転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第252話 村人転生者、辺境子爵に報告する

ドレイク・アルバート子爵とアルバート子爵家騎兵団の無事な帰村、その吉報はマルセル村の慶事として村人全体に受け入れられた。

 

「皆さん、我々マルセル村を旅立った者の帰村を祝うために集まってくれた事、このドレイク・アルバート、マルセル村を預かる者として心より感謝申し上げます。

そしてグロリア辺境伯家の騒動の為に村一丸となって尽力し、我々が留守の間も村を守り続けてくれた事、本当にありがとうございました。皆さんの協力なしに今日のマルセル村は有り得ない、このマルセル村は皆さん一人一人が作り上げていると言っても過言ではないでしょう。

 

アルバート子爵家騎兵団の一員として此度の戦に参戦して下さったヘンリーさん、ボビー師匠、ザルバさん、グルゴさん、ギースさん。命懸けでの参戦、感謝の言葉しか浮かびません、本当にありがとう。

お陰様で騒動は鎮圧し、グロリア辺境伯領に平和が訪れた。この騒動はそれだけではなくマルセル村に一貴族領としての独立を齎した。

これ迄の様に他所の貴族からの横槍や介入を恐れる事も無い、我々にとっての真の安住の地を作る事が出来る。これは様々な事情を抱えよそ者として迫害を受けながらこの土地に辿り着いた多くの村人にとっての吉報。私ドレイク・アルバートは子爵位を持つ貴族として、皆さんをお守りする事をお約束いたします。

ですが私は弱い、皆さんのお力添えが必要です。これからも我がアルバート子爵家にお力添えをお願いします。

 

此度の戦の論功行賞並びに皆さんの慰労を兼ねた酒宴は日を跨いだ明後日に行う事としましょう。アルバート子爵家騎兵団の戦士たちは家族の下でゆっくりと心と身体を休ませてください。

私も今夜は妻ミランダと子供たちにたっぷり癒して貰いますね」

 

広がる笑い、その顔は戦時と言う緊張から解放された安堵の笑顔。ドレイク・アルバート子爵の挨拶によりそれぞれの家路についた村人たち、その表情は一様に喜びに溢れていた。

マルセル村の戦士グルゴとギースが必死の形相で青年ケビンに何やらおねだりしていたのだが、そこは敢えて見なかった事とする。青年ケビンの「実はすごいのがあるんです。死にそうな老人でも走り出すって言うとっておきが」と言う不穏な発言は聞かなかった事にしよう。

 

ドレイク・アルバート子爵は帰村した翌日、溜まりに溜まった事務仕事を確認する為村長宅の執務室に赴いていた。留守居役をしていたボイルは元商人と言う経歴を生かし、村の特産品である野菜やビッグワーム干し肉、ホーンラビット干し肉を買い付けに来たモルガン商会やバストール商会、その他中小の商会の相手を上手く熟し、マルセル村の利益を上げつつ決して不利な契約を結ばない様立ち回っていた。

元貴族ジョンと新婚ジェラルドの二人もそんなボイルを助け、マルセル村を上手く回してくれていた。

アルバート子爵は彼らよそ者たちを受け入れた自身の判断が正しかったのだと改めて認識するのであった。

 

「ボイル、それで報告にあった移住者と例のゴブリンさん方の件だが」

アルバート子爵は出来れば触れたくないが確認しなければならない事態について、ボイルに話を振った。

 

「あぁ、蒼雲さん親子とフィリーちゃんディアさんの二人の事ですか。

例のごとくケビン君案件ですね。本人を呼んでますんで直接お聞きになられた方がよろしいかと」

ボイルは目の前で“これって聞かないと駄目?”と言う顔をするアルバート子爵に優し気な笑顔を向けると、部屋の外に待たせていたマルセル村の青年ケビンを中に呼び込み、自身は失礼しますとばかりに退室するのであった。

 

「あ~、うん。ケビン君、今回は色々とありがとう。本当は帰ってすぐに今回の戦のあれこれを聞きたかったんだけどね、まさかマルセル村で色々と用意して待ってるとは思わなくてね。

えっとケビン君ってランドール侯爵家の一件が終わってから直ぐ帰っちゃったよね?

