「エミリー、左から回り込み!ジミーは俺の攻撃後に追撃!」
「「了解!」」
奴から繰り出される無数の弾幕、俺はそれらを魔力壁を斜め構えの盾にする事で後方に受け流し、ジグザグに動いて的を絞らせない様にしながら接近。
「“魔装重射”」
魔力の網を腕の周りに展開、複数の属性ボール(偽)を同時投射する。左右からの重射連撃、しかも複数属性、これで奴を仕留められる。いや、楽観は思考を停滞させる、常に考え最善を尽くす。奴はそれほど甘くない。
“ボフボフボフ“
奴はその不定形の身体からそれぞれの属性を纏った触手を伸ばし属性ボール(偽)を貫いた。それはまるでレイピアの達人が魅せる絶技のような、見事な触手捌きであった。
「“魔装重射”」
だがそれくらいはこちらとて想定済み、攻撃の手を休める俺たちじゃない。ジミーの攻撃が奴を捉える、その絨毯爆撃は奴の防御を激しく攻め立てた。
“ドガドガドガドガン”
奴の触手に串団子の様に刺し貫かれていた俺の魔力球とジミーが投げ付けた異なる属性の魔力球が接触、激しい音を立て弾け飛ぶ。
「貰った~!」
そこに背後へと回り込んでいたエミリーの渾身の投擲。あえて純粋な魔力の込められたそれは、前方に注意を逸らされていた奴の意識の隙を塗って奴の身体に吸い込まれ、
“ドガドガドガッ”
「「「えっ?」」」
背後から来る突然の衝撃、それは土属性のアースボール(偽)による奇襲。
俺たちの背後には、地面から生えた“大福”の触手が嬉しそうにウネウネと揺らめいているのであった。
「今日の所は引き分けにしておいてやる、次は絶対勝つ!」
今日の戦いは終わった。
戦士たちは明日の再戦に向け、より強い自分を目指し、作戦本部(エミリーの家)へと戻って行くのであった。
「なんか色々と忙しいのに、また仕事をお願いしてしまってごめんなさいね」
「いえいえ、ミランダさんは僕の調薬の師匠じゃないですか。師匠の困っている時に弟子が手を貸すのは当たり前、いつでも言い付けてくれて構いませんから」
エミリーの家ではミランダおばさんとケビンお兄ちゃんが忙しそうに調薬の仕事を行っていた。トーマスお父さんの話しだと周辺地域で流行り病が蔓延しているらしく、ローポーションやポーションが不足しているらしい。
乾燥した冬の時期の流行り病、この世界にもインフルエンザみたいな病気があるんだろうか。あれって確かスペイン風邪って呼ばれて世界中で大流行、二千万~四千万人の死者が出たって呼ばれている奴だよな?
冬場の流行性感冒マジ怖い。医療の余り発展してなさそうなこの世界じゃ、風邪一つでも命取りなんだろうな。
「みんなお帰りなさい、外は寒かったでしょう。今身体の温まるショウガ茶を出してあげるわね」
そう言ってお茶の準備を始めるミランダおばさん、おばさんの作るショウガ茶はちょっと喉がピリッてするけど甘くてとっても美味しい。
この村ではお砂糖なんてものは手に入らない。甘味と言えばお芋か蜂蜜くらい。ショウガ茶はショウガのスライスしたものと蜂蜜で作るらしい。
でもミランダおばさん、蜂蜜なんて高級品どうやって手に入れたんだろう。蜂蜜は貴族の嗜好品だってマリアお母さんに聞いたことがあるんだけど。
「これはね、ケビン君が森で採って来てくれたものなの。なんでも秘密の場所があるんですって、ただ量が取れないから薬の材料に使ってくださいってくれたものなのよ。
どうせだからみんなが風邪を引かない様にと思ってショウガ茶にしてみたの」
今この村にいる子供はここにいる四人だけ。村のみんなが温かく僕たちを見守ってくれている。
“この村に生まれて来れて本当に良かった”
心からそう思うジェイクなのでありました。
「う~ん、どうやったら奴の牙城を崩せるんだろうか」
「「「う~ん。」」」
温かなショウガ茶を頂きながら腕を組み考えを巡らせる戦士たち。彼らの様子を笑顔で見守る優しい大人。そんな中約一名、空気を読まない少年が悩める子羊たちに声を掛けた。
「で、何をそんなに悩んでるんだい?」
誰あろう、頼れる村のお兄ちゃん、ケビンお兄ちゃんである。
俺たちは今日の“大福”との一戦を詳細に語り、ケビンお兄ちゃんに教えを乞う事にした。
ケビンお兄ちゃんは“何その魔装重射って、めっちゃカッコいい”とか“嘘、あの大福に一撃当てたの?君たちまだ八歳だよね?何このお子様たち、恐いんですけど。”とか言って僕たちの功績を褒めてくれ、僕たちの“奴に勝ちたい”と言う思いを真剣に聞いて、腕組みをしながら思案してくれた。
「ジェイク君たちにはまだ早いかなと思って教えて来なかったんだけど、そこまで戦えるんならもういいかな?
