転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第25話 転生勇者、大人と修行する

「「「一、二、三、四、一、二、三、四」」」

ボビー師匠の訓練場には朝から子供たちが木刀を振り下ろす掛け声がこだまする。

 

「「「一、二、三、四、一、二、三、四」」」

その掛け声に重なる様に、今では多くの男衆、女衆の掛け声も聞こえるようになった。

 

ドレイク村長代理の指示の(もと)行われた“朝の健康促進運動”は、ケビン少年の適切な指導により目に見える形で村人の健康に寄与する事となった。その効果は凄まじく、病気がちで寝込んでいた村人や高齢で家からあまり出られなくなっていた者までもが、日中の比較的暖かい時間であれば村の中を出歩く事が出来るまでになっていた。

身体の弱い者がそうなのだ、健康で脂の乗り切った村人ならどうなるのか、娯楽の少ないこの村においてそれは己を磨き上げる自己鍛錬へと向かった。

 

だが木刀を振るう事などしたことのない村の女性たちにそんな事が果たして出来るのだろうか?疑問に思うのは尤もであろう。そこに一人の少年の介入があった事は言うまでもない。

彼は言った、“木刀なんて怖いものを振るよりもヨシの束でも振りません?”と。

 

このヨシの束、何が優れているかと言えばその魔力伝達性能だろう。魔力など理解しない少女に魔力纏いをマスターさせた実績は、その性能の高さを窺わせるに充分であった。

だが、ヨシには利点であり欠点であるとある性質があった。非常に脆いと言う点である。そこでケビン少年はそのヨシを束にする事で折れ易さを克服、握りと剣先を比較的魔力の通しの良いホーンラビットの革で覆い安全性と使い易さを確保、木刀よりも軽くて丈夫な素振り用器具の開発に成功したのである。

丈夫になる事を意識して魔力を纏わせる事で折れにくく丈夫に、何と言ってもヨシの束である為怪我をする事が無いと言う安心設計、精々痣が出来る程度である。当たり所が悪ければ死の危険性すらある木刀とは安全性において雲泥の差であろう。

 

この“ヨシ棒”(ケビン命名)の登場は、村の女性たちに革命をもたらした。これまで剣術は男性が中心とされる村社会において女性でも剣を握ってもいいという新たな風が吹き始めたのだ。

 

「爺さん、いつも私に家事を押し付けて自分は酒を飲んでゴロゴロと、いい加減にしなさいよ!」

“バシンッ、バシンッ、バシンッ”

 

「いいじゃねえか、冬場くらいゆっくりさせろ!畑仕事やらビッグワームの世話やら月に一度の山狩りやら春から秋にかけては忙しいんだよ!」

“バシンッ、バシンッ、バシンッ”

 

「それを言ったら私だって同じじゃないか、ホーンラビットの間引き以外全部私もやってるよ!」

“バシンッ、バシンッ、バシンッ”

 

男女と言うものは意外と本質の部分で分かり合えないもの、それは長年連れ添った夫婦であっても変わらない。いや、長年連れ添った夫婦だからこそ他人には窺い知れない軋轢(あつれき)を抱えているのやもしれない。

そんな心の底に溜まった(おり)を、安全に、快適に、思う存分吐き出す事が出来るとしたら。

 

「この頑固爺~!」

「喧しい、オーガ婆~!」

娯楽の少ない辺境の村に一大チャンバラブームが巻き起ころうとも、それは致し方のない事であろう。

 

「いいかジミー、冒険者の剣と言うものは綺麗事ではない。どう生き残るか、どう獲物を仕留めるのか、素材の買取価格は、そう言った酷く俗物的で現実的な思考が形になったもの、それが冒険者の剣だ。

それ故にその剣は研ぎ澄まされより分かり易くなった。ボビー師匠の所での振り下ろしの訓練がそれだ。全ての基本でありながら全てにおいて応用の効く振り下ろしの剣、ジミーのそれはすでに中級冒険者に匹敵するものだとボビー師匠が手放しで褒めていたぞ。今日はお父さんが相手になろう、全力で掛かってきなさい」

「うん、行くよ、お父さん。これが今の僕の全力だよ」

“バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッ“

激しい得物のぶつかり合い、父は息子の成長に驚きつつ、よくぞここまで大きくなったと笑みを深めた。

 

「お父さん、今度は僕の番だからね。お母さんばっかりずるいよ、僕とも戦ってよね」

「ちょっと待てジェイク、お前は今のどこを見てお父さんが遊んでる様に見えたんだ?お母さんに一方的に攻められてただけだろうが!」

「行くよ~♪」

“バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ“

「ジェイクちゃん頑張って~、お父さんなんかズタンズタンのギッタンギッタンよ~」

「ちょっと休ませてくれ~!」

 

「それじゃ、エミリーちゃん。よろしくお願いします」

「はい、エミリー村長さんに負けない様に頑張ります」

「ハハハ、村長さんはおじさんだから手加減してくれると助かるかな。エミリーちゃんよりずっと弱くなってるだろうしね」

“ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンッ”

「凄~い、村長さんエミリーの打ち込みみんな捌いちゃった」

「ハハハ、これでも元々は冒険者をしていてね、昔ボビー師匠にも弟子入りした事もあるんだよ。

結局はボビー師匠の様に強くはなれなかったけど、受け流しだけはよく褒めてもらえたよ。行商人時代はこの剣術にずいぶん助けられたものさ。

大体感じも掴めて来たしもっと本気で打ち込んできてもいいからね」

「えへっ、分かっちゃいました?村長さん大分痩せたけどまだお腹が大きいから余り張り切ったらダメだってお母さんに言われてて。でも村長さんがこれだけ強いんなら大丈夫ですよね、エミリー頑張りま~す♪」