あれからそんなに経ってないよね?何をどうしたらこんなに面倒な悩み事を用意出来るのかな?私はそこが知りたいんだけど?

ケビン君は私が嫌いなのかな?意地悪をしたいお年頃なのかな?」

何か軽く壊れちゃってるドレイク・アルバート子爵。そんな子爵を前に「まぁまぁ一度落ち着いて、取り敢えず座っていいですか?」と応接テーブルに着座するケビン。

 

「えっと何から話しましょうかね。先ずはお茶でも飲みながら聞いて下さい」

ケビンはそう言うと収納の腕輪から急須と湯呑、茶缶を取り出して準備を始めるのであった。

 

“コトッ”

アルバート子爵の前に差し出された湯呑からは新緑の若葉の香りが立ち昇り、乱れた心を落ち着けてくれる。

口に付けた湯呑から口腔へ膨らむ甘い風味。のど越しも爽やかなそれは、心の疲れと身体の疲れを癒すように全身へと広がって行く。

 

“ハァ~~”

自然零れ出るため息。気が付かないうちに張り詰めていた緊張が解れ、肩の力が抜けて行く。

 

「これは良い飲み物だね。何と言うか優しいと言うか爽やかと言うか。心と身体の疲れが抜けて行くようだよ。確か扶桑国の蒸し茶とか言ったかな?ランドール侯爵家居城でナニカがグロリア辺境伯様とランドール侯爵様にお出ししていたものじゃなかったかな?」

アルバート子爵はジト目でケビンを見詰めるも、ケビンは“ん?何の事です?”と言ったとぼけた表情でそれを受け流す。

 

「えぇ、確かにこれは扶桑国に伝わる蒸し茶と言うものですね。ちょっとした出会いがありましてね、扶桑国出身の蒼雲さん白雲君親子と知り合いまして。彼らはこの国ではあまり見る事の無い鬼人族と言う種族らしくて安住の地を探して旅をしていたそうなんです。

俺はそんな彼らが教えてくれたこの蒸し茶を一発で気に入りまして、是非マルセル村で栽培してくれないかと移住をお誘いしたんですよ。先程アルバート子爵様にお飲みいただいた蒸し茶がマルセル村で採れた新茶になります。

何でも特別な茶の木の種だったらしく、植えてすぐに成木にまで成長する場面を見た時は腰が抜けるかと思いました。

世の中にはまだまだ知らない不思議な事があるんですね~。

で、その茶の木の新芽を使った新茶ですが味の方は極上、今はまだ数が取れないのと茶の木自体が少ないので村外にお出しする訳には行きませんが、村内で消費する分には十分な量が確保出来ると思います。

蒼雲さん親子にはお茶農家として独立して頂こうかと」

 

そう言い自分の分の湯呑みを口にするケビン。

 

「ハァ~、やっぱりいいですよね、蒸し茶。身体の中から癒されます。

それでお聞きになりたいのは蒼雲さんの出自ですかね?まぁ所謂訳アリです。

扶桑国の政争の犠牲、巻き添えで国を追われたって奴ですかね。ただ海を渡った大陸は普人族の天下ですから、中々一所(ひとところ)に落ち着く事が出来なかったそうです。

結局流れ流れて辿り着いたのがランドール侯爵領、そこで呪符の力を見出されてランドール侯爵家居城の地下で呪符の作製をやらされていたって感じですか。

白雲君はセザール伯爵領の暗殺者ギルドで知り合いました。何でも暗殺者の養成所に送られるところだった様ですよ?

ランドール侯爵家も知っての様に一枚岩ではなかった様ですから、色々あったんじゃないんですか?