今のところ僕が提案できる手段は二つ、一つは“魔法”を使う事。これは今使ってる生活魔法じゃなくてちゃんとした魔法ね。もう一つはスキルを使う事。ただこれはどんなスキルを持ってるのか分からないから何とも言えないんだけどね。魔法の方なら何とかなると思うよ」
その場で固まるミランダおばさん。どうやらケビンお兄ちゃんがまたしてもとんでもない事を言い出したみたいです。
“俺、この村を出た時に常識が無いって言われないだろうか”
互いを見合う俺とジミー君とエミリー。どうやら不安に思ったのは俺だけではない様です。
妙な空気の流れるこの家で、ただ一人ケビンお兄ちゃんだけがニコニコと微笑んでいるのでした。
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いや~、こないだは大変だった。隣村のゴルド村からマルセル村に帰り着いたのはとっぷり日が沈んだ時間帯、村の入り口で心配そうに出迎えてくれた父ヘンリーにドレイク村長代理平謝りでございました。
思い立ったら即行動は良いんですけど、計画が
親父殿もまさか穴掘りをしてワームプールの作製実演講習までして来るとは思っていなかった様です。そりゃ日帰りって聞いたら普通はそうですよね、相手は元石工のホルン村長、大体の内容を話せば自分で作れちゃう御仁ですから。
次からは日帰りでは済まない距離、出発前の準備はきちんとする様にと確り申し付けられるドレイク村長代理なのでした。
そんで帰って来て早々調薬のお仕事がですね~。どうもこのところ近隣の村や町では冬の流行り病が猛威を振るっているご様子。ポーション類の慢性的品不足が起こっている様です。
早急に必要なのはポーションとローポーション、罹り始めの患者にはローポーションで対処、症状の酷い場合にはポーションを飲んで安静にするって言うのが一般的な対処法の様です。
それぞれの原因菌をやっつけると言うよりも傷んだ身体を修復して自己治癒力に期待すると言った療法の様です。だったら体力回復の為にスタミナポーションも服用した方がいいのではと聞いたところ、罹り始めならそれでもいいが重症化した場合逆に疲れてしまって病状が悪化する危険性があるとの事でした。
スタミナポーションもやはり薬、何でも摂取すればいいと言うものではないと言う事ですね。
でもミランダさんなら魔法ですぐに作れちゃうんじゃないのかって思うでしょ?魔力は無限じゃないんですよ、結果から見れば途中までは人の手を加えた方が早かったりします。
魔力が節約出来る分数も作れる、俺が<ブロック>の魔法でレンガを作れるのと同じで魔力の節約って大事なんですね。
“これは下請けの零細調薬師の必須技能なのよ”と言いながら暗い瞳で笑っていたミランダさんの顔を、俺は生涯忘れる事が無いでしょう。(ガクブル)
なんやかんやでお仕事に励んでいると“ガチャリ”と玄関扉が開いて元気のよいチビッ子軍団の登場。
「「「ただいま~、大福強すぎ!」」」
うん、今日もあのデカスライムには勝てなかった様です。でも表情は晴れやか、何かいい事でもあったんでしょうか。
「「「う~ん。」」」
ミランダさんが淹れてくれた温かなショウガ茶を飲みながら頭を捻るチビッ子軍団、諦めずに工夫しながら頑張るその姿勢は素晴らしいと思います。
因みにこのショウガ茶に使われている蜂蜜は私《わたくし》が提供させて頂きました。
いや~、いつもの様にご神木様の所に危険物処理(ポーションビッグワーム肥料)に向かっていた時にですね、でっかい蜂が地面に転がってるのを見つけまして。もうこの手のものに驚かなくなった自分にびっくりなんですが、大きさが紬と変わらないくらいある蜂って。絶対魔物だよね、虫ってサイズじゃないもん。
蜂って言えば毒のある危険生物なんですが、この蜂、頭と胸にフワフワの体毛が生えていましてね。全体にも柔らかそうな毛がですね~。これってミツバチの特徴じゃね?よく見れば顔つきもそんなに怖そうじゃないし、口元に凶悪なハサミが無い。
ミツバチ、蜂蜜、これは救助せねば。
魔物は魔力が大好き、それはこいつも同じはず。カバンから木皿を取り出し干し芋を千切って入れてマシマシ魔力水を投入。<ヒート>で温めながらすりこ木でグイグイ潰して何とか芋汁の完成。
そこに緊急用のハイポーション並みのポーションを少量、よく混ぜてからデカい蜂に差し出しました。
明らかに弱り切っていながらも差し出された木皿に警戒を強めたデカい蜂ですが、そこは魔物、魔力の気配に誘われるかの様に一口。それからは木皿に
流石はハイポーション並みのポーション、確り完食し完全復活を果たしたデカミツバチ(仮)は俺に何度も頭を下げると、俺の頭上で八の字飛行を繰り返してから森の中に飛び去って行きました。
・・・はっ、俺の蜂蜜。気付いた時には既に遅し、これから森を追い掛けるのも危険なのでその場は泣く泣く諦める事に。でも大丈夫、希望はある、奴はこの森のどこかにいるんだから、いずれ蜂蜜ゲットだぜ。
そう、思っていたんですけどね。
“ブオ~~~~~~ン”
ご神木様の所で施肥作業にいそしんでいる時に大量のデカミツバチがですね~。どうやらこいつ等巣分けの一団だったみたいなんですよね~。
中でも一際大きなミツバチが頭を下げて来て俺の上をブンブンと。この辺に巣でも作りたいのかな?