「前言撤回、お手柔らかにお願いします」

 

村の剣術指南役ボビー老人は、訓練場に集まる村人を眺めその目を細める。

この村に移り住んで早幾年、自身の体の切れも衰え子供たちの指導にすら限界を感じ始めたこの頃。子供たちばかりか村の皆がこれほど楽しそうに剣術を学んでいる。これまでの人生でこれほどの幸福に包まれたことなどあっただろうか。今までの自身の歩みが全て肯定されたような、それほどまでの充足感。

 

自身の隣にいるのは村に剣術と言う娯楽を生み、自身に幸福を与えてくれた少年。今も壊れたヨシ棒を修復し、皆の裏方に徹する少年。自身が彼に返せる恩、それは剣術、ただその道のみ。

 

「ケビンよ、村の皆も楽しんでおる。予備のヨシ棒もそれだけあれば十分であろう。ここは一つ儂が手解きをして進ぜよう」

「えっ、いや、僕は修繕の仕事がありますんで」

「何遠慮はいらん、儂の全力、受け止めて見せよ。“魔纏剣技、疾風怒濤”」

それは吹き抜ける疾風、風の魔力を纏いし剣は全てを置き去りにしてケビンに迫る。

 

“バババババババババババッ、バババババッ、ババッ、ババババッ”

 

「うわ~、速い(はや)い、何だよこの爺さん!」

「ハハハハ、そう言いながら全て受け流して居るではないか!」

 

「うぎゃ~、速さマシマシっていい加減にしろ~!“四腕剣舞、水龍の舞”」

「な、何じゃそれは~、どわ~!!」

ケビンの背後から延びる二本の水の腕、ケビンは合計四本の腕を器用に操りボビー老人の連撃を綺麗に受け流す。

 

「少しは頭冷やせ(じじい)~!!」

「アハハハ、楽しいぞケビン!“旋風領域”」

 

魔力纏いの創始者ケビンと元白金級冒険者ボビーの尋常ならざる戦いに、村人は皆自身の手を止め歓声を送った。

少年ジェイクは思った、俺もいつか、いや、必ずあの領域に達して見せると。この二人の戦いは少年少女の心に熱い闘志を注ぎ込み、村の剣術ブームをより一層盛り上げたのは言うまでもない。

 

但しあまりに張り切り過ぎたボビー師匠がその後三日ほど寝込むことになるのだが、それは別のお話し。

 

――――――――――――――――

 

元冒険者と言う人種はやはりどこかおかしい。特に剣の道に全てを賭けて来た人間はどこかネジが外れてる。

辺境の村に引っ込んで村の子供たちに剣術を教えながら余生をのんびり過ごしていたはずのボビー老人。突然の剣術ブームにテンション上がり過ぎちゃってハッチャケちゃいました。

 

なんだあの魔纏剣術ってあんなん普通の人間どころかその辺の騎士団でも一発アウトだわ、目が追い付かんて、しかも緩急迄つけやがって、爺さんが何人にも分身して見えたわ。

その勢いやまさに“疾風怒濤”、素晴らしい剣技でしたって十一歳のお子様相手に繰り出す剣技じゃないだろうが、それこそ決戦兵器並みだろうが。お陰で対大型魔獣逃走用剣技、“四腕剣舞、水龍の舞”を披露する羽目になっちまったじゃねえか。

ジェイク君お目目キラキラさせてたじゃねえか、ジミーが獰猛な目をしてニヤニヤしてたじゃねえか、エミリーちゃんが流石お兄ちゃんって尊敬の目をしてたじゃねえか!

 

あの英雄の卵三人にロックオンされたら俺の平穏が~!

後でしっかり口止めしておかないと、この村内ならいいとして絶対世界に羽ばたく彼らが余所で俺の事を話そうものならどんな厄介事がやって来るか分かったもんじゃない。

君たちの師匠はボビーの爺さん、絶対間違えちゃダメだからね!

それと爺さん、あんな狭い所で竜巻なんて起こすな!村人が巻きこまれたらどうするんだ!“旋風領域”?ふざけるな!

 

盛り上がる爺さんと村人を余所に、一気に冷静になった俺がそこら中に<プチピット>を作りまくって意識を足元に向けさせたところで上から<疑似ダウンバースト>。風属性魔力の塊を叩きつけてやりました。要は某都会の掃除屋さんに出て来る百トンハンマー魔力版ですね。

様々な実験の結果、純魔力より属性付き魔力の方が条件によっては力を発揮するってのが分かりまして。今回みたいに空気中からの叩き落しなら風属性魔力の方が威力が上なんですね。

そんで潰れたところで巨大魔力球の中にポイ。ドラム式洗濯機で身も心も綺麗にさせて頂きました。あまりの容赦の無さに村人全員ドン引きしていましたが知った事ではありません。ハッチャケた爺さんが悪い。

 

ぶっ倒れた爺さんは水の腕で訓練場脇のボビー宅ベッドにイン。(わたくし)、一足先に帰宅させて頂きました。

 

「紬~、団子~、この村脳筋ばっかだよ~」

帰宅後室内飼育魔物の紬と団子に癒していただいたのは言うまでもありません。因みにこの二匹、やはり癒し草が大好物の様です。魔物は魔力が豊富な食べ物が好きですよね、人間が襲われるのもその辺が原因なんでしょうかね。




本日一話目です。
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