったりはしないけどね。

 

じゃあ魔法って何っって話なんだけど魔法はある決められた現象を引き起こす為の宣言だと思っているんだ」

 

ここで一旦休憩。まだ大丈夫かな?着いて来れてるかな?エミリーちゃんがヤバい、若干お眠だ。他は大丈夫の様だから続けましょうか。

 

「ボール魔法ってのがあるよね。“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ファイヤーボール”だったかな。

この呪文、幾つかの構文に分かれているってのは分かるかな?簡単に部品と捉えてもいいかもね。

 

初めの“大いなる神よ”、これは今から魔法を使いますよって言う宣言みたいなものかな。この宣言をする事で身体の魔力が活性化して魔法を発動する準備が完了する。

 

“我が手に集いて”は“掌から魔法を発動するよ、魔力よ集まれ”って言う呼び掛けだね。この変化は目に魔力を集めた状態で魔法を使う人を観察すると見る事が出来るよ。

これをしないと魔法初心者は魔法の発現に失敗するかな。逆に熟練者はこの部分を省いても大丈夫、長年魔法を使い続けた人に偶に詠唱短縮とか言うスキルが発現するのはこれが理由だね。頭の中でそこまでの準備が整っちゃうんだよね。

 

“眼前の敵を撃ち滅ぼせ”ってのがこの魔法の目的だよね。目標は目の前である、攻撃の意思があるっていう宣言。

 

最後の<ファイヤーボール>ってのは魔法名って呼ばれるものだね。この宣言で魔法の形が完成し結果が生じる。この魔法名は“火の玉が目標に向かって飛んで行って爆発しちゃうぞ”っていう効果も表している。でもこれはあくまで魔法適性がある人間しか使う事が出来ないんだ」

 

あ、エミリーちゃんが撃沈した。ミランダさんが回収してベッドに連れて行くのかな?

ジミーは理解しようと頑張ってる、ジェイク君は目をキラキラさせてるって君も結構いける口?だったら続きを話そうか?

俺はミランダさんが戻ってきたところで話しを再開した。

 

「じゃあ魔法適性って何って事になるんだけど、これはその属性を使う為の許可の様なものだと思ってるんだ。

どれだけ高名な魔法使いでも基本自分の適性属性魔法以外は使う事が出来ない、これって凄くおかしい事なんだよ。それだけの魔法使いなら魔力量も多いはずなんだ、生活魔法の話しでも分かる様に人は基本どんな属性の魔法でも使う事が出来る。そこに得意不得意は当然あるだろうけど、初級魔法のボール系魔法すら使えないなんておかし過ぎる。

そこでさっきの話に戻るけど魔法名はその魔法の効果を表した宣言って言ったでしょう?内容が詰まり過ぎてるんだよ。その前の魔法使用宣言やどこに魔法を集めるのかとか目的は何かって言うのを決める呪文に比べてあまりにも短い。

だからこれは何かがすでに決めている、登録されているモノを使わせてもらってるんじゃないのかって考えたんだ。ジェイク君は属性魔法がいくつか使えるんだよね?その属性魔法を使う時、その魔法がどう出来上がってどう作用してって一々考えたりする?しないでしょう?そう言う事」

 

あ、ミランダさん撃沈、オデコに手を当てて天井に目をやってる。ジミーは理解を諦めた顔になって逆に冷静になったみたい。

ジェイク君は“それってプログラムされてるって事じゃん。”ってまさに転生勇者らしいセリフをぼそぼそと。

 

「でね、ここからが本題。生活魔法や魔力そのものにはそうした制約があまりないんだよ。それは“ボール魔法(偽)”で遊んでるみんながよく分かってると思うんだけどね。

多分魔法名の縛りが低いからなんだと思うんだけどね、言い換えれば効力が単純だったり効果が低かったり。

<ウォーター>の魔法名の効果なんて“周りの水分を集めろ”ってだけだからね。どれだけの水って所はその前文で“一杯の”って言っちゃってるから。だからその制約の無さを利用するとこんな事も出来ます」

そう言い俺は背中から水で出来た腕を二本生やしてこう言った。

 

「これで手段が増えたでしょう?後は練習あるのみ、頑張ってね」

新しく生やした腕を使いウォーターボール(偽)でジャグリングをする俺に、口を開けたまま絶句するチビッ子とミランダさんなのでした。




本日二話目です。
温かくなったり寒くなったり、体長に気を付けてください。
by@aozora
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