ご神木様の方を見るとワサワサ揺れてるけど根っこは動いてない。あ、一本が地面から飛び出して隣の林の方を指し示してる。向こうに作る分にはいいって事なんじゃない?
リーダーミツバチはその様子を見ると俺たちの前で八の字飛行を繰り返した後隣の林に消えて行きました。他の蜂もリーダーの後を追うように消えて行き、俺は暫くボーっとした後に何事も無かったように施肥を再開しましたって事がありましてね。
それ以来俺がご神木様の所に行くと持って来てくれるんですよね、デカミツバチが蜂蜜を。
うん、出会いはどう言う切っ掛けで訪れるのか分かりませんね~。俺はお返しにツボ入りの芋汁ローポーション入りを差し上げているんですけどね。
このツボ、粘土で作った不格好なツボにブロックの魔法を掛け固めたもので、結構な数常備しております。持ち運びのしやすいように藁紐で取っ手も付けてあるから蜂さんも楽にお持ち帰り出来る様です。お互いWin-Winの関係ですね。
でもこの蜂蜜、村で配るほど量が無いんですね~。仕方がないので一番お役に立ちそうなミランダさんに進呈、蜂蜜はクスリの材料にもなりますから。それで完成したのがショウガ茶って訳ですね。薬用はちゃんと別保管してあるので大丈夫みたいですよ。
「で、何をそんなに悩んでるんだい?」
悩める子供たちに年上のお兄さんがちょいとアドバイスってくらい軽い気持ちで声を掛けたんですけどね、何この子たち、“魔装重射”って、めっちゃカッコいい。って言うか大福に一発当てるって、マジかいな。この子たちまだ八歳だよね、凄過ぎるんですけど。こんな勇者たちにアドバイス?調子に乗ってすみませんでした。
もう気分は平謝りでございました。
でもそこまで強くなってるんなら、もうワンランク上にステップアップしてもいいかも。本当は授けの儀が終わってから話そうと思っていたんですが、この子たちなら今から始めても問題ないかな?創意工夫、考える力は俺よりも育っているみたいだし。
普通の子供は“魔法”なんてものを習ったら考える事を止めちゃうんだよな~、それは今の大人たちの反応を見ても明らか。決められた呪文を唱えて決められた結果を得る。創意工夫はその詠唱を行うタイミングだけ。それが悪いとは言わないけどそれだけじゃつまらないじゃない?
俺はこの子たちにつまらない魔法を使って欲しくなかったから余り魔法については教えなかったんだけど、今のこの子たちなら大丈夫。
「ジェイク君たちにはまだ早いかなと思って教えて来なかったんだけど、そこまで戦えるんならもういいかな?
今のところ僕が提案できる手段は二つ、一つは“魔法”を使う事。これは今使ってる生活魔法じゃなくてちゃんとした魔法ね。もう一つはスキルを使う事。ただこれはどんなスキルを持ってるのか分からないから何とも言えないんだけどね。魔法の方なら何とかなると思うよ」
スキルはまぁ俺も全く分かってないからパス、魔法について教えちゃおうかな。
俺は固まるミランダさんを余所に、カバンから懐かしの黒歴史ノート“まどうのしょ”を取り出すのでした。
本日二話目です。
花粉症が。
by@aozora