「ケビン君、行こうか」
いつの間にか年が明け、春の訪れに心躍らせる今日この頃。迎春とか言ってもこれからまだまだ寒いじゃないかとツッコミを入れたあの日々が懐かしい。
この国では年明けに一斉に一才歳を重ねると言った風習はなく、ちゃんと誕生月がございます。一年は十二カ月、一月は三十日、一週間は六日、光の日から始まり火の日・土の日・水の日・風の日・闇の日に分かれています。
お貴族様なんかは六歳と十二歳の誕生月にお祝いをするそうです。六歳は無事その歳まで育ってくれたと言うお祝いに、十二歳は言わずと知れた”授けの儀”絡みですね。
お貴族様に年に四回集団で行う“授けの儀”を待つなどと言う我慢強さはございません、それぞれ寄進と言う使用料と共にVIPルームにて特別に儀式を行うそうです。
この授けの儀の面白い所はちゃんと十二歳にならないと職業を授かれないと言う所、堪え性の無いお貴族様の中には時々適応年齢前に儀式を行おうとする輩もおられるのですが、いくら寄進額を積もうともうんともすんとも言わないそうです。
もうひとつ面白いのが教会での儀式を行わないと職業を授かれないと言う事。これは鑑定スキルで十二歳になった子供を鑑定すると年齢は十二歳なのにも関わらず“職業無し”になっている事からも明らかです。こうした事実から“職業は女神さまからの慈悲である”と言うのが教会関係者の主張であり、教会の権力基盤の裏付けにもなっています。
ま、これらの情報はみんな今目の前で無茶振りをしているドレイク村長代理から教えていただいた情報なんですが。一体この御方は朝早くから何を訳の分からない事を仰っているのでしょうか。
健康広場での朝の体操、それが終わったのを見計らったかの様に告げられたドレイク村長代理の言葉に困惑の色を隠せないケビン少年。
「いや~、ケビン君のホーンラビット牧場建設が昨日終了したと聞いてね、それならば早いところ他の村々も回ってしまおうと思い立った訳なんだ。
春近くになると畑の準備も忙しくなるだろう?やるなら年明けから二月に掛けてのこの時期しかないんだよ」
「いや、その話は分からなくもないですけど、毎回言いますが予め俺に話を通してくださいよ。こっちにも心の準備や下準備がありますから。前回みたいな事は勘弁ですからね」
「ハハハ、あれは申し訳なかったよ。今回はちゃんと泊りの行程だから。流石にゴルド村の更に先の村に行って日帰りは無謀過ぎるからね。
初日は今回の目的地ヨーク村まで移動、二日目に実演講習を行い午後にゴルド村まで戻り一泊、三日目にマルセル村に戻って来る予定だよ。
ゴルド村の宿泊許可はすでに取ってあるから大丈夫、その際に作業の進捗状況なんかを聞ければと思っているんだ。あと実際のビッグワームの飼育の仕方なんかを話せればいいと思っている。
なんせどの村も初めての試みだからね、書面で説明書きに起こしてはいるけど、分からない事は多いはずだから」
ドレイク村長代理、相変わらず無駄に仕事が早い。まあ俺も今日はのんびりしようと思っていたんでいいんですけど、本日の予定は団子と紬に癒される一択でしたし。
寒風の中一人黙々とホーンラビット牧場の建設作業に励むと言うのは思いのほか精神に来た様です。
俺はドレイク村長代理に暫し時間を貰い畑にGO。緑と黄色に子供たちのお守りを頼みます。やっぱ投球にはバッターが必要でしょう、大福先生もキャッチャーに専念すればふっ飛ばされることもありませんから。何かジミーが大福を吹き飛ばしたって盛り上がってるみたいですんで、ここは一つ先生方のお力を思い知らせてあげてください。
チビッ子軍団が更なる高みに至る事を夢見て斜め上の試練を追加する、弟妹思いのケビン少年なのでありました。
「カバンよし、スコップよし、各種ポーション全てよし。それでドレイク村長代理、今回向かうヨーク村って言うのはどう言った所なんですか?」
「う~ん、簡単に言えばウチと同じような最果ての地だね。ただウチと違って森とは離れているんでそこまで危険性はないかな。食糧事情はこの辺の村々は何処も似たり寄ったり、毎年春先に“よく生き残ったね”って言うのが挨拶代わりだよ」
「えっ、あれって挨拶だったんですか?小さい頃行商人様に毎年春になる度に言われ続けていて、何でだろうって思っていたんですよね。最近はそれだけ生活環境が厳しいからなんだろうなって思っていたんですけど、この辺ではそれが当たり前すぎて挨拶にまで昇華していたんですね。恐ろしい現実です」
「ハハ、まったく笑えない話だけどこれが事実なんだよね。だからケビン君がビッグワーム肉の肉質改良をしてくれた事は本当に助かっているんだよ、少なくともこれで冬場の餓死者はいなくなるからね。
後は村の人達に食用ビッグワームが受け入れられるかどうかなんだけど、こればかりは忌避感が先に立ってしまうとどうしようもない。少なくともビッグワーム肥料は作れるから農作物の収益は上がる、最悪その資金でホーンラビット肉でも買ってもらえればいいと思っているんだよ」
「そんな生きるか死ぬかで贅沢言ってちゃ生き残れるものも生き残れないと思うんですけどね。臭み抜きをしていないビッグワームは流石に毎日食べたいとは思いませんでしたけど。
あとは乾燥野菜なんかを作って冬場の野菜需要に備えるのも一つの手だと思いますよ?