ただまぁマルセル村には呪符の類はあまり必要ないんで、お茶農家一本で行ってもらうつもりですがってどうしました?お茶のお代わり要ります?」

 

ケビンの問い掛けに、こめかみに手を当てたアルバート子爵は「人の過去はそれぞれ、詮索はしない、よし!」と呟いてから顔を上げる。

 

「そうか、うん、お茶農家、いいかもしれないね。オーランド王国には蒸し茶と言うものが無いから初めは浸透しづらいかもしれないけど、この味わいなら十分商品として通用するんじゃないかな?」

 

「そうですか、アルバート子爵様にそう言って貰えると蒼雲さんも喜びます。

ただこのお茶、ちょっと問題がありましてね。アルバート子爵様、取り敢えずお代わりを飲んでもらってもよろしいでしょうか?」

 

ケビンがそう言うと、いつの間にか控えていたメイドの月影がアルバート子爵の湯呑に入れたてのお茶を注ぐ。

アルバート子爵は一瞬ビクッとするものの、「ケビン君だから仕方がない」と唱え出されたお茶を口にする。

口腔に広がる爽やかな風味が心と身体を癒し、気分を爽快にしてくれる。

何かホッとする味わいに気持ちが落ち着いて来る。

 

「身も心も癒される、そうは思いませんか?まるでポーションでも飲んだみたいに」

 

アルバート子爵は青年ケビンの言葉にハッと手元の湯呑に目を向ける。

 

「俺は<鑑定>のスキルがある訳じゃないんで詳細までは分かりませんが、調薬のスキルの<品質鑑定>を掛けてみた所、<聖茶、良品質>という結果がですね~。聖茶って何なんですかね~。まぁ美味しいお茶と言う事で」

 

「ハハハハ、うん、村の皆が健康になるのは良い事だね。でも村外に出すのは控えようか、厄介事の臭いしかしないからね」

 

ケビンとアルバート子爵は互いに乾いた笑いを浮かべ、この話はここまでと流すのであった。

 

「それとゴブリンズの事ですね。あの二人がやんごとなき御方だという事は以前お話ししたと思いますが、問題はあのゴブリンの呪いでしてね。ウチの月影は御承知の様に悪霊みたいな元呪術師に取り憑かれていた被害者でして、その影響で呪術師の知識が確りと残っているんですよ。言わば呪術の専門家なんです。

その月影の見解によるとゴブリン状態の二人の寿命は後一年、持って二年との事でした。これは呪いにより紐付けされたゴブリンの魔物としての寿命が適用されるからなんだそうです。

それを回避するには進化してゴブリンの上位種、ホブゴブリンやゴブリンジェネラルなどになるしかないんですが、そうなると今度はゴブリンと人の魂の繋がりが強くなり過ぎて解術出来ない可能性があるとの事だったんです。

ですんで解術ではなく呪い自体を別の物、今回は新たに育てたビッグワームに移す事にしたって訳です。

 

ただ解術の鍵が真実の愛、つまり被害者の感情に左右するという点から、移転先であるビッグワームの知性を育てるのに時間が掛りましたが。

全ての準備を終え月影の呪術である呪い転移の邪法を試行、その試みは見事成功し二人は呪いから解放された。

でもこれだとまだ相手呪術師には二人が生きているってことになっちゃうんですよ。いつまでも令嬢たちからの死亡反応がない事に焦った呪術師が何をして来るのか分からない、なぜならこの呪い騒ぎも帝国によるヨークシャー森林国侵略の一環かもしれないからです。

そこでマルセル村から遥か彼方の土地で解術を行って来たって訳です。

あの二人にはゴブリンだった時に自身の置かれた現状についてよくよく言い聞かせておきましたから、やたらに本名を名乗る事も無いかと。何でしたら今名乗ってる偽名を本名にしちゃうって方法もありますんで。

