エミリーの家のリビング。固まるミランダおばさんを余所に、ケビンお兄ちゃんはカバンをごそごそやって一冊の手作りノートを取り出した。その表紙には拙い文字で“まどうのしょ”と書かれていた。
「これは僕が三歳か四歳くらいの頃、魔法と言うものを初めて知って魔法使いに憧れていた時に書いた“まどうのしょ”だね。このノートの最初のページ、ここには僕が両親に
そう言いノートを開くケビンお兄ちゃん。懐かしいな~とか言いながら表紙を捲ってるけど、その呪文を聞き集めたヘンリーおじさん凄い大変だったと思いますよ?俺、知ってるんです。そう言うの“勇者病”って言うんですよね、要は厨二病、幼少期にそれだとかなりのものだと思いますよ?
俺たちは“まどうのしょ”を愛おしそうに見つめるケビンお兄ちゃんに、生暖かい視線を送るのでした。
「で、話はこれから。ここに書いてある各属性のボール魔法と言うのは属性魔法の中でも初歩の初歩、属性さえ授かっていれば誰でも使えると言われているモノなんだ。
当然魔法が使えるジェイク君も使えるし、風属性持ちのメアリーお母さんも使える。これは特に学校や魔法使いの師匠に習わなくても詠唱さえ唱えれば、詠唱さえ知っていれば使える魔法なんだよ」
ケビンお兄ちゃんはそこまで言うと僕たちの顔を覗き込んで“これで分かるかな?”と言った顔をした。
「あ、」
突然声を上げるジミー君、彼は何かに気が付いたらしい。
「えっ?うそ、そんなに簡単な事だったの?」
次にミランダおばさんが何かに気が付いた様だ。
ケビンお兄ちゃんは何と言ったのか、“ボール魔法と言うのは属性魔法の中でも初歩の初歩、属性さえ授かっていれば誰でも使える”と言わなかったか?属性さえあれば誰でも使える・・・あ。
「ジェイク君も気が付いたみたいだね。ここでちょっと話が変わるけど、みんなは“勇者病”と言われるものを知っているかな?
男の子なら一度は罹る心の病、英雄願望や全能の自分に対する憧れ、色んな言い方をされるけど、要はロマンだよね。まぁこの僕もよく“勇者病”<仮性>って言われるんだけど、この勇者病<仮性>患者の特徴として、“無駄にポーズを決めてカッコいいと思ったりする”って言うのがあるんだよ。
そんな勇者病<仮性>患者は魔法の詠唱が大好きでね、やっぱり僕みたいに授けの儀の前でも詠唱呪文を唱える子も多いんだ。
大概は大賢者様が使うような大呪文か、独自に考えた最強呪文を唱えるからそんな事は無いんだけど、中には偶然にも魔法の発動に成功しちゃう子供もいる。これって結構知られた事実なんだ。
つまり授けの儀の前でもジェイク君みたいに魔法適性を生まれつき持っている子供って結構いるって事だね」
ケビンお兄ちゃん凄い、何でそんな事に思いあたるの?やっぱりこの人は只の勇者病じゃない、スーパー勇者病だ!
俺はケビンお兄ちゃんを尊敬の眼差しで見ざるを得ないのでした。
「じゃあ実際やってみようか」
俺たちは外に出るとケビンお兄ちゃんの指示の下、少し離れた地面に向けて手をかざしました。
「これから唱えるのはファイヤーボールの詠唱呪文、今の時期枯草に火が付いたらとても危険だからね、絶対草むらには手を向けちゃダメだよ。それじゃ行くね」
「「「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ファイヤーボール”」」」
“バシュッ”
俺の掌の前から打ち出された火の玉。それはまるで弾丸のようなスピードで地面に向かい飛び去り、
“ボウンッ”
激しい炎を上げ爆散した。
「「「「・・・・」」」」
「ハイ終了~、さ~てお部屋でショウガ茶でも飲もうか~」
急に話題を変えるケビンお兄ちゃん、でも俺の方もそれどころではない、前に<ファイアーボール>を使った時ってこんな事なかったよね?精々スライムを倒すくらいだったよね?
「恐らくだけど、みんなの魔法熟練度が上がっているのが原因です」
あまりの事態に固まってる俺たちに、ケビンお兄ちゃんはお兄ちゃんなりの考察を教えてくれた。
「みんな毎日大福と魔力球合戦をして戦い続けてるよね?その時一々属性の事を考えて属性ボール(偽)を使ったりしてる?話を聞いた限りだとほぼ無意識に偽ボールが出せるレベルで戦ってるみたいなんだけど」
そう言い各種属性ボール(偽)を作り出しお手玉を始めるケビンお兄ちゃん。そう言われてみれば今のケビンお兄ちゃんもそうだけど、俺たちも詠唱もへったくれもなく行き成り偽ボールを作ってるよな。
「それって実は無詠唱魔法だったりします。おそらく魔法使いの人にも出来ません。あまり専門的に魔法に携わってなければ練習次第だろうけど、専門的にやってると詠唱ありきが当然になってるから多分無理。
で、短縮詠唱もそうだけどそれって普通は目茶苦茶熟練度が必要な事だったりします。つまり無意識のうちに各種属性魔法の熟練度を上げちゃってたって事だね。
ジェイク君、本当に危ないから人に向かってボール魔法を撃っちゃダメだからね?やるなら基礎魔力の魔力ボールか偽ボールの投擲にしてね、それでも十分強力だから」
戦力アップを図ろうと魔法を使おうとしたら、いつの間にか基礎能力が上がっていて危険すぎて禁止されてしまいました。
本末転倒な結果に、がっくりと肩を落とすジェイク少年なのでありました。
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ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい、何あの<ファイヤーボール>。
えっ?<ファイヤーボール>ってあんなに破壊力のある魔法だったの?地面にクレーターが出来てるんですけど?あんなヤバいものを大福に撃とうとしたの?マジ辞めて、ちょっとした怪我じゃ済まないからね、ジェイク君が。
大福の奴何でも打ち返しちゃうから、アイツが怪我する所って想像できないんだよね。まさに魔物、最弱最下層魔物スライム、あれが最弱、俺は絶対冒険者になんてならないぞ~!