この辺の土地は冬場乾燥した寒風が吹きますから乾燥野菜を作るのに適していると思うんですよね。根茎野菜なんかを育ててザルで干しておけば村長代理みたいにマジックバックを持っていなくても野菜の保存は出来るんですよ。これって村のお婆さんなんかはよくやってる方法みたいですし、ヨーク村にも知ってる人はいると思うんですよね。
前回のゴルド村でも思ったんですけど、村の改革の前に食糧事情の改善が急務だど思うんですよ。ですんで今回はこの乾燥野菜とビッグワーム肉の干物を持って行ってあげたらいいと思うんですがどうでしょうか?その方が村人の関心度も高まると思うんですよ。野菜と干し肉は俺の畑に寄って貰えればお分けする事が出来ますよ?無論木札支払いになりますが」
「うん、そこまでは考えていなかったよ。やっぱりケビン君年齢偽ってない?それと商売の持って行き方が秀逸です。お互いの利益になるっていう提案は受け入れやすいからね。それに木札支払いの提案って言うのがまた上手い。それなら今現金が無くても後からの利益で支払えるって言う心の余裕から判断が甘くなるからね。
ケビン君は将来凄腕の商人にでもなるのかな?今から楽しみだよ」
そう言いニコニコ笑って俺の提案を受け入れるドレイク村長代理、そんな村長代理にお知らせです。俺は生涯一村人ですから!凄腕商人になんてなりませんから!
俺は“またまた~、実は狙ってるんでしょう?”と言った顔でニヤニヤするドレイク村長代理に抗議しつつ、畑の納屋(度重なる改装ですでに家と呼んでも遜色のない物になっています)から乾燥野菜と出荷用デチューン版ビッグワーム干し肉を馬車の荷台に積み込むのでした。
「ドレイク村長代理、この辺って本気で何もないんですね」
どこまでも続く草原、遠くに見える森の木々、そして遥か先にはフィヨルド山脈の山々がその姿を白銀に染め聳え立っている。馬車の旅も二度目ともなると前回ほどテンションが上がると言う事もなく、ガタガタ揺れる馬車道を唯々揺られて移動して行きます。
よく駅馬車に大勢の旅人がすし詰めになり揺れの衝撃でお尻を痛めながら移動するなんて話がございますが、我々“魔力纏い”集団にはその様な心配はございません。
“揺れの衝撃?そんなモノはお尻に魔力を纏って防げばいいじゃないか”、そんな脳筋思考にもしっかり対応してくれるのがこの“魔力纏い”、まさに魔力万能説。田舎暮らしの必須技能“魔力纏い”、この技術が世界に広がれば人類は更なるステージへ旅立てる、そう確信しております。でも広めないけどね。
だってこの世界、民度が目茶苦茶低いんだもん。人々を導くお貴族様ですら無茶苦茶なんだもん。“衣食足りて礼節を知る”とは何処の言葉だったか。衣食住を高いレベルでお持ちのお貴族様ですら己の欲望のままに他者を虐げ我が儘を貫くこのご時世、己の力が全てだと言わんばかりに無法を働く冒険者すらいると言うのにそんな彼らに更なる“力”を与えてどないするってんですか。
人々の自浄作用に期待してってそこに至るまでの多くの犠牲を蔑ろに出来るほど
学びたい?ならば教えてあげましょう、“エミリーちゃん方式”で。ヨシの茎を折らずに全力で振れる様になれば君も立派な“魔力纏い”マスターだ。
代り映えのしない景色に暇を持て余しくだらない事を考えつつ、キャタピラー繊維紐に魔力を送ってウネウネと形を変えて遊ぶケビン君なのでありました。
尚その光景にドレイク村長代理がギョッとしていたことは言うまでもありません。
「ケビン君お待たせ、あそこがヨーク村だよ」
うん、ザ・寒村。ぱっと見修復が必要って建物が所々に何軒も、この村ってちゃんと人が住んでます?