まぁこれで一応はこの問題も収束って感じですかね」

 

ケビンの流れる様な解説に遠い目をするアルバート子爵。

心の内では“なんて内容の話をするかな、情報量が多過ぎな上に濃すぎるんだけど!?”と混乱に陥るも、湯呑のお茶を口にする事で強制的に落ち着きを取り戻すという訳の分からない状態に。

 

「あっ、うん。要約するとゴブリンさん方の呪いは解けた、マルセル村に被害はないって事で大丈夫かな?」

「はい、その理解で間違いないかと。

それと最後はキャロルとマッシュの事ですよね。

前提としてゴブリンさん方の解術に関して俺が色々動いていた元々の理由ですが、畑の細かい手作業をする従業員が欲しかったんですよ。

畑の手伝いとしてゴブリンやオークの様な人型の魔物は都合が良かった。ただブー太郎の様に理知的で気性の大人しいオークは珍しいですし、ゴブリンは自身の欲望に忠実ですから言う事を聞かない可能性が高い。

魔物の雇用主で雇用するのが困難な魔物だったんです。

そんな時に現れたのがゴブリンさん方でした。これは使える、咄嗟にそう思いました。

緑や黄色を見て貰っても分かると思うんですが、ビッグワームって上手に飼育すると知性と言うか理性が生じる事があるんです。普通に飼育してもそんな事はないんですけどね、どうも与える食材と魔力量が関係しているみたいです。

そこで畑の従業員として問題ない状態にまで教育したビッグワームにゴブリンの呪いを転移させたら使えるゴブリン従業員になるんじゃないか?

剣士さんとローブさんは中身が人間だから理知的に行動した、ならば理知的な魔物が中身になれば理知的なゴブリンが出来るのではないだろうかと言うのが発想の原点でした。

 

ただそこに思わぬ邪魔が入った。今回のゴブリン騒動が帝国の侵略計画の一環じゃないかという懸念です。ローブさんはヨークシャー森林国の期待の星、高位精霊との契約者ですからその可能性は大きいかと。

そうなると先ほど言った様にゴブリンの状態で生きている二人の命を狙いに来る可能性があった。

キャロルとマッシュに移したゴブリンの呪いも渋々ですが解術しなければならなくなった訳です。

更に言えば解術する場所も問題でした、呪術師は呪いが解かれた場合、その呪いがいつどこで解かれたのか、それが死亡によるものか解術によるものかが分かるらしいんです。ですので解術はマルセル村から遠く離れた土地で行って来ました。

 

さっきも言いましたが、呪いの掛かった状態で上位種に変化すると進化の影響で解術しても呪いの影響が解けなくなる可能性がありました。元々従業員にするつもりで進化も視野に入れて育成してましたからこれは上手く行けばいいな程度の期待でした。

ですが残念ながらゴブリンの呪いは残されなかった。

進化したキャロルとマッシュは解術を行った当初、緑や黄色の様に蛇のような姿に変わってしまったんです。

呪いは解かれ全ては夢幻の如く終わってしまった、そう思ってました。でもそうじゃなかった、あの二体は進化によりその身に掛かっていた呪いそのものを取り込んじゃったんです。

今では自由に変身出来るとんでも魔物になってます。

いや~、ロマンって諦めなければ叶うんですね、俺、勉強になりました」

 

そう言いいい笑顔を向けるケビン。

“いや、あっ、うん、そうじゃないだろうケビン君!!”

ドレイク・アルバート子爵は問題を解決しつつより以上の問題を生み出すマルセル村の理不尽ケビン青年に、頭を抱えざるを得ないのでした。

 

尚ドレイク・アルバート子爵の胃痛及び頭痛は、もう一つの悩みの種である聖茶のお陰で一切起きないどころか、強制的に気分爽快と言う訳の分からない状態になったと言う。

ドレイク・アルバート子爵、物は考えようだ、頑張れ。(合掌)




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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