転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第332話 村人転生者、ゴミ屋敷を片付ける

ゴミ屋敷の清掃、その最も大変な点は要る物と要らない物の分別であろう。

あからさまなごみはいい、どちらとも付かない物を整理するのは難しい。ではどうしたらいいのか?一度全部家から運び出し、必要な物だけを並べ直す。そこで快適な空間が生まれたのなら他は処分、新しい家に引っ越したくらいの気持ちになる事が、ゴミ屋敷との決別のコツである。

だがゴミ屋敷のオーナーは大概収集癖がある。これは癖であるがゆえに改善が難しい。

ゴミ屋敷との戦い、それは継続的なメンテナンスとオーナーの意識改革を行う事、この繰り返しなのである。

 

「<収納>」

収納の腕輪はとても便利である。収納量魔力依存型のこの品は、本部長様と言う高位存在の御厚意によりとてつもない拡張性能を獲得するに至った。

その面積、大陸一つ分。流石天界の御方はスケールが大きいと言うか、普通であれば生涯を掛けても達成する事の出来ない収納領域の拡張。

ではあったのだが、不意の事故、堕天使誕生阻止という大イベントに遭遇した際に天界の高位存在から駄々洩れになった神気やら闇属性魔力やらをスキル<魔力支配>に統合された魔力吸収能力で吸い取りまくった俺氏。身体中に膨れ上がった魔力を収納の腕輪と魔力の腕輪に吸い取って貰うと言う荒業を行った結果、有り得ない事が現実になってしまったのである。

収納拡張限界を達成なさった収納の腕輪さんはメンテナンスに回された魔力のお陰で新品同様。って言うかもはや別物、ほぼ神器と呼んでも良い代物になってしまったのでございます。

 

何と言う事でしょう。物に溢れどこに何があるのかも分からなかったごみ屋敷同然の巨大洞窟が、ヒカリゴケ輝く神秘的な空間に。

あれほど淀んでいた空間魔力も、イラっとして思わず取り出した魔剣“黒鴉”さんのご尽力により高原のような爽やかさに。

 

これには依頼人であるオーナー様もびっくり、“えっ、ここどこ?”と二度見したのは言うまでもありません。

物が散乱していた通路は無論、各収納部屋の物という物を完全撤去。最大の汚染地帯となっていた寝室はベッドとなる木組みの巣を組み直しして、新品同様に生まれ変わらせてございます。

って言うか幾ら魔力が濃厚で物が腐らないからって寝床で物を食うな、寝床で!!

 

ドラゴンは光物が好きとの言い伝えのごとく、大量の金銀財宝が詰まった部屋もあったので土属性魔力をマシマシマシマシにして頑丈な棚を設置、土属性魔力で収納用の引き出しを作り、その中に種類別に分け仕舞う事にしました。

生活スペースにも棚を作り収納箱を用意、小物?入れも作って楊枝(クレイモア)やお気に入りの品を仕舞える様にしておきました。

 

ただ不思議な事が一つ、何故か本棚のスペースがあり複数の書籍がですね。

 

「すみません、ちょっとお聞きしたいんですが、この本棚類は一体?それに中には魔法書や魔術書、魔導書ですか?

地理や歴史の本の他に、料理の本や娯楽小説みたいな物も見受けられるんですが」

 

“あぁ、これね。人間が貢物でくれたのよ。人間の作る物って本当に面白いわよね”

そう言い楽しげに笑う依頼人。

・・・イヤイヤイヤ、サイズ違うから、どんだけ目がいいんだよ最強生物。大体ページ捲れるの?その爪じゃ破けちゃうんじゃないの?

 

「度々すみません。あの、どうやってこんな小さな本を読まれるんですか?ページが破けちゃいません?」

俺の素直な質問に、おかしそうに笑う依頼人。

 

“そうね、普通はそう思うわよね。でもね、大きくて問題なら小さくなればいいと思わない?”

そう言うや淡い光と共にどんどん小さくなる依頼人。

 

“まぁそうは言ってもこの大きさが限界なんですけどね?

そう言い目の前に佇むのは身長二メートルほどのドラゴン。

 

「・・・はぁ~~!?えっ、はぁ~!?

ドラゴンさんって小さくなれるんですか?って言うかそれって実体なんですか?幻影魔法とかじゃなくって?」

 

“そうね、幻影魔法を使って似たような事も出来るけど、面倒でしょう?

人間の文化を楽しむにはこちらからも歩み寄る必要があるのよ。

で、開発したって訳。

流石に声を出すのは難しいけどやろうと思えば可能ね、風魔法の応用だし。

でも思念での会話の方が便利で楽なのよ、それになんか威厳があるっぽいでしょう?”