俺の引き気味の顔に、乾いた笑いを浮かべるドレイク村長。
「ハハハハ、まぁ辺境の寒村と言えばどこもこんな様なものさ。ウチの村やゴルド村の方が珍しい部類だね。
ゴルド村の村長ホルンさんは元石工職人だからね、建物の補修は自分で出来るし、ウチの村はケビン君が“土属性魔導士ケビン、ここに推参”とか言ってお父さんのヘンリーさんと一緒に直してくれたからね。その節は大変お世話になりました」
そう言えばそんな事もあったな~。あの時は“ブロック”の生活魔法を覚えてテンションが上がって、家の修理に嵌ってヘンリーお父さんと一緒に村中の建物を修繕しまくったんだよな~。
そう考えると俺って両親に迷惑掛け捲り、凄い落ち込むわ~。
俺が過去の自分にショックを受けている
「ごめんください、マルセル村村長代理ドレイクです。ケイジ村長は御在宅でしょうか」
“ドッカドッカドッカ”
家の中からは外からでも分かるほどの大きな足音を立てて、一人の体格の良い男性が顔を出しました。すみません、取り繕いました、“肥満体”の男性が顔を出しました。
えっ、ここって食べるのにも困って冬場に餓死者が出る寒村地帯だよね?そんな村で肥満体って凄くない?もしかしてドレイク村長代理みたいに優秀な村長だとか?
「なんだ、大きな声がするから何事かと思えば“最果ての人身御供”ドレイクじゃないか。それにさっきの挨拶、ついに村長の座も首になったか?このところ調子に乗ってると聞いていたがついに化けの皮が剥がれたか?
嫁に逃げられ、村長の座も追われ、変に欲を掻くからこういうことになる。とっとと息子にその座を譲っていればまだ楽隠居出来たのかも知れなかったのにな。
で、そんな“村長代理”がこの由緒正しい村長であるケイジ・ヨーク様に一体何の用があると言うんだ?」
・・・帰っていい?駄目ですか、そうですか。この村の実務は奥さんが取り仕切っていると、このお飾り村長は気にしなくていいと、了解です。
まるでマイケル・マルセル村長“候補”が壮年になったかのような見事な馬鹿村長。これって村の窮状が何も見えてないんだろうな~。
苦労させてまともにしようにもその苦労で村全体が滅んでしまっては本末転倒、結果お飾り馬鹿村長の出来上がりって所なんだろうか。変に決定権があるから質が悪い、これは早い事“農業重要地区“に指定して貰ってこの馬鹿から実権を奪わないと村が滅ぶぞ。
「これはこれはケイジ村長、御健勝の様で何よりです。本日はかねてから我が村で実証実験を重ねましたビッグワーム農法の件でお伺いいたしました」
「あぁ、何でも質のいい肥料を作って収量を上げる試みだったか。で、実際どうなんだ、そのビッグワーム農法とやらは」
「はい、監察官様にもお褒めの言葉を頂けるほどに目に見える形で収量が上がっております。事実我が村からの税収も昨年度比で二倍に増えています。
我が村に多大なご指導を頂きました監察官様は、これらの実績でこの度周辺五箇村の総合監察役に就任なさいました。我がマルセル村といたしましても監察官様の恩に報いようと、こうしてビッグワーム農法の啓蒙に励んでいると言う訳です」
「はっ、何の事は無い、監察官への尻尾振りではないか。まぁいい、我が村の収益が上がるのは歓迎すべき事だからな。
だがこれだけは言っておく、余計なマネをして我が村に損害を与えた場合は只で済むと思わない事だ。この村は全てこの俺様の物なのだからな」
「はい、決してそのような事の無い様に励まさせて頂きます。我々といたしましても監察官様の覚えが悪くなるようなまねはしたくありませんから」
「ふんっ、気に入らない男だ。その監察官とやらの為に精々励むんだな。おい、誰かこいつの相手をしてやれ」
ふくよかな男性はそれだけを言い残すとまたドカドカと大きな足音をさせ屋敷の奥へと戻って行きました。
「・・・ねぇドレイク村長代理、もしかして残りの二つの村もこんな感じなんて事は流石に無いですよね」
「あ~、うん、まぁ、ハハハハハ」
ドレイク村長代理!?
俺は今後に残された二箇村の現状に、恐れを
本日一話目です。