俺の発作は良いとして、ジェイク君ですよ、本人が一番びっくりしてますから。ついこないだまであんな事なかったよね?大福相手に魔法の訓練してる時だってそんなに威力無かったし。
どちらかと言えば魔法の射出のタイミングや連続しての撃ち出し、焦った状況(大福の触手攻め)での安定的な魔法の行使と言った訓練だったよね。大福と魔法の撃ち合い(大福は弱魔力球)も魔法職の弱点である射出後の隙の克服がメインだったからな~。
エミリーちゃんの一件で魔力纏いが必要になってからは、皆で大福相手に魔力球合戦を始めちゃったから魔法の訓練はやってなかったんだけど、そんな短期間であそこまで変わる?
前にメアリーお母さんにウインドボールを見せてもらったことがあったけど、ボール系魔法って精々スライムを倒せるくらい。ホーンラビットだったら二発は欲しい所って感じだったもん。
ジェイク君の魔法もそれくらいだった筈なんだけど、さっきの<ファイアーボール>ならビッグボアだって一発よ?
“今のがメガファイアーだって?ただの<ファイアーボール>だ”(キリッ)を
慌てて終了しちゃったけど、検査自体は残ってるんだよな~。
・・・よし、残りの標的は大福先生にお任せしよう。
俺はそう決心をするとチビッ子軍団を連れて大福のいる水辺に向かうのでした。
「お~い、大福~」
“ザバ~ッ”
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャジャ~ンとばかりにピョンピョン跳ねてやって来る大福先生。先生には今から子供たちの魔法の訓練に付き合ってもらいます。
“ボヨンボヨン”
なるほど、いいお返事です。では飛んできたボール系魔法を空中に打ち返してください。属性は予め指定しますんで、準備をお願いします。
こうして大福を的にした、各人の属性魔法チェックを再開したのでした。
「「「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ウインドボール”」」」
“カキーン”
“ポヨンポヨンポヨン”
大福先生、ジェイク君の速球にかなりお喜びの様です。
「「「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、アースボール”」」」
“カキーン”
“ポヨンポヨンポヨン”
大福先生、“いい球走ってるよ~。”と言いたげ。テンション上げ上げですね。
「「「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ウォーターボール”」」」
「・・・・」
残念、水魔法は適性者がおらず。
大福先生、超残念そう。一度でいいから魔力マシマシウォーターボールを腹一杯飲んでみたかった?イヤイヤあれは攻撃魔法だから、椀子蕎麦じゃないから、子供たちを飲み放題のドリンクサーバー扱いするのは止めない?そんな事言われたら彼等涙目よ?
「「「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ライトボール”」」」
“カキンカキーン””
“ポヨンポヨンポヨン”
おっと今度は二発同時だ~、大福先生これには大歓喜、大いに盛り上がっております。
「「「“大いなる神よ、我が手に集いて眼前の敵を撃ち滅ぼせ、ダークボール”」」」
「・・・・・」
残念、何も起こらず。大福先生がっくりと肩を落とした~、これで試合終了~。勝者、大福先生であります。両陣営ともよく健闘しました、ありがとう、チビッ子諸君、おめでとう、大福先生!
「ケビンお兄ちゃん、また変な事考えてない?」
う、ジミー君相変わらず鋭い。ジェイク君はと言えば全球軽く打ち返されてめちゃ落ち込んでるし。エミリーちゃんは自分が魔法を撃てた事に驚いてるみたい、自分の掌をじっと見詰めてるし。
「ん?何の事?でも凄いね、ジェイク君は四つも属性があっただなんて、将来有望だよ。エミリーちゃんは光属性があったんだね、将来は治癒魔法使いかな?光魔法は攻撃魔法も多いから戦闘でも役に立つしね。剣術のジミー、剣と魔法のジェイク君、治療も出来るエミリーちゃん、三人でいいパーティーになるんじゃないかな。
ジミーは魔法適性が無いからって落ち込まなくてもいいからね、実は基礎魔力の制御は下手に属性があるよりない人の方が上達するんだよ。やりようによってはお兄ちゃんみたいな使い方も出来るし、何でも工夫次第だから。それに授けの儀で授かる場合もあるしね。と言うかほとんどの人がそうだから、最初から持ってる人の方が少ないんだよ?」
若干残念そうな顔をするジミー、気持ちは痛いほど分かる。撃ちたいよね、ボール魔法。あの飛ばす奴ってどうやったら出来るんだろう?
子供たちがそれぞれ一喜一憂している中、一人魔法を飛ばす方法に頭を悩ますケビン少年勇者病<仮性>なのでありました。
本日一話目です。