 

威厳って、ごみ屋敷オーナーの時点で威厳って。

 

“でもこれずっとやってると疲れるのよね、精々十日くらい?

なんやかんや言って自然体が一番楽なのよね~。

それに他の仲間には“物好き”って呆れた顔をされるし。

別にいいわよね、誰かに迷惑を掛けてる訳でもないんだし。

そうそう、フィヨルド山脈の仲間にも教えた事があるわよ?

遊びに来た時に小さくなって自慢したら、直ぐにマネするんだもん、才能って残酷よね~”

 

フィヨルド山脈のお仲間様・・・最強生物様じゃないですか、あの御方小さくなれたんかい!だったら小さくなって酒飲めや!そうしたらもう少し持つから。

あの御方、絶対忘れてる。長生きの弊害で結構忘れてることが多いと見た。

 

「それでしたら読書部屋をお造りしましょうか?内装もそれなりに整えるって方向で。

それとこちらをご紹介くださったフィヨルド山脈の御方様は光属性魔力が大好きと仰っておられましたが、ご依頼人様は何かそうしたご要望はございますでしょうか?」

 

“そうね、私も好きよ?光属性魔法。なんか心地いいって言うか身体が潤うって感じ?

要望って程じゃないけど、頑丈だと嬉しいわね、やわだとすぐ壊しちゃうから。

本を読む時って結構気を遣うのよ”

 

なるほど、スーパーマンのジレンマですね、上位種族もそれなりに大変です事。

俺は収納の腕輪からレンガの材料になる瓦礫を取り出し土属性魔力で包み込んでから微粒子レベルに破砕、基礎魔力で作った巨大な球体にポイ。光属性魔力マシマシマシマシマシマシウォーターを加え生コンミキサーの様に捏ね繰り回してから巨大ブロックを作り、礼拝堂を作った要領で大聖堂クラスのレンガの小屋?を作り上げました。

小屋の壁におなじみの光る魔法陣を設置、周辺の魔力に反応して聖域を生成してくれることを期待、光属性好きのドラゴン種の皆様には喜んでいただける空間になっているものかと思われます。

 

「<出張:紬:大福>、紬は天井から光苔の苔玉をぶら下げてくれる?長さはばらけさせる感じで。

大福はこの白いウルフ種の皮に付いてる脂身を取り除いてもらえるかな?」

 

呼び出したお二人にそれぞれ仕事を頼み、俺はごみ回収の時に収納した材木を使い頑丈な丸太椅子とテーブルを作製。

土属性魔力マシマシマシマシウォーターと大福のスライム液、キラービー蜂蜜を混ぜ合わせ魔道具作製用インクを作り、家具に塗りたくった後<着定>を行い強度をアップ。

 

大福が脂身を食べきってくれた毛皮を予め作ってあった光属性マシマシ蜂蜜インクに漬け込み、<着定>を行いなんちゃって鞣し毛皮を作り出し部屋の中央に敷き、その上に丸太椅子とテーブルを配置、壁際に書籍の入った本棚を設置しました。

 

天井から吊るされたヒカリゴケの淡い光、建物正面の壁に取り付けられた魔方陣が建物内を仄かに照らし幻想的な雰囲気を醸し出します。

中央には薄っすら蜂蜜色に染まった美しい毛皮が敷かれ、その上に置かれた丸太椅子とテーブルがリラックス空間をより快適にしてくれることでしょう。

読書をする為だけに用意された日常から切り離されたプライベートスペース。

シンプル、その一言に尽きるあなただけの聖域を今ここに。

 

「いかがでしょうか?」

 

俺は即興で作り上げたにしては中々の出来となった読書部屋を満足げに見詰めながら、依頼人に言葉を向けました。

 

“・・・はぁ!?えっ、はぁ~~~!!

なんでこの短期間に聖域が出来上がってるのよ、意味分かんないんだけど?

いや、えっ?まぁ快適よ?なんかすごく癒されるって言うか、ずっと本を読んでいたくなるくらいには居心地がいいわよ?

と言うか最近の人間って聖域作れるの?突然精霊呼び出してなかった?

そこの黒いスライムも絶対普通じゃないわよね?

幾らケビンが空間の魔力を消し去ったからって既に魔力濃度は上がってるのよ?なんでその二体は平然としてるの?”

 

何か依頼人が大混乱に陥っている様ですが、読書部屋自体は気に入ってくれたようなので良しとしておきましょう。

 

「まぁ、それは置いておきまして、あれってどうしますか?なんか出て来ちゃったんですが」

 

そう言い俺が指さした先、そこには一つの大きな卵と全身鎧に身を固めた騎士のご遺体。

 

“あぁ、その卵ね、随分と前に産んだものなんだけど孵らないのよ。理由がよく分からなくてね、気が付いたらどこかに行っちゃってたんだけど、置き忘れたか何かで物の中に紛れてたのね。

その後に産んだ子は既に孵って独り立ちしてるから、やっぱりその子は何か問題があったのかもしれないわね”

 

そう言い残念そうに卵を見詰める依頼人。でもそうなるとこの卵はどれくらい前の物なんだろうか?

 

「あの、この卵っていつ頃作られたんでしょうか?それとこれは聞いてもいいのか分かりませんが、この子のお父さんは」

ケビンの質問に暫く考える素振りを見せたドラゴンは、ゆっくりと顔を向ける。

 

“そうね、大体二千年位前かしら。って二千年も孵らない卵って、その時点で諦めなさいって話よね。

ケビン、悪いんだけどその子を貰ってくれる?私じゃどうにも出来ないから。それにこの場所じゃ腐る事もないだろうし。

後この子のお父さんって話だけど、ドラゴンは基本的に単体で卵を産んで育てるわ?

とはいっても鳥みたいに卵を温めたりとかではなくて卵は周囲の魔力を吸って成長するの。基本放置ね。

だからこの子にもお父さん的な者はいないわね”

 

流石最強生物、実は一体でも生き残っていればそこから増殖可能だったんですね。この世界がドラゴンに席巻されないのはドラゴンがそう頻繁に卵を産もうとしないからと、納得です。

 

“それとそこの人間は以前私に挑んできた奴ね。その子ね、呪われてるの。大体二年に一回ぐらい動き出して戦いを挑んでくるのよ。でも尻尾の一振りで終わっちゃうんだけどね。

前に何度か会話を試みた事があるんだけど駄目ね、呪いの影響か私を倒す事しか考えられないみたい。

まぁ人間にしてみたら厄介な相手かもしれないけど、私からすればいい暇つぶし?

動き出すと必ず挨拶をしに来るから奇襲とかは考えられない様な真面目な人間だったのかもしれないわね”

 

うわ~、出たよ呪い人形。これって“顔無し”呪物コレクションの中にもあった奴だよ。

あっちは一応遺体を使ってたけど、これって間違いなく生者を人形にしたタイプじゃん。しかも呪いの影響で完全に死に切れて無い奴じゃん。だって収納の腕輪に仕舞えなかったんだもん。

 

この卵とご遺体、実は収納出来なかったんです。じゃあなんでご遺体って呼んでるのかって言うと、心臓も止まってるし脈もないんだもん。でも魔力反応はアリ、覇気の反応すらあるって言うね。

魔力生命体でもなくどちらかというと魔獣?有り様としてはスライムに近い?

疑似的な不死、呪いって怖い。

 

で、卵なんですが相当に昔の物らしく依頼人も既に諦めたものだとか。まぁごみ山に埋もれてたくらいですしね、仕方がないかと。

そんでこれらはこちらで処分することとなりました。要するに呪物の破棄ですな。

ドラゴンのごみ屋敷半端ね~。

 

“本当にありがとうね~。凄いすっきりしたわ~。この家ってこんなに広かったのね~、色々と使い勝手もよくなったし、最高。

また何かあったらお願いね”

 

「こちらこそありがとうございました、しっかりお代もいただいちゃって、大変良い依頼となりました。

ご用命の際はフィヨルド山脈の御方様経由でお願いします。

では私はこの辺で、何やら人里が騒ぎになっているようですので」

 

そう、巨大ワイバーンがドラゴンの塒に飛来した事で人里では大騒ぎになっているんですね~。聞けばガーディンさんがこちらにお伺いするのって百年ぶりだそうで、それほど頻繁に訪れていた訳でもないとのこと。

そりゃ騒ぎにもなるっての。

 

<出張>で来ていただいた紬には非常に良い香りのする香木の葉を山盛りで、大福にはドラゴンの牙を進呈、お二人ともご満悦で戻って行かれました。

 

「ガーディンさん、よろしくです」

“ギュガーーーーーーーッ”

 

“ブワサッ”

巨大な羽を広げ飛び立つワイバーン。

俺は巨大洞窟の前で見送る依頼人に手を振り、昇る朝日に照らされながらフィヨルド山脈へと戻って行くのでした。

 

「う~、観光したかったよ~!!今度お忍びで遊びに来てやる!!」

徹夜明けでテンションの高いケビンの叫び声が、ドラゴンの住まう山々に響き渡るのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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